《比翼の鳥》第18話 蜃気樓(18)

結局、あれから、揚羽は、溜まりに溜まったの全てを、これでもかと言う程、吐き出し続けた。

ちなみに、何分……いや、何時間続いたのかは、もう覚えていない。

それ程まで苛烈に、彼は、泣きびながら、延々と鬱憤うっぷんを晴らすかのように、話し続けたのだ。

俺は、そんな彼の言葉を頷きながら、あやす様に背中をさすりつつ、一つずつ、聞いていった。

そんな彼の言葉の中には、重要な報もかなり多かった。

正直に言って、聞いた瞬間、驚きのあまり、さすっていた手を思わず止めてしまった位だ。だが、俺は取りあえず、聞き役に徹した。

そんな甲斐もあったのだろう。俺のに納まっていた彼は、そのまま崩れ落ちると、今は靜かに寢息を立てて、眠っていた。

ちなみに、彼が俺の腰をガッチリと摑んで放さないので、俺がそのまま座り込んで胡坐をかいた上に、彼が乗っかる形になっている。

「うにゅ……」

時折れる、意味不明の吐息に、俺は苦笑しながら、優しく彼の頭をでる。

的になのか、はたまた良い夢でも見ているのか、彼の顔がだらしなく緩んだ。

そんな彼の姿を眺めつつ、俺は、ぼんやりとしたまま、彼から得られた報を整理する。

まず、一番の報は、あの世界の狀況だった。

滅びかけていると言う、彼の談だったが、的な報が、斷片的に得られたのである。

そんな彼の話をまとめてみた所、どうやら、俺はバラバラにされたらしい。

文字通り、5を切り刻まれて、分割されたとの事だった。

昔、牛男のハリケーンなんたらで、分割されたっぽい助士の姿を思い浮かべてしまうが、あれに近い狀況のようだ。

驚いたことに、そんな狀態でも、俺は生きているらしい。

うん、意味がわからない。俺は、人間を辭めているのだろうか?

まぁ、なんだか、俺の常識の通用しない世界でもあるので、そんななのかもしれないが。

兎に角、俺がこんな風に自我を持って存在しているのが、何よりの証明である事も確かなのだ。

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で、俺の狀況は、そんな面白いことになっている訳だが、更にその上を行くのが、その活用方法だった。

俺は、あの教皇を前にして、世界を縛るシステムを壊しにかかった。

叡智の冠による、獣人への呪縛を壊し、霊への支配を一部壊した。

その結果、まず、獣人たちへの絶対的な支配に、綻びが出始めたらしく、獣人達を擁護する者や、組織が現れたらしい。

中には、勇者の何人かが、反旗を翻したとか何とか。

そりゃそうだ。本當なら人として、共に歩む道もあった所を、無理矢理に隷屬させていたのだから。

今まで、化や単なる便利な道として認識していたが、実は人間と同じような存在でしたって言われたら、今まで通りには行かないだろうさ。

俺達の世界で言えば、家電や機械が、ある日突然、人と同じような存在になるようなだ。

そんな俺の脳裏に、白家電が可の子になった姿が浮かぶ。

うん、ありだな。……いや、じゃなくて。

まぁ、日本古來の妄想力を結集すれば、何でも擬人化できそうだから、イメージしやすい。日本萬歳。

話をもとに戻そう。

それだけで済めば、まだ何とかなったのだろうが、もう一つ、問題が発生した。

全世界で魔法が使えなくなったらしいのだ。

これは、恐らくだが、俺が霊への干渉を一部破壊したことが原因だと思われる。

人族の都市に來て……また、ライゼさんの使っていた魔法を見た時に、分かったのだが、人族の魔法は、基本的には、自分で魔法を発していなかった。

俺やルナの場合は、俺のイメージと魔力を使って、俺自の中で完結するように魔法を構築している。

だが、人族の使う魔法は、その発想が、本的に違っており、霊にその全てを任せていた。

差し詰め、人族の使う魔法は、霊魔法と言ったほうが、正しいだろうか?

