《比翼の鳥》第87話 イルムガンド防衛戦 (12)

咆哮を響かせながら、竜は錐きりもみし……數秒後、その大質量を砂地へと豪快に沈ませる。

砂柱を巻き上げ、派手に墜落した竜を見ながら、首を傾げる。俺は何もしていない。

ふと、振り返りルナを見るも、彼は黙って首を振る。

おやぁ? 誰だ? 竜を撃墜したのは。

勇者は有り得ないので、そうなると、冒険者の誰かという事になるか?

あ、そうか。彼か? そう當たりを付けつつ、まずは、ボーデさん達の様子を確認する。

しかし、二人は竜の事などそっちのけで、何か喚いている。

どうも、獣人の冒険者グループを庇って、他の冒険者たちと、何か言い合いを繰り広げているらしい。

んー、ボーデさんは酷く困った様子で、ライゼさんを止めようとして、あ、良い角度にアッパーが。お休み、ボーデさん。

まぁ、最悪やばそうなら、介しよう。それまでは、放置で。

と言うか、この狀況ではこの人達には、竜に手は出せまい。

となると、やはり、本命は彼か。

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そう思い、俺は彼の様子を探る為に、視點を切り替える。

そこには、トーチカの様な場所から、長い円筒形の沢を放つを出し、それを真剣な顔で覗きこんでいる彼の姿があった。

「ライト様……。」

後ろから聞こえて來た、そんなクリームさんの呟きには、若干の戸いが見え隠れしている。

そう、いつも和な笑顔を浮かべている彼だったが、今は、張り詰めた表のまま、その金屬製の筒を覗きこんでいた。

いや、正確には、これは砲なんだろうな。そして、その先にある照準を見つめているのだろう。

いやいや、しかし、まさか、こう來るとは思わなかった。もっと小規模のを想定していたのだが、こんなも作れるのか。

俺は、予想以上の大おおもの登場に、素直に驚く。

彼のブティックを訪れた時、俺はすぐに彼が、俺と同じ異世界の出だという事に気が付いた。

デザイン、そして、何よりも、そのコンセプトに違和を覚えたからだ。ボンテージとか、多分、この世界の人は必要としていないだろうし、そんなもん、生まれる下地が無い気がするんだが。

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それが可能から確信に変わったのは、この戦いが始まる前のやり取りだった。

結婚絡めた死亡フラグとか、この世界で通じる訳無いし。あっさり返してきたところ見ると、彼も俺の事を怪しいと思っていたのだろう。

まぁ、俺の場合は名前の読みがそもそも漢字と同じだしな。分かり易いと言えば分かり易いか。彼は一応偽裝しているが。

そして、次に、彼の能力にも當たりを付けている。

彼のブティックの品は、生地一つとっても、明らかにおかしい品質のだった。

明らかに品が良すぎるのである。

ポリエステルの様な化學繊維としか思えないような、りの良いその素材。逆に、麻のようなですら、他の店の品質とは比べるべくもないほど、に製糸されていた。

そんな極上の品質にも関わらず、実際、閑古鳥が鳴いていたのは、ひとえに店主の癖のせいだ。それは間違いないだろう。

まぁ、そんな俺の仮定を裏付けるが、目の前存在しているわけだ。

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「ライトさんは、何をされているのでしょうか? それに、これは、何をするものでしょうか?」

リリーが全く理解できないという風に、不思議そうに呟く。

そりゃそうだろうな。この世界には、まだないなんだろう。

「俺も詳しくは知らないけど、あれは、カノン砲だろうね。」

「かのんほう? ですか?」

そんな俺の言葉を聞いて、小首を傾げる、リリー。

「簡単に言えば、遠くの敵を貫く為の、撃武だね。」

そう、あれは、俺のおぼろげな知識によれば、カノン砲だと思う。

そして、無いはずのがここにある。つまり、今迄の報を統合すれば、おそらく彼の能力は……質生、もしくはそれに近いだろう。

しかし、このカノン砲は、砲が異様に長い。あれが長程と正確な狙撃を可能にしているはずだ。ライフリングもされているんじゃないかな?

まぁ、魔法がある不思議世界だから、何かしらの魔改造はされていそうだけど。

20km以上離れている竜の翼をもいだ、先程の威力を考えると、現代兵、恐るべしである。

そんな俺の説明でも納得が行かない様で、リリーはしきりに考え込んでいる。

「うーん、うーん……弓のように弦も無いのに、どうやって矢を飛ばすのでしょう……?」

そんな言葉に、俺は苦笑するも、竜が咆哮を上げ、またも、浮き上がった事で、俺は畫面に注視する。

ああ、これ、両方同時に見えた方が良いか。

俺は、畫面を分割し、ライトさん側のきと竜のきを同時に畫面へ映す。

咆哮が聞こえたのだろう。竜がき出したタイミングで、ライトさんにもきが見えたので、俺はそのまま畫面を見つめる。

ライトさんは張した様に、長く深く深呼吸を繰り返し、砲の先にあるであろう照準に集中している。右手には、砲を支える本の橫についたレバーのようなを握っていた。張のせいか、右手をしきりに開いたり、レバーを握ったりを繰り返していた。

