《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》12話 1-5 お出かけ①

──窓から差し込む淡いが、部屋をしだけ明るくしている。

部屋の主は、天蓋の著いたロングサイズのベッドの上で、大きなクマやらネコやら、様々な種類のぬいぐるみ達に囲まれて、靜かに寢息をたてていた。

あまたの星屑を散りばめた様に煌めく白銀の糸は、今はれていて、ふわふわと新雪の如く積もっている。

──コンコン、と控え目なノックがされ、聲がかけられる。

「姫様〜、起きてください。二時ですよ〜」

が、眠れるヌイグルミのは、その人形の様に整った顔をピクリともさせない。

「姫様? りますよ〜?」

そうして扉を開けてって來る犬耳メイド──ディアは、そっと自分の仕える主人の顔を覗き込み、はわ〜と息をらした。

(凄い、綺麗……)

最早嫉妬すら湧いてこないほどまでに、完された……いや、むしろ完されて無いからこそのしさ。息をするのも阻まれる。

そのどんな品よりも優れた容姿に、ディアは息すら止めて見惚れていたが、いけない、いけない…………と頭を振り、心を鬼にして起こす覚悟を決めた。

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「姫様、姫様、起きてください。今日は街に出かけるんですよ? ほら、起きてください」

そう言いながら、そーっと、優しーく肩を揺する。

────と、その髪と同じをした長い睫が震え、可らしい天使の様な吐息が零れる。

キャー! っと黃い聲を上げたくなるのを必死に堪え、ディアは最終手段を使う事に。

「あー、姫様の大好きなチョコレートが、飛んでいっちゃいますー」

酷い棒読みである。しかし──

「ちょ、こ…………れーと……………」

うんうん魘されながらも確実に意識を浮上させて行くロザリー。

効果は抜群の様だ。

「あー、もうダメですー。あんなに遠くにー」

「だ……め、だめ………………う、ん?」

なんと本當に目を覚ましてしまったロザリー。しかし、無理は無いのかも知れない。

……この世界では、甘いチョコレートや砂糖は大変貴重で、一般庶民だと一年に一回、貴族でも年に三,四回、王族でさえ年に7,八回程しか食べられないのだ。

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需要に対し供給が圧倒的に足りていなく、神の子であるロザリーも、月に一度くらいしか手にらないのだ。

よって、甘いモノに飢えるとしては、チョコレートが飛んで行ってしまうと言うのは、正しくこれ以上ない悲劇なのである。

「ちょこ、れーと……は?」

に涙を浮かべながら、キョトンとした顔で辺りをキョロキョロと見渡すロザリー。

鼻の辺りに集まる熱いパトスを堪え、ディアは業務を続けた。

「ほら、姫様………今日は街に行くんですよ? パッパと準備してしまいましょう?」

「……ん」

────さて、ここで疑問に思った人もいるのではないだろうか。

鬼が日にあたって、大丈夫なの?

分かりやすく言えば、日は吸鬼にとっての毒なのだ。赤子などは微量の毒でに異常をきたすが、大人ともなれば多なら平気になる。

つまり真祖ともなれば、ずっと當たっていた場合、がヒリヒリし、そのうち合いが悪くなり、さらに當たっているとぶっ倒れ、さらに放置しておけば気を失う───その程度だ。死にはしない。

普通の吸鬼ならばいとも簡単に灰に還ってしまうだろうが、ロザリーの場合合が悪くなるまで數時間かかる上、日傘などを使えば生命に別狀ないのである。

しかし、問題は別にあったのだ!

………それは眩しさと、眠気である。

大した事には思えないだろうが、特に眠い方のレベルが異常に高いのだ。

例えるなら『低糖の人の、朝寢起きで寢ぼけているの時よりも、さらに寢ぼけている狀態』だ。

思考力や神年齢のの低下、反応が鈍くなる、エトセトラ、エトセトラ──。

……さて、ここにがいる。可らしく黒を基調としたフリフリなゴスロリで著飾り、そのが白銀の髪やの白さを引き立たせ、眩しさと眠気で瞼が半分閉じているだ。

──そしてこの蕓品を完させたメイド張本人は、迸る熱いパトスをとうとう我慢出來なくなり、赤いのを鼻から噴き出したあと床で転がって悶えている。

「ジト目キタアアアアッ!!」

きゃあああ! 変態だぁ!! ……意識のはっきりした夜だったならそう言っていたであろうロザリーだが、あいにく今はスルー。

「準備は出來たかね────おぉ、似合っているではないか! ……ところでお前は一なにをやっているのだ?」

と、ヴラキアース部屋にって來て、ディアの奇行に訝しげな目を向ける。

「っは! すみませんご主人様、取りしていましたっ」

急いで立ち上がりを拭い、掃除を始めた。

さてはて、今日なぜ眠たい目をってまで、真晝間から人間の街に行くのか……!それは、このキャラチェンしているの言い出した事が始まりだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「うー、あまいモノが食べたい……」