だから、人族達の魔法には、霊が必須なのである。

だが、俺がその束縛を斷ち切ったことによって、人族は、舊來の魔法を使えなくなったらしいのだ。

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まぁ、ともかく、その2つの事が多大な影響を與えた結果、今まで一つに纏まっていた人族が、分裂をし始めたとの事だった。

更には、それと共に、多くの労働力を獣人達に頼っていた人族は、深刻な労働力不足に陥ったらしい。

そんな事が重なった結果、今まで、教団の絶大な権力によって維持していた統治機構が、こそぎ崩れた。

挙げ句の果ては、教団に対して、反旗を翻す國家まで、現れたとのことだ。

そこで追い詰められた教皇が目をつけたのが、俺の……と言うより、俺の膨大な魔力だったらしい。

どうやら、俺のは分割されつつも、無盡蔵に魔力を放出し続けていたようで、それを利用して、新しい労働力の代わりとし始めたとの事だった。

俺は世を滅ぼそうとした魔王として討伐され、封印されたと言う形となり、家族達も散り散りになって、今も見つかっていないらしい。

教団は、俺のの一部を封じ、無盡蔵の魔力源として、各國に提供する事で利権を確保。

それによって、人族は、労働力不足を解消し、更にそこから新しい技である魔道等の発展もあって、一気に繁栄の道を進み始めたとの事だ。

個人的には、何とも言い辛い狀況ではあるが、俺の魔力が結果として、皆の役にたったのであれば、それはそれでありなのかなぁとか、思ってしまった。

思ってしまったのだが、その先に、落としがあったのだ。

まぁ、発展すればそれに伴って、需要も増える。そうすれば、供給量もうなぎ登りなわけで……。

結果として、全世界で、俺のの一部から、膨大な魔力を供給し続けたらしい。

そもそも、國家レベルを支えられる魔力供給量ってなんだよって思わなくもないが、森で散々やらかしたとしては、ありえない話じゃないなと、何処か當然の事としてけ止められてしまう自分もいたりする。

でだ。そもそも、魔力というのは、拡散し、循環する。

これは、森で俺がやらかして実証したから、よく知っている。

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ここまで來れば、もう分かると思うのだが、世界中で俺の魔力を使用した結果……世界の魔力が、俺の魔力に上書きされると言う自が起こった。

森では閉鎖空間だったから、その変化は劇的ではあったが、今回はより広い範囲だった。

何せ世界規模の変化である。

それは、緩やかに、しかし、確実に進行していったらしい。

奇しくも新しい技が次々と開発されていき、繁栄を疑わない人族達は、どんどんと、その恩恵に預かるようになる。

権力を浸させたい教団の勧めもあって、俺の魔力は世界中に急速に浸していったらしい。

その先は聞かずとも分かった。

そう、森の二の舞いである。

結果として、ある時を境に、世界中で黒い獣の目撃例が出始めた。

ただ、森と違ったことは、その獣が、人族も獣人族も関係なく、襲い始めたという事だ。

教団は、それを魔と呼稱し、駆逐の為に、勇者達を向かわせるようになったらしい。

しかし、魔達は、時を経るごとに、減るどころか、どんどん増えていった。

最初のは優勢だった人族も、徐々に、その數に対応できなくなり、被害は無視できない所まで膨れ上がる。

しかし、原因が分からず、後手後手に回った人族達は、有効な打開策も打てず、遂には魔に襲われ滅亡する國家が出た。

実は、教皇だけは、早い段階で、この魔発生の原因が、俺の魔力だという事は、気がついていたらしい。

だが、折角、作り直した統治機構を、また変える訳にも行かなかったとのことで、そのまま、ズルズルと今に至るらしい。

アホかと。

結果的に、俺が……いや、正確には、俺の魔力が世界を滅ぼす要因となっている訳だが、俺自の當事者意識は限りなく低い。

俺から言わせれば、勝手に人の魔力を利用しておいて、勝手に滅びに突き進んでいると言ったじだろうか。

本來であるならば、放って置いても良いくらいだ。

だが、あの世界には、俺の家族達がいる。

それに、俺のように連れてこられた、中・・の・あ・る・人・達・もいるかもしれない。

まぁ、単なる自己満足だよな。

そんなのために、俺は、元の世界を捨てるのか?

