《比翼の鳥》第85話 イルムガンド防衛戦 (10)

俺は、正に脳天まで突き刺す様な激痛を味わった後、躙し続ける様な、表現のしようがない鈍痛に苛まれ続ける。

これは、味わった事のある男にしかわからない、特有のものだ。あまりの痛さに思わず、腰がくも痛みからは逃れられない。

しかし、ルナさんや……これは、ダメだって……。何が駄目って、危険なのよ。

この世界では関係ないかもしれないが、下手すると子種が死ぬ。場合によっては、機能そのものが死ぬ。

特有の、正に急所なんです。じ手なの。駄目なの……変な神狀態になるくらい、危険なんです。

紳士淑の皆様は、生命の危機をじたとき以外は、軽々しく使っちゃダメです。割と本気で。

それに恐らく、俺がルナの攻撃で、悶絶したのは初めてなんじゃなかろうか? と、どこか頭の冷靜な部分がそんな事を考えている。それくらいには、破壊力がある。

どうやら、俺でもそんな狀態になるとは想像がつかなかったようで、加害者のルナも流石に、悶絶している俺を見て、オロオロしている。

リリーは、今の一連のショックで、正気に戻ったのか、心配そうに俺の背中を優しくなでてくれている、が、正直、気休めにしかならない。

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脂汗を流しながら、俺は未だにひかない痛みと格闘し続ける事、五分強。漸くし楽になって來て、俺は自分の狀況を確認する。

うーむ。かろうじて、圧潰は免れた我が生ではあったが、結構やばかったらしい。

絶妙と言えば絶妙なのだが、そんな無駄な所で、限界點を極める必要は無い訳で。

っていうか、俺の障壁、しで良いので仕事して下さい。完なきまでに、見事にぶち抜かれましたが。

「ルナさんや……。」

俺は、床にぐったりと突っ伏しながら、聲をかける。

そんな死にの言葉を聞いて、ルナは泣きそうな顔をしながらもこちらを向く。

間の攻撃は、最終手段ね? ダメ、絶対。」

そんな俺の死にな言葉を聞いて、目に涙を浮べながらも、頷いた。

よし、これで俺の間の平和は守られるだろう。しかし、んな意味で疲れた……。

これは、復帰した後も、気力をこそぎ持って行かれるから困る。なんか、緒不安定にもなるし。

とりあえず、【ヒール】はかけて癒しているが、間から魔力が発する淡いれる姿を想像すると、けなさで泣きたくなる。

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そんな狀況で間が持たない事もあり、丁度良い機會なので、俺はルナへと、聲をかけた。

「この際だから、ちゃんと伝えておくね。不安にさせちゃった事は、凄く申し訳ないと思う。けど、最初から暴力ありきは、良くない。言葉があるんだから、ちゃんと言ってくれると嬉しいな。どんなに汚くて醜い言葉でも、でも、時間はかかるかもしれんが、け止めるから。けど、いきなりの暴力だけは駄目。それが許される事なんてないからね? そもそも、そんな事していたら、俺のが持たない……。」

そんな俺の言葉でルナは、何かをじた様で、凄く申し訳なさそうにしながらも、何故か嬉しそうに、靜かに頷いた。

うん、ちゃんと分ってくれたなら良かった。

世の中には、ごく稀に、口より先に手が出る人がいる。

ある意味仕方ないと思う面が無くも無い。だが、それは、そんな狀況を自ら憂い、変える努力していてこその話だ。その過程で、通過儀禮としてであるのならば、許せる部分はある。人が変わるのに時間がかかるのは事実だからだ。

