音と閃が収まった後、気がつくと俺は、リリーに抱きかかえられ、部屋の隅にいた。

殆どきをじさせない、らかで素早い作だった。今の俺には、瞬間移に似た覚である。

一応、障壁展開が必要かと覚悟していたのだが、その必要はなかったようで一安心だ。

また魔力枯渇で倒れるのは嫌だからな。

と言うか、良くあの睡狀態から、瞬間的に行を起こせたものだ。

昔のリリーだったら、きっとパニックになって右往左往していただろう。

そんな失禮なことを考えていた俺と、心配そうに覗き込んで來た彼の視線がぶつかる。

「ツバサ様、お怪我はありませんか？　……全く、あの二人は……」

そう語りかけつつ、部屋を去った二人を追うリリーの表は険しいの、本気で怒っていると言うよりは、どこか悪戯っ子のしでかした事に困する母親のようなだった。

そんな顔をするようになったんだなぁと、妙に慨深い気持ちが、湧き上がってくる。

同時に、どこか寂しいような、ちょっと殘念なような、複雑な思いが混ざったのも、否定できなかった。

ずっと心の片隅にじていた事ではあるが、その思いは一端隅に置いておくと、俺はリリーらかな手に、自分の小さな手を重ね、無事を告げる。

「そうですか……良かったです」

俺の返事をリリーが正しく読み取ったのと同時に、更に音が響く。

リリーはそんなには関心がないように、俺を自分の膝へと橫たえ、そのまま嬉しそうに覗き込んでくる。

おで首をしかせば、部屋の様子が見えるようになったのだが……その慘狀を目の當たりにして、俺は固まった。

というのも、部屋は既に無殘な姿とり果て、無くなった天井からは、瞬く満點の星が、降り注ぐように俺たちを見下ろしていたのだ。

おいおい、あのお姫様、こんな狹い空間で、ここまで高威力の魔法を使ったのか。

改めて部屋だった所を見渡すと、石造りの壁が半壊し、外の様子が初めて見て取れた。

どうやら、ここは小さな離れのような場所で、この部屋だけのために、建屋がある印象だ。

なくとも俺の見える範囲は、木々に囲まれており、何とも殺風景である。

と、周りの様子を確認していた所、木々の向こうから閃と音が響く。

どう考えても木が折れ飛んだ音としか思えないが響き、地を揺らす振が、連続して起こっていた。

これは、大丈夫なのだろうか？　何だか、放って置いたら森が無くなる気がするんだが。

心配になってリリーの顔を見上げるも、何故か嬉しそうにこちらへ笑顔を返すのみ。

その表だけ見れば、何も問題は無さそうに見えるのだが、それが返って怖い。

まぁ、彼がかないなら、大したことは無いんだろう。

そう無理やり思い直し、俺は先程、お姫様が放った魔法について、考えを巡らせる。

込められた魔法から察するに、そこそこの威力はあると思っていたが、これ程とは。

しかし、発の瞬間は見ていなかったが……呪文が無かったな。

その発形態が、前に見たエルザさんの魔法とは明らかに違うだったのだ。

それに、気になる事もある。その特が、俺の知っている魔法とは、明らかに違う。

