《比翼の鳥》第86話 イルムガンド防衛戦 (11)

竜が吠える。

その瞬間、勇者は衝撃波をけて、砂地を吹っ飛びながら砂地に手を突くも、勢いを殺せず、數秒にわたって転がる。

「くそが……。」

そう弱々しく威勢を吐く勇者だが、流石にその聲に、覇気が無い。

逆に、その姿を見た竜は口角を上げ、目を細めた。

こいつ、笑っていやがる。

さを隠そうともしない、その笑みは、見る者を畏怖させるには十分だろう。

そして、その様子は、絶対的な余裕をもった者が、哀れな獲をいたぶっている様にしか見えなかった。

ちなみに、竜は後ろ足2本でしっかり砂地を踏みしめ、立ち上がっていた。その巨は丘の様であり、威圧が半端ない。

しかし、飛んだ方が絶対的に有利なはずなんだが……? わざわざ飛ぶまでも無いと言う事か?

そう不思議に思い、【アナライズ】をかけてみたが、翼の魔力分布が薄く、損傷も激しい事が解る。どうやら、まだ完全には治っていないようだ。なるほど、翼がやられると竜は飛べないのね。覚えておこう。

そして、そんな強大な敵と呼んでも良い竜に対して、ちっぽけな存在にしか見えない勇者様。大きさの対比だけでも酷い尺である。まさに象と蟻くらい違う。

だが、腐っても勇者と呼ばれる者だ。まだ諦めてはいないようだ。

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「絶覇翼天翔ぜっぱこうよくてんしょう!!!」

吹っ飛びながらも、魔力を剣に通し、力を発現させたのだろう。

相変わらずゲームの影響をけたとしか思えない様な、評価に困る技名をびつつ、魔法を発現させ、刀に宿した。

そのまま、る剣を掲げ……竜に向かって走る。

しかし、その速度は言うまでも無く人の速度であり、それが例え宙を駆けたとしても、竜との距離を詰めるには絶的なまでに遠く、遅い。

そんな勇者をあざ笑うかのように、竜が再度、咆哮を上げる。それだけで、勇者は、「ああぁああ!?」とか、なかなかに良い悲鳴を上げながら吹っ飛んで行った。

見ると、剣に宿した魔力は霧散している。

うん、これ無理ゲーだわ。

見たところ、飛び道も無く、あの程度の衝撃波すら、いなせない勇者に、このままでは勝ち目はない。

と言うか、発想の転換はできんのだろうかね? し工夫すれば、攻撃は屆くと思うんだが。

綺麗に吹っ飛んで、転がった勇者だったが、それでも、剣を杖代わりに、立ち上がった。

派手な吹っ飛び方をした割に、ダメージはなそうに見える。

まぁ、それもそのはずで、先程から勇者の橫に追従しているファミリアが、攻撃の大部分を弾いているからだ。

ただ、張っている障壁が被型のなので、衝撃や力學的エネルギーは防ぐ事が出來ない。

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無造作にこんな攻撃を何発もければ、衝撃によるダメージは、蓄積していくだろう。

「俺は、負けない! 邪悪な竜などに、俺が負けるはずがないんだ!」

勇者はそう、聲高にぶと、チラリと自分の橫に鎮座するファミリアを見る。

いやいや、思い込みと気合だけで世の中どうにかなるなら、今頃、世の中はもっと平和ですから。

って言うか、それ絶対に、早く助けろ的なアピールですよね?

畫面の勇者に心でそっと突っ込みをれるも、そう威勢よく吠える勇者様は、剣に魔力を集め、何か魔法を練り始めた様だ。

だが、先程の時もそうだったが、魔法の構速度が、致命的に遅い。

ほら、竜がにやけながら、息を吸い込んでいる。これは、ブレスが來るな。

しょうがない。し手助けしよう。

俺は、ファミリアを作すると、勇者を庇うように、竜との間に配置する。その様子を見て、勇者様は、思わず顔をにやけさせた。

そして、対する竜も、先程から気になっていたようで、チラチラとファミリアの方に視線を向けてはいたが、初めて能的にいたことで、警戒を強めたようだ。

更に魔力を込め、最大火力をもって吹き飛ばそうと畫策しているように見える。

竜を中心に、風が巻き起こる。それは、徐々に強さを増し、砂を巻き込んで、竜の姿を隠していく。

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気圧が変化したのか、はたまた何か力が働いているのか、高周波のような可聴範囲を超えた振が検知された。