だが、開き直っている人がいるのも事実なのだ。こちらは話にならない。

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「怒るとつい、手が出ちゃうんだよねー。」

とか、笑顔で言われてみたら解る。あれは苦笑しか出ない。

そして、俺なら、そんな人とは距離を置くよ。だって、怒らせたときに毆られることが確定している訳だから。

更に、もう一つ。それを伝えて、予防線を張っておけば、許されると思っている節があるのがまた危うい。

そんな危険人と、それでも積極的に深く付き合おうとするのは、その人がそれ以外の面で素晴らしい面を持っているか、利用価値があるかしかないと思うのだが。

そもそもそんな人は、思い違いをしている。

暴力で伝えられるのは、負のだけだ。その奧に隠れている本當の問題をかえって覆い隠してしまう。

け取り手の側も、特殊な癖の方を除いて、負のしか沸かないだろうさ。

それはお互いに不幸だ。

だから、ルナにはそうなってしくなかった。があればとか、そういう話じゃないんだよ。と言うか、そんなの言い訳だ。

コミュニケーションの手段として暴力を使ってしくないのだ。それでは、誰も幸せになれないから。

元の世界にも、DVと呼ばれて、この形の問題が蔓延していた。

っこは同じだ。暴力を対話の手段にしてしまっている。これは、どうやっても上手くいかない。

だから、人は言葉をわす。だから、分かってもらおうと、こちらも分ろうと努力する。

を時々共有できる俺とルナの間ですら、こんなアホみたいなすれ違いが起こるんだ。

だったら、本當は、もっとより深く相手を理解する努力を、意識しないとだめなんだろうな。全く、やっぱりなかなか上手くいかないもんだ。

俺はそんな事を考えながらも、これも罰かとじつつ、痛みが引くのをジッと待つのであった。

暫くして、俺は漸く痛みが引いてきたことを確認すると、ため息をつきつつ、立ち上がる。

そんな俺に、ルナがちょこちょこと近づいてきて、俺の瞳を下から覗き込んできた。

何故だか、その時、潤んだ目は、純粋で明な彼の気持ちを反映しているかの様に、俺にはじられた。

そんな彼が、音も無く、宙にそっと言葉を浮かび上がらせる。

《 お願い。もっと、私を見て。 》

その文字を見た瞬間、心臓が跳ねた。

その言葉を頭が理解した瞬間、俺の中で抑えていた、何かが弾けた。

それはルナへの申し訳ない気持ちだったり、俺の不甲斐なさから來る恥心やら怒りであったり、それ以上の大きなとして、ただただ、彼おしく、同時に食らってしまいたいと思えるほど、下種で野的なだった。

そんな暴力的な衝と本能としか言いようのない圧力が、俺を完全に支配する。

そんな大きすぎる衝に突きかされる様に、俺は、彼を強引に奪った。

が、が、どこか別の場所からかされていて、自分ので無い様な、不思議な狀況。

こんな事、一生のうちで初めての事だ。なんだこれ?

マグマのように熱くたぎる自分のと、妙に冷えて冷靜な自分が頭の端にいて、それを見下ろし、ぐちゃぐちゃな気持ちのまま、俺は彼をむさぼる様に……

『シンクロ率:89% 比翼システム――起可能です。――起しますか?』

唐突に降って來た懐かしい聲によって、俺は急速に自我を取り戻した。

見ると、ぐように息をしながらも、俺のを吸い返す、ルナの姿。

ああああ、ちょっと待った!! 無し! 今の無し!!

『起しませんか? ……下種め。』

……何か聞こえた。そして纏わりつくような黒いが、俺を摑んで離さない。

何これ、凄く怖いんですけど。っていうか、すいません、ちょっと我を見失いました。

俺は深呼吸しようとして、……かないので、した気になる事で心をクールダウンする。

よし、大丈夫だ。

コティさんお久しぶりです。お蔭で助かりました。

『……良いのですか? ある意味チャンスですが?』

何がだよ。いや、ナニのだよね? いやいや、無理ですよ? もう、完全に恥プレイじゃないですか。公開とか、ハードル高すぎ。

『そうですか。臆病な貴方には、その方がお似合いですね。』

ああ、コティさんの言葉が何でか、いや、原因は解ってるが、ものすごく黒くて痛い。

それに、前と比べて遙かにかになられている。それを明るい方向に引き出せればよかったのに。

『どこかの誰かが甲斐なしのお蔭で、こうなりました。』

重い言葉をけて、急速に胃に負荷がかかる。今なら俺はストレスでが吐ける気がするぞ。

すいません。いや、本當に申し訳ない。

って言うか凄く居たたまれない。があったらりたい。

心でそっと自分の顔を覆う俺。

『まぁ、良いでしょう。これからもルナ様を傷つける事の無いようにお願いいたします。それでもルナ様は、貴方と共に居る事が、絶対の幸せの様ですが。……全く、こんな下種のどこが……。』

もうやめて! 俺のHPはゼロよ!? 助けてルナさん! ……って、あれ? そういえば、ルナがかない?

『今の私の狀況をルナ様に見せる訳にも行かないので、こうして隔離して、話をしています。』

おや、それはコティさんの弱みなのでは? って、すいません、冗談ですから殺気飛ばさないで下さい。

ちゅーか、これだけで竜も逃げ帰るレベルだよ。コティさん、一どうなっちゃったの?