もしかすると、揚羽の言っていた新しい魔法形態だろうか？　ちょっと興味があるな。

そもそも俺の使っていた魔法が、デタラメだったのは何となく察しているが、もっと効率化できるなら、それに越したことはないし。

今度、お姫様に、その辺りの話を聞いてみたいものだ。

「よ、よ、よくも私にあんな汚いを、みせたわね！！」

いつの間にか、近くに戻ってきたようで、お姫様の聲が音同時に、響く。

そして、飛ぶようにそれを避けるベイルさんの姿が、視界の隅を辛うじて掠める。

「待てや！　落ち著け！　何をそんなに、怒ってんだ！？」

木々の奧から聲が響くが、そこにお姫様が突っ込んで行った。

數瞬後、今までと同じように、発が起こる。

「んだよ！？　俺が何をしたっつぅんだ！？」

まぁ、何をしたというか、ナニを見せたというか。

俺が心の中で突っ込みをれるも、狀況は何も変わらず、騒な鬼ごっこは継続される。

そうして、暫く言い合う聲を追うと、どうやらベイルさんは木の上に降り立ったようで、そこで仁王立ちしていた。

風で木々が揺れる。それに伴って、ナニも揺れる。

うん、なんつーか、どう見ても正しく変態です。と言うか……でかいな。

一瞬、本當にどうでも良いレベルの敗北が俺のに湧き上がり、そして、今は自分が赤ちゃんだったと自覚する。

「そんな事言えるわ……け」

途中まで威勢よく聲を上げていたお姫様だったが、聲のした方を振り返り……遠目ながら二度目のご対面を果たした。

そして、じっくり風に揺れるそれを數秒凝視した後……。

「いっやぁあああああ！！？」

先程と同じように、悲鳴が木霊し、発と閃がベイルさんのいた木を包む。

「何なんだよ！？」

「いやぁぁああ！？　もげろ！？　つぶれろぉおお！」

「何がだよ！？」

騒な會話だと思いつつ、その言葉の意味を想像し、反的にキュンとの辺りがんじゃう辺り、この年にして一応、俺も男だったらしいと実する。

しかし、なんだかなんだで、お姫様もちゃっかりと見ちゃうんだもんな。

あれだ、男がから目が離せないように、はそれから目が離せないのだろうか？

ふと、そんな疑問を抱えながらリリーを見るも、彼は先程から周りの狀況など眼中に無い様で、ずっと俺の様子を笑顔で見ていた。

うん。まぁ、どうでも良いよね。

俺は心中で溜め息を吐きつつ、リリーの笑顔を見返す。

それが、彼には嬉しかったようで、更に笑みが深くなる。音にすると、ニコニコからニンマリに変化したじだろうか？

耳とか尾とかは、相変わらず制が甘いらしく、風を起こす勢いでワッサワッサといている。

何か、相変わらずな部分もあって、ホッとするものの、俺に対する執著が半端ない事が、俺の心に引っかかっていた。

やっぱり、苦労したからなんだろうな。そうは思うも、ちょっと異常なじはする。

この子も変な風に変わってしまって、おじさん、ちょっと心配ですよ？

時間にして數分ほどだろうか？　結構長い間、言葉も無く、心配しながら、そんなリリーのご機嫌な様子を見つめていたのだが……ずっと続く音が徐々に気になり始め、俺は視線を外へと向ける。

