《比翼の鳥》第22話 起床、そして穏やかな日々(4)

俺が人族の敵かどうか?

その問いに、俺は一瞬、考え込んでしまった。

即答できない位には、難しい問題であると俺は思ってしまったのだ。

勿論、俺からすれば、進んで人族に敵対する意思はない。

だが、俺の知人や家族達に害を及ぼすというのであれば話は別になる。

人族至上主義の筆頭である教団が権力を持つ以上、その可能は極めて高いと思えるのだ。

勿論、なるべく直接的な力は使いたくない。話し合いで解決できるようならそれが一番だ。

最後までその可能は模索し続けるだろうが……本當に殘念なことに、それでもダメな時はある。

いきなりぶん毆られて、もう片方の頬を差し出せる程、人間が出來ているわけでは無いのだ。

だから、そんな時、全人族に対して、敵意を持つわけでは無いが、降りかかる火のを払うのは躊躇ためらわないつもりだ。

それが國家規模になろうと、一組織であろうと、俺には関係ないし。

そういう意味では、もし、國家規模で俺に危害を加えようとする輩が現れたならば、俺は迎え撃つつもりだ。

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そう言った行為が客観的に見て、人族に対する敵対行為と取られてしまえば、頷くしかないのだろう。

また、今の世界の狀況を見てみない事には、判斷がつかないが……揚羽の言う事を信じるなら、俺の魔力で世界が滅びかけているという話だ。

そういう意味でも、俺は間接的にだが、人族の……ひいては世界の敵となるのかもしれない。

全くもって、ややこしい狀況ではあるが、そういった事実が脳裏を掠め、俺の首をすぐには縦に振らせてくれなかった。

だが、そんな事を考える一方で、このお姫様の聞きたい事はそういう事では無いのだろうと、思い至る。

そうして、俺を見下ろすお姫様の目を見返す。

刺さるようなその視線の本に宿る剣呑な。そう、その目は笑っていない。

一瞬後に、実は冗談でした、と言い始めるような雰囲気は微塵もじられないのだ。

つまり、それは、赤ん坊姿の俺に向けられた、彼の真剣な問いであり、それだけ、本気である事の証でもある。

困ったな。

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ここで、とりあえずは、敵意が無いことを示すのはありなのだろうが……どうも、即答するのは憚はばかられる。

この子はきっと本音でぶつかって來ている。それに不確かな答えを返すのは、禮儀に反すると思えてしまったのだ。

そうして、俺は數秒迷った挙句、結局はゆっくりと首を捻る事で意を返した。

何てことはない。今の問いには、はい、とも、いいえ、とも答えられないからだ。

不斷と思うなかれ。こういう判斷も、時に必要なんだよ!

そんな俺の行に、お姫様は一瞬目を見開くと、即座にその意味を再度問いただす。

「それは……分からない……と言う事なの?」

そんなお姫様の口から呟くようにれ出た問いに、俺は間髪れず、頷く。

それを見て、言葉を失い考え込む様子を見せるお姫様を、俺は見上げながらそっと心で溜息をついた。

うん、正直、現時點での人族が、俺にとってどういう立ち位置か、判斷できないよ。

だって、敵にもり得る人もいるだろうし、その逆に味方もいるだろうし。

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そもそも、そんな種族くくりで聞かれても困る。まぁ、森の皆は無條件で味方判定だが。

そういった意味では、イルムガンドでお世話になった人達も、味方になるだろうか?

何だか俺も良く分からない狀況のまま、ここにいるから、心配だ。

一瞬、あの都市でれ合った人々を思い返し、気持ちが沈む。

……いや、いかん。今は傷に浸っている場合ではない。きっと大丈夫だ。皆、結構、逞たくましいからな。

あの農場もきっと活用されて、皆、無事でいるはずだ。

そうであってしいと思いながら、俺はそんな不安を一端、心から振り払った。

ふと視線をじ、そちらを向くと銀狼族の親父さんと目が合う。

そうだ、この親父さんとお姫様の會話は、気になる事が多かった。

先程の會話を聞くに、リリーとは、同郷だったらしいし。

確か、ダグスさんと言ったか?

