《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》11話 1-4 ディア・マーティ
「姫様〜? どこですか〜?」
時は草木も眠る、深い宵。
が、そんな事は関係なしとばかりに、テンションマックスの子供がいた。
「…………行ったかな?」
とてつもなく広い庭園の一角、茂みからそ──っと顔を覗かせるのは、八歳くらいの。
白銀とも白金ともとれる絹の様に細く、まっすぐな髪と、よりも紅く煌めく瞳、雪のように白いに、特有のふっくらとした丸みを殘しつつも、ほっそりとした華奢なつき────かなければ、よく出來た人形としか思えない程に、整った容姿だ。
「…………ここに居ましたか」
「ぅわきゃあっ!?」
突然、すぐ真上から聲をかけられ、素っ頓狂な悲鳴をあげ驚く────ロザリー。
「まったく……ちゃんと授業をけないと、バラメス様に怒られますよ? と言うより、私が叱られます…………」
酷く疲れた様に溜め息をつくメイドに対し、ロザリーは苦笑いで舌を出す──所詮テヘペロをしながら言う。
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「ごめんね、ディア……私、座學がほんとぉにニガテで……だから離して、ね?」
「ダメですよ!まったく──そしに苦手と言っておきながら、地下書庫の意味不明な難しい本を、かたっぱしから読み漁ってるじゃないですか」
「いや~、ないようは大丈夫なんだけど、人から教わる──しばられるのがイヤで…………」
「はいはい、バラメス様の所に戻りますよ~」
「や~ん、ディアのイケず~」
首っこを摑まれ──は流石にしないが、しっかり抱き締められながら運送されていくロザリー。
(おかしいな、最初はもっとこう……可気があったのにな)
と思いながら、つい數ヶ月前の事を思い出す────。
その日は、黃昏時(吸鬼で言う、早朝)から運が悪かった。
悪夢を視たせいか、お気にりのクマさんを握り潰している狀態で目が覚め、
寢ぼけていたせいか階段から転げ落ち、
朝食(午後7:00くらい)のスープに、完食まであと數口の所で蟲がっているのに気付き、
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バラメスには嗤われ、
憤り──要はプンスカして食堂を出ようとして、何も無い所で躓き転び、
──フッと笑われ、ガチ泣きし…………とにかく黃昏時からついていなかった。
────だからだろうか、余りに不憫に見えたからなのか、ヴラキアースが「今日は人間の街に行ってみるか?」と言い出したのは…………。
生まれて初めての外出に大はしゃぎし、バラメスに支度を整えてもらい、いざ出発。
……そしてウキウキとしながらも、ゆったりと馬車に揺られ(高速)、しばらく行ったところで、事は起きた。
「おらぁ、大人しくしろやぁ!!」
「、子供は出來るだけ傷付けるなぁ、。男は鉱山に送るからぁ、抵抗する奴以外は殺さねえようにな!」
(────あぁ、やっぱり今日はついていない)
吸鬼の驚異的な能力──特に聴力をこれほど恨めしく思った事はない。
……周囲は既に(人間にとっては)暗く、助けはらないだろう。
襲われているのは行商団の馬車か…………。
「ほんと、むしずが走る……」
なぜ、同じ種族で醜くも爭うのか……理解出來ず顔を顰めていると、馬を走らせていたバラメスが聲をかけてきた。
『如何なさいましょう? 主様』
「ふむそうだな──あいや、し待て」
何かを言いかけたヴラキアースはふと口を閉ざし、ロザリーに視線をやった。
──お前は、どうしたい?
