《比翼の鳥》第32話 マチェット王國(1)
「噓でしょ? 貴達そんな事までしていたの!?」
「ええ、毎晩、皆でツバサ様を抱いて寢ておりましたよ?」
子同士で気楽な話となれば、やはりそういう話になるのだろう。
先程から、俺はそんな會話を背中で聞きながら、心で盛大に汗をかきつつ、それでも表面上は何食わぬ顔で、魔法の修練に明け暮れていた。
いや、違う。正確に言えば、聞きたくなかったのだが、ここを離れる事をリリーが良しとせず、結果的にそうならざるを得なかったのだ。
「でも、誰も、その、手を出されなかったんでしょ?」
「ええ、ツバサ様は紳士ですから!」
「紳士……ねぇ?」
先程から、そう言ったデリケートな話題になる度に、俺に向かって粘度の高い視線が、お姫様より飛んで來ていた。
俺は紳士ですよ? 本當ですよ?
俺は、心汗をかきながらも、お姫様をそっと見つめる。
そんな俺の揺が伝わってしまったのか、彼はその口元を食獣の如く吊り上げると、口を開く。
「もしかして、単に、男が好きなんじゃないの?」
んな訳あるか!?
心で絶しつつ、俺は反論をしようとしたが、絶したような表を浮かべるリリーが先に口を開いてしまった。
「そ、そうなんですか!? ツバサ様!? そう言えば、カスードさんとよく……」
待て待て待て!? そんな訳ないでしょう!? そもそも、俺が男のがあるなら、君らとハグするだけで、あんなに揺しませんて。
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まぁ、に慣れていないのは、憾ながら認めるが!
そんな事を思いながらリリーに首を振って意図を伝えると、彼はホッとをで下ろす。
「もう! リズ! そんな事無いってツバサ様も仰っているじゃないですか!!」
「あなた……本當に、そいつの事に関しては、何も疑わないのね……」
リリーのそんなブレ無い行を見て、呆れた様に溜息を吐くお姫様。
「ツバサ様ですから!」と、何故か得意気に無いを張る彼の耳が、ぴくぴくと誇らしげにく。
何だろうか。彼から無條件の信頼をけているはずなのに、素直に喜べない俺が居た。
「はぁ……。あんたも、大変なのね」
何故か、お姫様にまで憐みの目を向けられ、俺は首を竦めてそれに応える。
そんな俺の様子を見て、お姫様はフッと表をらかくすると、口を開いた。
「で、あなた……不能なの?」
「えええええぇ!? ツバサ様!? そうなんですか!?」
そうして、騒がしい夜は、まだまだ続きそうだったのだ。
結局、あれから、俺が逆にお姫様に問い返す事で、形勢を逆転させ、彼をやり込めた。
まぁ、あれだ。男の間に興味津々だった事を、ちょっと指摘してやったのだ。
彼の恥する姿は中々に壯絶だったが、これに懲りた様で、その後は、的な話から離れて、彼たちの昔話に耳を傾ける時間が続いた。
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俺はそんな彼たちに背を向け、窓の外から魔力を充填しつつ、魔法の修練と研究を兼ねて、ある事に挑戦していたりする。
全く……不能とか失禮な。俺が、どれだけの忍耐力を使って彼たちのに耐えたと思っているのだ。
……まぁ、正直に言えば、興味は存分に有った。あったが、俺の心はそう簡単に決まらなかった。
うん、ヘタレなだけだな。
だが、それが、例え許されていた事だとしても……そして、全てが紛・い・・だったとしても、俺はやはり手を出すべきでなかったし、そうできなかったのだ。
そんな俺の空しい言い訳は、心の中で止め置かれ、今はリリーが過去語りを始めるに至っていた。
頼むから、宇迦之さんとのバトルをそんな神格化しないでくれ。って言うか、傍から聞くと、ほら話にしか聞こえないから質が悪い。
天を割ったとか、龍を一撃で吹き飛ばしたとか、他人の口から客観的に聞くと笑い話にしかならないな。
きっと、お姫様もそう思っているのだろうと、様子を伺ってみたのだが……どうやら、お姫様もリリーの話に集中できていない様子で、しきりに俺の背中に視線が刺さるのを気配でじていた。
さっきの話がそんなに気になるのだろうか?
