《比翼の鳥》第94話 イルムガンド防衛戦 その後 (2)
結局、やらかした竜には、暫くの間、自問自答して頂き、し時間を空け様子を見る事にした。
あの狀況下で、再度、子竜を無理に引っ張って來ても、一層、関係が悪化する事は、火を見るよりも明らかだしな。
「何度も言うけど、自分が、……ナーガラーシャにしてしい事を、子竜にしてあげるんだよ? 時間はあるんだ。良く考えてな?」
《 ……そうか。分かった。考えてみよう。 》
そんな會話があり、この未な竜の向が心配ではあったの、俺は街の様子やライトさんの狀況も気になっていた事もあり、一旦、街へと帰る事にした。
その途中、相変わらず、我が子達が子竜を追いかけまわしていたので、止めにる事にした。
つか、なんつー速度で走り回ってるんだ。
縦橫無盡に草を刈りながら、まるで芝刈り機が走するかのような景を見せられて、俺は一瞬、言葉を失う。
そんな絶的な狀況の中、どうやら、俺の姿を認めたのだろう。子竜が一目散に、俺めがけてダイブしてきた。
勿論、そんな速度で向かって來られれば、障壁が発しない訳も無く、そのは見えない壁にへばり付くような形で、宙に浮く。
そして、そのまま、障壁沿いに移すると、俺の背中へと隠れてしまった。
やれやれ、仕方ないな。
俺は、障壁を解除し、震える子竜の頭をでる。
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鳴き聲……いや、むしろ泣き聲をあげながら、俺にしがみついてくる子竜。
うん、恐かったろうなぁ。そりゃ、突然の親への対面だけでなく、二人の子鬼に追いかけられればそうもなる。
「むぅ。父上を盾にするとは……その、叩き壊してくれる!」
「お父様。そこをお退き下さいませ! その弱き心、立派に矯正いたしますわ!」
ほら來た。しかし、完全に鬼教モードだし。
全く、誰に似たのか、どちらもノリが育會系だから困る。
「こら、二人とも。この子を怖がらせてどうする。しかも、咲耶、叩き壊したら駄目。」
「そうよ咲耶。壊すより、服従させないと。その方が後々楽よ?」
こんな事を言っちゃう此花も、立派に変な思考である。これはこれで歪んでる。
「それも駄目。」
「「えー。」」
えーじゃないよ。なんでそう、発想が過激なんだ。
やっぱり、この子達は、何かが狂っていると思う一方で、それも當然だなと納得する冷靜な俺がどこかにいる。
霊とは、人に従屬したがる質を持つと聞いている。
それは、つまり、支配と服従の関係に繋がる訳だ。
人に使役されて、喜びを得る。逆に、奉仕できないと苦痛すらけると言う。
そんな風に、出・來・て・い・る・らしい。
元の世界の価値観からすれば、明らかにおかしい。
勿論、そういう人種はいた。特に、こと、思想や宗教が絡むと、その傾向は顕著になる。それは、別に良い。
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だが、この子達は、生まれて間もない。思想や理念に関しては、俺や周りの影響をける筈だが……それにしても尖り過ぎている。
俺も、その都度、々と教えてはきた。しかし、それが、何かに抑制されている節すらじている。
その結果を見るに、前々からじている違和が、ますます膨れ上がり、形をしていくのを、俺はじていた。
まぁ、それは良い。むしろ、この子達の行原理だ。
つまりは、この子達の本には、支配と服従がある。霊は人に支配され、服従する。
その本質が、如実に形として現れているだけだ。だからこそ、この子達は、自分の下と認識した者を、支・配・したがる。
リリーに対して、変に高圧的なのも、無意識に自分の下であり、人ですらないとじているからなのではないだろうか。
何という事は無い。彼たち霊は、立派に狂・っ・た・この世界のに取り込まれているのだ。
だが、そうは言っても、ディーネちゃんから預かった、可い子供たちだ。
俺の中で折り合いをつけながら、何とか導いていくしかない。
俺は、そんな考えを脳裏に浮かべ、そうして、溜息を吐く。
