《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第二十三話 エルフの隠れ里①

エルフの隠れ里に向かうまで、そう時間はかからなかった。

距離にして――と説明するのは難しいので、時間で説明するとおよそ二十分程度。話をしていると気付けばもう到著していた――そんなくらいの時間だった。

とはいえ話なんてそんなこともあまり盛り上がらなかった。自己紹介をして、ぎこちない會話をした程度。

エルフの隠れ里に著いて、最初に異変に気付いたのはルーシーだった。

「……なんか臭くないか?」

鼻を抓みながら、ルーシーは言った。

彼の言う通り、鼻が曲がりそうな酷い匂いがした。正確に言えば、の匂い。

ガリ、ボリ、ボリ――。

次いで、何かを噛み砕くような音が聞こえた。隨分と節とマナーのなっていないやつだ、そんなことを思っていた。

しかし、森の影に隠れていたのは――そんなことが言えるようなモノでは無かった。

それはまさに異形と呼べるような存在だった。普通、ドラゴンか何かだったら、顔は一つしかない。それは生きそれぞれが持つルールのようなものであって、たいていそのルールを守っていない生きはいない。

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しかし、それは顔が幾つもあった。

それだけで元來生きている生きとは違う存在であることが理解できる。

そして、それは巨大すぎた。森に隠れている程度、とはいえ數メートルはある。僕たちのと比べればその大きさは一目瞭然、太刀打ちしようにもできるはずがなかった。

そして、その異形はあるものを食べていた。

それは小さな人のように見えた。

なぜそう言えるかというと、足らしきものが異形の口から見えたからだ。そして、同時に地面を見ると、薄く輝いている羽らしきものも見える。

――それは、紛れもなく、エルフだった。

「噓……だろ? まさか、エルフを食べているというのか……!」

ミシェラの言葉を聞いて、僕も現実を再認識する。

エルフ。またの名を妖。空を華麗に舞い、自然霊とも言われている神的な生

それが今、異形によって見るも無殘な姿になっている。

「い、いや……」

見ると、メアリーが今にも大聲を上げようとしている。

怖いと思っているのは、仕方がない。

しかし、今大聲を出されてしまうとあの異形に気付かれてしまう。

それは出來る限り避けたい。

だから、僕はメアリーにそっとささやいた。

「気持ちを抑えて。びたい気持ちも解るけれど、今気付かれたら一巻の終わりだ」

「……そうね、ありがとう、フル。もしあなたが言ってくれなかったら、私はんでいたかもしれない」

メアリーはどうやら我に返ったようだ。

さて、ここからスタートライン。

対策をしっかりと考えていかねばならない。どのようにしてあの異形を対処していくか。

「おそらくあの異形が居るからこそ、エルフたちはエルファスに向かうことが出來ないのだろう……。ここはもともとエルフが住む場所だ。エルフたちにとっては生まれ故郷と言ってもいい。その場所が破壊されようとしているのならば、ここを出するわけにもいかないだろう」

『その通りです、若人たちよ』

カーラの言葉の直後、僕の頭に聲が響いた。

どうやらそれは僕以外の人にも同様の癥狀が起きているようで、

「誰……?」

メアリーがその言葉について、訊ねた。

その言葉に呼び出されたかのように、目の前に小人が姿を現した。

そう、飛んでいた。

羽をはやし、僕たちに比べると六割程度の長になっているそれは、耳が斜め上の方向に尖っており――。

「もしかして――エルフ?」

そう。

そこに富んでいたのは、エルフそのものだった。

緑の髪をしたエルフは頷くと、

『いかにも。私はエルフです。あなた方人間が森のや妖と呼んでいる存在、それが私たちになります』

「……しかし、エルフと呼ぶのもどこかこそばゆい。それは君たちの種族名なのだろう? 君たちにも個を識別するための何か……そう、例えば、名前とか、無いのか?」

ルーシーの問いに、首を傾げるエルフ。

『殘念ながら、私たちエルフには名前がありません。すべて職業で認識されるためです。ですので、名前は――』

「解ったわ。じゃあ、呼びやすい名前を付けましょう。今からあなたはミント。いいわね?」

ミシェラはそう言って、ミントのほうを指さした。

ミントはその言葉を聞いて暫く首を傾げていたが、しして頷いて、笑みを浮かべた。

『ミント……ミント。ええ、いいですね。良い名前です。解りました。では、私のことはミントとお呼びください』

「ミントさん。それじゃ早速質問するけれど」

メアリーはそう前置きして、質問を開始した。

「エルファスにある大樹はどうして枯れてしまったのかしら? あれはあなたたちエルフが管理しているものだと聞いたのだけれど」

『……そうですね。確かにその通りです。本當ならば私が向かわねばならないのですが……あのバケモノにエルフを食べられてしまい、今、エルフは私しかいません。だから、ここを離れることが出來ない。それが現狀です』

「エルフが……一人しかいない?」

それを聞いて僕は冷や汗をかいた。まさかここまでエルフの狀況が酷くなっているとは知らなかったからだ。

『そう悲観することはありませんよ』

僕の表を見てからか、ミントはそう僕に聲をかけてくれた。

めの言葉になるのかもしれないけれど、しかし、実際どうするというのだろうか。そんな言葉を投げかけても、エルフは復活することなんてないと思うけれど。

『あなたはエルフを何か勘違いしているかもしれませんが……、エルフは自然から生まれる霊です。ですから時間さえ置けば幾らでも生まれるのです。……もちろん、管理限界はあるので、その人數を超えることはありませんが。しかしながら、あの異形が生まれた瞬間にエルフを食べてしまうものですから、溜まることはありません。私はどうにかして結界を張って、見つからないようにしていますが……。あの異形の頭が良くなくてよかった、というのが正直な想になりますね』

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