一瞬、脳裏に浮かんだ迷いを、俺は自覚する。

寡黙だがいつも俺を見守ってくれた父。

逆に過剰に過保護だが、いつも味方でいてくれた母。

ちょっと手が早いのが玉に瑕きずだが、可い妹。

俺をながら支えてくれていた、親友たち。

塾の皆。生徒の皆。細かい繋がりがあり、その人達の笑顔が浮かぶ。

ふと、寂しそうに笑う、彼の姿が一瞬過ぎった。

ルナ、君はそっちにいるんだろうな。

に會いたくなった。

家族でも親友でもなく、彼に會いたくなった。

これは、強制された心の殘滓なのだろうか? それとも、俺の本心なのだろうか?

分からない。分からないが、それでも、このの痛みは、確かなのだ。

そして、改めて問う。

それでも、俺は、このままここで、滅ぶ世界を見つめながら、のうのうと過ごすことが出來るだろうか?

に會うため、皆に會うために、元の世界に帰ることだけをみ、あの世界にいるであろう人達を見捨てる事が出來るだろうか?

うん……無理だわ。

絶対に、後悔する。俺は、きっと、後悔して、そして、自分を責め続ける。

仕方なかったと心で言い訳しつつ、何度も思い出の中にいる人達に謝罪をしながら、殘りの時間を過ごすことになるだろう。

冗談じゃない。

そんな日々は、もう沢山だよ。

選ばず、諦めて、言い訳をしながら、下を向いて生きるのは、もう沢山だ。

どの道、後悔する事になるならば、何かを選んで後悔するさ。

手遅れかもしれない。それが、どんなに馬鹿げたことだとしても。それでも、俺は行く。俺自の為に。

「んぅ……」

そんな風に、思考の海に潛っていた俺を、彼の聲が浮かび上がらせる。

どうやら、お目覚めのようだ。

そんな彼は、緩慢な作で、俺の腰から手を放し、ノロノロと起き上がる。

そのチャンスに、俺は、さり気なく彼を足の上から下ろし、しだけ距離を取った。

寢ぼけているのだろう。周りを、ゆっくりと見回し、そして、フラフラしながらも、俺を視界に収めると、くわぁっと、あくびを一つ。

うん、の子の寢起き姿って、妙に可いらしく思える時があるよな。

妹様も、時々、こんな緩い姿を見せることがあったのを、何となく思い出しながら、彼の様子を見守る。

「あれ……お兄さん?」

「うん、おはよう」

「私……なんで……」

そう呟きながらも、徐々に記憶が蘇って來たのだろう。

目に徐々にが戻ってくると同時に、ワナワナと震え始める、揚羽。

「あああああ!? わた、し……ぬぁああああ!?」

そのび聲は、としてどうなんだと思いつつ、面白いので、目の前で悶える彼を、そのまま眺める。

一通り悶え盡くして、ニヤニヤと笑いながら見ている俺に、改めて気がついたのだろう。

一瞬、悔しそうに表を歪ませるも、すぐにそっぽを向くと、し大きな聲で、ぶように俺へと言葉をぶつけてきた。

「う、ううぅ……。い、々、余計な事しゃべっちゃったけど、わ、わかったでしょ! だからもう、お兄さん、ここにいてよ!」

その後、「わ、私だって、もう、行く所、ないし……その方が楽しそうだし……」とか、小聲で付け足す揚羽を見て、俺は苦笑するも、自分の意志をはっきりと、口にする。

「いや、俺は行くよ」

「そうよね。ここに、殘るわよね。……って、え? ちょっと待って、お兄さん、今なんて?」

「俺は行く。ごめんな、揚羽。殘ってやれなくて。」

そんな俺の言葉が、理解できないとでも言うように、首を振る揚羽。

そんな様子の彼を見て、一瞬、心が痛む。

そうだな。出來るなら殘ってやりたいとも思う。