そう言われている様にじ、し、考え込む。
…………何なんだろうか、さっきからじる、この違和は。
この世界の至る場所で起きている、下等な人間共の、どうしようも無い戯れ、のはずなのに、ロザリーのが………の奧が疼く。
────放っておけない。そう思った。
俯きながらもどこか決意に満ちたロザリーを見て、ヴラキアースは外に聲をかける。
「バラメスよ、馬車を止めたまえ」
『はい』
程なくして、音も無く停車する。そして靜かに扉が開かれた。
「さて、ロザリー……お前のしたい様にやりなさい」
「…………はい」
張のせいか、僅かに震える腳を抑え込み、深呼吸をして、言う。
「バラメス、けんを」
「はい」
橫にして渡されたのは、黒曜石に似た謎の質で作られた、全長60cm程の小振りな剣。
波紋狀の模様が妖しく、艶かしく輝く漆黒の剣をけ取り、遙か遠い爭いを見據える。
──空を見上げれば、力の出にくい三日月。……だが、人間相手ならばこれで十分だろう。
「じゃあ──いってきます」
「あぁ、行っておいで」
その言葉を聴くと同時に、ロザリー俺は駆け出した。
ビュンビュンと風切り音が鼓を打つ。つまり、かなりの速度。
それなりの距離があったが、あっという間に目標エサは目の前に。
「へっへっへ…………おっと、変な気は起こ──」
己の優勢を疑わず、醜く顔を歪めて笑う男。
(────まずは、あいつ)
すれ違いざまに、首を斬る。……あまりに鋭すぎる剣ゆえ、特別な作をしなくても、まるで風を切るように簡単に首を跳ばしてしまう。
「──すなよっ?」
飛沫が上がり、濃厚なの香りが周囲を満たす。…………その瞬間、ロザリーの心本能はトクンッと躍った。
そのまま次、次、次…………気付けば、殘る賊はあと1人。
「あひっ──何なんだよっ!?」
汚く唾を飛ばし、一目散に逃げ出す男。 その前にヒラリと降り立つ。
「んなっ! 何で、何だ、何なんだよお前?!」
「狩るもの」
短く答え、次の言葉を待たず首を撥ねる。
ぷしゅううううう
殘ったからが吹き出し、殲滅完了。
ほっと息を吐き出し、ふと辺りを見渡せば、なんと襲われていた行商人達も居なくなっていた!
はぁ?! と聲を上げそうになったが、よくよく考えてみれば────
賊に襲われる
↓
賊がなぜか一瞬で全滅
↓
もしかしたら自分達も……
(…………うん、無理は無いかも)
若干腑に落ちない気もするが、しょうがない。馬車に戻ろう。
────そう思い歩き出して3歩……不意に後ろからパキッと音が。
「あっ」
そしてか細い聲が聞こえてきた。
──ゆっくりと振り返れば、巖のに10代後半に見えるが、涙目で震えながらコチラを見ていた。
「…………」
「…………」
「…………ね「ごめんなさい! 許してください! ごめんなさいごめんなさい! 何でもしますので、どうか命だけは!!」」
(これ、泣いてもいいかな?)
豆腐メンタルを自稱するロザリーは、豆腐って何だろう?と首を傾げながら、涙を堪えた。
「……みんな、あなたのをのこして、にげたの?」
「え──あ、はい。私は獣人の奴隷として捕まっていたので……」
互いに聲が震えていた。
なくとも、獣人のの方に、それに気付く余裕はない様だったが……
(それにしても獣人か。確かに昔から差別の対象だものね)
「どれい……あなたたちの馬車は、行商人たちの馬車じゃないの?」
「あっええと……奴隷商の馬車です。前に働いていた所が、財政圧迫で……今、帝國に送られている途中で、山賊に襲われてしまったんです」
(なんて事なの!? 助けた方も悪だったなんて……!!)
ビクビクしながら答えるも気にならないくらいのショックをうけ、項垂れそうになりながらも、一応冷靜に考える。
……帝國の場合、々と制限はあるが奴隷は合法だ。
犯罪奴隷を除いて必ず本人の同意が必要だし、最低限以上の人権が認められている。
(そう考えると、絶対悪て訳でもないのかな?)
そう思いを、一応観察してみる。
涙を溜めながら、怯えた目でこちらをうかがうは甘栗の、ウェーブのかかった髪に、ゴールデン種の(これまた、ロザリーはゴールデンって何だろう?と首を傾げていた)垂れた耳、おからはモフモフの尾が……モフモフ……モフモフ……モフモ…………
「あ、あのう……何か?」
「! あっいや、なんでもない──」
(なに!? 尾から目が離せない!
なんなの……この、顔を埋めてスリスリしてモフモフしてクンカクンカしたい求はっ?!)