「とりあえず、無理に何とかしようと思わなくていいから。ただ、見守ってあげればいいよ。この子だって、いつかは、ちゃんと向き合わないといけないとわかってるだろうしね。」
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そう言いながら、俺にしがみついて震える子竜の頭を優しくでる。
俺の言葉に、我が子達が渋々と言ったじではあるが、頷いたのを見て、俺は苦笑した。
「流石に、親竜が暴れ始めたら止めていいよ? けど、やりすぎたら駄目だぞ?」
「はい!」「承知!」
全く、俺も甘い。まぁ、そうは言っても、この子達には笑顔でいてしいとも思う。
ふと見ると、震えがし収まって來たようで、子竜が俺を見上げていたので、しゃがみ込み、目線を合わせると、更に口を開いた。
「もし、親とちゃんと向き合いたいなら、遠くから、親竜の様子を見てごらん。きっと、今までとは違う姿が見られるから。ね?」
俺のそんな言葉を理解しているのか、子竜は首を傾げながら、甘えるように甲高くを鳴らしている。
ちと、まだ早いかもしれないな。
そう思いつつ、俺はポンポンと、子竜の頭を叩くと、我が子達に農場を任せ、イルムガンドへと戻るのであった。
出るときに【テレポート】で出たので、帰りは【ステルス】で上空より都市に侵した。実に楽である。
上空を飛行しながら街の様子を見るに、イルムガンドはどこもお祭り騒ぎだった。
どうやら、無事、竜が撃退されたと言う報は屆いているらしく、俺はをなで下ろす。
皆の場所をファミリアから読み取ると、どうやら、リリーとティガ親子は、ライトさんのお店にいるようだった。
ライトさんはまだ目を覚ましていないようだったが、リリーとヒビキが、何故か口論しているようだ。
また、ヒビキが煽ったのだろうか? そう思うも、とりあえず、そんなに激しいじではないので、放っておくことにする。後で、引きずるようならフォローしよう。
ルナは何故か、ギルドマスターの部屋にいるようだ。
ギルドマスターと、ボーデさん、ライゼさんが集まり、ルナが筆談で何か會話をしている。っと、ファミリアで見ているのがバレたのか、ファミリアに手を振るルナ。
いや、一応、このファミリア隠してるんですけど。何でわかったし。ほら、後ろで皆が、変な顔してるから。
突然、虛空に手を振る痛い子になってるからね?
俺の思考がどうやってか、伝わったようで、途端に顔を真っ赤にすると、文字をあせあせと書き始める。
どうやら、言い訳をしているようである。いや、だから、振り返らなくていいから、お話ししてなさい。もう著くから。
俺は、冒険者ギルドの橫に併設されている獣舎と呼ばれる場所に、俺は音も無く著地する。
そして、誰の目も向けられていない事を確認すると、【ステルス】を解除し、表へと歩き始めた。
ここは、冒険者の所有する獣や獣人を一時的に預けておく所らしい。
ティガ親子やリリーも、俺が冒険者ギルドに用がある時は、ここで待機しているそうだ。
通路が真ん中に通り、その左右を埋めるように、檻が設置されている。
いずれも、かなり頑丈なつくりをしており、その上を覆うように、石造りの屋が飛び出していた。
上から見て思ったが、あれだ。元の世界の駐場のような、し寂れた雰囲気を醸し出している。
今はどの檻も殆どが空で、靜かなである。
元々、あまり使われないのだろうか? そう思い、視線を巡らせると、一つだけ、中に何かがっている檻を発見する。
通り過ぎながら、俺はさり気無く中の様子を伺い……後悔した。
それは薄汚れた服を申し訳程度に纏う、獣人だった。
頭より長くびた、茶に近い耳。それは、右耳だけ短く途中で、千切れている。
薄汚れた茶い髪はび放題で、腰まで無造作に垂らされており、顔面をも覆いつくし、ざんばら髪と化している為、その表は見る事が出來ない。
を見ると、至る所に傷があり、しかも、何日も食べていないのか、それとも食事自がないのか、やせ細っていた。
そんな姿を見て、一瞬、立ち止まってしまった俺に、その獣人は鋭い視線を向けてくる。
