《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》21話 2-2 能力検査

「──エントリー番號63、ツェリーナ!」

「よーし、頑張れ!」

薄紫の髪をピンで留めた、14,5歳のが鉄剣を構え、丸太に被せられた鉄鎧に向かった。剣の先は弱った羽蟲の様な軌道をしている。

それを、フレドリックと名乗った20代前半と思われるがたいのいい男教師が応援する。

「んっ……えい!」

ゴン──

定まらない軌道、甘い踏み込み、どれをとっても剣に慣れた様子がなく、予想通りに響く音は鈍い。

それを何度か繰り返し、は意気消沈した様子でその場を後にした。

「ふむ、おそらく初めて剣を握ったのだろう。逆に言えば獨學の子と違い、変な癖がないからな、きっと楽に上手くなれるだろう。……では次!」

続いて前に出たのは、相変わらず目立っている貴族の娘、エリザベートだ。

「エントリー番號64番、エリザベート・レヴィア。參ります」

そう聲高らかに名乗ると、青く、水を基調とした裝飾が施された鞘に納められた細剣を持った。

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白をベースに水のフリルと、パニエで膨らんだスカートを揺らし、肘の上まであるレースで飾られた白い手袋をはいている。

シェイン──

流線の裝飾が過度な鞘から引き出されたのは、日のけて眩しく輝くレイピアだ。

「──っし!」

鋭い踏み込み、る様に繰り出される刺突は首元や肩口など、鎧で守られていない部分を正確に貫いた。

周囲がどよめく。親、家に頼りっきりで、実力は疑わしい……そんな偏見とも呼べる眼鏡で見る人々を魅せたのである。

あきらかに鍛錬が積まれたきに、待機室での騒を見ていた人達は、エリザベートの評価を改めるのであった。

プライドは高いが、まだまだ。やりましたわ……と呟かれた小さな聲は、吸鬼の敏な耳にはしっかりと屆いたのである。

そして列に戻って行ったエリザベートの次に出てきたのは、ウィリアムだ

「エントリー番號65、ウィリアム・クレイ」

茶髪の年はそう名乗り、素早く──しかし優雅に片手剣を引き抜いた。

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そしてその作がひと段落つく間もなく、痛烈な怒濤の撃を加える。

一撃目は鎧の首元左側に當たり、次に腹部を薙ぐ様に、水平に斬り払う。

その後も無駄なきがなく、しかししい剣舞を終えると、彼は一禮して列に戻って行った。

順番は進み、今度はアリサの番になった。

なお、使う武は自前のでも、學園から貸し出されたでも良い。

エリザベートとウィリアムは自分のを、アリサは貸出品を使う様である。

アリサは槍を構えると、クルクルと回し始めた。

「なんだなんだ? 棒でもあるまいし、槍をそんなに回してもーー」

していた男がそう呟くーーが、次の瞬間。

「ーーふっ」

立て続けに金屬音が3回鳴り響いた。

「せいやぁっ!」

肩口を強力に突くアリサの姿に、言葉を失った。

何と最後の一撃で、縄で固定されていたが千切れ、鎧が丸太を軸に回転した。

「おお! もしか君は"転槍"の娘か!」

「なに、オヤジのこと知ってんの?」

突然試験監督の男がアリサに尋ね、アリサもそれに応える。

「あぁ、現役だった頃に助けられた事があってな……そうかい、どこで何をしてるのかと思えば、こんな近くにいたとは……」

「フレドリックさん、早く進めてきださい!」

「おぉ、すまんすまん」

試験の男──フレドリックというらしい──に、學園の職員が注意する。

といっても、それは怒りや憎しみが籠っている様子はなく、苦笑をらしながらそう言うのである。

それはともかく、フレドリックとアリサの父は、昔冒険者だったようで、その子供のアリサも確かな腕前を持っていた。

アリサは一禮すると、列の方へ戻りながら、ロザリーに眩しい笑顔を向けるのであった。

順は進み、とうとうロザリーの出番がやってきた。

前の人が肩を落とし、隣に戻ってきたタイミングで、ロザリーは1歩前に出る。

「…………83ばん、ろざーりあ・れいぜん」

「うむ。無理せず頑張れ!」

きれば、いい──寢ぼけたまま上手く働かない頭で、ロザリーはそう結論付ける。

ロザリーは、以前にも使った黒い剣を鞘から引き抜く。

黒曜石にも似た、刃先がき通った波紋の広がる剣。そのは、黒と表現するにはし複雑すぎる合いであった。

とんでもない業なのは分かる。しかし、いったい素材はなんだ?

