《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第九話 不穏な気配③
「それはマズイですが……しかしやはり気になります。どうしてフルたちを狙うのですか? 正直な話、フルたちを狙う理由が全然理解できないのですが。納得できる理由を説明願えますでしょうか?」
「うむ、出來ることならあまり口外したく無かったのだが……急事態だ。致し方あるまい。実は――」
そしてラドームはサリー先生に、フルの正を明らかにした。
それを聞いたサリー先生は絶句して、何も言えなかった。
「まさか、そんな……」
「そんなこと、斯様な平和な世の中では想像出來ないだろう? もっと言うならば、必要ない存在だと言ってもいいかもしれないな」
「確かに……そうかもしれませんが、しかし、そうなると、いずれこの世界に……」
「ああ。何らかの災厄がやってくる可能はある。そして、その日はもう、そう遠くない」
ラドームの言葉を聞いて、サリー先生は自分が何をすればいいのか――考える。
結論を考え付くまでに、そう時間はかからなかった。
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「では、私はフルたちを助けるためにトライヤムチェン族の集落に向かいます」
「うむ。そうしてくれ。ルイス・ディスコードがどれほどの実力かは解らない。學校の実力ではまずまずの績だが……『十三人の忌み子』の一人であればその績は噓の績かもしれない。だから、実力は――」
「未知數、ですね」
こくり、とラドームは頷いた。
◇◇◇
「まあ、いい」
ルイスは、サリー先生という予想外の相手が登場したにもかかわらず、その反応は至って冷靜なものだった。
まるでこのような事態になることを予測していたかのように。
「……どうやら、予測していたようね? 邪魔がることを」
「當然だ。邪魔がらないと思うわけがあるまい。むしろ、邪魔がるという前提で進めていたのだから」
そう言ってルイスはあるものを取り出した。
それは卵だった。掌に乗るほどの大きさであるそれを握りしめて、ルイスはサリー先生のほうへとそれを投げた。
「マズイ!」
サリー先生は慌ててそれをバリアで守ろうとしたが――間に合わず、まともにその卵をけてしまった。
「「サリー先生!!」」
僕たちは三人、同時にサリー先生の名前をんだ。
サリー先生は倒れることは無かったが、小さくうめき聲をあげていた。
何か口を開けて言っているようだったが、それはフルたちに聞こえることは無かった。
「まさか……あれは『マジック・エッグ』!?」
メアリーの言葉を聞いて、フルはそちらを向いた。
「知っているのか、メアリー!?」
「ええ、あれは錬金師にとって簡単に式やを封じ込めることができる代なのよ。だからあれを使うと、魔法をたとえ使えなかったとしても使うことができる……」
「さすがは神の一族。そういう技については一家言あるようだ」
ルイスの言葉に首を傾げるメアリー。
そういえば幾度となく神の一族と誰の代名詞か解らない言葉を言っていたけれど、誰の代名詞なんだ?
「あなた……どうして知っているのよ」
「知っている? ああ、別にいいじゃないか。その報の出どころくらい。君に言ったところで何も変わらないけれど、だからこそいう必要は無い。だから僕は言わない。代わりに、サリー先生にしてあげた魔法の説明をしてあげるよ」
そう言ってルイスは鼻で笑った。
「サリー先生にかけた魔法は『ダークネス』。名前を聞けば解るかもしれないけれど、五を封じ込める魔法のことだよ。殘念だったねえ! 突然やってきた先生は救世主になるかと思っていただろうに、五を封じる魔法でいとも簡単に無効化されてしまうのだから! アハハハハハハ!」
ルイスは高笑いする。
確かに、僕たちの置かれた狀況は最悪の一言で説明できる。それほどにひどい有様だった。
メアリーとルーシーの実力を僕は知らないけれど、一年生ということを考えるとそこまで強力な錬金は使えないだろう。僕は言わずもがな、サリー先生が一番の実力者だったのに目と口を潰されてしまってはもう何も出來ない――。
(フル、聞こえるかしら?)
それを聞いて、思わず僕は耳を疑った。
だってその聲はサリー先生の聲だったのだから。サリー先生は、正確に言えば、脳に聲を伝達させていた。テレパシー、とでも言えばいいだろうか。
僕は思わず聲を出してしまいそうだったが、すんでのところで抑える。だって、それがばれてしまえば気付かれてしまうからだ。五を封じ込めたにも関わらず、テレパシーで疎通ができると解れば、もしかしたらそのままサリー先生を殺してしまうかもしれない。
(先生、大丈夫ですか?)
だから僕も脳に聲を出すことで、それにこたえようとした。果たしてそれでテレパシーの使用方法として合っているのか解らないけれど、とにかく今は必死にサリー先生の言葉に答えようと思ったからだ。
(ええ、大丈夫よ。……と言っても、やっぱりあのルイスの言った通り、五は全部封じられちゃったけれどね)
封じられちゃった、って隨分軽い説明になるんだな。そう思ったけれど、それは言わないでおいた。
「さて……どうしてくれようかなあ? あとは、無力化しているに等しい三人だけだし、どうとでもなるよね」
「おぬし、ここがどこだか忘れているようだな?」
すっかり誰も言っていないけれど、発言に暫く參加してこなかった村長が口を開いた。
「部外者は黙っていてもらおうか。それとも、死にたいのか?」
「この村でそんなことをしている時點で、この村の長である私は部外者ではないと思うがね?」
「屁理屈を」
「さて、どうかな?」
そう言って、村長は手を合わせる。
「……まさか」
それを見たルイスの目が丸くなる。
「先住民族は魔法や錬金など使えないと思っていたか? だとすればそれは大きな間違いだよ。……食らえ!」
そして、手を放すと――村長の両手から、炎が放たれる。
距離にしてほぼゼロ距離。避けようにも防しようにも、時間があまりにも足りなかった。
そしてルイスはその炎をモロにけた。ルイスの周りが白い煙に包まれて、いったいどうなったか解らなくなる。しかしその場は見守るしかない。そこでいて煙の中にってしまうと敵の思う壺だ。
だから僕もメアリーも、もちろんルーシーもほかの人も、その煙が晴れるのを待つしかなかった。
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