《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》20話 2-1 花の子學生
「ここにお名前、年齢、別、種族を書いてね。文字が書けなかったら、お姉さんが代わりに書くけど……」
「……んん、だいじょぶ」
紙をけ取ったロザリーは、らしい丸っこい字で書き込む。
転生で自翻訳を失い、繭の中であらためて言語を修得し、ディアによってらしい書き方に調教されたロザリーだったが、ロザリーもとい勝人が気付くはずもない。
ここは聖都にある、聖教會立全世界開放學園、の事務窓口。
集団にはロザリーと同じく學するために集まった子供や、その親達が手続きをしている。
「ん、かけた……」
「あ、じゃあ預かるね~。……ふむふむ、ロザーリア・レイゼンちゃん、0歳、吸鬼……って吸鬼~っ!?」
突然甲高い聲をあげるけ付けの──トラネコの獣人──に、ロザリーのジトーっとした目が向けられる。
その視線に気付いたかどうかは定かでないが、すぐにハッとしたはペコペコと周囲に頭を下げると、ロザリーに顔を寄せて小聲で話しかけて來た。
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「ロザーリアちゃん、悪い事は言わないから、吸鬼だって事は隠しておいた方が良いわ……」
「それってどういう事ですか?」
日中は常に上の空のロザリーに代わりに、ゴールデンレトリバーの獣人メイド、ディアがその理由を訊ねる。
「この學園はどんな種族もけ付けているんですよね?」
「はい……けれてはいますが、個人の差別意識は別なんです。……基本的に貴族の子以外はそうでもないんですけど、吸鬼にだけは別なんですよ」
「あっ、もしかして……創設者の勇者様が吸鬼に殺されたから、ですか……?」
神妙な顔で頷く。
「そこで何ですけど、種族欄を『不明』で提出すると良いですよ」
「『不明』に?」
「例えば両親が別種族だった場合は、ハーフ〇〇とかでもかけますけど、異なるハーフ同士の子供だった場合、はっきりとした種族がわかりませんよね? そういう子のために「不明」って書いても良い事になってるんです」
「なるほど……姫様、そうしましょうか?」
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「……ん」
そして再度紙をけ取り、今度は種族欄を「不明」にして提出する。
「はい、間違いなく〜。明日の11時から能力検査があるので、忘れずに來てくださ〜い」
翌日集まった子供達(大人も含む)はエントリー番號50ずつに分けられ、それぞれ仮設の待機室に案された。
ガヤガヤと騒がしい部屋の中、ロザリーがウトウトと船を漕いでいると、不意に肩をつつかれた。
緩慢なきで振り返ると、そこにはクセの強い、赤のショートカットに、活発そうなつり目のがいた。
地味なロングTシャツに、綿で出來たホットパンツをに付け、健康的に焼けた手足がスラリとびている。
長はロザリーの頭1つ分上だ。
「わぁ、ほんとにお姫様みたいな子だぁ!」
そう言ってロザリーの頭をポンポンと叩く。語尾が上がる、し訛った喋り方だ。
「ウチはアリサ! キミは?」
「……ろざーりあ・れいぜん」
「ロザーリアかぁ。ほんとお人形さんみたいで可いなぁ。よろしく!」
「……ん」
あまりのマシンガントークに、それまで不思議な雰囲気を纏っているロザリーを注目していた周囲の人々も、酷く引いていた。
ディアが苦笑いしながらその景を見守っていると、人垣から1人のが現れた。
アリサとは違う、怒った様なつり目に、明らかに金と手間がかかった、うずを巻く金髪。青系で纏められた華やかなドレスをに纏い、はを張った。
「貴……なかなかのお召しですが、どこの家の方ですの?」
「……?」
「貴ですわ、そこの銀髪の。わたくしは帝國が貴族、レヴィア家のエリザベート。貴は?」
「ロザーリア・レイゼン……」
「レイゼン家……聞いた事がありませんわね」
一瞬考え込むも、當然全ての貴族を把握している訳ではないらしく、まあ良いですわと首を振ると、ロザリーに向き合った。
どうやらロザリーに用があるらしい。
「あの、何かご用でしょうか……?」
そこでディアが聲をかけるが、エリザベートはそれを無視し、ロザリーに話しかけた。
「貴、わたくしの友達になりませんこと?」
「なん、で……?」
首を傾げるロザリーに一瞬頬を引き攣らせ──すぐに笑顔を作り口を開いた。
「ほ、ほら……やっぱり家の結び付きがあれば、いざと────」
「いらない」
「……は?」
セリフを途中で遮るどころか、きっぱりと拒絶の言葉を吐いたに、お嬢様は開いた口が塞がらない。
「なっ、なぜですの!?」
「めんどくさい」
