《比翼の鳥》第89話 イルムガンド防衛戦 (14)
麻薬。
一度は、その名前を聞いた事があるのではないだろうか?
殺人と並んで、忌避の対象として。
何故、そこまで忌避されるのか?
々と理由はあるが、一番は、その強烈な依存癥が原因ではないだろうか。
麻薬と言うのは、日常では経験できないような覚を得る事が出來るらしい。
それは、快楽であったり、全能であったりと、種類により異なるらしいのだが……そんな普通じゃない覚を得るのだから、が普通でいられるわけがないんだよな。
人間のの中は、化學反応の寶庫だと言っても言い過ぎではない。
それは、ただ生きるだけでも……だ。
消化や呼吸、代謝、更には運やの変化に至るまで、それらは奇跡とも言える程、緻で膨大な化學反応の波を生みだし、その連鎖を通して、日常と言うものがり立っている。
正に生きる事自が、一種の奇跡だと、俺は思う。
そんな細かく制されたところに、普通じゃない覚を起こす様な質がにってきたら、どうなるのだろうか?
勿論、壊れる。そりゃもう、々な所が。
特に麻薬が作用するのは、脳……つまりは、人格を司る部分そのであり、司令塔である。
そんな所が、いわば、ピンポイントで撃されるようなものだ。その後、何が起こっても不思議じゃないだろう?
そんな訳で、いつもでは考えられない量の化學質が脳に放出されるのだから、いつもでは考えられない事が中で起こる。
しかし、人間のは良く出來ていて、そんな異常な狀態を必死で元に戻そうとするんだ。
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麻薬で異常なまでに増やされた質はにとっては邪魔だから、減らそうと対抗質を出す。
しかも、量が尋常じゃないから、対抗質も尋常じゃない量が出る訳で……そんなものが、雙方で暴れたら、脳はめちゃくちゃだ。
脳で戦爭が発するのと同じようなものだ。
やがて、麻薬の影響で出ていた質が駆逐される。だが、は、警戒して更に多くの対抗質を出し続ける。
これが、斷癥狀へと繋がるらしい。
その苦しみは、言語に盡くしがたいだそうだ。
だから麻薬は、斷癥狀がつきものであり、それから逃れるために、常習者は、更に麻薬を摂取する。
は自分のを守り、何とか平穏を維持しようと、更に対抗質を出す。
そのせいで、麻薬によって最初に得られていた覚が徐々に失われる。だから、麻薬の量が増え、対抗質も増える。
後は簡単だ。そのループにはまってしまえば、廃人までまっしぐらのようである。
また、麻薬の恐ろしい所は、験してしまったが最後、その覚を忘れられず、求めてしまうと言う事だ。
話に聞くところによれば、麻薬への求と言うものは、本能に刻まれるらしい。
それは人のでは抗いがたく、食や、睡眠と同じような新しい求として、死ぬまで逃れる事は出來ないとなる。
俺達は、そんな求を意思の力で跳ね除ける事が出來るだろうか?
短い間なら出來るかもしれない。だが、一生だ。生きている間、ずっとだ。
俺は自信がない。と言うか無理だ。
だから、皆、口を揃えて言うのだ。
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麻薬に手を出すな。駄目、絶対……と。
これには、制とか程度と言うものはないと思っておいた方が良い。
壱か零か? そういうとして考えないとな。二択なのである。
さて、そんな麻薬の中でも、王と呼ばれるヘロイン。これは最悪だ。
依存癥、斷癥狀どちらも、最大級のらしい。そんなに手を出すとは、考えるだけでも恐ろしい事だ。
これのせいで多くの人が廃人となっている。その位、酷いなのだ。
という訳で、そんながっているを、ライトさんには飲ませられん。
経口摂取だと、効果は薄まるらしいが、先程も言った通り、壱か零だ。接種するかしないか。ならばしない方が良い。
勿論、元の世界で、散々言われている事だ。そんな事は、ライトさんも解っているのだろう。
しかし、彼は、何か思いつめた様に、瓶を見つめている。
何が彼をそこまで掻き立てるのか? うーん?
