《どうやら勇者は(真祖)になった様です。》25話 2-6 授業2
授業は進み、各人が素振りをしている。
鎌使いの講師ジャックは、生徒1人1人の元に足を運び、丁寧に指導して行った。
不真面目そうな見た目に反し、は真面目なのかも知れない。もしかすると、わざと浮ついたキャラを演じているのかも知れない。
生き生きと指導する彼の表は、純粋に鎌使いが増える事を喜んでいる様にも見える。
絶対的に人口のない鎌使いだからこそ、鎌へのが強いのだろう。
そしてジャックは、ロザリーの所へ回ってきた。
「おうおう、お前は大鎌使ってんのか。好きだねぇ」
そういってロザリーの素振りを見し始めるジャック。
おちゃらけた態度とは裏腹に、その瞳はロザリーの素質を見極めようとするかの様な、真剣なものだ。
そして、その細められた目が見開かれるのには、そう時間がかからなかった。
「……お前、どこでそのきを學んだ?」
「……」
「いや、門外不出だってんなら無理に言わなくて良い。ただ、相當な腕前だ」
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お前ならすぐに立派な鎌使いになれるだろう。そうジャックは呟いた。
実は、ロザリーとジャック、その戦い方にはある共通點があった。
それは、足遣いである。
ロザリーの使う剣、つまりは勇者勝人の大和流円流剣は、敵の間合いにる時、また斬る時に獨特な足裁きをする。
それは円を描く様な足裁きである。
敵の攻撃する線を外しつつ、自分の攻撃する線に相手を捉える。
そうして一気に潛り込み、敵を切り払うのが真髄であるのだが、それはジャックの使う鎌と似ているのである。
鎌はその構造上、通常の直線的なきでは最大限の力が発揮できないのだ。また、刈り取る作をする為に、鎌の間合いは非常に狹い。
相手の攻撃を抑えつつ、急接近しなければならない為、そのきは蛇のような、獨特の曲線を描く。
そう、ロザリーのきは、ジャックのそれと似ているのである。
ロザリーはジャックのパフォーマンスを見た時に、ジャックはロザリーの素振りを見た時に、それに気付いたのだ。
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「……そうだな、もしお前が鎌を本格的に學びたいってなら、街の冒険者ギルドに手紙を送ってくれ。まあ、その気があるなら、だがな」
その後、1、2點アドバイスをして、ジャックは隣の生徒の元へと去って行った。
「──ってことが、あった」
「へぇ、すごいね! ロザリー」
「先生に気にられるなんて、やるね―!」
「それで、どうするんですか? 姫様」
その日の放課後、學園の敷地にあるカフェでロザリー、ディア、アリサ、ヘンリーの四人は集まっていた。
學にあるだけあり、メニューに書かれた金額はどれも良心的だ。
ロザリーは紅茶を啜りながら、武の授業であったことを話したのである。
「……?」
「鎌を習うなら、手紙を送る様言われたんですよね……それで、姫様は使いたいんですか? 鎌……」
どうするのか、という曖昧な訊き方にロザリーが首を傾げると、ディアは確認するように尋ねた。
アリサやヘンリーも興味津々といった様子でロザリーの答えを待つ。
「……かま、かっこいい」
「ってことは……」
「てがみ、かく」
どうやらロザリーの答えは決まっていた様である。
「ロザリー、すっかり鎌が気にったんやねー」
「……でも、実際どうなんだい? 鎌って」
鎌とは、武としては相當使いにくいであるはずだ。格好良さだけで選ぶにはリスクがある──暗に、ヘンリーはそう言っているのである。
「……なれ」
「な、慣れかい……」
事もなさ気に言うロザリーに、顔をしかめるヘンリー。
「じゃあ、帰りに便箋を買っていきましょうか~」
「ん」
相変わらず無表に、それでいてどこかワクワクした様子で、ロザリーはもう1度カップを傾けた。
「──さて、今日君達に使ってもらうのは、これだ」
灰の髪を無造作にばし、やる気のなさげな視線で生徒たちを一瞥する男教師。
その右手には、ランプが握られている。
しかし肝心の火を燈す部分には、火を燈すロープがなかった。
「これは見たことぐらいあるだろ。を発生させる魔道だ。
魔法構造學を學ぶにあたって、まずは基礎中の基礎、ランタンの魔道を作ってもらう」
そう、この授業は魔法構造學の実技の時間である。
これまでは座學で、魔方陣などについて學んできたが、いよいよその仕組みを再現する過程まできたのだ。
「いやぁ、授業ほとんど寢てて全然おぼえとらんなぁ……ロザリーちゃんはどお?」
「ん、たぶん、大丈夫」
數人で集まって、班を何組か形し、各班で魔道を作り提出する。それが課題だ。
