《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》22話 2-3 

らかく降り注ぐ、正午前。

地上四階建ての木造の建がそびえ立っていた。

長方形の窓が規則正しく壁面に並び、要所要所にはデザインとして、明るいのレンガが使われている。

の大きさは、一軒家を2、3軒繋げた程で、小さなマンションの様である。

そう、この建は、これからロザリーが暮らす學生寮である。

聖教會立全世界開放學園の學生寮は、全部で6棟ある。

男子寮、子寮共に3棟ずつあり、男子寮は剣の寮、槌の寮、槍の寮。子寮は本の寮、弓の寮、爪の寮となっている。

そして今ロザリーがいるのは、本の寮である。

寮の見た目に大きな差はなく、男子寮とくらべ、子寮では窓から鉢が吊るしてあったりする程度だ。

ロザリーとディアがそんな寮を見上げていると、口から歳をとったが出てきた。

長はそこまで高くはないが、見た目の年齢の割に背筋がび、若々しく見える。

は、白い髪を首元でまとめ、シワだらけの顔に優しげな笑みを浮かべていた。

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「あらあら、貴は新生の子?」

予想に違わず、おっとりとした喋り方で、慈が濃く滲み出ている。

「ん……」

「そうなの、そうなの……私はこの本の寮の寮長をしています。ミヤネです。貴のお名前は?」

「ろざーりあ・れいぜん」

「あ、私は従者をしています。ディア・マーティです!」

「ロザーリアちゃんに、ディアちゃんねぇ。これから、よろしくお願いします」

「よろしく、ます……」

「よろしくお願いします! ミヤネさん!」

私はこれから用事があるから、寮にって、201號室のサブレさんから説明をけてね。ミヤネはそう言い殘し、校舎の方へ歩いていった。

扉を開けてると、目の前には長い廊下が続いていた。

床は木張りで、壁の下三割程は、木がってあり、そこから上と天井はクリームの壁紙がられている。

右手には窓口があり、隣の扉には寮長室というプレートが留められていた。

し進むと、左手に扉のない部屋があった。

そこは人が20人ほどはくつろげそうなホールで、ソファやテーブル、観葉植が置いてある。

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天井からはそこそこ豪華なシャンデリアがぶら下げられていた。