走った黃い目。ギラギラとを放つその目を見たら、俺は考える間もなく、行していた。
【ストレージ】より、以前、作っておいた、おにぎりを取り出すと、無言で檻の中の人へと手をばす。
檻の中へと手をれた時、一瞬、抵抗をじたが、それも強引に打ち破った。
その獣人は、突然目の前に、俺の手がばされ、びっくりしたように俺を見て、次に、俺の手の中に納まるを見て、鼻をひくつかせると、を鳴らした。
もう一度、俺の顔を見て來たので、俺はそのまま頷き、後押しするように、更に腕をばし、獣人の前へおにぎりを差し出す。
恐る恐ると言ったじで手をばし、俺の手からおにぎりをひったくり、無言で貪る。
俺は、もう一つ取り出すと、先程と同じように、目の前に持っていく。今度はそれも躊躇なく、摑むと、胃袋へおさめにかかった。
そうして、4回ほど、そのやり取りを繰り返し、獣人の様子がし落ち著いた事を確認すると、俺は立ち上がった。
「ごめんな。こんな事しかしてやれなくて。」
俺は自己満足でしかない呟きを、思わずらす。そして、後ろ髪をひかれる思いで、その場を後にした。
ずっと背中に獣人の視線をじながら、俺は、その視線を振り切るように、冒険者ギルドへと足を踏みれたのだった。
ギルドにると直ぐに付のお姉さんから、聲がかかる。
そのままの流れで、ギルドマスターの部屋へと通された。
ちなみに、聲をかけてくれたのは、俺もあまり話した事の無い付嬢だった。対応も至って事務的。余計な事も言わないし、業務に忠実である。そして、いつもはひと悶著あるのだが、今回は何事も無く、あっさりと扉前へと到達する。ああ、普通って素晴らしい。
「來たか。ご苦労。下がってよいぞ。」
ギルドマスターのそんな言葉に迎えられ、俺は部屋の中へ、付嬢は禮をすると、扉を閉め、退出した。
壁の花と化しているボーデさんが、手を上げ、椅子にもたれるライゼさんがチラリと俺に視線を寄越す。
ルナが振り向き、俺へと抗議の視線を寄越した。何故に? と思うも、どうやら、來るのがし遅いとご不満な様子。
俺は苦笑すると、ルナの橫へと並び、頭を優しくでる。
視線を向けるまでも無く、ほんわかした雰囲気が伝わって來たので、そのまま、ギルドマスターへと聲をかけようとして……何故か、ギルドマスターが深々と頭を下げている様子を見て、首を傾げた。
「この度は、このイルムガンドを護ってくれて謝する。ツバサ殿がいなければ、確実に、この都市は滅んでいた。これは、事実を知る、皆の総意じゃ。」
見るといつの間にか、ライゼさんとボーデさんも起立し、俺に向かって深々と俺に頭を下げていた。
「いや、ちょっと、やめて下さいよ。あの位、どうってことない話ですから。って言うか、なんで知ってるんですか?」
あまりに突然だったので、焦って一気に捲し立て……ふと、報源に思いあたり、橫を見る。
そこには、満面の笑みを浮かべたルナの姿。そうか……君か。
俺の納得した様子をじたのだろう。顔を上げたギルドマスターが、口を開く。
「うむ。先程、ルナ殿より事の顛末てんまつは聞いた。全く、あの勇者、本當に邪魔でしかなかったわい。」
「ゴミ。」
「っていうか、俺らって一何だろうな?」
様々に思う所はあるらしく、思ったままに口を開く。どうやら、個々に相當に不満をため込んでいる様子だ。
そんな皆の様子を見て、俺は苦笑していたが、ギルドマスターが思い出したように、口を開いた。
「して、報酬の事なんじゃがな。とりあえず、教団より、経費は分捕ってやったので、參加費用としてこれらを、皆に分配することが決定しておる。ただ、ツバサ殿には、それだけでは、申し訳ないのでな。別に報酬を用意したいのだが……表立って報酬を出す訳にもいかんだろう? なので。ある程度、ギルドで何かしらの融通を図る形で収めたいのじゃが、どうだろうかの?」
うーむ、融通ね。
とは言え、今のところ、生活にも漸く慣れてきた段階だし、本格的にくにはまだ早い。
知識の関係や、技に関してはそれこそ、々と知りたい事があるんだが。
特に魔法関係は、し知識を仕れておきたいところではあるんだが、どうするか?
