《比翼の鳥》第84話 イルムガンド防衛戦 (9)

北の空へと飛んで行った勇者は、數十秒の滯空を経て、砂丘へと突っ込み、盛大に砂柱を上げる。

一応、俺のファミリアが防していたので、大したダメージにはなっていないと思うのだが……見ると、勇者はを抑え、砂地で左右へと転がり、悶絶していた。

哀れな。まぁ、とりあえず、生きているから大丈夫だろう。

俺はそう判斷すると、転がる勇者の畫像から目を離す。

見ると、リリーがまだ、何か張したように、両手を組んで、目を閉じていたが、俺の視線に気が付いたようで、耳がピクリとくと、目を開き、俺に視線を向けてくる。

そこには、先程までの神々しさとも言える、神様の雰囲気を纏ったリリーは無く、し不安げに俺を見つめる、いつもの彼がいた。

全く、もうし自信を持っていいのに。今のは完璧だったと思う。まぁ、先程の姉妹問題もあるし、ナーバスになっている部分もあるんだろうが。

しかし、本當に、どんな特技を持っているかなんて、わからないものだな。

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俺は、苦笑すると、リリーの頭に手を置いて、そっと獣耳をでる。

「リリー、ありがとう。凄い迫力だった。本當に神様が降臨したのかと思っちゃうくらいだったよ。」

《 ツバサの言う通りだよね。リリー凄かった。 》

そんな俺の言葉に相槌を打つかのように、ルナの言葉が宙を舞う。

俺達の言葉が予想外だったのか、リリーはし首を傾げると、

「うまく、出來ていたでしょうか?」

と、まだ、自信なさげに、言葉を紡いだ。

俺は、そんなリリーの言葉をかき消すかのように、しだけ暴に頭をでると、

「完璧だよ。あれ以上はないさ。それに、リリーが神様役をしてくれたお蔭で、々と解った事もあったよ。これはリリーじゃなきゃできなかった事なんだ。を張って良いよ。本當にありがとう。」

そう、改めて口にする。

それで、やっと自信が持てたのだろう。し恥ずかしそうに頬を染めると、「良かった。」と、はにかみながら、小さく呟いた。

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俺も人の事は言えないが、リリーも自信が無さすぎだ。

いや、あれか。あまり褒められた経験が無いから、余計にそうさせるのだろうな。うん。

何となく、俺は昔の自分を思い出し、苦笑する。

結構、似た者同士なのかもしれない。俺とリリーは。

じゃあ、リリーに自信をつけて貰うためにも、もうし、彼には説明しておこうか。

なんで、彼でなくてはならなかったのか。いや、俺達の家族中では、リリーにしかできなかった訳を。

「リリー。君はただ、神様のふりをしただけと思っているかもしれないから、一応、説明しておくけど、今回の事は、リリーがやってくれたお蔭で、凄い事が解ったんだよ?」

気持ちよさそうに俺にでられていたリリーだったが、そんな俺の言葉を聞いて、耳が起立する。

見上げてきたその目には、疑問が浮かんでいたが、どうやら、答えまでには行きついていないようだ。そりゃそうか。

「本當は、今回の予定では、リリーでは無く、此花か咲耶に、神様役をしてもらおうと思っていたんだけど……。」

その言葉を聞いた瞬間、耳がへにゃりと倒れる。こら、早とちりしすぎた。

俺は、優しくその倒れた耳をでる。

「ちゃんと最後まで聞こうな。けど、今のリリーなら大丈夫だと思って、今回は任せたんだ。任せて本當に良かったよ。改めてありがとうね。」

そんな俺の言葉をけて、耳が復活した。非常に、わかりやすい。

「後、今回、リリーに任せたのには、もう一つ理由があるんだ。リリー、勇者と話していて、何かおかしいと思わなかったかな?」

そんな俺の突然の問いに、リリーは暫し考えるも、首を傾げて、答える。

「いえ、特には……。すいません、何も思い當たらないです。」

「そう。それがそもそも、おかしいんだよね。」

俺の言葉に、更にリリーは疑問を深めたようだ。耳が左右にへたる。

その言葉を聞いたのだろう。部屋の隅で、クリームさんが息をのむ様子が伝わって來た。彼は気づいた様だな。先程の會話が如何におかしい事かと言う事に。

「前にも、説明したし、実際にライゼさんで実したと思うけど、人族は……正確に言えば、叡智の冠と呼ばれる、銀のを付けている人は、獣人族に対して、過剰なまでの嫌悪を抱く。そうだよね?」

俺の言葉を聞いて、リリーは、「あ!?」と、思わずと言ったじで聲をらした。

その様子を見て、俺は彼にも理解が及んだと知る。

「そうでした。でも、勇者は……私の言葉をちゃんと聞いて、け答えをしていました。そう、皆と同じように……。」

「うん、そうだね。まぁ、彼の格が歪んでいるから、し……もとい、過剰に攻撃的な口調ではあったけど、會話は普通に出來ていた。けど、本當はそんな事すら不可能なんだよね。特に、あの格なら、もっと暴言が飛んできてもおかしくないんだよ。」

