《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第四十八話 シュラス錬金研究所①

次の日。

僕とルーシーは燃えてしまって殆ど跡形も殘っていないバイタスの町を歩いていた。

理由は単純明快。メアリーが攫われてしまい、その相手がどこの誰なのか、その手がかりをつかむためだった。

「バルト・イルファ、という名前しか今の僕たちには報が無い現狀、しでもあの部屋に報が殘されていればいいのだけれどね……」

「どうなのだろうね……。あのバルト・イルファという男、実際どういうじかは摑めないじだったけれど、ぼろを出すようには見えないしなあ……」

それは僕も思っていた。

だからといって、探さない理由にはならない。

しでもメアリーの手がかりを探さないといけなかった。

「……けれど、あれほど探したのに見つからなかったんだよ、フル。その意味が理解できるかい?」

「じゃあ、簡単に諦めてしまうのかよ、ルーシー。君はそういう薄な人間だったのか」

「そこまでは言っていないだろう? ……まあ、いい。殺伐とした狀況はあまり長続きさせないほうがいい。とにかく、メアリーの手がかりを見つけること。それを『実行する』ことは大事だ。そうは思わないか?」

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「……そうだな。ここで言い爭っている場合ではないし」

ようやくルーシーも納得してくれたようだった。

それにしても、昨日の火事は相當酷いものだったように見える。

の殆どは崩壊している。煉瓦造りの建が數ないためか、殆ど燃え盡きてしまっていた。また、煉瓦の壁で屋が木材となっている家も多いようで、その場合は屋だけが燃えてしまっていて俯瞰図のようなじになってしまっている。

瓦礫に向かって膝を折り、泣きぶ人も居た。

僕はその人のことを、ただ一瞥するだけだった。

宿屋に掲げられていた看板を見つけて、その場所が宿屋だった場所だと理解できた。

宿屋だった場所は瓦礫と化していて、もはやその姿を為していない。

足を踏みれる。瓦礫をかき分けて、どうにかメアリーの寢ていた部屋だった場所まで向かう。

「想像以上だったな……。これだったら、メアリーの手がかりどころかメアリーが眠っていた部屋すら判明しないんじゃないか?」

ルーシーの言葉はもっともだった。確かにこの瓦礫の中からメアリーが居た部屋だったものを探すのは難しい。簡単にクリアすることではない。

瓦礫をかき分けて、出來る限りメアリーの手がかりを探していく。一言で言えば簡単なことかもしれないけれど、けれどそれはただ無駄なことを続けて時間を消費しているだけに過ぎなかった。

しかし、僕たちはあきらめなかった。

僕たちがメアリーの部屋にあったと思われる書を見つけるまで、そう時間はかからなかった。

の脇にはご丁寧にシルフェの杖も放置されている。シルフェの杖はバルト・イルファにとって不必要と判斷されたのだろう。そのまま殘置されているということは、即ちそういうことになる。

は『ガラムド暦書』と呼ばれるものだった。この世界の歴史を事細かに記した書であり、宿屋には必ず部屋に一つは置かれている。ビジネスホテルに置かれている聖書のようなものだと思えばいい。

それにはあるものが挾まっていた。

「なんだ、これは……?」

拾い上げて、そのページを開く。

そのページはメタモルフォーズに関する記述のページだった。

そして挾まっているものは、小さなバッジだった。金に輝くバッジはこちらの言語で三つの文字が刻まれていた。

その文字を、一つ一つ、僕は読み上げていく。

「ASL……?」

◇◇◇

船が運航したのは、その日の午後だった。

徐々に小さくなっていくバイタスの町を眺めながら、僕はメアリーの部屋で拾ったバッジを眺める。

「ASL……といえば、あれしか思いつかないよ、フル」

「あれ?」

「シュラス錬金研究所。スノーフォグが誇る、世界最高峰の錬金研究所だ」

シュラス錬金研究所。

確かに、錬金の授業で習ったことがある。錬金の研究に重きを置いているスノーフォグは、専門の研究施設を保持しているのだという。その研究施設の名前が、シュラス錬金研究所だと。シュラス、とは錬金師としても有名な高尚な學者の名前であり、その名前からとっているのだという。

「その研究施設が仮にバルト・イルファを生み出したのならば……問題と言えば問題かもしれない。だって、未だ『十三人の忌み子』の開発を続けている、ということになるのだから。それをさせないように國が管轄しているはずなのに……」

「その國が、それを許可した……ということになるのか?」

僕はルーシーに問いかける。

けれどその質問はルーシーが答えられるような、そんな簡単な質問ではなかった。

「……ごめん。ルーシーが答えられるような問題じゃなかった。けれど、たぶん、そんなところまで來ているのだと思う。このままだと世界は――」

ほんとうに、おかしな世界だと思う。

メタモルフォーズは大量破壊を可能とする、生だ。それを生み出して、それを復活させてその先に何を見出しているのだろうか? 最終的に、メタモルフォーズを生み出さないと倒すことの出來ない敵など居ない。むしろ、メタモルフォーズさえ居なければこの世界は充分平和を保っている。

にもかかわらず、メタモルフォーズが誕生する。

それによって、平和が破壊される。

「……だから、僕はこの世界に、」

勇者として、召喚されたのか。

そう思うと、いや、そうとしか思えなかった。

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