《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》15話 1-8 うじうじ ※挿絵あり
「姫様ー? 一どうしたんですかー?」
部屋の外から、ディアの聲がぐぐもって響いている。
「ご主人様お喧嘩なされたんなら、一緒に謝りますから! 出て來てくれませんか──!?」
この部屋──この塔は元々牢獄だったので、鍵は外にしかついていなかった。
だからこうしてディアがって來ないのも、ディアなりの心遣いなのだ。
しかし、今の勝人にそれに気付くだけの余裕は無く、ただ布団を頭から被り篭っている事しか出來ないのだ。
『ねぇ、このまま、とじこもってるつもり?』
「……うるさい」
『よかったじゃない、とうさまがやさしくて…………たたかってたら、まけるの────』
「だからうるさいって!」
不安定なのままに聲を荒らげるも、それも甲高く、舌っ足らずなもので、それがまた一層勝人の心をす。
「なんで────なんで────」
自分は死んだ。そのこと自まだ納得も実も出來ていない。それなのにも関わらず、さらに己の敵かたきの娘───吸鬼の真祖となり、この勝人の記憶は自分を証明するのに何の役にもたたないと言うのだ。
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つまり、自分はあくまでロザーリア・レイゼン。自分を高野勝人だと思うのは、ただの思い込みで、勘違い。
……正直、タチの悪いイタズラだと思いたかった。が、このからだと、ロザーリアとしての記憶とが、本當の事だと語っていた。
「わたしは────いったい、だれなの……」
『だから、ロザリーでしょ』
「ちがう、そんなことがききたいわけじゃない────」
噓でもいいから、お前は勝人だ と言ってしかった。
今なら、例えば魔王から「お前を元に戻してやる。だから一緒に」なんて言われれば、迷う事なく寢返るだろう。
それ程までに、勝人の心は傷付いていた。しかし……
バンッ
「ロザリー!」
空気を読まず、テンション高く部屋にって來たヴラキアース。
「ほうらロザリー、顔を出しなさい」
「…………」
神に逆らえない本能でも働いたのか、自然にがき、その不貞腐れた顔をあらわにする。
心穏やかでないものも見てみると、ヴラキアースのそのの後ろに何かを隠している様子。そしてロザリーの興味を引けた事にし満足したのか、ヴラキアースは謎の笑みを浮かべながらソレを出す。
「ほうらロザリー、ウサたんでしゅよ〜」
「………………」
目の前に飛び出して來たのは50cmくらいのモフモフなウサギのぬいぐるみ。
って──
「なめとるのかわれっ?!」
側にあった野球ボール大のヒヨコちゃんを投げ付ける。
「おぉっと……どうやら気にらなかった様だな」
しかしそこは腐っても神祖。軽く躱す。
「うぅむ……娘が反抗期だ、バラメスよ」
「そんなものですよ、主様」
いつのまに居たのか、バラメスがうんうん頷いている。
「姫様! そんな言葉遣いはメッですよ!」
そしてディアまで……
「────っと、とりあえず、いっかい出てってー!!」
渋々と退散する3人。って、ちゃっかりウサたん置いていくなよ……と溜息をつく勝人。
そして、再び1人になる部屋の中──いや
『もう! とうさまに、なんてこと言うのよ!』
「うるさいなぁ……」
1人──と數えて良いのか分からないが、もう一つの意識が宙に浮きながら勝人を説教しているのだ。
『それに、こんなにかわいいウサたん……うれしくないの?』
「いやいやいや、二十二の男にぬいぐるみおくって、よろこぶとおもってるの……?」
そう言いながらお灑落な丸いテーブルに置かれたウサたんを持ち上げる。
『嬉しくないなら、捨てちゃうの?』
「そうね、そうしよう。────なにさ」
多の勿なさをじつつも、部屋の隅のゴミ箱に捨てようとしたのだが……そこで手元から視線をじ、ウサたんを見る。
『どうしたの?』
「いや、なんでもないけど──なんかウサたんが『すてないでっ』って言ってる気がして……」
『じゃあすてないの?』