うーん、しかし、どこかでその名を聞いたはずなんだが、どうしても思い出せない。

記憶の片隅に殘っているというか、こう、小骨がに引っかかったような、なんとも言えない思いに先程から苛まれている訳で。

モヤモヤしたを心に殘しつつ、依然として開かない記憶の引き出しを開けるべく、しアプローチする角度を変えてみる。

そうだな、銀狼族と言えば、俺が知っているのは、ベイルさんだよなぁ。

そう言えば、ベイルさん元気かなぁ。今のリリーを見たら、彼はどう思うのだろうか?

リリー親衛隊をしていた彼としては、気になる所では無いだろうか?  そんな彼も、ガーディアンズの一員として、森の警備を任せられる程に長したのは記憶に新しい。

ウサ耳巨漢のゴウラさんは、まぁ規格外として、獣人の中では、かなり強くなったはずだ。

やはり、筋も関係しているのだろうかね? 金狼族のレイリさんとリリーは別として、その次位の強さはあってもおかしくないし。俺が森を出る前には、他の族長たちにも認められるくらいにはなっていたしな。

やはり、金の次と言えば、銀なのだろう。異世界テンプレ萬歳。

まてよ? そういや、銀狼族って言えば……確か、絶滅しかかっているって……。

何処で聞いたんだっけ? ああ、族長會議かな?

……族長? ん? 待てよ? 何かが引っ掛かる。銀……族長……。

……あああああ!?

思い出した!? この人、銀狼族の長老様じゃないのか!?

しかも、會議に一回も出て來なかった人!!!

驚きながらもう一度、俺を覗きこむ親父さんの顔をマジマジと見た。

うん、よく見れば似ている。特に目元が、ベイルさんにそっくりだわ。

ああ、漸く合點がいった。まぁ、森に居る筈の人が、外に居るのかは不思議だが、それも追々聞けば、判明するだろう。

そんな俺から注がれる不躾な視線を、気にする様子も無い親父さんは、何故か不敵な笑みを返してきたので、思わず反的に頷いてしまった。

「そうか、腹が減ったんだな? よし、俺の魔力をやろう」

いや、言ってないよ? そんな事。って言うか、嫌です。全力でお斷りします。はもう結構。

だが、必死に首を振る俺の様子が見えてないのか……っていうか、それ以前に、どうして、いそいそと服をぎだすのか。

やめて!? もう、いやだ!! 俺はリリーのが良いんだ!! 親父の板はいやぁああ!!

