《比翼の鳥》第83話 イルムガンド防衛戦 (8)
俺の放った一撃は、一瞬にして空にいたワイバーン達を飲み込むかのように、連鎖し、散させ食い盡くした。
あれ? おかしいな……こんなに威力のある魔法では無かったはずなのだが。
背中に伝う汗のを気にしつつ、俺は、何故こんな事になっているのか、考えを纏めようと試みる。
【ライトニング】。疑似、雷撃とでもいう魔法で、以前、森で使った【スタン:ライオット】の上位に位置する魔法だ。
【スタン:ライオット】が、神経節を一時的にマヒさせる程度の威力なのに対し、【ライトニング】は、電圧だけで、2億Vボルト、電流に至っては、數十萬Aアンペアと、元の世界の雷と同程度の威力で設定されている。
だが、この魔法の特徴は、それだけでは無く、雷と同じように、何かを伝って連鎖すると言う特徴がある訳で……。
そこまで考えて、俺はある仮説に辿り著き、急いで、市壁外部から、今もこちらに迫っているであろう後続部隊へとファミリアの視點を移す。
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そこには、まさにこの世の終わりとしか思えない景が映っていた。
天には、幾重にも雷撃が重なり、常に轟音と閃を放っている。
そこから、地へと落ちる雷が、幾重にも重なり、天と地が口を開けて、咆哮しているかのような、末期の景を演出していた。
天に舞うワイバーン達は、次々と雷撃にからめとられ、炭化して地へと落ちる。
地を這うトカゲ達は、天空より飛來する雷に打たれ、更にそのは、周囲をも絡めとり、食いつぶしていく。
しまった……俺の魔力量を計算にれ忘れた……。
地獄の様な景を目の當たりにし、思わず顔を覆い、項垂れる俺。
この魔法、確かに、威力は元の世界のと同程度である。
勿論、雷を參考にイメージしたなので、一瞬で伝わり、力を使い果たして、放散する前提で作られたものだった。
……だったのだが、俺は、魔法と言うの特を全く考慮していなかった。
この現象を引き起こすのは、俺のイメージと魔力と言う未知のエネルギーである。
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自然界であれば、雷は何かを通る度に、そのエネルギーを抵抗によって減じ、消滅するのが當たり前だ。
だが、魔法は違う。あくまで、雷を作っているのは魔力であり、その魔力が盡きなければ、延々と同じ効果を示し続ける。
森で龍達と戦った時に、改めて気づかされたが、俺の魔力はちょっと普通じゃないらしい。
兎に角、量が多く、度が濃いらしいのだ。だから、弱い魔法を打とうとしても、その魔力量の膨大さから、思った以上の威力を伴った魔法が発現してしまう。
今回の場合、威力は魔法により、設定された通りの狀況を発現していた。だが、そうなると余剰となった魔力はどこに使われるか……?
そう、その魔法の維持に使われる。
つまりは……放った1発の【ライトニング】が、その特もあり、魔力を消費しながらも、消費しつくせずに、延々と雷を発しながら伝わっていったのだろう。
それは、1000分の1秒の世界で、次々と連鎖する雷である。そして……結果、集していた事もあって、連鎖的に遠くへと伝わり、連鎖を繰り返すうちに分岐し、それでも魔力は盡きず、威力を保ったまま、どんどん軍団へと拡散していき、最後にたどり著くのは……。
そう思った瞬間、彼方より、この世の終わりを後押しするかのような、咆哮が響く
それは、正に苦痛を現するものであり、怨嗟を振り撒くでもあった。
見たくない……やらかした不始末を見たくないんだが……。
俺は、それでも見ない訳にはいかないので、ファミリアの視點を切り替える。
そこには、中から煙を上げ、死にで地を這う、1匹の竜が映し出されていたのだった。
《 なんかすごい事になっちゃったね? 》
流石に、予定とは違う事態が目の前に繰り広げられている現実を見て、ルナが、追い打ちをかける様に、俺の心を抉りにかかる。
「ち、違うんだ……。本當は、ちょっと半壊させるくらいで、済ませるつもりだったんだよ。」
流石に、実は、勇者のあの「手付け」と呼んだ魔法に対抗するべく、意図的に雷を選択した結果が、これだとは口が裂けても言えない。
だが、俺のが伝わるルナさんは、そんな所を考慮してくれないらしく、
《 そっか。勇者と格の違いを見せつけたかったんだね。 》
あっさり俺の思う所を完なきまでに暴され、言葉を濁すしかなかった。
ぬぉおおおお! 恥ずかしいぞおお!
そんなルナの言葉を聞いて、リリーも合點がいったように、ファミリアから手を離すと、両手を打ち合わせる。
「ああ、だから、雷の魔法だったんですね。流石は、ツバサ様です! 確かに、勇者とは格が違いますね!」
更に、追い打ちのように向けられた、リリーの尊敬しきった言葉と眼差しが、今は凄く痛い。ちょっと見栄を張ろうとしたら、この様だよ!
