《比翼の鳥》第91話 イルムガンド防衛戦 (16)

「さて、俺はあんたのしがっている報を持っている。だが、あんたは、俺に勝てない。」

《 そんな事は無い!! 貴様など……グゥ!? 》

有無を言わさず、俺は【グラビティ・プリズン】の出力を上げる。途端に、思念を送る余裕すら無くなる竜。

地響きのような細かい振と、何かが、徐々に潰れて行くような音が周りに響く。

しずつ、圧潰していく竜を俺は、敢えて見下す様にしながら、目を見て、心で語り掛ける。

このまま死ぬならそれも仕方ない。だが、こんなつまらない事で、命を捨てるのか?

そんな俺の様子を見て、初めて竜の目に今までとは違うが宿った。

それは、恐怖。

絶対的な力を前に、勝てないと悟ったの目だ。

死が寄り添い、自分に語り掛けて來る狀況。

もう數歩先に、自分の存在が消え去るであろう景が橫たわっていると確信した、そんな表でもある。

「このままだと、あんたの切する母様にも會えず、無様に死ぬことになるが、良いんだな?」

《 いや……だ。か、かぁさ……ま……私……は……。 》

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ふむ。まぁ、こんなか。

俺は徐に、【グラビティ・プリズン】を解除する。

途端に、戒めから解除されるも、負ったダメージは深刻で、息を切らしながら、く事も出來ない竜の姿がそこにあった。

を痙攣させながらも、竜はをごちゃ混ぜにしたまま、その混濁した目を向けて來る。

「そのが……死への恐怖だよ。それを本當の意味で知っているかどうかは、重要だからね。で? 験してどう? もう一回、いっとく?」

俺は淡々と、そんな事を竜へと問う。

そんな俺の言葉に恐怖した様に、口を閉ざす竜。その姿は、先程から威勢の良かった様子を欠片もじさせない程、弱り切った様子だった。

荒療治なのは百も承知だが、まずはここから始めないと、何も進まない。

言葉の通じない生きは、獣と変わらないのだ。まぁ、竜だから元々、獣なのか?

だが、今までの行を見て、確信した。こいつは、中は確実にお子様だ。

本當は々あるのかもしれないが、兎に角、こいつは、期の駄々っ子として対応する事にした。そう決めた。

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そうなると、話は簡単だ。い子供の思考……あれは、人になりかけている獣と割り切った方が良いと俺は思っている。