己の初めて明かされる変態に戦慄しつつも、既に脳では、いかにしてこのケモミミ──もとい娘を飼う──もとい城うちにおく事を 父様とバラメスに認めて貰うかを考えていた。
「…………え、えっと、私はディア・マーティです。……貴はもしかして……私を助けてくれたんですか?」
「ん? ──あ、うん。そうよ」
(今気付いたのか……)
すると、慌てた様に頭を下げるモフモフ。
「あ、ありがとうございました!」
「いえ……気にしないくていいわ」
「と、ところで……もしかして貴様は、どこかの貴族なのでしょうか……」
ディアがそう勘違いするのも無理はない。
確に黒中心の、やたらとフリフリの著いた豪華なドレス著てるし、髪やら何なら隨分手れされいて、一見でなくとも貴族の娘に見えるのだ。
「──わたしはロザーリア・レイゼン。貴族とはちょっとちがうけど、にたようなものよ」
と言った瞬間、彼はズイっとロザリーに迫って來た。
「お願いです! 私を雇って下さい!!」
「うぇえ?」
(なんなのいきなり!?)
突然の事に驚いていると、モフモフはさらに土下座までして來た。
「どうかお願いします! 一生懸命働きますので……!」
「──ちょ、ちょっと待って! わたしのけんげんじゃ決められないから! とうさまにきょかをもらわないと……それに、もといた場所に、帰りたくないの?」
すると俯き、悲しそうな表をするディア。
(あ、耳が落ちて可い…………)
「えーと、私は正式に売られたので、これでお屋敷に戻ると契約違反と言う事で、皆さんに迷をかけてしまうので…………」
(なんて健気な娘なのっ! これはもう飼うしかないわ!!)
…………と、ちょうどヴラキアー達の馬車がやって來た。
「お嬢様、いかがなされましたか? 主様が大変しんぱ──」
「ロザリー! 一どうしたんだ! いつまでたっても戻って來ないから心配したぞおおおおお!!」
バゴンッッッと扉が開き、飛び出して來るヴラキアース。そのまま抱きついて來てペロペロされそうな勢いで怖い。
「と、とうさま! ストップ! とまって!! 他人ひとさまのまえよ!」
「──おっ! ……っと、すまんな。取りした」
(ふぅ、セーフ……)
「──それで、なにかあったのかね? ロザリー」
「あ、はい。かのじょ──」
「ディ、ディア・マーティと申します!」
「ディア、こちらはわたしの父のヴラキアース・レイゼン
。とうさま、ディアは行く宛がなくて……うちで働きたいって」
「ほぅ──」
と、目を鋭くさせるヴラキアース。
「あ、え、その……貴方様の所で働かせて頂けないでしょうか」
そう言って頭を下げるディア。
「と、とうさま……わたしからも、おねがいします」
「これこれ、何もお前まで頭を下げる必要はないぞ、ロザリー」
「じゃ、じゃあ──!」
「しかし…………ディアと言ったか。汝を雇って、我輩に何の得がある?」
「そ、それは…………その、前は小さなお屋敷にメイドとして勤めていたので、家事などを──」
「一応言っておくが、我輩の所では──このバラメスが全てやっているのでな、メイドはひつ──」
「ちょっと待って下さい!!」
「ん、ん……?」
すると突然、を乗り出すようにヴラキアースへを詰めるディア。
「そちらの方、バラメス様がお一人で──と言うことは、ロザーリア様のの回りの世話もバラメス様がやっていると言う事でですか!」
「う、うむ──」
「それはいけません! まだいと言っても、ロザーリア様も立派なレディなんですよ!! それを殿方がお世話するとは、一どう言うつもりなんですか!!??」
「ふ、ふむ、汝の言うことも一理あ──」
「一理じゃなくて當たり前の事です! 気付いて下さい!!」
驚く事に、ヴラキアースがタジタジになっている。
「わ、わかった。……では汝には、ロザリー──我が娘の世話をしてもらおう。ロザリーもそれで良いな?」
「はい、とうさま」
真祖にあるまじき醜態、論破(?)されてしまったヴラキアースなのであった。
──なんて事があり、吸鬼である事を明かして驚かれたりしながらも、彼は著々とレイゼン家に馴染んでいき、あっという間に、ロザリーの言う“可気”はなくなってしまったのであった。
……どうやら、可気があったのは俺の妄想の中だけだったみたいだな。 なんて事を思いながら、椅子に座らされるロザリーなのであった。
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