「……嫌がってるわよ?」

流石に、狂ったように首を振る俺を見兼ねたのか、お姫様が嫌そうに、口を開く。

そんな言葉に、誰も求めてないストリップを止め、お姫様と俺の顔を互に見る親父。

勿論、俺は全力で首を振る事で、意思を伝える。それが、功を奏したのか、親父は無念そうに、緩慢な作で服を著始める。

「むぅ、そうか? じゃあ、お前がやるか?」

「じょ、冗談じゃないわよ! なんで、わた、私が!!」

だが、諦めてはいなかったようで、そんな弾発言をこの場に投下するも、真っ赤になって拒否するお姫様の言葉に、即座に卻下された。

「むぅ、だがなぁ。……お嬢もまだ、この通りだしな。それに、別に減るもんじゃないだろ? 文字通り、お嬢の為にひといでくれよ」

「嫌よ! なんで、私がこれに!? そ、それに、私、まだ誰にも見せた事……って、何言わせるのよ!?」

何か変な方向に話が進んでいるも、どうやら危機は回避されたようだ。

「んだよ、ケチだなぁ」と言う親父を睨むお姫様の顔は真っ赤に染まっていたが、すぐに口を開くとソッポを向く。

「それこそ、放っておけば良いのよ。その、リリーも目を覚ますわ」

そもそも俺が魔力をしていると言うこと自が、勘違いなのだが、それを伝える手段がない。

まぁ、とりあえず、危機は過ぎ去ったようだから、まずは良しとしよう。

そう、思っていたのだが……。

「しかし、そもそも、何で俺からの魔力供與は嫌がるんだよ? リリーは良くて、俺は駄目なのは何でだ?」

何故か執著する親父さんの微妙な問いに、俺は答えようが無く首を捻る。

「そりゃ、そんなむくじゃらに顔を埋めたいなんて、思わないわよ。私だって嫌だし」

本當に心底嫌そうに、お姫様は吐き捨てる様に、そう呟いた。

その件に関しては激しく同意です。

思わず俺も、お姫様の聲に同調する様に頷く。

その様子を見て、難しい顔をしながら唸る親父さん。

気持ちは本當に嬉しいんだけどな。

だが、むさくるしい親父のを吸うのは多分無理。ごめん、俺、そこまで賢者にはなれないよ。

心で詫びつつ、俺は眉を寄せ唸る親父さんを見上げるも、急にその表が喜びのそれに代わる。

「そうか! じゃあ、が無ければ良いんだな!」

「え?」

「そうすると、上か下しかないが……上は髭ひげがあるし、そうなると……下なら、長さもあるし……おう、いけそうじゃねぇか!!」

「え? ちょっと、待って? 何を……」

何だろうか? このやり取りを聞いていて、凄く嫌な予しか沸いてこない。

そんな俺の勘を後押しするかのように、久々に俺の本能が全開で警鐘を鳴らし始める。

だが、今の俺には、この場をく事すらままならない訳で。

「よし、ちょっと待ってろよ? 今、ほっ……と」

そんな親父は、喜々としてズボンの様なその服の腰止めに當たる部分に手を掛ける。

「ちょっと、何して……」

と言うお姫様の聲も空しく、するりとズボンが落ちる。

何故か仁王立ちで誇らしげに立つその親父の表は、どこか清々ものすらじさせる。

そして、わになったそれは、俺にも良く馴染みのある、の一部な訳で……それを見た瞬間、理解が及ぶ。

ああ、そういう事。そこに行き付くって……この親父……とんでもなく、馬鹿だろう!?

ある意味、人生最大の貞の危機だったりするんだが、妙に展開が見事すぎる上に、現実離れしているので、その景をどこか客観的な目で捉えている自分がいた。

ふと魔力の高まりをじ、橫を見ると、そこには顔を真っ赤に染めたお姫様の姿があった。

手を口に當てそれでもぶこともできず、しかしながら、視線は完全にそれへと固定されている。

正に、未知との遭遇と言った所だろうか?

まぁ、なんだかんだ言っても、お姫様も年頃のの子という事か。

尤も、ファーストコンタクトがこれって言うのも、ちょっと可哀想だが。

そんな固まるお姫様を他所に、親父は爽やかな顔で、俺に聲をかける。

「ほら、ここならも無いし大丈夫だろう。さぁ」

あかん、々突っ込み所があり過ぎる。これ、もうダメだろ。んな意味で。

恐らく表を失くした赤ん坊の俺に、ある部位を近付ける親父。絵面的に最低すぎる。

元の世界なら、どうやっても言い逃れできないな。うん。

そして、この狀況の帰結する所は、もう一つしかない事も俺は知っている。

隣りで発的に膨れ上がる魔力の高まりが、それの未來を確信させる訳だ。

「き……」

そのれ出た言葉は、の決壊をしめしていた。その目には涙。流石に、この年頃のの子には刺激が強すぎたらしい。

まぁ、そりゃそうなるよな。

俺はこれから起こる事を予し、目をそっと閉じ、耳を手で塞ぐ。

「きゃあぁあああぁあああーーーーーーーーーーーーーー!?」

そっと目を閉じて尚、その瞼を貫く程の閃と、俺の耳を震わせる、轟音が、その顛末を正確に伝えたのだった。

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