『その質問には解答できません。報に抵いたします。報開示には、ルート権限および、第一級監査の承認が必要です。』

出たよ、お役所仕事。まぁ、良いけどね。

じゃあ、答えられる範囲で。コティさん、ルナと話す事は出來ないの?

『その質問には解答できません。報に抵いたします。報開示には、ルート権限および、第一級監査の承認が必要です。』

ええぃ。じゃあ、今、ルナと話していってよ。

『その命令は遂行できません。報に抵いたします。命令遂行には、ルート権限および、第一級監査の承認が必要です。』

比翼システムを解放したら? それなら行けるんじゃないの?

『その質問には解答できません。報に抵いたします。報開示には、ルート権限および、第一級監査の承認が必要です。』

何でやねん!? その為に出て來たんじゃないのか!?

『いいえ、どこかの野獣からルナ様を守る為です。』

ああ、さいですか……。

ドッと疲れた俺は、肩を落とす。まぁ、かないんだけど。

『ところで……。』

はいはい、何ですか?

『先程から、何故、私をルナ様に引き合わせようとするのですか?』

え? そんなの決まっているじゃないですか。

ルナだって、コティさんに會いたいと思っているからですよ。

だって、絶対喜ぶし。それなら、この機會を逃す手はないでしょ?

俺のそんな思考に、何故か溜息で返して來るコティさん。つか、システムに溜息で返されたのって、実は、俺が人類初なんじゃなかろうか。

『そういう所があるからなんでしょうね。仕方ありません。後で、ゆっくりルナ様とはお話しいたします。貴方抜きで。』

ああ、はいはい。そうしてくれると、俺も嬉しいよ。

『ルナ様に、貴方の気持ち悪いその行をたっぷりと伝えておきましょう。』

とりあえず、心當たりは無いけど、そんな事しかしないなら、もう帰っていいよ!?

『その命令は遂行できません。報に抵いたします。命令遂行には、ルート権限および、第一級監査の承認が必要です。』

はぁ……もういいや。とりあえず、コティさん、ありがとう。それだけは本當に思っているから。

『……どういたしまして。それでは、ツバサさん、また近・い・う・ち・に・。』

え、ちょっと!?

なんか々と凄く気になる言い回しをされたので、聞き返そうとした瞬間……覚が戻り、ルナが積極的に俺のを……って、こらぁあ!?

俺は思わず、ルナを引きはがすように、距離を取る。

が心臓になってしまったのかと思うほど、凄い勢いでリズムを刻んでいた。

見ると、何か不満そうなルナの顔。

視線をずらせば、真っ赤な顔を手で覆い隠して……いるつもりで、指の隙間からちゃっかり全部見ているリリーと目が合う。

いや、顔そらしたらバレバレだし。しかも、尾とか凄い膨らんでいるんですけど。

更に、背中からクリームさんの視線が突き刺さっていたが、俺はそれらを全て無視し、深呼吸をすると、口を開く。

「すまん。あまりのルナの可さに暴走した。」

事実なので、その辺りはあっさり白狀する。

ルナは呆けた表のまま、艶のある目で、俺を見つめる。そして、舌をに這わして、まるで何か名殘を確かめるように、往復させる。はっきり言おう。これまたエロイ。

このまま放っておくと、なんか、また変な空気になりそうなので、俺は機先を制するため、更に続けた。

「先程のリリーといい、ルナといい、可い子達に迫られて、ちょっと理が崩壊しかかってます。はい。」

そんな言葉に、二人とも、何か思うところがあったのか、期待するような目を向けてきた。

だから、それ反則ですってば。

俺は、衝を意志の力でねじ伏せ、更に続ける。

「でも、今は駄目だ。やるべき事が殘っているからね。二人に溺れてしまいたい気持ちもあるけど、都市の皆を犠牲にしてまでする事ではないと思う。だから、……全部終わったら、ちゃんとしよう。」

ルナを見て、そして、その後、リリーを見て、ゆっくりと、そう告げた。告げてしまった。

それは、ある意味、俺の覚悟でもある。場合によっては、一線を越える事も想定しての話だ。

今まで、のらりくらりと躱してきたが、もう駄目だろう。

そんな俺の雰囲気が、いつもと何かが違う事を、二人とも理解したのだろう。俺の視線をけて、一瞬、たじろぐように、表を固まらせるも、すぐに頷く。

「よし、じゃあ……やるべき事を……やりますか。」

そう言いながら、俺はファミリアが送ってくる畫像に目を向け、

「なんか、勇者がズタボロですね?」

そういうリリーの言葉を聞きながら、竜にフルボッコにされている勇者の絵を見て、肩を落としたのだった。

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