《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》18話 1-11 食後
ちょっと えっちぃ気分になってしまった晝食が終わり、ロザリーはディアによって禮拝堂に連れられて來ていた。
「はぁ、やっぱり素敵ですね、ここは…………」
「あぁ」
蒼を基調とした、空を思わせるステンドグラス。海のの様にを絶え間なく変えるそれは、不思議なことに月によってその景を生み出していた。
「きれいでふ……きれい、で……」
「うん……ってディア、まぶたおちてるよ!」
「はっ!」
さて、忘れてはいけないのが、この時間は既に深夜に突している事だろう。またディアは當然ながら夜行ではない。
主人の生活に合わせて晝夜逆転の生活を送っているディア。真夜中に眠気を覚えない方がどうかしている。
むしろ、相當の疲労が溜まっているに違いない。
「ディア」
「なんですか、姫様?」
「たまに……明日とか、1日休みとったら?」
「えっ、お休み……ですか?」
「すごくつかれてるように見えるよ。わたしからとうさまに、たのむから……」
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「ひ、姫様──!!」
ディアはわっと極まった様子で瞳を潤ませ、ひしとロザリーを抱きしめた。
「でぃ、ディア……?」
「私、嬉しいんです。姫様がそんなにも私の事を思っていてくれて…………」
スッと音量を下げたその聲には、とても強く、暖かいが込められているのをじ、言葉を失うロザリー。
そのらかな溫もりに抱かれ、目を閉じる。
「……姫様は、優しいんですね」
ポツリと、そんな言葉が零れた。
「──そう、かな」
「はい、とっても!」
そのまま途切れる會話。しかし気まずさは微塵もなく、のは太に照らされたかの様な溫もりに満ちていた。
────數分後、悶々としながらあ長い廊下を歩くロザリーの姿があった。
元男として、ディアにふくよかな雙丘に包み込まれ、興を覚えるのは當然だろう。
しかし、その興はどこかかつてのいきり立つ様なものとは、比べにならない程弱々しく、またそれが興を萎えさせたのである。
「やっぱり、ようじょこんなになったからか……」
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考えてもみれば、男でもければそういったは覚えにくいことは常識である。
溜め息を吐つきながら、月の照らす華な廊下を抜けて行く。
しかし勝人の中では“”の子になった事のショックが大きく、そこまでは頭が回っていないようだった。
あの後徐おもむろに立ち上がったディアは、用事ができた。申し訳ないが1人で地下大書庫に行っててくれ。それから休みは要らない──という旨を言い殘し、いそいそとどこかへ行ってしまったのだ。
ロザリーの思考がディアの“急用”の容に向かった辺りで、地下への階段へとたどり著いた。
記憶が戻ってから、初めての座學。つまりあの、執事と2人きりになるのだ。
狀況を理解していないディアや、記憶などどうでも良いと公言しているヴラキアースとは違い、勝人の記憶を持つロザリーに何をじ、何を思っているのかさっぱり分からないバラメスと対峙する事に、ロザリーは一抹の不安を覚えていた。
階段の所までは微かすかなも屆かず、ひしひしとした闇がヘドロ沼の様に溜まっていた。
ヒュゴォォォォォと風が足元を流れ、スカートを揺らし地下へ吸い込まれて行った。
つーっと、冷や汗が背筋をり落ちて行った。
下には風を通す様な隙間や窓は、無かった筈だ。
──ゴクリとつばを飲み込み、ロザリーは片足を闇へと沈めた。
空気が冷たい…………基本死である吸鬼。もちろん溫は低く、寒さはあまりじない。にも関わらず、まるで氷水に足を突っ込んだかの様な覚に、思わずたじろぐ。
とその時になってようやく、己がその小さな手が、覚が無くなるほどに強く握り締めている事に気が付いた。
落ち著こう──口からフッと息を吐き、の力を抜く。
大丈夫、大丈夫。
ロザリーはコツコツと、小さな音を殘しながら階段を降りて行く……と、吸鬼にもぼんやりとしか見えない程の暗闇の中、まるで空気までをも重厚にせんとばかりの扉が現れた。
その取手に小さな手を乗せ、ゆっくりと押して行く。
──そして書庫の中、 鉄面皮の如く表を変えない、不気味な長の男が…………
「って、あれ?」
…………いなかった。
いつもこの時間には先に居て、ロザリーを待ち構えていた老執事の姿が、なぜかどこにもなかったのである。
「お、お〜い……」
しかし油斷は出來ない。ここは広大な書庫。隠れようと思えば、いくらでも姿を隠せる。