どうも、男の間の話は、俺が思う以上に、彼に変な影響を與えてしまったようだ。
それとも、お姫様も何だかんだで、そういう話には興味津々のお年頃という事だろうか?
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まぁ、思春期特有の、逃れがたい求のようなもあるだろうし、そう言う事にしておこう。
そんな思考が影響したのか、ふと脳裏に、ある子生徒とのやり取りが思い浮かんだ。
それは、懐かしさすら覚える、元の世界の塾であった、何気ない日常の一コマだ。
「ねぇ、サト先……ここだけの話なんだけどさ、男の人って、どうなってるの?」
視線はノートに向きつつも、周りに聞こえない様に小聲でそんな事をほざく、思春期真っ盛りの腐子様。
よく見るとその橫顔は作った様な真面目な顔の癖に、頬が妙に赤らんでいる。
恥ずかしいなら、そんな質問やめて置けばいいのに……そう思うも、興味があるのも事実なのだろう。
これがライトノベルの語なら、エロ展開來た!!とか、べるのだが、現実はそう甘くはない。
現実世界では、対処見事に誤れば、速攻で事案なのである。
なので、基本、こういう事は、當たり障りも無い話で濁して逃げると言うのがセオリーではある。
あるのだが……そう簡単な話では無いのもまた事実なのだ。
「どう……とは?」
流してしまうのも手なのだが、こういう事って、親にも聞きにくいのが、今の世の中である。
まぁ、子同士で、參考資料でも覗き合って知識を共有していくのが、一般的なのだろうが……。
こいつ、特殊な友人しかいないからなぁ……。
思わず憐みの目を向けてしまう俺に対し、そんな心を察する余裕もない彼は、別の意味で解釈したようだ。
「もう、分かってるでしょ。あれよ……っていうか、それ」
筆記用を俺の間にダイレクト向け、そんな風に勢いよく捲し立てる彼は、やはり恥ずかしいらしく、すぐに勉強をしているフリに戻る。しかし、視線はチラチラと俺へとせわしなく向けられていた。
勿論、そんな狀況で、彼の勉強が進む訳が無い。
って言うか、人の間をペンで指すな。何か、俺まで何故か居たたまれない気分になるだろうに。
俺は心で絶しつつも、咳払いを一つすると、しめの聲を、彼へと向けた。
「勉強には関係ない話だから、答える義務はないな」
これが一番簡単で、かつ、一般的な対応だ。
本當に、勉強とは関係の無い事なので、場合によっては、浮ついていると叱ってしまう先生すらいる。
この辺りは、先生の格による部分もあるのだが、基本は変わらない。
問題を発しそうな話題には極力取り合わない。私語は排除し、勉強を徹底させる。
これは、どの塾でもやっている基本的な方針だと思う。
それはそうだ。塾は勉強をしに來る場所。
勉強に必要のない事は、即ち時間の無駄である。そういう考えがあり、それが正しい面があるのも事実だろう。
……だが、反面、俺はそういうやり方は、あまり得意では無かった。
頭では、合理的に対処すれば、楽にそしてある一定の果を得る事は出來ると、理解はしているのだ。
だが、目の前で、黒いオーラを出しそうな程目に見えて落膽する彼の姿を見て、俺はそれだけが全てでは無いとも、短い講師生活で學んでいた。
俺も甘いなと思う。敢えて面倒な選択をしてしまうのだから。
「だけど、その向上心は評価できるよ。ま、聞きにくい事だろうしな。……そうだな。授業終わりであれば、常識の範囲であれば質問はけ付けよう。勿論、頑張っている生徒に対してのみ、だけどね」
俺はそんな言葉を、意地悪な笑みと共に、肩を落とす彼へと投げかける。
一瞬、意味が理解できなかったのだろう。俺を不思議そうに見つめた後、その言葉の意図に気が付き、嬉しそうに頷く。
つまり、授業態度が良ければ、多は教えてやるって事だ。
まぁ、限度はあるので、その辺りは、俺のさじ加減にかかっている訳だが。
「サト先、話がわかるぅ!」
「おや? 俺はあくまで、頑張っている生徒にしか、教えないよ? ……あれぇ? 橋本さぁん? まだ既定のページまで終わってない様ですけどぉ~?」
彼のノートを覗きこみ、素敵な笑顔でそう厭味ったらしく言うと、彼は途端に顔をしかめ、口を開く。
「そんなのこれからやれば良いでしょ!? サト先、約束破ったら酷いんだからね!」
そんな彼は、俺が返事をする間もなく、目の前のテキストへと噛り付くように取り組み始める。
うん、彼もやれば出來るんだよな。
ちょっとスイッチが面倒臭い所にあるだけで、集中力は、俺の知っている生徒の中でも群を抜いて高い。
はぁ、これで、授業終わりの猥談わいだん……じゃなかった。教育は、確定かな。
はてさて、どの程度まで聞かれるのだろうか?