時々、子供にはで接すれば、分かってもらえるとか言う人がいるけど、あれは半分以上が幻想だと、俺は経験則で知っていた。

とか、想いでカバーできる事例があるのは否定しない。

辛抱強く、何度も反復できれば、理解のおよぶ事も、稀にある。

ただ、俺は塾の講師をしていた経験から、それは躾をされていない子供には、効果が薄いとじていた。

そういった理想的な躾は、親子の間で時間の多くを費やせるような特殊な狀況の上、無條件の信頼の累積を使ってのみ、し得ると知っている。

限られた短い時間の中で、大事な事を躾けるには、どうしても理不盡で絶対的な力を使う必要がある。

俺はなくとも、それ以上、即効と実効を併せ持つ方法を、他に知らない。あるなら教えてしいとすら思う。

だから、必要な時には激しく叱るし、子供を泣かせてでも伝える事を優先する場合もあった。

その為の回しも労力を惜しまない。親への理解さえちゃんとあれば、その位は皆、喜んで任せてくれる。

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そして、今回もそれと同じ狀況だ。

元の世界では手こそ上げる事は無かったが、子供を大泣きさせたことだって、何度もあった。

表面上は靜かに、しかし、心は激しく、そうやって叱ったさ。

だが、先程も言った通り、子供は半分獣だから、それゆえ、本気の想いは伝わる。

何でそんな事を自分が言われているか、解らないながらも、本能でそれを理解する。これはダメな事だと。

だから、どうして良いか解らないまま、泣くんだ。それが子供の本質だ。

時々、勘違いした親がいるのだが、子供を泣かせる事が悪い事だと思い込んでいる事がある。

それは罰じゃないかって? もしかしたら、そうかもしれない。だけど、それがどうした。

その子を、そのまま我が儘にさせて置く事の方が、將來、どれだけその子の損失になるか。

子供の躾は、大人の義務だ。それは長く生きた、大人にしか出來ない事だ。

勿論、俺も立派な大人ではない。だが、そんなけない俺でも、伝えられることはある。

躾されないまま社會に出た子の末路は言うまでもない。見て見ぬふりはその子の未來を閉ざすかもしれないのだから。

そう考えたら、俺は、この図ばかりでかい、心のい竜を放置はできなかった。

ましてや縁遠いながらも繋がりのある者だ。彼の心を重んじれば、尚更である。

尤も、俺のやり方が正しいかどうかは解らない。だが、元の世界の塾で見た子供たちは、皆、最終的に、信頼を寄せてくれた。

本気でぶつかった講師達の想いを、彼ら、または彼らが裏切る事は無かったんだ。

それは経験として、俺の心に息づいている。

だから俺は叱る。間違ったことは否定する。全力でだ。

元の世界の生徒たちを思い出しながら、そんな事を頭の片隅で考えていたが、俺は頭を振ると、思考を元に戻した。

改めて目に飛び込んできたのは、砂漠だった荒涼たる大地。

しかし、冷靜になって考えてみれば、折檻にしては、規模の大きい事になっている訳だが……。

だらけになった砂漠を見渡し、俺はため息をつくと、改めて竜へと視線を戻す。

まぁ、暴れん坊の悪ガキだからな。荒療治で良いだろう。そう改めて決めると、俺は口を開いた。

「さて、いくつか質問があるから聞くよ。答えなくても良いけど、その場合は……お母様の事は綺麗さっぱり諦めてくれ。」

そんな俺の一方的な言葉に、竜は何とも言えない表を浮かべていた。

まぁ、君に選択権など無いんだよ。理不盡な狀況ってのはそんなもんだ。

「まず、あんたは、龍神ナーガラーシャがを分けて生んだ子供で良いのかな?」

《 な、なぜそれを…………いや、そうだ。我は、母様のより生じた存在だ 》

まだ、立場が分かっていなかったようなので、俺が途中で睨みを利かせると、途端に素直に喋る竜。初めからそうしてね?

竜にとっては理不盡な狀況ながらも、とりあえず俺の言葉は屆くようになったとじる。

「じゃあ、あんたは、龍神ナーガラーシャのを食べ、更に強くなった?」

俺が睨みながら、そう問うと、一瞬、思考がれたようだ。

《 *#$%&!? 違う。あれは、兄者達が……があぁああ!? 》

「言い訳はいらないので、事実だけ答えてね。」

俺は余計な事を口走る竜に、一瞬、【グラビティ・プリズン】で超重力の底へとい付ける。

弱った竜のには、それだけでも堪えたらしく、すぐに解除したが、竜は息をしていた。

そうして、俺は、竜の目の前まで降りると、目線が合うように高さを調節して浮遊する。

「もう一度聞くよ。ナーガラーシャを、食べたの?」

《 ……そうだ。我も母様を食った。 》

「なんで?」

間髪れず問われた竜は、言葉を選ぶように、考えながら、口を開く。

《 ……最初は、兄者達が食べていたから、だ。母様を食べれば、強くなれると聞いた。 》

「なんで強くなりたかったの?」

《 ……そうしなければ、わ、私が食われるからだ。弱い弟たちは、皆、兄者達に食われていった。 》

なるほど。弱強食を地で行く狀況か。狀酌量の余地は、若干あると。

しかも、今の言い方だと、この竜的には不本意だったと見て取れる。それなら、その方向で攻めようかな。

もう、二度と、そんなことは、させないつもりだからな?