俺が思い悩む様子を見て、ギルドマスターはし表をらかくすると、
「いや、今直ぐで無くとも良いぞ? なんせ、お主は竜を屠った、竜殺しドラゴンスレイヤーじゃからの。まぁ、対外的には、勇者が名乗る事になるが、我らはその事を知っておる。」
何か誇らしげに、そう語り掛けて來たが、その言葉に、俺は眉を顰める。
「しかし、俺らじゃ手も出せない様な竜を、あっさり倒しちまうんだからな。案外、世界征服も夢じゃないんじゃないか?」
「ツバサはそんな事興味ない。多分、近の達の事で一杯。」
ボーデさんとライゼさんも、言いたい放題ではある。
なんか、前にも同じような事言われたな……世界征服とか、どうでも良いんですよ。
ライゼさんはライゼさんで、何故か的確な所を指摘してくるし。
いや、それよりも、今の発言でちょっと気になる事があるぞ?
「あれ? 竜殺しドラゴンスレイヤーって、竜を殺さないと名乗れないんじゃないですか?」
名前に殺しとか騒な語が著くぐらいだし。
そんな俺の素樸な疑問に、ボーデさんが、答える。
「そりゃそうだろ。竜と戦って生き殘るには、竜を倒す以外に、道が無いからな。そういう意味じゃ、あの勇者さんは凄いんだろうけどさ。」
あらま。そういう認識か。なるほど。
俺は、ふとルナに視線を向けると、途端に目をそらす。
あ、これは、話を盛ったか? もしくは、説明不足かな?
俺のそんな様子を怪訝に思ったのだろう。ギルドマスターは、俺に問いかける。
「まさかとは思うのじゃが……竜を倒しておらぬのか?」
その言葉に、部屋の空気が一瞬にして凍り付く。
いやいや、そんな構えなくても。
俺は苦笑しつつ、努めて明るく事実を口にした。
「ええ、軽くお仕置きしましたけど、殺してはいませんよ?」
「軽く……。」「お仕置き……。」
ボーデさんとライゼさんが、何か言いたそうに、俺を呆れた様な目で見ているが、あえて無視する。
軽くです。あんなん、森の時に比べたら、児戯にも等しいからね。
空が雷で覆いつくされようが、軽くなんです。
「ちょ、ちょっと待て! では、まだ竜は生きておるのか!! 竜は執念深いぞ! 殺さんと、いつまた復活してここを襲ってくるか!! 討伐隊を編せぬとまずいぞ!」
冷たい視線を寄越す二人とは対照的に、ギルドマスターは熱く……と言うより、取りすように、そう捲し立てた。
ああ、危機管理を考えればそうなるんだよな。まぁ、普通ならそうなのだろう。
「ああ、大丈夫ですよ。もう、竜は悪さしませんから。って言うか、させませんから。」
俺がそう口にすると、ギルドマスターは、今の言葉の意味を計りかねるかのように、眉を顰める。
「いや、余りにも躾の悪い竜だったので、ただ今、私の作った地下農場で、特殊調教中です。調教が終わるまでは、絶対に外に出しませんから大丈夫ですよ。」
「「「は?」」」
俺の言葉に対して、帰って來たのは、そんな間の抜けた言葉だけだったのだ。
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