これは、來るな。

そう思った次の瞬間、竜は極大まで溜めた魔力を解き放つ。

竜の口より放たれた不可視の力。それは、一直線に勇者の前に立ちふさがるファミリアへ向けて、放たれ……見えない障壁に當たると、周囲の砂を吹き飛ばし、後方へと拡散させながら轟音を伴って、周囲を振させる。

余波が酷いのだろう。障壁を護られている部分を殘して、U字型に周りの砂が抉れ、勇者の立つ位置が丘のように殘る。

遅れて數秒後、ファミリアを通して観戦している、俺達の元。つまりは、イルムガンドへも衝撃が伝わって來た。地鳴りのように、カタカタと小刻みに部屋が揺れる。余波でこれである。こんなものが直撃したら、普通は無事では済まない。

そして、余波の影響で砂が舞い、一時的に、お互いの姿が見えなくなる。

同時に、竜の悔しそうな唸り聲が、砂のカーテンの奧から聞こえて來た。

どうやら、未だに、こちらが健全であることは理解しているようである。

そんな中、どうやら、勇者様のターンが來たようで、漸く魔法が完したらしい。だが、その魔力量はお世辭にも多いとは言えない。

「今度は、俺の番だ! 俺を本気にさせたことを、後悔するがいい! 終極原子厄災ファイナル・アトミック・ディザスターぁあああ!!」

俺は、畫面の勇者が、この痛い魔法名を堂々と言い切ったその姿を見て、今すぐ、転げ回りたい気分が沸き起こるも、両手で顔を覆う事で、何とか耐える。

見ているだけで恥ずかしい。こうやって第三者の視點で見ると、いかに稽なのかが良く分かる。っていうか、どういう魔法なのか、技名から全く分からん。

そして、きっと、いつもの俺も、傍から見れば、同じの貉むじななんだよな……。

そんな事実に軽くショックをけながらも、俺は頭を振ると、意識を戦場へと戻す。

勇者から解き放たれた魔法は、竜に向かってゆっくりと突き進むも、相変わらず遅い。

そして、その威力も、魔力度を見るに、全く期待できないようだ。

はぁ、んじゃ、これもし盛っておきましょうかね。

俺は勇者の魔法の進路にファミリアを割り込ませると、【ディメンション・シールド】を【モード:アブソーブ】で起する。

黒いが瞬時に勇者の魔法を吸収する。それをそのまま、【アナライズ】にて解析。

ついでに、魔力を制して、俺の思考を一時的に加速・強化する。

久々にやったので、一気に時間の覚が間延びしたようにじられた。

さてと、勇者様の魔法はどんなじかな?

うわぁ……これ、ただの裂魔法だ。しかも、魔力量と構を解析したら、凄く単純だった。

ただ一點、特殊な形が組み込まれている。これは、俺もあまり見た事の無い構の仕方だ。だが、なぜ、そうなっているのか、全く分からん。無駄にしか見えない。ああ、もしかしたら、勇者の持っている剣と関係しているのかな? あの剣も【アナライズ】しておくか。

さて、これをこのままぶつけても、ダメージは期待できないので、俺が構を書き換えてしまおう。

うーん、そもそも、魔法のイメージと、名前が全然違うんだよな。

この世界に魔法が影響を與えるときに、聲を出すことで威力を増すことができるのは、俺も知っている事だが、そこには、イメージとの接な関係がある。

言葉とは、世界に対しての呼びかけなのだ。だから、イメージが言葉に乗らないと、魔法の構に影響が出る。

まぁ、その辺りは練が必要ではあるのだが……これは、お末すぎるぞ?

んー、魔法名が既に決定しているなら、魔法のイメージをそちらに合わせるか。

この大層な恥ずかしい名前から連想できる効果を、詳細に作り上げ、過程をトレースする事にした。

あの技名から察するに、これは何を意図した魔法なのだろうか?

うーん、原子ってついているし、剣呑な名前から見るに、要は原子崩壊をイメージしているのか? 解らんから、そういう事にしよう。

んじゃ、原子結合を、魔法で強制的に引きはがす……のは面倒だし、原子核を魔力で崩壊・分裂させるか。

……ああ、それだと、莫大な熱と放線が出るから、障壁で部に隔離しよう。

反応終了後に、そのまま異空間に転移させて、貯蔵するか。

何かの時に使えるかもしれないし。っていうか、これ、もう実質、核弾じゃん……大丈夫か?

元の世界と違って、その場にある原子を崩壊させるから、ちょっとやりづらいよなぁ。大丈夫、だよな? まぁ、最悪、異空間に隔離しよう。うん。

そうすると、ここをこうして、うーん、ああ、こんなじで、よし。

俺式、終極原子厄災ファイナル・アトミック・ディザスターの完だ。

んじゃ、逝って來い!

