《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》8話 1-1 それから3年後……

勇者が魔王を倒して、早三年。

聖教會立世界開放制學園も無事軌道にのり、勇者の盡力のお蔭か、目立った國際問題も特に発生せず、世界は安定そのもの────とはならないのが、世の理ことわりか。

3回程“魔王の卵”が現れたり、竜山のドラゴンが二匹爭い始めて、街に被害が出たり……何だかんだで勇者パーティは何度も集まり、その腕をった。

そして今回も、その一つだった。

「カツエも〜ん! また悪い奴等が暴れてるよ〜」

いや、違った。

「ごほん、勇者カツヒト、そしてその仲間達よ。幾度となく申し訳ないが、また依頼を頼みたい」

そうそう、確かこんなじだった筈である。

「依頼の容は、喰鬼グールを大量に侍はべらせている吸鬼の(真祖)を討伐する事です」

容を再確認するのは、我らが頼れる聖様。しかし勇者パーティの中で一番若い十九歳だ。

「にしても、(真祖)かぁ…………何か聴くからにヤバそうな雰囲気だなぁ」

「何でぇ、怖気付いたかボウズ?」

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相変わらず、この世には恐るなど何もないとばかりにガハハと笑うグラン。

実際の所は、娘のティルナと奧さんには頭が上がらない様だが……

「いや、別にビビってる訳じゃないけど…………」

「はいはい、下らない話はその位にして。ミランナ、ターゲットが居るのはどこなの?」

そう聴くのはクールビューティなエルフ サラ。ちょっと毒舌だったりするが、甘いに目がなかったり、意外と可い一面も持っている。

「彼等の本拠地のおおよその場所は、北の方…………以前行ったトゥーシーバ王國の近くですね」

「トゥーシーバ王國か…………確か前行った時は丁度真冬で、危うく凍死仕掛けたんだよなー……」

思い出したくもない、寒い思い出だ。

「まぁ、今の時期なら涼しい程度でしょう」

「ま、夏だしな」

ちなみに寡黙なドラグリアは、ずっと串焼きをほうばっていた。

と言う訳で、勇者一行は転移魔法でトゥーシーバ王國の近くまでやって來た。

コバルトブルーの空、立ち並ぶ針葉樹、気溫は聖都とそこまで変わらないが、明らかに度が低く、勝人は母の実家のある北海道を思い出していた…………。

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「よし、到著っと。そんじゃ、早速行きますか」

「いえ、先に國王に挨拶を……」

「んな面倒なことは、後で良いじゃん。ほら、行こうぜ〜」

「あっ、ちょっと!?」

「おい! ミランナ様を無下に扱うな!」

召喚されてから三年も経つが、神面で長が見られない勝人に、一同は呆れる。

また、最初は勝人に対し、つんけんな態度だったギリアヌスも、いつの間にやら心を許す様になっていた。

そして大1時間後、勝人達は唖然としてソレ ・ ・ を見上げていた。

眼前…………いや、眼上に聳そびえ立つそれは、先程まで話題にしていた(真祖)の住処なのだが……………

「……フム、何だか似ているな?」

「あぁ」

最初に口を開いたのは、竜人族のドラグリア。

「これは……かなり似てるわね」

「やっぱり、皆さんもそう思いますか……」

「…………」

サラとミランナ、あとその後ろで黙っているギリアヌスも似た様な事を考えているらしい。──一人、何がだ? とか言ってる大きなドワーフがいるが、それは無視。

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「あまりにも似すぎてる。…………魔王グラトニウスの城に」