ロザリーは、アリサともう2人の4人で班を作っていた。
「えっと、魔方陣を描いて、その魔力供給源として魔石を置くんだよね……」
「うん……」
「を生み出す魔法陣かぁ……たしか、無屬やったはず」
「そのものは、無屬。屬は、回復に能力アップ」
「まあとりあえず、紙に書いてみましょう」
4人は相談しながら、魔法陣を描いていく。
魔方陣は円が基本だ。力の循環・集中と、魔法がり立つ土臺や領域をあらわすのだ。
そしてその中に、魔法の設計図を書き表すのである。
それは実は數式の様なものであって、簡単なもので、仕組みをしっかり理解していればそれほど難しいものでもない。
魔法構造學の授業をしっかりとけているものならば、実はヒントが無くても作ることができる程度の課題だ。
ロザリーはすでに回答が思い浮かんでいたが、見た目はくても中は人済み。
グループの子達に考えさせようと、要所要所ヒントを與えながら作業を見守った。
「ようし、これならできるはず!」
「先生に確認してくるね!」
そして出來上がった魔方陣は、教師に提出し、正解であれ不正解であれ、発しても問題なしと判斷されれば、魔力の塊、魔石を渡される。
「オーケーもらえたよ!」
「じゃあ、こっちの臺座に魔法陣を書き寫して、発してみましょう!」
もちろん、この紙に描いた魔方陣は清書しなければならない。
ただの黒いインクだと魔力が上手く流れないのだ。
魔方陣を書くには、魔力伝道の良い質を使わなければならない。
授業ではあまり伝導の良くない、安いが使われる。
「うーん、これでいいかな」
「……たぶん、大丈夫だと思う」
「よーし、はつどうしてみるか!」
そしていよいよ、その時。
ランプの臺座に魔法陣を書いた円盤を置き、魔力供給源となる魔石を中央にはめる。
後は魔石から魔力を引き出す“魔力呼び”を行えば、陣は発する。
張が高まる。
ロザリーとしては、生まれてから初めての魔法だ。見慣れたはずの現象にが高鳴った。
4人を代表してアリサが、魔力呼びを行う。と言っても、魔石にほんのし魔力を注ぎ、魔石から魔力を溢れさせるだけなので、誰にでもできる作業なのだ。
ちなみにじゃんけんで決まった。
一瞬他の三人に目配せをし、アリサがそっと魔力を流し込む――と、一瞬魔方陣が輝き、その上にの玉が生まれた。
「……! やったぁ!」
そのに照らされた4人の顔が、明るくなった。
魔的な明かりは熱は発しないものの、人工的なと違って寒々しさもない。
むしろどこか溫かみのあるそのは、太のにも似ていた。
それからは、各々がランプを點けたり切ったりとして遊んでいた。
「あれ? ロザリーちゃんさっきから見てるだけじゃん。ほら、やりなよー」
それを黙ってみていたロザリーに、ランプが回ってきた。
禮を言い、差し出されたランプに手をばす。
明かりが著いたままのそれにランプに指がれた、その瞬間。
――ピキンッ
「えっ?」
突然、明かりが消えた。
明かりが消えただけでなく、その発生源である魔法陣、その中央にはめられていた魔石に、ひびがっていた。
「あー、これは魔石の魔力切れだね~」
「なんやそれ」
「……授業でならった。魔石のなかのまりょく、なくなると、ませきこわれる……」
「あらら……ついてないわねぇ」
その後、教師に魔石の代わりがないか訊きに行ったが、殘念ながらもう魔石は無いと言う。
「うーん、落ち込まないで、ロザリーちゃん」
「だい、じょぶ……」
ロザーリア・レイゼン。見た目はいでも、中は人済み。
こんなことでは落ち込まないのだ。
「あ、あとでお菓子あげるか――」
「おかしっ!?」
その言葉にうつむきがちだった顔を勢いよく上げるロザリー。
瞳を輝かせる銀髪のに、三人は苦笑いで顔を見合わせるのであった。
その夜、ロザリーは部屋にいた。
ディアはすでに眠っている。
「……たぶん、原因はわかった」
『やったじゃん』
部屋の主である銀髪のは、暗闇に幽鬼のような赤い瞳を向けた。
その視線の先には、誰もいない。あくまではたから見て、だが。
ロザリーの視界には、けるように宙に浮く、自分と同じ姿形をした何かが見えていた。
それはロザリーの“ロザリー”としての意識の塊だ。
勝人としての意識が目覚めた影響なのか、こうして現れるようになった霊のような何かは、晝間はその姿を現さない。
それは吸鬼だからなのかどうなのか。ロザリーには判斷できなかったが、あまり興味を持っていなかったため問いただすことも無かった。
「かくしんは、持てない。……でも、まちがっていないはず」
『たしかめないの?』
「あした、たしかめる」
そう答えたロザリーの視線は、手のひらの中で転がるひび割れた魔石に移されていた。
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