俺は、加速した思考を戻し、【ディメンション・シールド】を【モード:トランスミット】へ変換する。

その瞬間、勇者の放った魔法と、ほぼ見た目は同質の、しかし、全く中の異なった魔法が、竜へと向かって突き進む。

ちなみに、狙ったのは翼の部分だ。っていうか、これが下手な所に當たると、著弾と同時に半徑2mの範囲が球狀に消し飛ぶので、仮に頭に當たったら即死です。

あれ? もしかして、かなり兇悪な魔法を世に生み出してしまったのか?

俺が、そんな心配をしていると、放った魔法が竜の程圏へ到達する。その瞬間、何を思ったのか、竜がそれを左手でけ止めたようだ。

と同時に、魔法が発し、一瞬にして球狀に展開し、強力な障壁が張られた余波で、砂煙が吹き飛ばされ、視界がクリアーになった。

視線を移せば、球の中に捕らわれた左手を忌々しそうに見つめた竜の姿があったのだが、次の瞬間……竜の左腕が、消し飛んだ。

一拍置いて、しぶきをまき散らしながら、咆哮を上げ後退する竜。ちなみに、竜のはやはり赤かった。子供と同じか。

信じられないでも見るように、竜は唸りながら、無くなってしまった自分の左腕に視線を向けている。

そして、忌々しそうに、吠えると、翼を広げて飛翔した。

どうやら、視界を遮っていた間に、翼の治療を終えたようである。

あ、逃げる? まぁ、帰ってくれる分には問題ないんだけど。

しかし、俺の願いとは裏腹に、高度を取った後、竜はこちらを見下ろしたまま、またも魔力を溜め始めた。

はぁ、帰ってくれればいいのに……。

そんな竜を見上げた視界の端に、ふと、竜の左手を食らったまま鮮やかな赤を発し、未だに反応を続ける球が映る。

あれ? 原子崩壊し盡したら、反応止まるんじゃないのか?

そう不思議に思うも、何かが、おかしい。そして、それは俺の脳裏に警鐘を鳴らしている。

まて、なんか、あの反応、ヤバそうじゃないか?

見ると球の中に、膨大な熱量が生まれていることが解る。更に、その中心に何かが出來つつある。

なんぞあれ? ん? 何か気のせいか、視界が歪んでいる様な?

障壁部に、核発を閉じ込めている様なものだが、可視以外は障壁でカットしているから、そんな事は起きないはずだ。

だが、実際は、想定外の事が起きている。そして、騒ぎが止まらない。

を信じた俺は、急いで【アナライズ】使い、分析を始める。

分解した竜の左手から魔力が出ているのか? いや、熱量も含め、これは障壁で遮斷しているから問題ない。

ん? 障壁の中……と言う事は、閉鎖空間? 熱量が極大の狀態での閉鎖空間……?

圧力は? ん? まて、まて、もしかして……。

そこまで思い當たり、俺は、【アナライズ】を使い、球部の溫度と圧力狀況を探る。

摂氏6000萬度。6500萬……7000萬……ヤバい。これ、ヤバい。

俺は、即座に決斷し、発している魔法ごと、異空間へと隔離し、時間凍結する。

そうして、赤熱していた球は、消え去った。

ふう。やれやれ。危ない所だった。

俺は思わず滝の様に出た汗を、袖で拭う。

うろ覚えだが、あの溫度は、熱核融合に必要な溫度に近かったはずだ。

プラズマ化した原子がぶつかり合って、核融合するたびに、莫大な熱量が発生すると言う事をどこかで聞いた覚えがある。

これは、太が熱を発しているのと同じ原理だったはずだ。

つまりは、あのまま放置すると、もしかしたら、第二の太を作っていたかもしれないのか?

まぁ、そんな簡単な話ではないはずなのだが、魔力がどう作用するか解らない以上、あり得ない話ではない。

そんな俺の気がそれていたに、竜は魔力を溜め終えたのだろう。

勇者に向けていた口腔を、何故か中空へと向けなおす。

その視線の遙か先には、蜃気樓のような巨大な城壁があった。

なるほど。勇者じゃなくて、俺・に攻撃したいわけか。

竜の目に宿るが、より一層、暗いへと変わる。

ふと、畫面から視線を外し、ルナを見るも、腕まくりを返してきた。全く問題なさそうである。

一応、俺も竜の攻撃に備えておくか。余波で、ボーデさん達、冒険者達に被害が及びそうだしな。

そう、気をれなおし、攻撃に備えようとしたその瞬間……突然、竜の翼が発し、咆哮を上げながら、竜は地上へと落ちて行ったのだった。

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