そろそろとバラメスを探し始めるロザリー────
「お嬢様」
「ぴぃっ!?」
突如、背後から聲をかけられ変なび聲を上げる。
「ばっ、ばばばばーろー! っじゃなくて、バラメスっ!?」
恥かしいやら何やらでパニックに陥っているロザリーに対し、飄々とした態度を崩さないバラメス。
「驚かせてしまい申し訳ありません。主様からお話があるようなので、本日の座學は中止です」
「へ……?」
悪びれた様子の全くないバラメスに苛立ちをじながらも、ヴラキアースの話というのに興味が湧く。
娘の事を溺しながらも、食事の時位にしか顔を合わせない父親が、何を話すのか……。
座學が無くなったのは良いが、今度は別の事で張し始めた。
では……と扉を潛くぐるバラメスを追い、ロザリーも歩き出すのであった。
相変わらず芝居掛かった作で扉をノックするバラメス。扉の向こうかられと、短くテノール聲が響いた。
調度品が並ぶ雅やかな室、中央の玉座には、なぜか憮然とした表のヴラキアースと、微妙に距離を開け、目を伏せて立つディア。
その雰囲気にロザリーの心を多く占めていた好奇心は、を開けたれた風船の様萎んだ。そして逆に膨れ上がる張。
ドッドッドッドッとが早鐘を撞くように高鳴った。
「────ロザリーよ」
重たく開かれる口。
「お前は────もう、ここには居たくないか?」
「え?」
(な、なんなんだ、いきなり……)
「もう我輩と、共に暮らしたくはない、のか……?」
いきなりも然さることながら、力のこもった顔が一瞬でくしゃくしゃになるのだから、ロザリーはひどく驚いた。
「……主様、その言い方は卑怯かと」
「むぅ……」
神妙な顔になるヴラキアース。
「お嬢様もお困りです。まず事を説明すべきでしょう」
「そうか……」
適切であろう助言をするバラメス。これではどちらが主人か分からないものだ。
「実はな……先程ディアから相談されてな」
「そうだん?」
「うむ。それはお前を、人間の國の學校に學させないか、というものだ」
「へ? ……がっこう?」
相変わらず暗い表のヴラキアースに対し、予想打にしていなかった発言にキョトンとするロザリー。
ヴラキアース曰く、ディアはこんな事を言ったという。
「ご主人、相談というか、提案があるのですが……」
「ふむ、なんだね? 言ってみるが良い」
「はい。姫様の事なんですけど……」
「ロザリーがどうかしたのかね?」
「姫様を、學校に通わせるべきなのではないかと、思うのですが……」
「ほう? しかし、教育は全てここで出來るではないか」
「いいえ……子供には座學以外のものも必要なんです!」
「なるほど! 確かに──運が足りていないな」
「そうそう……って、違いますよ! いえそれも足りてなさそうですけど。私が言いたいのは運ではありません!!」
「では、何だと言うのかね?」
「それは、友達です」
「──友達? なぜそれが必要なのだ?」
「神種のご主人は知らないと思いますけど、人との関わり合い、同年代の子とのコミュニケーション。それが心を長させるのですっ!!」
「ええい、聲が大きい! ……まあ良い。その友達とやらが大事なのは分かった。だが、吸鬼が通える學校がある訳が──」
「あるんです!」
「──なに?」
「何年か前に、種族、家柄を問わずに學できる學校が出來たんですよ」
「ぬ、ぬぅ……」
「橫から失禮します。これはお嬢様自の事。お嬢様の意志が大切なのでは? お嬢様が行きたいと言うなら、認めるべきなのはないでしょうか?」
「バラメス、お前は一どちらの味方なのだ」
「私は…………お嬢様の味方です」
「なんとっ?!」
「では、お2人ともそれで良いですね?」
「ぐむむ……仕方あるまい」
「それなら文句ありません!」
「────と、言う訳でな。ロザリー、お前の意思を聞きたい」
ラーメン屋の大將の様に腕を組み、苦蟲を噛み潰した様な顔で答えを待つヴラキアース。
これで、勝人はついに自由のになるのだ。この神祖の元から逃げ出せば、かつての仲間に無事を伝えるチャンスがある。
勝人は心ほくそ笑み────しかし、心泣いていた。
いやだ、父様と離れたくないっ!
勝人の中のロザリーが、ここでの生活をんでいるのだ。しかし、今はそれを認める訳にはいかない。
ぶるぶるとが震えだし、強く目を瞑る。そして走馬燈の様にロザリーとして生まれてからの、1年にも満たない記憶が脳裏を駆け巡った。
そして、決めた。
爪が食い込む程強く握り締めた手から力が抜け、瞳を開き、ヴラキアース父を見る。
「わたしは──────」
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