が泣きながら語った容を思えば、同の余地は十分にあった。

だから、俺は、彼がしたことについて、これ以上、責める気にはなれなかった。

でも……それでも、俺は行く。行かねばならない。

「何で? だって、行く必要、無いよ、ね? お兄さん、もう、許してくれるって……」

「うん。俺は揚羽のことを憎めない。事もわかったから」

「じゃあ、何で? おかしいよ。何の為に、行くの? 意味ないよ?」

首を振りながら、そう弱々しく呟く彼は、そうは言いつつも、俺の決意のさが分かっているようだった。

だが、全く理解は出來ないと言った所だろう。そうだろうな。俺も同じ立場なら、そう思うかもしれない。

「家族が、仲間がいるからね。流石に見捨てられないよ」

俺のそんな言葉に、彼は何かを思い出したように、その思いつきを言葉にする。

「あ、連れてきた人達の事? だったら、私、頑張るから。」

そう言いつつも、何となく違うというのは彼も薄々づいているのだろう。

俺が首を振るのを見て、彼も首を振る。

「何で? 何でよ! もしかして、タカシの事!? あんな奴、もう良いじゃない!」

そんな彼び聲に対しても、俺は黙って首を振る。

も、理解できないと言うように、何度も首を振る。

「俺は、お世話になった人達を、獣人達を、人族の皆を、救いに行きたい。まぁ、何が出來るか分からないけどさ。」

そんな俺の言葉を、どこか達観した表を浮かべつつけ止めた彼は、それでも、すがるように口を開いた。

「そ、そっか。お兄さん、分かってないんだよね? あは、お兄さん、勘違いしているんだよ」

そんな彼の言葉に、俺は一抹の寂しさを覚えつつ、微笑んだ。

それで彼は理解したはずだ。だが、信じたくないんだろうな。首を振りつつ、俺から距離を取るように後ずさる。

「噓でしょ? わかっているんでしょ? 本當は……あの世界の人達が偽・・だって事くらい。ねぇ! お兄さん!!」

「ああ、わかっているつもりだよ。」

俺の肯定の言葉に、改めて、衝撃をけたように、後ずさる彼

ああ、認めたくなかったし、そう思いたくはなかったけど、分かっているさ。

あの世界の人族……いや、人族だけじゃない。獣人族や、恐らく、俺の生み出した新生代も、全ての生きたちが、仮・初・の・・だってことくらいさ。

思えば、最初から不思議なことだらけだった。

ルナの事もそうだが、ルカールの皆も、森の全てが、あまりにも上・手・く・行・き・過・ぎ・て・いた。

最初は、単に運が良いだけと思っていた。

與えられた幸運をしているだけだと思っていた。

だが、徐々に、元の世界との違いが明確になるにつれ、俺はある種の漠然とした不安を、心の奧に抱えるようになったのだ。

代謝や排泄、生のない世界。

魔力で代替できる生命維持。

ここまでは、そういうだと思えばよかった。

だが、魔法とその効果の都合の良さ。

更には、住人達の都合の良い解釈と好意。

そもそも、現代を生きていた俺だったら知っていたはずだ。

好意もあれば敵意もあるはず。

それは、一部、形となって現れたが、都合よく全てが俺のむように推移していった。

ここに至り、俺は疑いを持つようになった。

そして、極めつけは、桜花さんの最後の言葉だ。

駒、消費される部品、自我の欠片。

これは何を指すんだろうか? 言うまでもなく、彼ら自の事だろう。

ならば、彼らは、本來、自我はなく、消費されるだけの部品でしか無いと言う事になるではないか。

それは、果たして人、なのだろうか?

