《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第五十九話 シュラス錬金研究所⑫
「……まあ、君にそれを言うことは間違っていたかもしれないな」
先に折れたのはシドさんのほうだった。
もっとも、折れたというよりは話の流れをこれ以上続けても場の空気が澱むままだと判斷したためかもしれない。
「邪魔したね」
シドさんは座席から立ち上がると、そのまま扉代わりのカーテンを開けた。
「それじゃ、また後で。何もないことを祈っているよ」
「ええ、僕たちも祈っています」
そう言いわして、シドさんはカーテンを閉めた。
◇◇◇
そして、そのシドさんの言った通り、何も起きなかった。
早朝出発して、エノシアスタに到著した頃にはその日の夕方になっていた。ちなみに到著したときには、
「おおい! もうすぐ、エノシアスタに到著するぞ!」
そんな掛け聲だけだったが、僕たち以外の人たちはみんな続々と準備をしだした。どうやらそれがここにとってはアタリマエのことらしい。
窓から外を眺める。エノシアスタの町はどういう狀態になっているのか、気になったからだ。
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鉄で出來た城壁、そこから生え出てきているように見える石造りのビル群。それだけ見れば、僕がもともといた世界にもあったような町に見える。
「すごいなあ……こんな町があるんだ……」
僕は思わずそんなことを呟いた。
どうやらそれはルーシーにも聞こえていたようで、
「この町はスノーフォグだけじゃなくて、世界隨一の技を備えた場所……だったかな。だからこのようになっているらしいけれどね。おかげでこの町ですべてを賄えるようになってしまったらしい。あの町での技は全世界の技より二世代近く進んでいるとか……。まあ、噂に過ぎないけれど。あくまでも、それは一般的に科學技が流通していないせいかもしれないけれどね。現にあの町は、ほかの町に科學技を流出しないからって文句も飛んでいるし」
「ふうん……。そうなのか」
まあ、魔法や錬金が主流になっている世界で、科學技なんて流行らないのかもしれない。ただ、便利なものが便利であると証明されれば、それは確実に流行するだろうし、おそらくそれをする準備がとても面倒だったのだろうか。あるいは、この世界の人間――ううん、そこまで考えるとなんだか面倒なことになってきそうだ。
そんな難しいことを考えていたら、ゲートに到著していた。
ゲートは誰か人がいるわけではなく、自ドアのようになっていた。おそらく上部にセンサーがついているのだろう。それで判別しているのかもしれない。いったい何を判別しているのか、という話だけれど。
「すごいな、このゲート。自で判別しているのかな? 人も居ないようだし」
「ほかのところとは違うじだよね。もしかして通行証とか持っているのかな。それで判別しているのかも」
ルーシーの問いに僕の推測を伝える。
ルーシーはそれを聞いて頷きながらも、完全に納得しているようには見えなかった。まあ、仕方ないことだと思う。実際伝えたことも僕の推測に過ぎないので、それの裏付けもしていない。だから、それが本當だろうか? もっと別の考えがあるのではないか? という考えに至るのも自明かもしれない。
暫くしてゲートが開く。ゲートが完全に開ききったタイミングを見計らって、僕たちを乗せたトラックはエノシアスタの中へとっていった。
◇◇◇
エノシアスタの中心地にあるホテルにて、僕たちは一旦の契約解除に至った。一週間後に再びラルースの町に戻るときに改めて契約して、また戻るスタイルになるそうだ。ちなみに契約解除した時點で一回分の契約になったということでその分のお金は支払われた。
そういうこともあり、僕たちは現在小金持ちになっているのだった。
「それにしても……機械ばかりだよなあ……」
お店で販売しているものも機械。町をいているのも機械。町に生きている人々もどこか機械を裝著しているためか機械っぽさがある。
僕の住んでいた世界でもこんな機械を使っていただろうか、と言われると微妙なところかもしれない。
「うわあ、すごいよ、フル! 見てみて!」
そう言ってルーシーはウインドーを眺めていた。
「……子供ね」
「そう言ってやるなよ、レイナ」
レイナと僕はそう言葉をわしながら、ルーシーのもとへ向かった。
ルーシーが見ていたのは一臺のコンピュータだった。デスクトップ本とキーボード、それにモニタが配線で接続されている。電源はれられていないので畫面が表示されることは無いのだが、それでもルーシーは興味津々だった。
「何だい、フル。あれはいったい? もともと來た世界にはあのようなものはあるのか?」
ルーシーの問いに僕は小さく溜息を吐いてから答えた。
「……ああ、あったよ。あれはコンピュータと言って、いろんなことを機械の演算で実行してくれるものだったはず。人間の脳で出來ることが実行できるのだけれど、それを並行で実施するから、人間が手で計算するよりも若干早く出來たはず。まあ、それもメモリチップという人間でいうところの脳みその大きさに依存する、はずだったけれど」
「……はあ、よく解らないけれど、すごいというのは伝わったよ……。すごいなあ、エノシアスタ。魔法とも錬金とも、別の學問とも違う何かがここにはあるよ……!」
ルーシーの目はどこか輝いているように見えた。
別に彼は科學信仰というわけではないだろう。ただ珍しいものに興味を示しているだけ、だと思う。なぜそうはっきりと言えるかというと、もともといた世界でもそういう反応を示していた人が良く居たからである。
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