《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第三十二話 決戦、リーガル城③
ゴードンさんがそんなことを言ったが、きっとそんなことは無いのだろう。
紛れもない超人など、居るはずがない。きっと何らかのカラクリがあるはずだ。例えば、そう……。
「ゴードンさん。そのレイナという盜人は、魔師だったのではないですか?」
……僕がその結論について述べる前に、メアリーが先に到達してしまっていたようだ。というかメアリーも同じ結論にたどり著いていたというのか。まあ、別に問題ないけれど。
メアリーの話は続く。
「魔師ならば、すべて説明がつきますよ。そのレイナという盜人は転移魔法と変化魔法を使い分けているのです。だからこそ、誰も見つけることが出來なかった」
「馬鹿な……。魔師ならば、魔法を使うまでの間にインターバルがあるはずだ。詠唱や、円を描くこと。それについては、どう説明すると?」
ゴードンさんの意見ももっともだった。
魔法を使う上で必要なこと――詠唱とファクター、その二つをどのように処理すれば、瞬間的に魔法を行使できるのか、それがゴードンさんの疑問點だった。
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それについてメアリーは顎に手を當てて、
「たぶん、これは良そうですけれど……、きっと、省略することが可能だったのではないでしょうか? 『コードシート』を使えば、なくともファクターについては解決します。そして詠唱についても……技があれば省略は可能です。なくとも一言二言は必要になると思いますが……」
コードシート。
また新単語が出てきたが、まあ、名前からしておそらくコードをプリントした紙のことを言うのだろう。コード、とは魔法や錬金などを実行するときに円をファクターとして描きあげる特殊な図形のことを言う。普段はそのコードを実行時に描くものだが、それでは描いている間の時間がもったいない。
そういう理由で生み出されたのがコードシートだ。コードシートは使いたいところでそれを使うことで、あとは詠唱すればが発するらしい。――まあ、それはあとでメアリーから聞いた話なのだけれど。
「る程。コードシートですか。ははあ、私はあまり魔法には詳しくありませんが、コードシートならば聞いたことがあります。実用化出來ていませんが、それを実用化していずれは魔法を軍事転用しようと考えている研究者もなくありませんから」
まあ、それは當然の帰結かもしれない。
今まで一部の人間しか使用できなかった魔法が、コードシートの開発によって専門の知識を必要としなくなるのであれば、それさえ持たせてしまえば一般人にだって魔法を使うことが出來るのだから、それをうまく活用するには――やはり軍事転用しかないのだろう。単調な考え方かもしれないが、一番効率のいいやり方かもしれない。
「コードシートを使っている、ということにして……。ならば、詠唱については? メアリーさん、詠唱は省略可能なのですか?」
「技的には、可能です」
ゴードンさんの問いに、メアリーは即座に答えた。
一拍おいて、さらに彼の話は続く。
「正確に言えば魔法において必要な詠唱のみ行えば、魔法としては発できる、ということになります。魔法詠唱において必要なものは『承認詠唱』と『発詠唱』のみ。普段は必要最低限のコードを描き、それの補足として詠唱を行いますが……事前に用意しておけるコードシートを使用すれば、それらは完全に無駄になります。正確に言えば、コードシートにそれを含めて描いてしまえばいいのです。そうすれば、殘るのは承認詠唱と発詠唱の二つ。それらは多くて四つの単語で構されているので、十數秒もあれば詠唱は可能です」
「……要するに、コードシートさえあれば一分もかからずに魔法は発できる、と?」
こくり。メアリーは頷いた。
ゴードンさんは何となく理解しているような表を浮かべているが、殘りの兵士は首を傾げているばかりで何も言わなかった。どうやら何も解らないようだった。
まあ、當然といえば當然かもしれない。魔法を使うことが出來る人間は専門の技をに著けないと出來ないので、ただの兵士には魔法は使えない――そんなことを授業で習うくらいなのだから、きっと彼らは魔法についての知識は、一般市民が知る程度の基礎知識しか知り得ていないのだろう。
ゴードンさんは咳払いを一つして、さらにメアリーに質問を投げかける。
「しかし、そうなると問題はどこへ居なくなってしまったか? ということになる。コードシートは消えてしまうのか?」
「もしかしたら複合魔法を発しているのかもしれません。別に、一つの魔法陣から一つの魔法が生まれるわけではなく、一つのフローにそって複數の魔法を発させることが出來ます。ですから、転移魔法や変化魔法を行使したあとに、コードシート自を焼卻する魔法を使えば……」
「証拠が殘らない、ということか。なんてこった、なぜ今までこんなことに気付かなかったのだ……。気付いてさえいれば、簡単なロジックであるというのに」
確かに、気付いてさえしまえば簡単なロジックだ。
けれど、簡単なロジックは気付いたからこそ言える言葉であり、気付くまではいったいどうやって行使したのか解らない。即ち超人しか出來ないことではないか? ということを案外勝手に思い込んでしまうものだ。
しかし、それにしてもメアリーはどうして自分の専門以外の知識も持っているのだろうか? 授業で習った――ということでもなさそうだし、はっきり言って、錬金と魔法は基本が一緒であるとはいえ、その仕組みの殆どはまったく異なるもののはずだ。だとすれば、メアリーが仕組みを理解できているというのは、やはり誰かから教わった――ということになるのだろうか。
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