《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》10話 1-3 羽化 ※挿絵あり

──薄暗い部屋の中には、二人の男が居た。

如何にも高級品な椅子に座り、眼前のモノをおしげに眺める男は、漆黒の髪に鋭い金眼、青白いの──そう、(真祖)だ。

時偶ときたま、真新しい額の傷をなぞる左手の小指は、そうとう昔に失った様で、なだらかな皮が張っていた。

そしてもう一人、扉の傍らに立つ男は白髪に髭、片眼鏡モノクルに燕尾服の、紛うことなき執事。名はバラメス。

その二人の前にボゥっと、繭がある。全長一メートル位ある繭の前で、二人はただただ、それを見守って居るのだった。

「…………主様、なぜ、この者にしたのですか?」

否、珍しい事に執事であるバラメスから會話が始まった。

「ふむ……そうだな、何であろうか──力、魔力、才能、魂……それらをまとめて、か」

「確かに実力はこの世界でも有數のものでしょうが……」

「納得がいかない様だなバラメス、しかし──殘念な事に実際選んだ吾輩でさえ、説明する言葉をもたないのだよ」

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「つまりそれは…………勘と言うものですか?」

「うむ、その通りだが──気に食わないかね?」

「まさか、主様がお決めになった事ですから。それに……神の勘、外れる筈がありません」

「ふむ、そうだな」

ぼんやりと蒼白いを発す繭は──トクン──トクンと、一定のリズムで鼓を刻んでいる。

「主様、もう一つだけよろしいですか?」

「なんだね?バラメス」

「──なぜ、あの者達をそのまま帰したのですか?」

しだけ、空気が張り詰める。

「何故か…………そんなの決まっておろう。気まぐれだ」

「……………………そうですか」

フッと張が緩み、再度二人は繭へと視線をやった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

───先程から繭と呼んでいるモノ、一メートルもある繭の中に居るのは巨大な昆蟲…………等ではもちろんない。

───トクンっと鼓し淡いらす度、中のモノのシルエットが見えるのだが、言うなれば───人型。

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線が細く、全的に小さい付き……子供だろう。

しかし、ただの人の子が繭にっている筈も無く、であるならば、一何の子か………………。

答えは簡単。この(真祖)の子供である。

以前にも述べた様に、長壽族(エルフや竜、吸鬼など)は、見た目年齢と神年齢が一致している事が多い。

…………そもそも神年齢とは、周囲の環境,ホルモン量の増減,及び脳の長・老化によってし、衰退して行くものなのだ。

長壽族の多くは、これらの、ホルモンとの変化が限りなく遅いため、その分神の変化もゆっくりとなるのだ。

………………さて、つまる所は、長壽族は長い年月をかけて自らの子を育てなければならず、正直に、はっきり言うと、大変面倒臭い。

さらにこの(真祖)はい(飲み子)をじっくり世話し、教育していく気はちゃんちゃら無く、ある程度…………八歳くらいで、の世話などが楽な年齢から育てたいのだ。

────とは言え、たとえ真祖であっても、……どんな金持ちや天才でも、自分の子を何年もかけて育てるのと同じ様に、何十年もかけて子育てしないといけない事には、変わりない。

なぜなら真祖とは、ただの一族の始まりでしか無いからだ。

…………が、ここで1つ大きな誤解がある。

ここまでを『文章』で読んで來た者なら、すでに分かっているだろうが……彼の者が(真祖)であると言うのは、勝人達の盛大な思い込みなのであって、実際は吸鬼にとっての究極種(神祖)なのである。