だが、あの勇者様は、一応、リリーの事を神であると認識できる程度には、會話が立していた。

つまりは、勇者様は、リリーを獣人と認識していなかったことになる。

「あれ? けど、どうしてなのでしょうか? 私は、普通に話していただけ……なんですが。」

そこまで理解が進んだものの、リリーは首を傾げて、疑問を呈す。

そう、リリーは特別な事は何もしていない。むしろ、特別な狀況を作ったのはこちらである。

「そこに、今回解った事の重要があるんだな。これが。」

俺のそんな言葉に、ますます、意味が解らないと言うように、眉間にしわを寄せ、首を傾げるリリー。うん、それ以上行くと、変な踴りになりそうだから、さっさと解説しましょうか。可いからいいけど。

「今回、解った事は1つ。聲だけであれば、獣人族と判別されない。つまりは、聲だけを何らかの手段で伝えられれば、普通に會話ができると言う事だ。これは、凄く大きい。」

俺の言葉を聞いて、隅でクリームさんが震えている。まぁ、そりゃ、彼の場合はそうなるだろうな。後で時間を作ってあげよう。

「そして、今回の事で、次の事が推測できる。獣人族として判別される方法が別にあるって事だね。それは、視覚からかもしれないし、魔力からかもしれないし、もしかしたら、匂いかもしれない。」

俺は指を立てながら、一つ一つ、可能を列挙する。

「恐らくだけど、俺は、魔力、もしくは、それとの複合的な要素の線を一番疑っているんだ。だから、もし、魔力隠蔽が可能になれば、呪縛をすり抜ける事も可能かもしれない。今回の事で、そういう可能が浮上してきたんだよ。これは凄い事だよ?」

砂漠のサンドワームは、リリーだけを特別に狙っていた。

あれは、恐らく獣人族特有の何かを知していたからだろう。

そして、あの生の生態を見るに、砂の中で生活していることを考えると、匂いや、視覚の線は薄い。

とすると、魔力で判別していると言う線が、一番可能として高くなる。

まだ、俺の【アナライズ】では、人族と獣人族の魔力の違いを割り出すことができていない。だが、きっと固有のパターンがあるはずだ。それさえわかれば、そこだけ出、打ち消すことで、獣人族である事を隠すことが可能であるかもしれない。

最も、視覚的に耳や尾が目立つので、その辺りもどうにかしないとだが。

「だから、今回の事は、リリーにしかできなかったんだ。リリーだったから解ることがあった。どう? 凄い事でしょ?」

俺のそんな言葉を聞いて、ようやくリリーも自分のした事に、し自信が持てたのだろう。

大きく頷くと、「はい!」と、返事を返してきた。

うん、良い聲だ。本當によく頑張ったと思う。俺はそういう、労いの意味も込めて、ゆっくりとリリーの頭をでる。

途端に気持ち良さそうに表を緩める彼を見て、俺はし調子に乗ると、いつもは余りらない、耳の側をそっとでてみた。

リリーは今まで呆けた様な表だったのだが、一瞬ピクリと、を震わせると、俯いてしまう。

ありゃ、ここは余りらない方が良かったかな?

そう思い、でる所を直ぐに変えたのだが、何故か今度は、リリーが「やめちゃうの?」とでも言うように、潤んだ目で俺を見つめてくる。

後から考えれば……この時點で、俺は気が付くべきだった。うん。

しかし、この時の俺は彼がリクエストするなら、良いのかな? と深く考えずに、再度、優しく耳の側をそっとでる。

勿論、耳の側と言う事もあり、傷つきやすいだろうから、細心の注意と魔法による消毒を忘れない。

外のも良いんだが、中のプニプニしたもまた、味わい深いものがある。

うん、耳の周囲の部分とか摘まむようにでると、側のの厚い部分と、外側のらかさを同時に堪能できる。何これ、超気持ち良いんですけど。

新しい獣耳の境地に、俺は思わず、々とり方を工夫し、堪能してしまった。

耳のの方は、より熱を持っており、球に近く、それ故に、また違ったり心地があり、癖になる。

その辺りを中心に外へ、中へと満遍なく優しくでて、の違いを堪能する。

素晴らしい……何て素晴らしいんだ! やはりリリーの獣耳は至高である。

そう思った瞬間、リリーが突然、足の力が抜けたように、倒れ込もうとした。

思わず反的に、腰に手を回し、抱きしめる。

どうした!? と、聲をかけようとして、リリーの表を見ると、顔が真っ赤で息が荒い。

見ると、目には涙を浮かべ、意識もどこか朦朧としているようだ。

なんで!? どうしたんだ? と一瞬、思うも、どうもその様子が何というか、煽的で……。

俺の思考が追い付く前に、リリーが俺の顔を見上げると、だらしなく口を開け、何故か舌を出してくる。

え、ちょっと、リリーさん、すげぇ、エロイんですけど。

その瞬間、リリーがどうしてそうなっているのか、理解が及び……次いで、部屋の溫度が急激に下がっている事実を目の當たりにした。

あ……あかん。これダメなパターンだ。

頭の中で、真っ赤な文字が躍り、警告音が鳴り響くのをどこか諦めたように確認するも、俺は瞬間的に作れる、最大級の障壁を、ある所へと集中させた。

そして、次の瞬間、この世のものとは思えないほどの衝撃と、激痛が襲い、俺は思わず、聲を上げて悶絶したのだった。

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