──四方に建つ守護者の塔、10mもある高い城壁、獨特な流線をかたどる門のアーチ。

見覚えのあるソレ等は、かつて激しい戦いを繰り広げ、最期には勝人が全て焼き払った魔王城と、雰囲気や造りがそっくりなのだ──いや。

「けど、あの城より豪華じゃない?」

「…………そうですね。見た目だけでなく、魔力回路もしっかり組まれていて、魔王城と比べてかなり丈夫そうです」

「……」

さっきまでの、おちゃらけたムードが噓の様にシンと靜まり返っている。

否応なしにじる、じてしまう重い空気。

誰かがゴクリとを鳴らした。

「みんな、まさかとは思うが…………もしかしたら、かなりヤバイ奴が出て來るかもしない。念には念をいれて、油斷しないように」

「ふん、言われるまでもない。私はミランナ様のに危険が及ばぬ様、24時間一時も気を抜かず、常に警戒しているからな」

「そ、そうですか……」

気を取り直し、勝人達は慎重に城に乗り込むのであった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

──暗い部屋の中。1人の男がワイングラスを傾けていた。

鋭く尖った耳。この世界では大変珍しい、數ない黒髪は整えられ、切れ長の瞳は金る。は死人の様に青白い。

…………この男が、勝人達の言う(真祖)であった。

そこに、別の男が音も無く現れた。

「主様、兎が7匹忍び込んだ様です。いかがなさいましょう?」

「────この城に客人とは、隨分珍しい」

「…………私が調理致しましょうか?」

「いや──興が乗った。吾輩自ら持てそうではないか。それに────」

「それに……?」

主はそこで言葉を止め、々芝居がかった作で続けた。

「バラメスお前には────々手に余る兎の様だ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

勝人達6人は、小さな窓が點々と並んだ薄暗い通路を歩いていた。

「なんか…………アソコと違って、隨分と豪華な裝飾がしてあるな」

「そうですね…………最近教會で話題になっている“ゴシック様式”と言うものでしょうか」

「最近話題になってる……って割には、結構古いじがするがな……」

喋っているのは、し余裕が無くなってきて、気を紛らわす為に口を開く勝人とミランナ、あと呑気なグランの3人。ちなみにドラグリアは先行して居なく、ギリアヌスとサラは頭のキレる委員長系よろしく、辺りに警戒しながら押し黙っている。

──と、そこで勝人は異変をじた。

「おい、サラ…………」

「……………………」

「おーい、サラさーん?」

「……………………」

(あ、これかなりビビってますね)

……冷靜に、靜かに周囲を警戒していると思いきや。

よくよく注意して見てみると腳が子鹿の様に震え、うつむく顔の目には、雫が溜まっている。

(これで八十四歳だもんなー、あ でもエルフ族は神年齢と見た目年齢が一致していて、そんで種族によって壽命が違うんだから……言っちゃえば二十代前半か。

つまり、普段クールだけど幽霊とか見たら涙目足プルのお姉さん(八十四)かぁ、需要ありそうだなー)

「…………カツヒト」

「……………………ハイ」

この後どうなったかは、言うまでもない。

しばらく歩き続け、戻って來たドラグリアの報告により改めてこの城の異様さに改めて気が付く。

「…………こんなにも闇の魔力が充満しているのに、一向に魔が出て來る気配がありません」

「これは…………われているのか、気付かれてないのか」

「きっと前者でしょうね……」

だよなぁ…………と、勝人は苦々しく表を歪める。

の構造が魔王城と似ている為、ものの二十分程度で王の間がある階にたどり著く。

ここまで來ると流石に誰も口を開かず、それぞれの武をすぐにでも抜ける様構えている。

────1つ1つの角を曲がる度、まるで粘度の高い水の中を進む様な覚が強くなる。つまり、それ程までに濃い魔力がが溜まっているのだ。

もしかしたら勝人と同じくらい……下手をしたらしばかり上か────いやいや、と頭を振る。

(ここでネガティブになっていてもしょうがない)

そして、覚的に、數回角を曲がれば王の間に著くと考えながら、角を曲がろうと足を踏み出した、その時。

─────ゾワゾワッ!