おそらく、流スペースであろうその部屋には、數人の學生が談話していた。

そこを通り過ぎると、右手に階段、奧に部屋が2つほど見えた。

ロザリーとディアはひとまず、階段を登る。

木製の階段は、重をかけるとギシギシを微かな音を立てるが、しっかりとした作りなのか不安はない。

踴り場を過ぎ、二階に上がると、そこは寮生の住む部屋が並ぶ、長い廊下があった。

一階と違い、共用のスペースがなく、その分個人の部屋があてがわれていた。

左に曲がり、一番端――寮長室の真上だ――の部屋の前へ行く。プレートには201の文字が。

ディアがノックをすると、中から返事が響いた。

扉が側から開き、一人のが顔を出した。

「あら、見ない子ね。新生の子?」

「ロザーリア・レイゼン」

「従者のディアです。あの、あなたがサブレさんですか?」

「うん、そうだよ~。ま、とりあえず中へりなよ~」

は17歳位の人間だった。濃い水のロングストレートヘアーに、赤い眼鏡を掛けていた。

授業があったのか、これからあるのか、學園の制服の黒いブレザーを著ていた。

  室は八畳間程の広さで、ベッド、クローゼット、機が2つ、左右対稱に並べられている。

なお、相部屋であることは事前に知らされていて、ロザリーや貴族などは、従者を一人だけ連れて學生生活を送ることが出來るのである。

寮も、その従者と同じ部屋になることも出來る。

この全世界開放學園はその名の通り、より多くの人、スラムの人や獣人なども通えるようにと、基本的には學金、授業料、寮における費用なども大変安い。

しかし従者は正式な生徒で無いため、また経費不足を養うため、そういった経費がかなり高く設定されている。

もちろん吸鬼の神祖であるヴラキアースからすれば些細な金額だが、ディアと共に學園生活を送るには、実はかなりの金がかかっているのである。

さて、サブレに招きれられたロザリー達だったが、お茶をもらったりお菓子をもらったりばかりで、寮の説明が一向に始まらない。

そのまま10分、20分と過ぎていき、いい加減ロザリーが船をこき始めた頃になって、突然部屋のドアが開かれた。

「あら、お客さん? 失禮したわね」

「あ、おじゃましています……!」

意識が飛びかかっているロザリーの代わりに、ディアが挨拶をする。と、それまで景気良く話していたサブレが突然慌て始めた。

「あ、あら、隨分と早かったのね! 魔法薬學の授業はどうしたのっ?」

「それなら今週は休講だったけど……怪しいわね、また何かしでかしたんじゃないでしょうね?」

「また……?」

ディアが不審そうに首を傾げると、慌ててごまかすサブレ。

「なんでもないのよ! ほんと、気にしないで!」

「その反応、やっぱり何か隠しているでしょう、フレア!」

「あっ」

「えっ?」

「んっ?」

上から順に、サブレ、ディア、ってきたである。

「あの、この方って、サブレさんで良いんですよね……?」

「良くないわ……サブレは私。これはフレア」

「と、言うことは……」

ディアが、サブレ(フレア)がいた方に首を向けると、そこにはそろりそろりと部屋を抜け出そうとする彼の姿が。

「さてフレア、どこに行くのかな~?」

恐ろしい笑顔で、サブレ(本)がフレアの襟を摑んだ。

「ごめんなさいごめんなさいっ! ちょっと新生とお話してみたくて……!」

「へぇ、貴にとってお話って、名前を偽って下級生をおもちゃにすることなのね……?」

「ひぃっ!?」

ロザリー達からは見えないが、サブレの恐ろしい様相は、フレアの表から察することができたのである。

「さて、ごめんなさいね、うちのフレアが……。悪い子じゃないんだけど、ちょっといたずら好きなのよ……」

「あはは……だ、大丈夫です。気にしてませんから……」

死骸となったフレアを部屋にし、ロザリーとディアはサブレに寮を案されていた。

「1階は寮長室、談話室、食堂、共用浴場があるわ。食堂は朝は6時から8時、晝は11時から2時、夜は5時から8時まで開いているわ。

調理や片付けの邪魔にならなければ、自分で食材を用意して、調理して食べるのは構わないわ。夜食を作ってる人が割りといるしね。

あと共用浴場は、シャワーだけなら24時間れるけど、湯船に浸かりたいなら夜7じから10時までしかお湯を張ってないから、気をつけてね。

それから、門限は夜8時まで。朝は4時から出られるわ。

門限を遅れるにしても、ちゃんと簡単な書類を出しておけば問題ないから、誤魔化さないでね」

1階にある部屋などを一通り見て回り、一行は2階へ。

「2階から上階は全部個人の部屋よ。構造はみんな一緒で、ベッド、機、クローゼットは備え付け。自分の家から持ってきたもっと良いを使いたいなら、各自1階の倉庫に元のを運んでね。

それで、端の部屋が私とフレアの部屋。私は一応責任者でね、寮長の補佐みたいなものよ」

そしてロザリー達は、3階へとやって來た。

「さて、貴達2人の部屋はここよ。312號室。必要なものは自分で調達してちょうだい。あと、自分の部屋は自分で綺麗にしておくこと。

學園生である自覚を持った生活を心がけるように――っていうのは決まり文句なんだけど、あまり羽目を外しすぎて問題を起こさないようにね」

「ん、わかった……」

「はい、心得ました!」

「じゃあ、私は戻るけど、困ったこととかあったら遠慮なく201號室にきてね」

「はい! これから、よろしくお願いしますね!」

「ます……」

「えぇ」

そうしてサブレは、にっこりと優しい笑みを浮かべて階段を降りていった。

それを見送り、部屋にる2人。

「……いい人そうでしたね」

「ん……」

「新しい生活が始まりますね……」

「ん……」

「楽しみ、ですよね……」

「ん……でぃあ?」

言いながら、段々と聲が沈んでいくディアを不思議に思ったのか、ロザリーがディアの顔を覗き込もうとする。

すると、ディアは辛そうな、何かを悔やんだような表を浮かべていた。

「姫様……私、不安になっているんです。新しい環境で、新しい人達に囲まれて、お友達を作って、姫様のためになる……そう思って、學園への學を勧めたんです。

ですけど……」

ロザリーは父であるヴラキアースが大好きだった。あの城で、十分幸せに暮らしていた。

もし自分の、この勝手な幸せの押しつけが、主人を不幸にしてしまったら。もし、辛い思いをさせてしまっていたら……。

ディアは沈痛な面持ちで、そうを明かした。

痛いほどの夕焼けが、窓から差し込む。

「……ディア」

「姫様……?」

自分よりも背の低い、ロザリーの顔すら見えない程に俯いたディアは、そっと自分を包み込むらかな溫もりに顔を上げた。

ぱっちりと開かれた目に、ハキハキとした聲。

夕方になり、目が覚めてきたロザリーは、ディアに微笑みかける。

「だいじょうぶ。お……わたしは、しあわせだよ」

鬼の冷たい。しかしそこからは、とても暖かい気持ちが、を通じてディアへと伝わっていた。

それ以上、なんと言っていいのか分からなかったのか、ロザリーは口を閉ざした。

しかし、ディアにはそれで十分だったようだ。

2人はそのまま、夕食の鐘が鳴るまでそうしていたのであった。

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