俺はチラリと後ろを振り返り、教室長席に座る相澤先生を橫目で確認した。相変わらず、書類とデーターのにらめっこが続いているようだ。
流石に、相澤先生だけでなく、周りの生徒にも聞かれると、面倒臭い事になりそうな話だからな。
あくまで授業後の補習を裝って、話を進めんとなぁ。
そして、そんな心配をした俺だったが……結果的に、男のとある説明で、彼が大聲でとある言葉んだ事により、あえなく発覚してしまった。
幸い生徒は殘っていなかったので、事なきを得たが、俺は笑顔の相澤先生に、大目玉を食らう結果となったのだった。
懐かしいとすらじる記憶を呼び覚まし、俺はそっと苦笑する。
そうだった。元の世界の環境では、に対する目が厳しい。
それはある意味、徳ですらあるとは思うが、一方で、正しい知識の継承を妨げているのも事実だろう。
俺ぐらいの歳まで生きれば、々な所から、ある程度の知識は集まって來る。
誰だ、アダルト畫サイトとか思った人は。……否定はしないが、それだけじゃないだろ?
あれこそ、ある意味で諸悪の源だろうに。
しかし、この報化社會において、間違ったも、危ういも同様に混じって屆くのが、今の現実だ。
場合によっては、人生すら左右するような報を、何も知らない個人の判斷にのみ委ねるのは危うくないだろうか?
の正しい知識を確認できる環境が無い。
俺の知る世界は、そういう歪な部分も確かにあったのだ。
いや、より正確に言えば、歪んだ報が真っ先に屆くような環境であったと言うべきだろう。
と悅楽を満たす方向に特化して発展してしまったその文化は、果たして本當に俺達を幸せにしていたのかと考えた時、俺は漠然とした不安を抱いてしまう。
特にその知識が最も必要とされる思春期において、その狀況は致命的ですらあると思うのは、俺の考えすぎなのだろうか?
もし、仮に俺の危懼が現実のだったのなら、せめて俺の知っている事ぐらいは、教えてやりたいとは思う。
変な意味ではなく、純粋な知識として……それを必要な人に與えるのは、ひいてはその後に起こるかもしれない、間違いを未然に防ぐ事に繋がると信じる。
特には々と大変だからなぁ。
何気なくそこまで考えて、ふと、疑問が湧き上がった。
あれ? この世界の生は、霊樹を介して行われるわけだよな?
ならば、俺の知っている行為は、その意味合いが大きく変わる訳だ。
本來の意味を一部、削ぎ落とされたその行為に、一どれだけの価値と意味があるのだろうか? 
リリーとお姫様の語りを聞きながら、俺は、そんな事を漠然と考えるのだった。
結局、朝まで続いた子の語りは、お姫様が眠気に勝てず寢ってしまった事で、漸く終わりを迎えた。
そして、結局、的な打開策は、語り合われないまま、終わってしまったのだった。
完全に寢落ちしたお姫様を護衛の皆様にお渡ししたら、そのままお姫様を連れ、靜かに撤収された。
考えてみたら、一晩中、お姫様の帰りを待っていたのだろうか?