俺が彼の心を計りかねていると、ライトさんは、苦々しい表を浮かべながらも、口を開いた。
「確かに、躊躇してしまいますね。ですが、今は竜を倒さないと。その為なら……。」
「いや、だから、駄目ですって。麻薬ですよ? 手段がどうこうとか、軽い気持ちとか、覚悟とかそういう問題じゃないんですよ。」
俺は、何か間違った方向に思い詰めているライトさんに、改めて聲をかけた。
そう。想いとかそういう問題じゃない。自分の人生だけじゃなく、確実に周りを巻き込むんだから。
自分の人生なんだから自己責任でとかいう人もいるかもしれないが、自分で責任が取れなくなるのが、麻薬の怖い所だ。
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だって、自分で自分をコントロールできなくなるんだし。それはもう、自己責任の範疇を超えて、社會的問題に発展する。
人を壊す。環境を壊す。周りを巻き込んで壊す。それが、麻薬だ。だから、手を出してはダメなんだ。
それが解っていれば、普通なら手を出さない。
俺の言葉を聞いて、それでも苦悶しているライトさんを見て、何が彼をそこまで掻き立てるのか、解らない俺は、素直に聞いてみる事にする。
「ライトさん。今、ここで貴方一人が頑張る必要はありませんよ。現在、都市の防衛は、俺達でこなせています。最悪、俺達もきますから。」
そう。正直、今なら、俺の一発で片が付く。かない竜など、一瞬で殺せるだろう。ライトさんが頑張る必要は、どこにもない。誰も見ていないんだから、勇者がやった事にしておけばいいだろう。
ちゅうか、やるか? 今、やっちゃうかなやめろ?
そそもそも、あいつは、俺達の生活を邪魔するやめてくれ!害獣だ。
今後の事を考えれば、後腐れなくいやだ消し去った方がころしたくない!良いだろう。
俺は、竜に張り付けている俺はまだ、すべてをファミリアに指示を……つくしてない!!出そうとして……。
何故か、俺に強く視線を送ってくるルナが気になり、振り向いた。
彼の目は、明らかに否定と哀しみのを宿している。
ん? どうしたんだ? いや、先程から、何かがおかしい。ルナがおかしい?
……いや、俺がおかしい?
心の底に何かがこびりついたような、強烈な違和を覚えた俺は、ルナに問いかけようと口を開きかけたが、彼が目をそらしてしまったことで、一瞬口ごもる。
「同志よ……やはり、私は、これを飲みます。」
そんなライトさんの言葉に、俺は、畫面へと意識を戻す。
「いや、だから、ライトさん。それは麻薬がっていて。」
「わかっています。それでも、私は、戦わねばならないんです。大切なも・の・を自分の手で守りたいんです!」
その言葉のニュアンスに、違和を覚えた俺は、暫し言葉を失う。
ん? 何か今、とんでもない事を聞いた気がするぞ?
あれ? ライトさん、もしかして?
「ライトさん、ちょっとお聞きしたいんですが、守りたいも・の・って、クリームさんですか?」
俺の言葉を聞いて、後ろでライトさんの一挙一を畫面越しに見ていたクリームさんが、ビクッとをすくませたのが、気配でわかる。
そんな様子が見えないライトさんは、俺の言葉に苦笑すると、
「そうです。笑ってやって下さい。」
と、力なく答えた。
いやいやいや、笑うとかとんでもない。この変態、ついに、自力でここまで到達してるし。
「同志に化されたのでしょうかね? 最近、クリームがそう、まるで人の様にらしく思えてきましてね。今回、クリームを同志に託したのも、そういった思いが出てしまった事でもあります。ハハハ。あの、獣人にですよ? 全く、私もついに同志と同じ域に到達しようとしているのでしょうか。」
酷い言われようである。
そして、あんたにそこまで言われたくないよ!? と、口にしかけたが耐える。
だが、まぁ、そう言いたくなる気持ちは、何となくわかるから、俺も頭ごなしに彼の言葉を否定はできない。
彼からすれば、俺はかなり異常な部類にるんだよな。
前にも説明した通り、人族はその強力な呪縛により、獣人を・としか認識できない。そして、擬人化することはできない。
だから、彼らから見れば、俺が獣人に対して、人と同じように接するのは、とても奇妙で気持ち悪い事に思えるはずなのだ。
元の世界の価値観で置き換えるなら、そうだな……俺が、男の人模型の頭をでながら、「可い彼なんです。俺、こいつと結婚します。」とか言うようなものか?
