《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第五十七話 シュラス錬金研究所⑩
「スノーフォグでは、恐らくメタモルフォーズにおける知識がある程度常識化しているかもしれないね。実際、スノーフォグはメタモルフォーズをどう倒せばいいか、ということについては私たち掃除屋や軍に投げっぱなしになっているところも多いのも事実だけれど。……大抵の一般市民は軍に頼るし、軍が嫌いな人間は私たちのような掃除屋に頼む。そういうものだよ」
「掃除屋はたいていフリーで働くものなのか?」
それを聞いて頷くリメリア。
「そういうものよ。あなたたちは掃除屋のことをどう思っているのか定かでは無いけれど……、掃除屋は世界から良い風に思われていない。それが現実。それが真実。だからこそ、私たちももうしその地位を上げていかねばならないと考えてはいるのだけれどね」
「考えている……ですか?」
「まあ、それについては語る必要も無いでしょう。あなたたちが知りたいのは、もっと直接的な報だと思うから」
そう言って、リメリアはコーヒーを飲みほした。
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「メタモルフォーズの巣。私たち掃除屋はその報を知っている。一番ここから近い巣はエノシアスタから南方に行ったところ。どうしてあのような場所にあるのか、と思うくらい人の里に近い場所にある。……まあ、私たち掃除屋にとってみれば拠點を作りやすいから有り難いといえば有り難いのだけれど」
それから、得られた報はいろいろとあったけれど、最大の報はやはりエノシアスタの南方に巨大な巣がある――ということだった。実際に、それ以外にも報は得られている。たとえば、メタモルフォーズは基本的に『屬』があるため、その屬に弱い攻撃を與えないとなかなかダメージが通らないということや、しかしそのような屬があったとしても近距離からの撃はそれなりにダメージが通るということや、大抵は戦闘に関することだったが、メタモルフォーズに関するどのような報でもしていた僕たちにとって、それは有り難いことだった。
「……これくらいの報で何とかなる、かなあ」
リメリアと別れた僕たちは宿屋にて休憩していた。部屋は二つとっているのだけれど、そのうちの僕とルーシーが眠る部屋にてレイナも集まっているという形になっている。
「それにしても、報はそれなりにあったよね。まあ、豪勢な食事を食べてしまった、ということもあるけれど、かなり満足は得られたのではなくて?」
レイナの言葉に頷くルーシー。
そして僕もその意見に賛だった。満足が得られた、ということよりもここまで簡単に報が得られたということ。そしてその報の一つが、明後日向かうエノシアスタに関する報であるということがとても僕たちにとって有益な報だった。
「それにしても、エノシアスタ……ね。行ったことの無い場所だからちょっと気になるけれど、いったいどのような場所なのかしらね?」
「機械都市、ということは聞いたことがあるけれど、どこまで機械じみているのだろうね? 僕も教科書でしか見たことは無いのだけれど……」
機械都市エノシアスタ。
教科書ではよく見たことのある、その都市の名前。舊時代にあった文明をうまく組み合わせることでこの世界では珍しい機械仕掛けの町を作り上げたのだという。そのため、世界各地から観客が訪れている、スノーフォグ隨一の観地なのだという。
「確かにそんな場所ならば、ビジネスチャンスは多く存在するはずだよな……。あの商人が何をするのかは解らないけれど」
ルーシーの疑問も解らないではなかった。
ただ僕たちはまだ子供だ。そういうことに関してまだ解らないことが多い。解らないことが多いからこそ、知りたいと思うことも多い。
それについてはきっと、経験と時間が解決してくれるはずだろう。僕はそう思っていた。
「……まあ、明後日からはエノシアスタへ向かうことになる。どういう場所でどういうことになるかはっきり解ったものではないけれど……取り敢えず、今はゆっくり休もう。休息も大事だ。メアリーを助けることももちろん大事だけれど……」
「いや、フル。君の言っていることも解るよ。今はゆっくり休もう」
そうしてレイナは自分の部屋に戻り、早々に僕たちはベッドに潛った。
◇◇◇
そのころ、メアリーも夜を迎えていた。
フランツからのヒヤリングは簡単なものだった。この世界の歴史について、それにスノーフォグについての基礎知識の質問がある程度で、そのようなものは頭に叩き込んでいたメアリーにとってそんな質問は楽勝だった。
しかし、どこか彼にとって引っ掛かっていた。
なぜフランツはそのような質問をしたのだろうか?
「フランツ……。なぜあの科學者は」
思わず呟くが、けれども考えが進むわけでもない。
一先ず今の狀況では、ここに居る人間が彼をどうこうするという話にはまだ至っていない。それどころかどこか大切にされつつある狀況にもなっている。
それが彼にとって一番理解出來ないことであった。なぜ自分が大切にされる必要があるのか? それをフランツに訊ねたが、今は知らなくていいとの一點張りでまったく答えて等くれなかった。
「……今はもう、眠るしかないのかもしれないわね……」
まったく考えがまとまっていなかったが、このまま考え続けてもまとまるとは到底思えなかった彼はそのまま橫になり――そして、半ば強引に眠りにつこうとそのまま目を瞑った。
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