俺はそんな二人の言葉を聞き、悶えつつも、次の瞬間、外から聞こえて來た歓聲をけて、思わず畫面へと目を向ける。
そこには、最初は呆然としていたが、民衆の歓聲をけて、すぐに手を振り、アピールを繰り返す勇者様の姿が映し出されていた。
その様子を見て、何となく釈然はしないものの、一応、納まるべきところに納まった事が確認できて、俺はホッとをで下ろす。
さて、しかし、このまま終わってしまうと、外で竜を迎え撃つために待機している、ライトさんや、ボーデさん、ライゼさん達がなんか可哀想だな。完全に置いてけぼりだし。
気になって、皆の様子を確認する為、ファミリアの視點を新たな畫像として、壁面へと投影した。
ボーデさんは、市壁にほど近い場所で、例の金屬塊を持って、遠くの空を見つめていた。
その隣には、砂地に座り込みボーデさんの足を背もたれにして、ライゼさんが笑している。
「なぁ、俺達、ここに居る必要あったか?」
ボーデさんが、何か納得が行かないように、そう呟く聲を、俺のファミリアは拾っていた。
それを聞いて、更にライゼさんは、笑い聲をひとしきり上げると、漸く落ち著いて來たのか、息を切らしながらも、口にする。
「それは……全部、勇者様が、やった事。」
「いやいや、絶対ないだろ。あれは……あの見覚えのある無茶苦茶っぷりは……絶対に、ツ、があぁ!?」
そのまま言葉を続けそうになったボーデさんだったが、ライゼさんは即座に、間に思いっ切り、棒狀の何かを突き刺した。
「おま、それ、ちょっと……。」
「勇者がやった。それで終わり。」
余りの痛さに、言葉が途切らせながらも、くねる様に、腰を振るボーデさんを見て、俺も男特有のとある部分がこまる。
いや、ルナさんや、あれは、絶対ダメだから。興味深そうに視線を寄越さないように。
あの苦しみは、形容のしようがないから。男じゃないと分からないからね?
だから、自分のに視線を向けないで下さい。君には無いの!
なんだか凄く納得が行かないような視線を向けるルナを無視して、俺は畫面を切り替えた。
ライトさんは、どうやら砂地を固めた陣地を作って、そこに単獨で潛んでいるようだ。
どうやったのか気になるが、ちょっとしたトーチカ位の設備になっている。
その中から、呆れた様に、空を見上げ、しかし、気を抜くことなく竜の居る方角へと視線を向けていた。
どうやら、ライトさんも特に問題なさそうだ。
いつもらかい笑顔を絶やさない彼であったが、今は、し表が険しい。まだ、警戒を解いていない事が、その表から読み取れる。
そして、その警戒されている主は……と。
再度、視點を転ずると、そこには、砂に寢そべりながらも、淡いに包まれ、微だにしない竜の姿があった。
おや、これはこれは……。
見ている間に、裂けた鱗や焼け焦げた皮が、再生していく様子が確認できた。
【アナライズ】で解析すると、どうやら、回復を行っているようだ。
俺の【ヒール】と同じように、細胞に働きかけ、活化している様子が伺えた。徐々に損傷個所が言えていく様子を見て、俺は、まだ終わっていない事を悟る。
「リリー、まだ終わってないわ。勇者に伝えて。」
俺が言う事を、畫面を見て理解していたのだろう。リリーは頷くと、再度、皆に手を振り、満面の笑みを浮かべた勇者に語り掛ける。
『勇者よ。聞こえますか?』
勝った気になっていたのだろう。勇者は一瞬、驚いたように、周りを見渡すと、すぐにファミリアの方へ視線を寄越す。
「んだよ! もう終わっただろ!」
いや、そこはまず、力を貸してくれてありがとうじゃないのか?
そう思いつつも、俺はため息とともに、リリーに指示を出す。
『まだ終わっていません。竜が……來ます。』
その言葉で、勇者様は一瞬、怯えたような表を浮かべる。
だが、すぐにだらしなく表を崩すと、
「へぇ、あの蜥蜴、まだ生きてるんだ?」
そう、し聲を大きくしながら、を張った。どう見ても虛勢である。
『そうです。今、回復をしています。すぐに迎撃を。』
その的な狀況を聞いて、勇者様は舌打ちをすると、
「んだよ。だったら、また、今の魔法打てよ。死ぬまで打てば良いじゃんか。」
うん、君ならそう言うと思ったよ。けどね、このまま終わらせると、ちょっと予定が違ってきちゃうんだよね。
俺は、視線を寄越したリリーに対して、答えとなる臺詞を宙へと描き出した。
『もう、打てません。』
「は?」
『先程の攻撃で最後です。もう、その子には魔力が殘っていません。』
噓だ。あと何発撃っても、お釣りがくるほど、魔力はある。
だが、これ以上、勇者にばかり良い思いはさせてやらん。しは、自分のしでかした事の責任を取って貰おう。
「んだよ!? そんなのありかよ!」
そんな悲鳴の様な勇者様のびを無視し、俺は更にリリーへと、言葉を伝える。
『私の最後の力を振り絞って、貴方と……都市を守る結界を張ります。どうか、武運を……。』
「はぁ!? ちょっと待てよ!? んな、俺一人じゃ、どうしろって……。」
何か勇者がんでいるが、俺はそれを無視して、ルナへと合図を送る。
その瞬間、ルナは魔力を作すると、先程から発している障壁の側を更に強固に護るため、都市を覆う不可視の結界を発させた。
同時に、その余波ではじき出される様に、勇者が北の空へと打ち上げられる。
しかも、ついでにと言うには、余りにも無常すぎるが……さらっと間に一撃を加えていたのを俺は黙認する。
うわ、えげつない。
そんなんなをえた悲鳴を上げながら、北の空へと飛んでいく勇者を、都市にいる皆が、見つめるのだった。
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