「いや、すてるけど……うぅ、そんな目でみるなぁ」
・
・
・
「────だめ! わたしにはウサたんをすてるだなんてできない!」
そしてあえなく陥落。
なんとかゴミ箱行きを免れ、どこかホッとした表のウサたんを抱き締めたロザリー(勝人)は、想像以上のモフモフにだらし無く顔をゆるめる。が、それでも可く見えるのは役得か……。
『よかった〜。とうさまからのプレゼントが、すてられなくて』
「……」
『けどこれでわかったでしょ?きおくはあっても、あなたはロザリー。二十二才の男だったら、ウサたんでよろこばないんでしょう?』
「うぐっ…………」
『あきらめなよー。タカノカツヒトはしんで、あなたはロザーリア・レイゼン。はいふくしょう』
「…………」
『はい、ふくしょー!』
「…………タカノカツヒトはしんで、わたしは、ロザーリア・レイゼン」
『──うん、よく出來ました。どう?すっきりした?』
「……ちょっとシックリきた、かも」
『ならよしっ』
依然として自分は勝人だ、勝人だったと思ってはいるが、くやしいがストンとに落ちるものをじていた。
ちなみに當のロザリー(浮)は、なぜかドヤ顔で腰に手を當て、ふんぞり返っている。
はぁ……っと溜息をつき、勝人は改めて己の姿を確認することに。
かつての勝人からは考えられない程までに、ほっそりとした華奢な四五指は、力を込めれば容易く折れてしまいそうなほど。下手な寶石よりもしく煌めく瞳や髪。
どこか希薄で儚げだが、人を魅了せずにはいられないような、普通とは違う──異質な存在すら持っていた。
ふと見れば、息をするのも忘れて魅ってしまう様な、そんな。それが吸鬼の真祖、ロザーリア・レイゼンの印象だ。
窓ガラスに映る、一見するとこの世のモノに見えないまでに整った容姿の。その顔が複雑そうな表になり────宙を漂う半明のロザリーが聲をかけてきた。
『さぁ、わかったなら戻りましょう?みんなしんぱいしてるわ』
「…………あぁ」
(なんとなくコイツの言う事に従うのは癇に障るが……)
まだへそを曲げたままの勝人だったが、ヴラキアースとバラメスはともかく、ディアにまで心配をかけていることを思い出し、渋々立ち上がる。
「はぁ……これからいったい、どうすれば……」
『どうしたの? ほら、さっさといこ?』
「わかったって……」
そうして部屋を出たロザリーは、長い石の螺旋階段を降りて行き、塔を出る。目の前には黒百合の庭園が広がっているが、高山地帯でないにも関わらず、また日ではなく月ばかり浴びているのに、黒百合の花は咲き誇っていた。
(────あの頃は、……昨日までは子供であること楽しめたのに、な)
しかし思い出してしまったからには、もう後には戻れない。これからどうするか、何一つ考えは纏まらないが、それでも無邪気にこれまでと同じようには過ごせない。過ごせないのだ……。
どこか暗く、しかしどこか晴れた表で勝人は扉の前に立った。そしてノブに手を掛けようとすると、まるで計ったかの様なタイミングで扉が向こう側から開けられた。
「あっ、姫様!」
扉を開けたのはバラメスだった様で、靜かに扉の橫立ち、ディアはシッポを振りながら嬉しそうによってき、ヴラキアースは長いテーブルの一番奧で優雅に食前を呑んでいた。
(くそう、何か“わかってますよ”的な表とか、地味にダンディに決まっててちょっと格好良い所とか、マジで腹立つ!!)
──と心の中で呪詛を吐きながら地団駄を踏みまくる勝人。
「──さて、ロザリーも來たことだ。さっそく晝食を取ろうではないか」
悠然と微笑むヴラキアース。
「──だめだ……いっしょう勝てる気がしない」
「どうかしましたか? 姫様」
「いや、なんでもないよ。……たべよう?」
「あ、はい!」
────今すぐにはどうしようもない。なら、その時が來た時の為に、今は力を著けて置こう。
初めてこの世界にやって來た時、ものの數分で慣れ、馴染んでしまった恐ろしいまでの順応力で、はやくも新たな人生(吸鬼生?)にも馴染んで來ているのであった。
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