第六知した危険信號、とっさにを屈める。と、一瞬後に頭上を通り過ぎるナニか。

すぐさま戦闘制を取ろうとするが、パチパチと拍手が響き、訝しむ。

「いやいや、これは素晴らしい。今の攻撃を躱すとは…………実に面白いですねぇ」

「お前…………何者だ?」

すると白髪にヒゲに片眼鏡モノクルに燕尾服と言う、いかにも執事然とした長の男が、やうやうしく頭を下げながら言った。

「自己紹介が遅れました。私わたくし、この城の主様の執事をしております、バラメスと申します」

「…………勇者カツヒトだ。先に聞くけど、アンタは ・ ・ ・ ・ 俺達と闘うつもりがあるのか?」

「まさか。大切な主様の客人ですから、私は手を出しませんよ」

どうぞコチラへ、と歩き出すバラメス。

「ちょ、カツヒト……あいつ背中向けてるけど、攻撃しなくて良いの? ────カツヒト?」

若干卑怯エルフ サラが何か言っているが、それどころではない。

勝人達の前を余裕綽々よゆうしゃくしゅくと、油斷十分と歩く執事。たぶん1対7で全力でかかれば、し苦労する程度で倒せる相手だ。が…………あくまで、今の形態での話だ。

ある程度強力な魔ならば、知を持ち、人語を話し、第二、三形態を持つのはザラである。

それは、巨大で燃費の非常に悪い、また思考力の低下を防ぐため、自ら封印をかけるのだ。

現に識別を使えば

『バラメス 男 642歳 吸

MP 2810/2810 形態:1/2

処零城の執事。

その他の報:???』

(ほら、もうヤバイじゃん! てか殘りの報どこ行ったのさ……)

全部の報が出なかったのは魔王の時と、これで2度目だ。

そして何より恐れている事は…………ここまで強い力を持つ吸鬼を従える(真祖)だ。

その曲がり角から王の間までの距離は、およそ三十歩分。

心なしか歩みも遅くなり、永遠の様にもじる。

そんな中、しも気取った様子のない作で、バラメスが扉を叩いた。

「主様、お連れしました」

れたまえ、と中から返事が聞こえる。バラメスは音を立てず開けると、勝人達に中にる様に促した。

「アンタはんねぇのかよ………」

「執事と言うのは、主人の食事 ・ ・ 中には呼ばれるのを外で待つものですよ」

「あぁ、そうかい……」

あくまでも勝人達は食材である。そう言外に告げていた。

萬が一、後ろから攻撃されないか警戒しつつ、全員がだだっ広い室ると、では……と言い殘し扉が閉ざされた。

そこで全員の注意は後ろから前……………この城の主に向けられた。

「────こんな辺鄙へんぴな所まで、よく來たな………どうかな、晩餐に付き合って貰えんか?」

「悪いが、お前の食事に付き合ってる暇はない。

こっちからの要求は2つ。暴れ回ってる喰鬼グールを大人しくさせる事。もう一つは人間に害を及ばさない事。

この條件が呑めないなら、俺達が……お前を討伐する!」

すると、金る目が細められた。

「クックっクック…………隨分と勇ましい客人だ」

「…………」

「分かっていると思うが答えは、NOだ」

ス───と、自分の殺気が鋭くなって行くのをじる。

「なら、しょうがない。………………みんな」

後ろの6人が武を構える気配をじつつ、眼前の敵を睨みつけ、識別を使う。

『名前:??? 別:??? 年齢:??? 種族:???

MP:???/??? 形態:?/?

 処零城の主。

その他の報:???』

(──────は? ナニコレ)

魔王のそれよりもハテナの數が何カ所も多い。

分かると思うが、自分よりも格が高い相手ほど、それだけハテナの數は多くなる。

しかも、実質1つも新しい報が無い。

(これは、ひょっとしたら、ひょっとするかも知れないぞ……?)

勝人は流れる冷や汗を無視し、剣を握る手にギュッと力を込めた。

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