真祖は子孫を生み出すが、創り出す事は出來ない。

しかし神祖は、粘土をねる様に吸鬼を創り出す。

しかしそれらは神の子ではなく、ただの玩弄がんろうぶつないし、自分の手下・部下の様なものである。

事実、この世間に蔓延る吸鬼は全て、彼が両手でね、喰鬼グールに至っては片手間で創った存在なのだ。

そして今回、この吸鬼の(神祖)は、初めて自らの子をなそうとしているのだ。

しかし神の子と言っても蛙カエルとは違い、神ではない。

神と言うのは唯一無二の存在であり、神を産み出す事はない。

────あくまでこの世界の神に限るが……。

…………さて、神が生を創る時、彼等は所詮天國だとか黃泉の國とかと呼ばれる所から適當に魂を拝借し、造ったいれものにれている。

だが、魂と言うは重要で、それだけでその者の生涯を決定する程には、大きな意味をなす。

して人の子でない神祖も、自分の子供にはそれなりの魂を使いたいと思う様で、この神祖は、その存在が生まれてから今の今まで、1度も子を産んだ事がなかったのだ。

では、栄にも神に認められた魂とは、そう──勇者カツヒトのモノだったのだ。

勝人の魂が選ばれた理由は、神ですらハッキリと分かっていないのである。

偶然か、必然か…………。

────では、話を戻そう。

この繭の中では、およそ一ヶ月の時間をかけてを8歳くらいまで(とは言っても、普通なら何十年もかかるのである)長させている。

それと同時にこの世界の常識(※あくまで神祖目線)や、言語等もインプットさせて行っている。

まさしく神だからこそ出來る事、チートである。

初の実子の誕生を待ちわびつつ、神はじっと見守る。

──時は靜かに流れて行った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

────暖かい、まどろみの中、ゆらゆら、ふわふわ、漂う。

狹くて、暗くて、明るくて…………心地よく、漂う。

────トクン────トクン

気付いた時から聞こえる、おと──

トクン──トクン────

ゆっくりと過ぎて行く、ゆったりとした時間。

何者にも、何事にも侵される事のない、聖域。

………………だけど、分かってる。この安らかな時は永遠に続くものではなく、さらには今にも終わってしまいそうな程、儚い一時ひとときなのだ。まるで夢の様に──。

──────トクン

そう、心地良いこの音がなる度、しずつ……本當にしずつ、意識が浮上して行くのをじる。

トクン────

あぁ、終わってしまう、開かれてしまう、じてしまう

──────────ドクンッ

……とうとう、この時がやって來てしまった様だ。

ピキピキ──────パキッ

そんな音が、夢の終わりを痛切に訴えてかけて來る。

悲しい夢を視てしまった様に、靜かに涙を流す。

──────パキパキッ パキンッ

勇者カツヒトがこの世を去り一ヶ月。吸鬼の(真祖)が誕生した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「おおぉ、産まれた! 産まれたぞバラメスよ!!」

「えぇ、そのようですね、主様」

「素晴らしい…………白金か白銀か、見事なまでにしく艶やかな髪だ。そして綺麗な瞳──よりも紅く、ルビーより耀いている」

…………子が産まれて早々親バカっぷりを見せる(神祖)に、執事は々呆れる────が、勿論そんな事は噯気おくびにも出さず注意、もとい促す。

「主様、まずは〈命名〉を」

「おぉ、そうであったな。────ごほん、我が娘むすめよ、汝の真名を定める。汝には──ロザーリアの名を、我が祝福と加護と共に授けよう」

威厳たっぷりに名付ける神。

「ろざー、りあ?」

「うおおおお、まるで神の唄聲の如し可憐な聲だ!!」

────が、僅か10秒で威厳が崩壊する神祖。

しかしそんな事より────。

「それにしても…………児ですか」

「うむ、そうだ」

でペタンと床に座り込み、ボーっと真祖を見上げる

(───あぁ、なんと可らしい事か)

ここだけの話、産まれてくる子供が男かか、神であっても決める事が出來ない。

が、決める事は出來ないものの、頑張る事は出來る。

しかしその魂が強いモノであればある程、産まれた子は前世の者に似るのだ。

格や趣味、特技、そして別などがコレに當てはまる。

神祖にそれなりの怪我を負わせた勝人、無論、魂も相當強いモノであった。しかしその來世の別が真逆である事に、バラメスは々驚いていた。

「我としてはの子がしかったのでな────」

父親としては珍しくない願だが、吸鬼にも當てはまるのかどうなのか。

先程述べた様に別を決定は出來ないが、頑張る事は出來るのだ。その頑張りとは────

「この繭の材料(通常ならば親の神のの1部と、、魔力のみ)に、『永久処人形エターナルメイデン』や『墮ちた神の鎮魂歌インゴッズ・レクイエム』、あと『優雅なる月姫ルナ・グレイス』やら、々とそれっぽいのを使ったのだよ」

「主様…………それら全て、寶庫にあった神話級の魔道でないですか」

「良いではないか、可い娘のためだ」

いや、アンタののためだろう────思うが、口には出さず。

しかし、実際寶の持ち腐れというか、この吸鬼の神祖には必要のないばかりなのである。

依然のままでボーっとしているロザーリア…………ロザリーを抱きながらニヤけた顔でブツブツと獨り言を呟く神。

下手をしなくても変態にしか見えない景に流石に耐え切れなくなり、バラメスは口を挾む。

「主様、いつまでも服を著させないのもどうかと思います。そろそろ……」

「おぉ! それもそうだな…………よし、ではまず風呂にれさせよう」

「はい…………既に準備は出來ております」

「うむ、では行こうか」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

…………あたたかくて、きもちいい所から出てきて、わたしは父様を見上げていた。

────なにかを言っているけど、言葉のいみはわかるけど、耳をすどおりして、けっきょりかいできない。

「────ロザーリア────────」

ん?

「ろざー、りあ?」

「────、────────!?」

ロザーリア、ロザリー…………なんだかフシギな音。

すると父様が、わたしおれを持ち上げる──すごい、高い。

「──────、────」

…………この人が、かっこよくてにくたらしくて、だいすきなだいきらいなこの人が、わたしおれの父様。

────こうして私、ロザーリア・レイゼンの生活がはじまったのであった。

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