恐らくは、俺に……いや、あの世界に呼ばれた者を満足させる為の、存在でしか無かったのではないだろうか?

ゲームで言う、NPCノンプレイヤーキャラクター……つまりは、人形だ。

俺というゲームプレイヤーを満足させる為に、生み出された架空の存在。

勇者達にとっては、みものであり、狩の獲であり、罪悪を抱くこともない便利な存在。

それが、彼らの本當の姿だとするならば、綺麗に説明がついてしまう。

都合の良い好も、上手くいく事態も全てが、そうあるべくして用意されていたなら不思議はないからだ。

ただ、幾つか、疑問點も殘っている。それだけでは、説明のつかないこともある。

しかし、その事を加味しても、続く彼の言葉が、俺の推測が正しいことであると、証明した。

「ねぇ……お兄さん、あの世界に、お兄さんと同じ人は、もう、殆どいないんだよ? お兄さんの大事に思っている人達も、皆、人形なんだよ? 用意されたものなんだよ? 中がいないんだよ? ねぇ、お兄さん、おかしいよ!!」

「そうだな。自分でも、ちょっとおかしいとは思うよ。」

「何でよ!? 人形なんだよ!? 私や先輩より、元の世界の人達より、あんな、人形達の方が大事だっていうの!?」

そう泣きぶ彼に、俺は苦笑を返すことしか出來ない。

全くもってその通りだ。見方によっては、そう取られてしまっても仕方ないと思う。

「どっちも大切な人達だよ。」

「同列に並べないでよ! 中のないあんな木偶でくと、私を一緒にしないでよ!?」

的になった彼の言葉に、俺はが痛む。

そうだよな。そうびたくなる気持ちは、分かるつもりだ。

仮にだが、人がいたとして、その人に、ゲームのキャラと自分のどっちが好きかって聞いたとしよう。

その答えが、ゲームのキャラも君も同じだって言われたら……嫌な気持ちになる人だっているのではないだろうか?

けど、だけどね……俺には、どうしても、彼たちと過ごした日々が、偽とは思えないんだよな。

いや、もっと言えば、皆と過ごした日々が、俺の思いが、偽によるだったとしても、俺は構わないんだ。

じた思いに、経験したその事に、噓も本當もないんだよ。

ゲームだってそう。読書だってそう。映畫だって、ドラマだって、何でもそう。

架空だろうが何だろうが、その時に自分の中に湧き上がった想いは、俺のだろう?

嬉しかったり、悲しかったり、怒ったり……そんな事の積み重ねに、噓も本當もないじゃないか。

なら、良いじゃないか。俺はそんな想いに従って、行するさ。

だから、結局、俺はこうするしかないんだよな。

「うん、揚羽は揚羽だ。けど、俺の中では、あの世界の人達も、君も、違いは無いんだよ。」

俺はそう言いながら、徐ろに立ち上がる。

そんな俺の作を、ただ黙って見守る彼。その姿は、何かを悟ったようでもあった。

「じゃあ、俺、行くから。……今まで、ありがとうね。」

俺の言葉をただ、首を振ってけ止める彼の姿は、酷く痛々しく見える。

だから、そんな彼からの視線を振り切るように、俺は踵を返すと、歩を進めた。

「嫌だよぉ……こんなの、無いよぉ……絶対に、変だよ!!!」

そんな彼びが俺の背を叩く。しかし、それを振り切るように、俺は歩を進めた。

やがて、その聲は、小さくなり、聞こえなくなった。

それでも、俺の覚の命ずるままに、進み続ける。

揚羽もそう。元の世界の人達だってそう。

選べと言われて、俺は選んだ。

だが、俺は諦めてなんかいない。どっちも、摑む。だからこそ、今は行く。

「そうさ、俺は、張りに生きていくって決めたからな。」

むのはタダだ。だったら、し位、張りになったって、良いじゃないか。

俺がそう思った時、目の前の空間が裂け、が溢れる。

それは、まるで、俺の言葉を肯定するかのように、じられた。

「皆、今、行くからな……」

の中へと、を踴らせる。

次の瞬間、全を包む浮遊に、俺は逆らわず、を任せたのだった。

遠くから何かの音が聞こえる。

それは、徐々に、俺の耳に馴染み、度を増していった。

これは……泣き聲?