そう考えると、し悪い事をしたなと思う。
そして、次に目を覚ましたお姫様が、また癇癪を起すかもしれないと思うと、同すらしてしまうわ。
結果的には、何も解決していないからなぁ。次、來る時はどの辺りを落としどころに出來るか、前もって俺がリリーと話し合っておいた方が良いかもしれん。
せめて次の來訪は靜かなになる事を願いながら、俺はそそくさと去って行く護衛集団をリリーの背中から見送ったのだった。
ちなみに、結果的に徹夜した俺とリリーだったが、今日も別段、いつもと変わらず快調であった。
やはり魔力をに漲らせると、その辺りの求からは解放されるようである。
お腹も減らず、眠くもならない。魔力萬歳である。
そして、なんだかんだで夜通し魔力を使って々と試行錯誤していた俺にも、ある一つの果が齎もたらされていた。
まず、現狀の確認であるが、【サーチ】と【アナライズ】を併用して魔力のきを逐一、観測していたからこそ気付いたのだが……この魔力はどうやら枯渇する様であるのだ。
正確には、俺の魔力を周りから集める速度と、周りから流して來る魔力の量と速度に違いがあるらしい。
一晩中、魔力を集め、使い続けた結果、それが分かった。
だから、今、この場所一帯は一時的に、俺の魔力濃度が極端に薄い狀態になっている。
【サーチ】で今も魔力のきを監視しているが、その流速度は遅く、元に戻るには數日を要するだろうと推測された。
うーむ、無盡蔵に魔法を使い続ける事は厳しいと言うのが分かったのは行幸だな。
そして、もう一つ。これは大きな希をもたらしていた。
それは、俺が魔力をかき集めまくれば、影と呼ばれている魔を減らす事が出來るかもしれないという事だ。
奴らは、恐らくではあるが、野生の霊樹から生まれていると推測される。
そして、その現象には、俺の魔力が影響している可能が極めて高い。
ならば、その一帯にある俺の魔力を失くしてしまえば、影は生まれないのではないか? と言うのが、俺の見立てである。
今は無理だが、ゆくゆくは、ファミリアを作し、魔力をかき集めまくれば、かなり効率的に対処できるようになるのではないかと思っている。
まぁ、その為には、まず、ファミリアを作る所から始めないといけないのだが……。
それでも、一筋の希が見えて來たのは、僥倖であろう。
だが、事態はそんな俺をあざ笑うかのように、急激に進行するのであった。
【書籍化&コミカライズ】勇者パーティーを追放された俺だが、俺から巣立ってくれたようで嬉しい。……なので大聖女、お前に追って來られては困るのだが?
【コミック第2巻、ノベル第5巻が2022/9/7同日に発売されます! コミックはくりもとぴんこ先生にガンガンONLINEで連載頂いてます! 小説のイラストは柴乃櫂人先生にご擔當頂いております! 小説・コミックともども宜しくー(o*。_。)oペコッ】 【無料試し読みだけでもどうぞ~】/ アリアケ・ミハマは全スキルが使用できるが、逆にそのことで勇者パーティーから『ユニーク・スキル非所持の無能』と侮蔑され、ついに追放されてしまう。 仕方なく田舎暮らしでもしようとするアリアケだったが、実は彼の≪全スキルが使用できるということ自體がユニーク・スキル≫であり、神により選ばれた≪真の賢者≫である証であった。 そうとは知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで楽勝だった低階層ダンジョンすら攻略できなくなり、王國で徐々に居場所を失い破滅して行く。 一方のアリアケは街をモンスターから救ったり、死にかけのドラゴンを助けて惚れられてしまったりと、いつの間にか種族を問わず人々から≪英雄≫と言われる存在になっていく。 これは目立ちたくない、英雄になどなりたくない男が、殘念ながら追いかけて來た大聖女や、拾ったドラゴン娘たちとスローライフ・ハーレム・無雙をしながら、なんだかんだで英雄になってしまう物語。 ※勇者パーティーが沒落していくのはだいたい第12話あたりからです。 ※カクヨム様でも連載しております。
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