……自分で立てておいてなんだが、酷い例だな、おい!?
なんか、自分で言ってて、改めて人からの認識が酷いものだと再確認してしまったが、とにかくそういうじだ。
ちなみにライトさんの趣向は、し方向が違う。
例えるなら、下著を舐め回して、妄想にふけるじになるだろうか?
……あれ? これはこれで、アウトなんじゃないか?
と、ともかく。下著から、本當のの匂いやら、を想像して、悅にるのが、ライトさんの趣向だと言える。
……言ってて、フォローできなくなって來たぞ? ……彼、今ここで、地下に埋めてしまった方が良いんじゃないだろうか?
まぁ、いい。あくまで例だ。
そんなライトさんが、クリームさんの事を大事にしたいと明確に思っている。あまつさえ、良い所を見せようとしている。
つまり、そんな下著から連想できるにしか興味のないライトさんが、下著そのものをせるようになった。
しかも、自分で守りたいって思う事自、深層心理では自分の良い所を見せておきたいとか、自分の手で彼を護ると言う顕示の表れだと、見て取れる訳だ。それは、下著を明らかに擬人化している。
つまり……彼は、呪縛が殆ど解けかかっている。おいおい、やるじゃないか。
だとすれば、俺のやれる事は、一つ。と、その前に確認だ。
「ライトさん。私は、ライトさんが私の趣向を理解してくれて、素直に喜ばしいのですが……一つだけ確認したい事があります。」
突然の俺の言葉に、彼は沈ませていた顔を上げる。
「ライトさん。貴方にとって、クリームさんは、何ですか?」
畫面越しに、彼の目をのぞき込むと、俺は、大事なことを問いただした。
そんな俺に、彼はふと、考え込むと、言葉を探すように、呟く。
「それは……何にも代えがたい、クリームという何か、でしょうか。」
「では、クリームさんの認識……例えば、聲や姿は好きですか?」
そんな俺の意味不明の問いに、彼の良く分からないスイッチがったようで、
「それはあまり重要ではないですね。そもそも、クリームの姿と言えば、臓を寄り合わせた方がまだマシと言うほど醜悪なものですし、聲は、ガラスを引っ掻く音の方がしいと思えるほど、酷いものですから。その奧にある、クリームが持つ、獨特のモノ、私が評価しているのはそこだと思いますが。どうですか? やはり、同志もやはり……。」
「まぁ、落ち著けや。変態ライトさん。」
俺は後ろでプルプルと震えているクリームさんが、流石に可哀想だったので、強引に話を止める。
いや、だから、これからが良い所だったのに、みたいな殘念そうな顔をしないでくれ。埋めたくなるじゃないか。
俺は、一つ、大きく深呼吸すると、改めて、彼に問いただした。
「では、クリームさんの姿が、聲が、変わってしまっても、ライトさんはクリームさんを大事に出來ますか?」
彼はそんな俺の問いをけ、一瞬、呆然とするも、次の瞬間、笑い始める。
「ははは! クリームは、全てにおいてかなり酷いですからね。あれ以上悪くなりようがないでしょう!」
世が世なら、刺されても文句は言えない臺詞と堂々と吐くこの変態に、俺は戦慄を覚える。
ちなみに、後ろでこの臺詞を聞いているクリームさんは、尾を逆立てていらっしゃる。これは、帰ったらどうなる事やら。
そう思っていたのだが、ライトさんはふと、優しい表を浮かべると、恍惚の表を浮かべ、口を開いた。
「ですが……時々、奇跡のような瞬間があるんですよ。それが堪らない。あれこそが至高なんですよ。同志。」
うん、臺詞だけなら素敵なんだけどな。俺は、変態ライトさんの行為を知っているから、コメントのしようがない。
対して、彼の言葉にクリームさんは真っ赤な顔で悶えている。まぁ、二人が良ければ良いんだろう。うん。
まぁ、なら、良いだろう。その現実、しかとけ止めて貰おうかな。
「ならば、問題はないですね。じゃあ、ライトさん、この人、誰だかわかります?」