「え……?」
これは、ロザリーが勝人であった頃の経験から來る言いである。
ある意味世界一の権力と金を持つことになる勇者に対し、各國の王は自分の娘を嫁にさせようとしつこく迫った。
そういった、権力の繋がりをめんどくさいと思っていた事が背景にあるのである。
「そ、そうですの……でも、おわかり? これはせっかくのチャンスですのよ? 帝國でも有數の家、レヴィアと繋がれる────」
「──きょうみ、ない」
それでも毅然とした態度で拒絶を口にすると、エリザベートは眉を顰め、冷笑を浮かべた。
「……ふんっ、せいぜい後悔なさらないように。ケモノをメイドに雇う程度の弱小貴族が千載一遇のチャンスを踏みにじっ────」
「……うるさい」
「────ひっ!?」
しかしその言葉が終わる前に、ロザリーから放たれた気迫に1歩後ずさる。
「でぃあを、バカに、しないで……」
「な、な、何なんですの! い、忌々しい……!!」
それは勝人であった頃に磨かれた殺気であるが、これまで蝶よ花よと育てられた彼が知るはずもなく、恐怖を怒りに取りしたまま何かをぼうとし────
「おっとエリー、そこまでだ」
突如現れた年によって止められた。
「……ウィル、邪魔をしないでくださる? わたくし今、そこの世間知らずに禮儀を教えて差し上げる所ですの」
「はぁ、落ち著くんだエリー。レヴィア家の令嬢ともあろう君が、小さな事で腹を立てていてはしょうがないだろう」
聲を荒げるに対して、一方、ウィルと呼ばれた年はごくごく落ち著いた態度で接していた。
「ですが──!」
「エリー! 下らない事をして君のお父上に知られたら──どうなるか分かるよね」
「くっ……?」
小さく言われたその言葉に、エリザベートはし冷靜に戻ったのか、ロザリーに背を向けてつかつかと歩き出した。
「覚えてらっしゃい、ロザーリア・レイゼン。貴の名前、覚えましたわ!」
最後にそう言い殘すと、すぐに人混みに紛れて行った。
その姿をし唖然としながら見送る一行。バネの様にはねる金の髪が完全に見えなくなると、年はロザリー達に向き直り、申し訳なさそうに頭を掻いた。
「すまないね、彼はは悪い子じゃないんだけど……ちょっとばかり自尊心が強くてね」
「あ、いえ、大丈夫ですけど……」
「僕はウィリアム・クレイ。帝國の貴族で、彼は馴染。──まあ一応、婚約者だ」
「ロザーリア・レイゼン」
「あ、姫様のメイドの、ディア・マーティです」
「ウチはアリサ。苗字はマリード」
各々が自己紹介をすると、ウィリアムは苦笑いを浮かべて言った。
「たぶん……また君達に突っかかって行くと思う。僕もできるだけ注意しておくけど……」
「気に、しなくていい……」
そうロザリーが告げると、彼はごねんねと言った後、エリザベートが問題を起こさない様にとその場を立ち去った。
「──なんか、すごい変わった子だったなぁ」
「典型的な貴族、ですね……」
「…………」
その後、會話をしながら(アリサがほぼ一方的に喋るだけ)時間を潰していると、昨日付をしていたトラ貓獣人のが待機室にって來た。
「はーい、皆さんお揃いです? これから能力検査が始まりまーす。おトイレに行きたい人はいますか〜?」
「……こんな大勢の前だと、手挙げにくいですよね」
そうディアが苦笑いをけべて小聲で言うが────
「はーい」「お、おれも!」「シンナちゃん、一緒に行こー?」
────ここにいる多くは小さな子供であった。大した恥心もないのか、あるいは流れができて手が挙げやすくなったのか、なんと半數近くの人數が部屋を出て行った。
あっという間に閑散とした部屋に殘った人達の、先程絡んで來たエリザベートの姿がないことに、各人は苦笑い浮かべるのであった。
トイレに行って來たメンバーが帰ってくると、今度はエントリー番號順に並べられた。
ロザリーは83番だ。
「能力検査の容の説明をしますね〜。項目は検査、魔法検査、筆記検査の3つがあります。
種族によっては得意、不得意は必ずありますし、上手い所をばし、苦手な所を克服するための學園ですので、あまり気にせず気軽にやりましょ〜」
「「は〜い!」」
トラ貓獣人の──ラティというらしい──に引率されて、験者達は部屋を出て、ゾロゾロと廊下を歩く。
途中、エントリー番號1~50までの、能力検査を終えたらしい験者達すれ違うが、どの人も特に深刻な顔をしていなかったので、あまり気を張る必要はないだろう。
「──さて、ここが闘技場です。まずここで検査と魔法検査を行いますので、監督の話をよく聴いて、検査に挑んでくださいね〜」
そうしてロザリー達は、コロッセオの様な円形闘技場に著いたのである。
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