途端に、尾のきが止まった事をじたが、俺は敢えて視線を外へと向ける。

しかし……流石に、いつまでも、あれを放っておくのは、まずいんじゃなかろうか？

先程は、とりあえず、放置で良いかと思ったが……このままだと森林破壊が凄い速度で進みそうだ。

數秒に一本ずつ倒れる木々の悲鳴を聞き続けた結果、俺は流石に考えを改め、振り手振りをえつつ、リリーに語りかけてみる事にする。

「あぅわ～～ねぇ、あれはなぅ～～止めなくてもあぶぅ～～～良いのかい？」

そんな俺の必死の呼びかけを見て、目を輝かせるリリー。

あ、駄目だこれ。全く通じてない。

「ツバサ様！！　可いぃ！！」

逆にホールドされ、頬ずりされる始末。

こら！　まて！！　落ち著け！　リリー！！

ジタバタと手足をかし、必死に抵抗しようとするが、格差が絶的なため、為すもなく頬ずりされまくる。

なんなの、この狀況……どうすれば良いんだろう？

そんな俺の嘆きを聞くものは、この場に誰もいなかったのだった。

そうして、結局、夜が明けた。

俺はあのまま、リリーに半ば絞め落とされる様な格好で、強制的に眠りにいざなわれた為、その後の顛末は知らない。

「ツバサ様、お目覚めですか？」

そんな狀況で目が覚めて、最初に飛び込んで來たのは、リリーの満面の笑みだった。

相変わらず耳と尾が風圧を生むほど、激しくいている。何か、パワーアップしてるよ。

俺は心で溜め息を吐きつつ、そんな彼に、頷いて挨拶をすると、すぐに彼の腕を軽く二度叩き、文字を書こうとして……。

「あぁぁ！　もう！　ツバサ様！！　可いぃ！！」

またも強烈に抱き締められてしまった。

ちょ、待て、もういいから！　それ、お腹一杯だから！？

頼むから、空気読もうな！？

流石に俺も眉を寄せる位には困してしまったのだが、その気持ちが本能を刺激したのだろう。

俺の意思に反応するかのように、が勝手にぐずり始める。

「はっ！？　ツバサ様、ごめんなさい。大丈夫でちゅよー、怖くないでちゅよー」

こら！　取りあえず、話を聞きなさい。あと、その赤ちゃん語は、イラッと來るからやめい。

涙目になりながらリリーを睨むと、取りあえず、俺の不快な気分は察したようで、シュンと項垂れる。主に耳が。

まぁ、今のなら、ある程度會話できるだろう。しかし、泣き落としは効果絶大だな……これから困った時は、積極的に使おう。

そう決意する俺の中で、何か大事なが失われた気がするが、きっと気のせいだ。気のせいだったら、気のせいだ。

そうして、何故かドッと疲れた俺は、再度、彼の腕を二度叩き、そこに文字を書き始めた。

どうやら、俺が何かを訴えたがっていると、漸く分かったらしく、リリーは靜かに文字を追い始める。

漸く、話を聞く形になってくれたか……。

これから、意思疎通をする上で、ある程度、決まり事を作っておきたかったのだ。

俺の意思を伝えたい時は、彼のを二度叩く。これを何度か繰り返せば、すぐに察してくれる様になるだろう。

まず、俺が聞いたのは、あの二人の事だ。

ベイルさんは、森の住人だから何となく分かる。何でこんな所にいるのかは、謎だが。

ついでに、あの自由フリーダムなじも、謎だが。ある意味最強。これは間違いない。

問題は、あのお姫様だ。いや、お姫様っぽい彼の事だ。

立場は何となく、貴族っぽいじがするが、リリーとの関係が謎すぎる。

しかも、それに加えて、彼の使っていた魔法。明らかに、不自然な発の仕方をしていた。

詠唱をしていない事もそうだが、あくまで、じた限りではあるが、どれもほぼ同一の威力、同一の範囲、同一の効果だったのだ。

魔法は人の意思を介する以上、その容にブレは出る。特に、の振れ幅が多い場合、それは如実に表れる。

ルナさんの魔法が良い例だ。あの制力が化け級の彼でさえ、怒った時のあの理不盡さと言ったらもう……。

一瞬、震いし、そして、ちょっとした寂しさがを埋めるが、俺はそれを振り払った。

怒りや悲しみなど、激しい負のは、魔法の威力を底上げする。

だから、お姫様がああもを揺らしている狀況であれば、魔法の威力は、その都度、変化する筈なのだ。

しかし、彼の魔法にその様子を見て取れなかった。

となると、彼の魔法は、俺の知る形では発していない事になる。

うーむ、実に興味深い。

特に今の俺の狀態を考えると、その辺りの報は是非とも手にれておきたいだ。

そんな思を抱きつつ、俺はリリーに、問いかけた。

俺の問いを理解し、暫し瞑目する彼の様子は、何かを心の底からかき集める様な、どこか遠くへと旅立った様な、哀愁を伴った雰囲気を纏まとっていた。

「そうですね……ツバサ様は、眠っておられたんですものね。そう、あれは……」

そう言って語り始めた彼の語は、長く壯絶なだったのだ。