俺はそう言いながら、こちらを映しているファミリアをクリームさんの前へと移させた。
更に、周りの聲を拾うように、設定を修正する。
「へ?」
突然の事で、ファミリアを前にしたクリームさんは完全に固まってしまう。
畫面の向こうで、ライトさんも息を飲んだまま、視線が釘付けだ。
その行が意味する所は、つまり……。
「その服……クリーム……なのか? いや、しかし、その姿は……。」
そんな彼の言葉を聞いて、彼は漸く事態を把握したのだろう。
次の瞬間、彼は顔を隠すように、ファミリアに背を向け、ぶ。
「あああ!? ライト様、見ないでください!? いやぁ!」
何だか悪い事をしている気分になるび聲だな。まぁ、実際、不意打ちだからな。後で罵倒は甘んじてけよう。
そんな不意打ちを食らったクリームさんに対し、俺はファミリアを作し、顔を映すように追従させる。
ほらほら、ちゃんと隠さないとライトさんに、その綺麗な顔が見えちゃうよ?
そう。先程、リリーが勇者へと語り掛けた時、獣人と認識されなかったのと同じ理屈だ。
恐らくは、キーになるのは、魔力だな。なくとも、今のライトさんの様子を見るに、音聲と同じように、視覚も、呪縛の影響をけていない。
つまり、今、ライトさんは、クリームさんの本當の姿が見えている訳だ。
先程、クリームさんもリリーと勇者のやり取りを見て、俺の話も聞いているからな。すぐにどういう狀況にあるか解ったんだろう。
そんな理解の及んでいるクリームさんだが……ファミリアが目の前に來る度に、そこから逃げるように、背を向けるも、その都度回り込まれて、パニックに陥っていた。
そんな彼の気持ちを表すかのように、耳はやや反り気味に、尾など、いつもの倍くらいに膨れ上がっている。
ちょっと、やりすぎたか? そう思い、ふと、見るとルナとリリーが微妙な視線を俺に向けているのを見て、俺は気まずくなり、頬を掻く。
「まさか、その聲。そんな……こんなに綺麗に……。」
しかし、そんなタイミングで、畫面越しにライトさんの聲が響き、その聲に反応してクリームさんが、きを止めた。
「クリーム。クリームなんだろ? その耳、その尾の。そうだ、それに時々聞こえた聲。そうか、そういう事だったのか。」
「ライト……様。」
ライトさんは畫面越しに興したように、捲し立てていた。その聲を聞き、おずおずと、ファミリアに向き合うクリームさん。
その顔をファミリアが映し出したのだろう。ライトさんは一瞬、息を飲む。
しかし、次の瞬間、ライトさんは、狂ったように笑い始めた。
「そうか! はははは!! そういう事か!! なるほど! 同志!! 解りました!! これが、貴方の見ていた世界なんですね!? 何て僕・は愚かだったんでしょうか!? こんなにしい世界の前には、僕・の趣向など、児戯に等しい!」
どうやら、ライトさんは、全てを悟ったようだ。そして、興しているせいか、素が出ている。
それぐらい、彼にとってはショッキングな事だったのだろう。
そうして、ひとしきりはしゃいだように捲し立てたライトさんは、息を整えると、畫面へと視線を送る。
しの間、ジッと向こうに移っているであろうクリームさんの姿を見たライトさんだったが、
「クリーム、君は綺麗だな。そうか、その耳、そんな風になってたんだね。りたいなぁ。帰ったらってもいいかな?」
そんな事を優しく、呟く。
「はい。はい! 私は、ライト様のモノです。どうぞ、好きなだけ……。」
そんな風に、漸く、本當の自分の姿を見てもらえたクリームさんは、極まったようで、涙を流して答える。
「ああ、なんてしい聲なんだ。そうか。時々聞こえていたのは、君の本當の聲なんだ……が!?」
何か桃な展開が繰り広げられそうになっていたが、突然、ライトさんが頭を押さえて膝をつく。
なんだ!? 何が……?