そう、泣き聲だ。しかも、この斷続的に響くような聲は、赤ん坊のだろうか?

「……ま……」

ふと、遠くから聲が聞こえた。

その聲には、何故か懐かしさが滲んでいた。

「……さ……さま」

知っている。

俺は、この聲の主を知っている。

そうだ。この聲は……。

「つ……さ、様!!」

脳裏に、ちょっとおっちょこちょいだけど、心の優しいの笑顔が浮かぶ。

の髪の間に鎮座する耳が忙しなくく。

それは、徐々に、形をしていき……。

「ツバサ様!!」

その聲で、俺の意識は完全に浮上した。

目の前には、俺の知っているの姿。

ああ、リリーだ。リリーが眼の前にいる。

俺の視界を獨占するかのように、リリーの顔が間近にあった。

その表は、涙に濡れているものの、ホッとしたような笑みを浮かべている。

何だかしやつれたか? 何故かボヤケた視界に映る彼の頬は、やや細くなった印象をける。

「ああ、ツバサ様! お分かりになりますか!? 私です! リリーです!」

何かの音が邪魔をして聞き取りにくい上に、ボヤケた視界に苛つきつつ、改めてよく見ると、彼の頬に、大きな傷跡があった。

なんて痛々しい……ああ、彼も苦労したのだろうか?

手をばし彼の頬にれようとしたが、が思うようにかない。

何とか懸命に手をばしたが、どうにも彼の頬にれたが帰ってこないのだ。

あれ? 何か遠い……と言うか、屆かない?

ふと視界の端に何かを確認し、俺は首を傾げる。

それは、小さな手のように見えた。

俺が手を握ると、それも形を変える。ぐーぱーぐーぱー。

もう、らしいとしか形容のしようがない、小さな五本指が俺の意志に合わせてく。

うん、凄く嫌な予しかしない。

俺は口を開こうとして……既に開きっぱなしになっている事を、この時に初めて認識した。

先程から雑音のような、騒音のような音が響いているが、どうやら、それは俺の口かられ出ているようだ。

「ツバサ様、お辛いですか? あ、もしかして、お腹が空いておられるとか……?」

いや、辛くはないんだけど、が思うようにかない。

そう答えたかったのだが、口が勝手にいているので、言葉を発することも出來ない。

どうやら、先程から視界が妙にぼやけると思っていたが、俺は今、盛大に泣いていると、自覚するに至る。

つまり、この狀況は……。

「ひ、貧相なですが、よ、宜しければどうぞ。ツバサ様でしたら、幾らでも……。」

俺が事態を把握する間もなく、リリーは突然、服をはだけると、上半わにした。

え!? ちょ、リリーさん!? いつからそんな大膽に!?

そうんだつもりだったが、それは聲にはならなかった。

しかも、リリーは俺を抱きかかえると、その房に俺の口をあてがおうとした。

そんな目の前に飛び込んで來た控えめな雙丘に、俺のが勝手に反応する。

ああ、何か甘い匂いが……味しそうな……って、ちょっと待てぇえ!?

そう神力で乗り切ろうと全力で抵抗しようとしたが……そんな俺の意思とは関係なく、は勝手にいてしまった。

結果、恥心と、罪悪と、多幸を同時にじながら、的に満足した俺は、強烈な眠気に引きずられ、その意識を失ったのだった。

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