フレドリックは一瞬考え込むが、すぐさま自分の役割を思い出し、を注視する。

ロザリーは1歩、2歩と……件を構えるでもなく歩いて行き、その剣をばして、ギリギリ當たらない位置まで來ると、殘像を殘して1歩踏み込んだ。

剣は薄く、鎧に當たった瞬間にそのきを留めた。

ロザリーが肘や腰、膝をクッションにして、剣にかかる力を限りなく0にしたのである。

そうして今度は、踏み込みながらを捻っていき、剣をらせるように橫に抜けていく。

そのきは、ロザリーが勇者カツヒトであった頃に完させた、大和流やまとりゅう円流えんりゅうじゅうけんじゅつという似非エセ剣であった。

全てのきに丸みを與え、剣の切れ味を最大限に引き出すこの剣は、ガラスの様に薄く脆い黒剣と相が良い。

なんと鎧を貫通し、支柱である丸太を中程まで切り裂いてしまったのである。

「……っ!」

フレドリック含め、小さくほっそりとしたロザリーを見していた者達は、洩れなく息を飲んだのであった。

しかし、そのしくも奇怪なきと、現実離れした結果にに、疑いの聲を上げる者もいた。

「──い、インチキですわ!」

剣を納め、列に戻ろうとしていたロザリーは、こてんと首を傾げた。

その聲は、問題を起こして注目を集めていたエリザベートのものであるが、思わずそれに同調してしまう者もちらほらと出てきたのである。

それ程までに信じ難い景だったのだろう。

そのざわめきに対し、フレドリックは冷や汗をかいていた。

一冒険者として、ロザリーの剣技が尋常でない域に達していることは確信していたが、それと同時にその手に握られた剣もまた、通常のものとは一線を畫す業であることも見抜いていたのである。

「──すまないが、學園の剣でもう1度やってみてくれないか?」

そこで、騒ぎが大きくなる前に、フレドリックはそう提案した。

「……?」

「……あぁ、すまない。剣の質が良すぎて、上手く実力が測れないんだ。すまないが、頼めるか?」

フレドリックが申し訳なさげに言うと、ロザリーはこくりと頷き、フレドリックから剣をけ取る。

そして先ほど斬った鎧の、隣にある鎧の前に立った。

今度こそは不正を暴かんとばかりの眼差しが集まり、空気が痛いほど張り詰める中、ロザリーはそっと構える。

――數秒の間、誰かが瞬きをした瞬間、ロザリーは一歩踏み込んでいた。

水平に薙がれた剣は鎧に當たると同時に、弧を描く様にった。

ギギギギギッ──!

金屬同士がれ合う、鼓を突く音が響き、今度も鎧の側まで刃が達した。

(ふむ、技は素晴らしい。見たことはないが、おおよそ理想的なきだ。それに見た目に反して能力が高い)

フレドリックはエントリーシートに書かれた「種族不明」の文字を見返し、剛力な種族のが流れているのかもしれないと納得した。

「よし、戻っていいぞ。剣の腕前は大変素晴らしい。これからも技を研いてくれ。──では次!」

ロザリーが列に戻ると、周囲がざわめいていた。

人間離れした貌に、を持ったことがあるのかすら疑わしい程ほっそりとした付き。そんなが鎧を斬ったのだ。

好奇の目が集まるのも無理はない。

しかしそんなことを気にした様子もないロザリーに、ディアは苦笑をもらした。

「──姫様、お疲れ様でした」

「……んん、つかれてない、よ」

ディアは仕えているの服をほろい、労いの言葉をかけるのであった。

その後は特に問題も起きず、人數もなかったため、數十分で検査は終了した。

次は魔法検査となったのだが、ここでロザリーは頭を悩ませることとなった。

(魔法、使える……?)

元より魔・ ・が使えず、またロザリーになってからも魔法も魔使ったことがないのだ。

果たして使うことが出來るのか……。

魔法には屬があり、火・水・風・土・無・・闇の7屬がある。

は、回復魔法や能力上昇バフ。

闇魔法は、破壊魔法や能力低下デバブ。

また珍しいで呪や死霊

無屬はその他の屬に當てはまらない──例えば召喚魔法や浮遊魔法がこれにあたる。

また雷魔法は本來存在せず、形式的に無屬に分類される。

他には霊魔法というものもあって、目には見えない霊の力を使うもある。

エルフなら風や水の霊と。ビッグドワーフなら火と土の霊と相が良いと言われる。

さて、以前は想像と魔力で、どんな屬の、どんな魔法でも再現する事ができた勝人だが、識別や異空間収納が使えない所を見るに、「魔法」も使えないのではないか。

ロザリーはそう踏んでいた。

またこの世界で言う魔法(勝人としては魔)は、魔力を魔法に組み立てるために、正しい詠唱や魔法陣が必要だ。

使い慣れれば詠唱短や詠唱破棄も可能だが、その本には厳粛な──設計図や電子基板の様な、緻な“式”がある。

その式を學び、使って來なかった勝人、ロザリーに“魔”が使えるとは、自分自、到底思えないのだ。

ロザリーが考えに更けている間にも、順は進む。

各々がファイヤーボールや、アクアボールを鎧に當てる中、エリザベートは派手な土魔法(植魔法)を使ったり、ウィリアムは鋭い風魔法を放った。

一方アリサは魔法の才能がないようで、威勢のいい掛け聲虛しく、不発に終わった。

そしてとうとうロザリーが検査をける番になった。

「……83ばん、ろざーりあ・れいぜん」

なまじ検査で目立ったばかりに、現在ロザリーにはかなりの注目が集まっていた。

「よし、自分のタイミングで始めて良いぞ!」

大量の視線の中、ロザリーは的に向かってほっそりとした手をばし────

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