見ると、ライトさんの頭の辺りがほんのりとを放っていた。
まさか、あの冠か!?
俺はすぐに【アナライズ】で冠を調べる。
見ると、冠から良く分からない式が起し、ライトさんに作用しているのが解った。
一瞬、どうするか迷ったが、俺は即座に、決斷する。
【アンチ・スペル】起! 式展開! 冠の制を奪い、全ての作用を消す!
その瞬間、ライトさんの頭に収まっていた叡智の冠が、俺の魔法の負荷に耐え切れず、割れて落ちた。
同時に、崩れ落ちるようにライトさんが床へと倒れ込む。
「ライト様!? ライト様? ライト様ぁ!!」
突然の事に、何が起きたか解らないクリームさんは、畫面越しにライトさんを呼び続けている。
ちぃ、まさか、こんな仕掛けまでしてあるとは。正直、油斷していた。
式が完全に発する前に潰したが、どんな影響があるかは未知數だ。
俺はすぐさま、ファミリアで、ヒビキとチャンネルを繋ぐ。
「ヒビキ、聞こえるかい?」
そんな俺の聲に、ヒビキは焦った様子も無く、一聲返してきた。
見るとヒビキは南市壁のとある死角となる部分で、影と一化するかのように、伏せていた。
これ、誰も見つけられないだろうな……。何その隠スキル。そう思いつつ、俺は更に口を開く。
「すまないが、お願いがある。一旦こっちに戻れるかい? これから、クリームさんを連れて、ライトさんの元へ向かってほしいんだ。導はファミリアに任せるから。」
俺の聲が屆いた瞬間、ヒビキは強く一鳴きすると、了解の意を伝えてくる。
よし、これで、とりあえず、大丈夫だろう。
本當はそのまま回収だけする事も考えたのだが、【アナライズ】の結果、特に深刻な問題は無かったので、クリームさんと一緒に、お店に戻って貰う事にする。
俺は、未だに半狂になりながら、畫面に向けて聲を上げるクリームさんの肩を摑むと、諭すようにゆっくりと言葉をかけた。
「大丈夫ですよ。ライトさんは気を失っているだけです。ですが、あのままにしておくのも危ないので、今から迎えに行きます。もし宜しければ、ヒビキと一緒に、向かって頂いても宜しいですか?」
混した頭では、俺の言う事が、良く分からなかったようだが、再度、俺は同じことをクリームさんに、ゆっくりと伝える。
そうして、し頭が冷えたのだろう。クリームさんは、言葉こそ発しないの、ゆっくりと頷いた。
そのタイミングで、音も無くヒビキが部屋へと現れる。
うお!? はや!? そして、気配無かったし!? そんな俺の驚いた表を見て、ヒビキは得意そうに鼻を鳴らす。
いやはや、良くできたティガだ……。恐ろしいな。
俺は、改めて、ヒビキの規格外の速さに戦慄すると、そのまま、クリームさんへ聲をかけた。
「今からヒビキがライトさんの所へ連れて行ってくれます。しっかり摑まっていればすぐですから。ヒビキ、頼むな?」
俺の言葉に、ヒビキは一鳴きし、クリームさんは、頷くと、ヒビキへと聲をかけていた。
それから、すぐに、ヒビキは部屋から、文字通り消えた。おいおい、クリームさん、大丈夫か?
まぁ、ヒビキだから、手荒なことはしないだろうが……。
それよりも、こっちをどうしようかな?
俺は、一つの畫面へと視線を移す。
そこに映し出されている、未だに風弾をまき散らす竜の姿を見て、ため息を吐くのだった。
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