あまり気は進まないけど、あんたの心、抉らせてもらうよ。

「なるほど。じゃあ、お母様は味しかった?」

俺は、努めて笑顔を維持しながら、意識して明るい聲でそう聞いた。

《 ………… 》

そんな俺の聲を聞いて、何かを口にしようとするも、言葉にならないようで、思念が散る。

なるほど。罪の意識はある、か。

「強くなるために、お母様を食べたんでしょ? その時、お母様はどんな表だった? 笑っていた? それとも……?」

更に俺は、笑顔でそう問いかける。

しかし、竜は言葉にすることを躊躇うかのように、言葉を紡ごうとし、言葉にならないれた思念が消えると言う事を何度か繰り返す。

「あれ? 答えてくれないのかな。じゃあ、もう終わりかな。」

その言葉をけて、竜は焦ったように俺を見ると、

《 ……った。 》

かすれた思念を飛ばす。

「え? 何? 解らないよ。もっとはっきりと。」

俺のそんな言葉で、やけになったのか、怒りや憤りと言った負のを隠そうともせず、竜は吼えた。

《 味かったわ! ああ、母様は極上の味だったよ! それは、もう、言葉にできない程な! 皆に噛みつかれ、引き千切られる度に、母様はだらしなく涙を流し、悲鳴をあげておったわ! 「何故じゃ」とな! ハハハ! 馬鹿な母よの! 何故も何もない! 母様を食わねば我らが、兄者に食われる。だから、食ったのよ! 》

吼える竜の姿は、思念と聲こそ、大きかったが、何故かそのは小さくじられる。

そして、そんな竜の姿は、意地を張りながら、泣いている子供の様に、俺には見えた。

その様子を見て、俺は安心し、人知れずをなで下ろす。

ふむ。どうやら、思ったほど殘格ではないようだな。

価値観の問題から、人間に対しては殘になれるのだろうが、これだって、意識の問題だ。

母親である宇迦之さんにまで、躊躇ためらうことなく牙を向けるようだったら、処分もあり得たが……これなら大丈夫だろう。

そして、今、こいつの本音が頭をのぞかせている。後はそれを引き出せば良いだけだ。

「そっか。味しかったんだ。……じゃあ、またそのお母様に會ったら、あんたは食うんだね。」

《 違う! そんな事はしない!! 》

俺の飄々ひょうひょうとした態度に怒る事も無く、焦ったように弁解をする竜。

「え? 何で? だって、味しいんでしょ? 強くなれるんでしょ? 普通に考えたら、食べる為に會うとしか思えないでしょ。」

《 いや、それは、そうじゃない! 私は、そんな事をんでいない! ただ……! 》

「ただ?」

俺の再度の問いに、一瞬、口ごもる竜。

しかし、戸うような様子を見せつつも、何かを考えている様なので、俺は待つ。

ここは大事な所だ。自分の想いを自分で言葉に纏める。これが、第一歩だ。

それが必要だからこそ、俺はあえて迂遠に、竜の言葉を引き出してきた。

最初こそ、強制的にではあったが、途中からの言葉は、心のから生まれた言葉だったと、俺はじている。

自分の想いと行を自覚させ、更に、それを自分で考えさせ、橫から修正する。

結局の所、躾とはその単純作業の積み重ねにしか過ぎない。

《 ただ……私は、母様に、會いたい。理由など、解らぬ。だが、私の中に、気持ちの悪い、冷たいものがある。それが、母様を求めているのだ。 》

そう、言葉を選びながら、思念を送ってくる竜。そこには、ただ、母を求める子供がいた。

だから、俺は、答えを渡す。それは、考えて心と向き合った者へのご褒だ。

「その、教えようか? 『寂しさ』って言うんだよ。」

そんな俺の言葉を聞いて、竜は考え込む。

「お母様に會いたくて、考えるとがざわつくんでしょ?」

《 そうだ。 》

「願わくば、會って、お母さまに優しく言葉をかけてしいんでしょ?」

《 そうだ! 》

「じゃあ、あんたは、母親がしくて寂しがっているんだよ。お母様がしくてしょうがない。そういう狀態だ。子供は母親のを求める。それは、本能だから仕方ないね。」

俺のそんな言葉をけて、竜は、何かを納得した様だ。

《 そうか、これが寂しさか。この重く冷たいものが……。 》

まぁ、これで第一段階は突破かな。

さて、次は自分のしてきた事を、しっかりと自覚してもらおうかな……。

俺は、何かの支えが取れた様な表を浮かべる竜を見ながら、そう心で呟くのだった。

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