「甘い──バナナとかモモとかですか?」

「ちがーう! そーゆうのじゃなくて……チョコレートとか、ケーキとか──」

「あー……けど、材料も無ければ加工する設備も無い。そして作れる人も居ませんからねぇ」

「食べたいのーっ!!」

そんな時に現れたのは、バラメスだった。

「お嬢様、三日後にスウィルツ王國で四年に一度の祭りが行われる様ですよ」

「おまつり?」

「はい。何でも……世界各地からその道の職人が集まり、出店で甘いを販売する様です」

「…………っ!?」

そして

「絶対行くー!」

からの

「しかし晝間しかやっていないのです」

そして

「ねむいのガマンして行くっ!!」

と、言う流れで──

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「────♪」

「何だかジト目無表なのに楽しそうですね」

「──そう?」

「はい、とても」

──こうして馬車に揺られているのである。

道のりは至って順調で、ものの4時間程でスウィルツ王國の街壁が見えて來た。

「………………」

「すぅ……すぅ…………」

「────」

では、ボーッとしているロザリー、眠りこけているディア、本を読むヴラキアースと、退屈な時間を過ごしていた。

またバラメスは“神の加護”とやらである程度日に耐があるようで、外で馬をっている。

「すぅ…………っは! す、すにましぇん、寢てました!!」

……と、目を覚ましたディアが慌ててを起こした。

「なに、──気にすることは無い。我が城は辺鄙な所にあるからな。どこへ行くにしても時間がかかる」

「あ、いえ……その──」

「いやなに、嫌味などではなく我の本心だ。気にするでない」

「は、はい!」

「────」

そんな2人のやり取りにも一切の反応を見せず、ただぼんやりと宙を見つめているロザリー。

ここまでかないと、本當に人形と見分けがつかなさそうだ。

「──と言うより、実は寢ている間に本當に人形とすり替えられてたり」

なんて事をいってみると、その人形(仮)の視線がふらふら~とディアの方を向き、こてんっと首を傾げた。

「いやいや、冗談ですよ」

ロザリーは、再びふらふら~っと宙に視線を戻す。

それにしても──

「こんなに長い時間よく退屈しませんね~?」

常に馬を見ていないといけないバラメス、ずっと本を読んでいるヴラキアースはともかく、ロザリーは暇を潰すを何も持っていない。

いや、お気にりのティディベアはしっかり抱き締めているが。

「ふむ、晝間はな────」

うんともすんとも応えないロザリーの代わりに、ヴラキアースが話し始めた。

「────吸鬼はあまりの眠たさに、脳の活が數十分の一位になるのだ。その分周りが速くく様にじるのだよ」

「え、じゃあバラメス様も……?」

「うむ、その通りだ。まぁ──」

「事故ったらどうするつもりなんですかっ!?」

「──落ち著きたまえ。我輩やバラメス程になれば、脳の働きを制する事など造作もない」

「そ、そうなんですか…………」

ほぇーと口くちを△さんかくにするディア。

「ほら、見ておれ」

そう言ってヴラキアースが、ロザリーの眼前で手を振る────と、何拍かして思い出した様にパチリと瞬きし、コテンと首を傾げるロザリー。

「かわい──じゃなくて、こんなにタイムラグが?」

なんでもない、もうすぐで著くからな。と微笑みながら、ゆっくりとロザリーに言うヴラキアース。

「ロザリーももう數年すれば、思考速度の調節など簡単に出來る様になるであろうな」

「數年…………長いですね~」

言いながらふと窓の外を見ると、いつの間にか馬車は普通のソレと同じスピードで走っていて、景がゆっくり流れていた。

「────それにしても、スウィルツ王國か。聞いたことがないな」

人間の勢にてんで興味を持たない神様は、記憶にない國名に首をかしげた。

そしてその答えは、つい數ヶ月前まで城の外にいたディアが知っていた。

「スウィルツ王國は建國十二年目だそうですよ。

元々は甘い作りを仕事としている職人達が、自分の腕を振るう為に集まる中継村だったらしいんですけど。

まぁ々あって四年に一度のお祭りで最も味しい甘いを作った人が、四年間國王として國を治める制度になったらしいです」

「ほぅ…………それはまた珍しい國だな」

「そうですねぇ……甘いが沢山並ぶので、スウィルツ王國の王國に行くのは世のの夢なんです! けど、國料も高ければ屋臺の甘いも高いと言う──まさに夢何ですよねぇ」

「────はぁ、分かっている。お前も好きに買うと良い。金はあるからな」

「ホントですかー! やったああああ!」

そしていよいよ一行は國の中へ。

「ようこそスウィルツ王國へ。ゆっくりとお楽しみください」

ちなみに関所では、國際指名手配の有無の確認と國稅(かなり高め)を払う程度ですんなりとる事が出來た。

「────!」

「わぁ、凄いですねぇ……」

「馬車の中にまで甘い臭いが…………バラメスよ、お前は大丈夫なのか?」

「はい、鼻栓を使ってますから」

「なにぃ!?」

目を輝かせている子二人とは対稱的に、若干顔を青ざめるヴラキアース。甘黨ではない彼には々キツくじる程、甘ったるい匂いの様だ。

早速と目に飛び込んでくる、甘いの出店に目を奪われていたロザリーだが、一瞬、表を曇らせた。

「……サラ、あまいの、すき──」

「え? なにか言いました?姫様」

「──────? なに、が……?」

「あ、いえ……」

──その一瞬、ロザリーの脳裏には、長い耳の✕✕✕の姿が過よぎっていた。

が、その影はすぐに風の前の塵の様に形を崩してしまい、あっという間に記憶から消えてしまったのだった。

「準備は良いかね? では………行こうか」

とヴラキアースが聲をかけ──────

こうして四人の甘い一日が始まったのであった。

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