そして、竜の高度が一定以上に達した時、彼は徐おもむろに、息を吐くと、レバーを引く。

轟音が響くと同時に、砲る様に勢いよく下がる。しかし、それもすぐに、る様に元の位置へと戻った。

確か、駐退機と言ったか? 砲弾を打った際の衝撃を吸収する裝置だったと記憶している。

砲弾の行方が気になり、すぐにファミリアに追跡させ、畫面を追加する。

高速で飛翔するその砲弾は、數秒で竜へと、到達。宙に浮く竜の右橫っ腹に突き刺さり……轟音を響かせ発した。おや、徹甲榴弾てっこうりゅうだんだったようだ。

響く竜の悲鳴にも似た咆哮。浮力を失った竜は、そのまま再度、砂地へと叩きつけられる。

だが、どうやら、ダメージはそれ程大きくないらしく、すぐに勢を起こすと、唸り聲を上げる。

殘念。鱗を吹き飛ばしたものの、臓までは到達しなかったようだ。だが、表皮が損傷し、が鈍く滲み出ている。

てか、徹甲榴弾弾く裝甲って何よ? そりゃ、ボーデさん達じゃ歯が立たない訳だわ。

何が起こったのか解らないだろう竜は、混しながらも、殘った右手で傷付きが流れる脇を庇いつつ、起き上がると、砲弾の飛んできた方と思われる方へと視線を巡らせた。

そして、何かに気が付いたように、口に魔力を溜め始める。

ちなみに、余談だが、勇者様は一回目の竜の墜落の余波に巻き込まれ、砂塵の奧へと埋まっている。一応、ファミリアで防しているし、酸素も供給しているから、死ぬことは無いだろう。

最初こそ、威勢よく々なを罵倒していたが、閉鎖空間と暗闇の恐怖には心が折れた様で、今は、「暗いよぉ、狹いのやだよぉ……。」とか、すっかりと可い臺詞を吐くようになっていた。だが、今は忙しいし、いても邪魔なだけなので終わったら出す事にする。

しかし、ライトさんやるな。どう見ても舊式の実弾で、どうやってあんなに正確な撃を実現しているのだろうか?

実はホーミング機能でもあるのか? 何かしらの魔法による補正はあるんだろうけど……。

そんなライトさんを見ると、次弾を裝填していた。その際、彼の魔力がごっそりと減った事を見逃さない。

やっぱり魔法で制しているのか? 生も、魔力を使うのだろうな。

そう推測していた時間は極僅かだったはずだが、竜はその魔力を溜め終わったらしく、間髪れずにブレスを放った。

それは、數十km先まで砂を吹き飛ばし、削っていく。

竜の直線狀には、砂の無い空間が出來、その余波で周りの砂も削り取られる様に吹き飛ばされ、消えてく。まるで、砂漠と言う名の海が割れたような印象すらける。

更には、ブレスを吐いたまま、竜は首を左右へと振り、扇狀に大地を削っていった。

そうして、起伏の激しかった砂漠は、平坦な砂地へと変わっていく。

あ、これ、まずいんじゃないか?

そう思いライトさんの畫面に目をやると、丁度、ブレスが陣地を橫なぎに吹き飛ばしたところだった。

流石に距離があったため、一発で崩落する事はなかったようだが、外に突き出ていた砲は、熱した飴のようにあっさりとひしゃげ、折れ曲がる。

俺のファミリアが障壁を張ったようだが、急用の場合は、勇者と同じものなので、衝撃までは吸収できなかったらしく、陣地に激しい突風が吹き込み、結果、ライトさんが壁へと叩きつけられた。

「ライト様!」

思わず畫面に向かってクリームさんがぶ。

それは聞こえていた訳では無いだろうが、すぐにライトさんは起き上がり……その視線の先にかすかに見えた、竜の姿を確認して、表を歪ませた。

竜も、砂地に浮き上がった陣地を見て、口元を歪ませると、再びブレスを溜め始める。

同時に、ライトさんは魔力を集中すると、地面へと手をつき目を閉じた。

「錬:鋼鉄裝甲・コンクリート裝甲:球形:積層 質化マテリアライズ」

彼がそう呟いた瞬間、陣地の周りを完全に覆うように球狀のシェルターが出來上がった。

それは、【サーチ】を通してみると分かるのだが、地面の中にも及んでいる。つまり、陣地は完全に球の中に納まった事になる。

因みに、それだけではなく、俺は他の反応も拾っていた。ああ、この陣地ってそういう事か。

數秒遅れて、竜のブレスが陣地を襲う。

轟音が再度巻き起こり、砂塵が激しく舞い、視界を奪う。

その中にあって、ライトさんの陣地は、竜の攻撃を良く防いでいたようで、真正面に位置する最外殻の鋼鉄裝甲こそ剝げてひしゃげたの、後ろの裝甲は無事である。

だが、どうやら、竜の目論見もくろみはブレス攻撃だけでは無かったようだ。

竜はブレスを吐きながら、宙に浮くと、陣地に向けて、猛スピードで空し始めた。

近付くたびに、圧が増したらしく、徐々に外裝が剝がれ、コンクリートの裝甲に亀裂がり始める。

だが、今度は竜のブレスが盡きたらしく、その勢いが徐々に無くなっていった。

そんな狀況を想定していたのだろう。竜はそのまま速度を上げると、一気に距離を詰め、裝甲めがけて殘った右手を振り下ろした。

あっさりと吹き飛ぶ裝甲。そして、陣地が呈した瞬間、竜は一瞬、口角を釣り上げる。

きの無い陣地を見て、勝ちを確信したのだろう。竜は勿ぶる様に足を大きく持ち上げ、一気に陣地ごと踏み抜く。

あ、かかった。

俺がそう思った瞬間、大発が畫面を埋め盡くしたのだった。

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