《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第四十四話 炎の魔師②
「……熱い」
僕は深夜、熱さで目を覚ました。
目を開けると、カーテンの向こうが赤く照っていた。
……もう朝か?
しかし、朝のにしてはとても赤すぎる。それに、まだルーシーは寢息を立てている。
ならば、何だというのか?
カーテンを開けた僕の目に広がったのは――燃え盛るバイタスの區々だった。
「ルーシー、起きろ! 大変だ、町が燃えている!」
僕はそれを見て、大急ぎで、慌ててルーシーを起こした。
ルーシーは當然すぐに起きることは無かったけれど、強引に何度も揺り起こした。
ルーシーが起きたのはそれから數十秒後のこと。とても気分が悪そうに見えたが、そんなことはどうだっていい。あとで謝罪すればどうとでもなる。
問題は現狀の把握。そして、どうすればいいかという解決策の考察だ。
「……ううん、どうしたんだよ。フル、そんなに慌てて」
「慌てている場合なんだよ! いいから、急いで目を覚ましてくれ。話はそれからだ!」
何度も叩き起こして、ようやくルーシーは起き上がった。そしてしして、窓から見える景を見て――目を丸くした。
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「おい、これっていったいどういうことだよ……!」
「だから言っただろう!! この狀況、いったいどういうことか……取り敢えず、メアリーとレイナだ。彼たちが無事かどうか、確認しないと!」
そうして僕たちは大急ぎで著替えると、メアリーたちが居る向かいの部屋へと向かった。
向かいの部屋の扉をノックして、扉を開ける。急事態だったので暴になってしまったが、この際仕方がない。
扉を開けるとそこに広がっていたのは――炎だった。
「……また、しだけ遅かったね」
一人の男が溜息を吐いて、僕にそう言った。
メアリーとレイナの姿は無く、代わりに一人の男が立っている狀態になっていた。
「メアリーと……レイナは?」
「それを君に伝えるメリットがあるとでも?」
「メリット、だと……!」
一歩踏み出したのはルーシーだった。
ルーシーはそのままその男に向かって走り出すのではないかと一瞬考えたが、彼もかれなりに考えているのだろう、その場で立ち止まった。
炎のように燃える髪を持つ男だった。赤いシャツに赤いズボン、それを際立たせる白いネクタイを著用した男は大人びた格好こそしているが、その表は僕と同じかそれよりも若いように見える。
男は笑みを浮かべる。
「君が……予言の勇者だね。ああ、何で知っているのか、ということは言わないでいいから。僕には僕なりの報網があるということだよ。それについては語ることはしなくていいよね」
「さっきからべらべらと……。いいから、メアリーを、レイナを、返せ!」
僕は男に対して、剣を向ける。
しかし男はそれでも表を変えることは無かった。
「それは噂のシルフェの剣、だね。けれど、それで勝てると思っているのかな? 解っていないようだから教えておくけれど、僕はこの町を火の海にしたのだよ。それだけで僕の実力は理解してくれるかな? あと、こちらには人質が居る。それだけで、それを聞いただけで、君たちにとって相當不利な狀況であることは充分理解できると思うのだけれど?」
それは彼の言う通りだった。
僕は未だ數日程しか魔法、剣戟の技を持たない。それだけでも圧倒的不利な狀況だというのに、この町を火の海にするほどの魔法を放っておいて、未だ余裕を見せているということは、実力を隠しているということだ。あれほどの魔法を放っておいて、未だ?
そう考えると、僕は前に出ることが出來なかった。
「そうそう。それが最善の選択だよね。そんな君にはリワードごほうびをあげないとね。僕たちが所屬している組織、その名前は魔法科學組織『シグナル』。リーガルを襲った彼は、しょせんシグナルの一端にもかなわない。そりゃ、命令こそはしているけれどね、彼もまた、シグナルの手足に過ぎなかったのさ」
そして、男は窓に足をかける。
忘れをしたかのように振り返って、男は言った。
「ああ、そうだった。忘れていたよ。僕の名前はバルト・イルファ。見た目とこの町を燈の海にしたことで理解できると思うけれど……炎の魔法を使う魔師さ。また會った時には、長を期待しているよ、予言の勇者君」
そして、今度こそバルト・イルファは外に飛び出していった。
どんな魔法を使ったのか――バルト・イルファの姿はすぐに見えなくなってしまった。
◇◇◇
「予言の勇者が來訪し、この世界を救うべく行を開始した」
バルト・イルファは自らの魔法で燃え盛る町を駈けながらつぶやく。
「軈て、彼はこの世界を救うことだろう。……それが彼にとって最善の選択であるかどうかは、定かでないが」
たん! と跳躍して、五階建てほどの高い建から飛び降りる。
地上に到著するも、魔法で衝撃をなくしたためか、特に彼にダメージは見られない。
「……いずれにせよ、彼がんだことだ。今度の世界がどうなるか、楽しみにしているよ。フル・ヤタクミ」
その笑顔はとても楽しそうだった。
まるでこれから起きるシナリオを、すべて理解しているかのように。
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