《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第六十話 シュラス錬金研究所⑬

「確かにそう思うのも仕方ないかもしれないけれど……、私はし苦手かな。ちょっと無機質過ぎるよ、この場所は」

苦言を呈したのはレイナだった。彼みたく、このような無機質なものばかりが並べられた場所を嫌うこともあるのかもしれない。まあ、仕方ないことといえば仕方ないと思うのだけれど。

さて、そんなことよりも。

この場所で調査する時間は一週間しかない。はっきり言ってその時間のうちにやるべきことをやる必要がある。メアリーはどこへ消えてしまったのか、そしてシュラス錬金研究所はどこにあるのか――その場所を調べなくてはならない。

そう考えて、僕たちは報の収集を開始した。

メアリーに関する報をしでも集めることが出來ればいいのだけれど。

とまあ、そう勢いをつけた割には何も報が得られなかった。強いて言えばやはりあのメタモルフォーズの巣に関する報くらいだっただろうか。興味はあるけれど、今の僕たちで向かうのは々危険過ぎる。

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というわけで結局その日はエノシアスタの観をすることにした。もちろん、報収集も進めているけれど、想像以上に何も出てこない。話を聞くと、殆どここに住んでいる人はこの町から外に出ないのだという。だから、あまり他人に干渉しない。それどころか一人でくのが好きなのか、そもそも話を聞いてくれる人すら居なかった。

「なんというか、この町の人、冷たい人だらけよね。話くらい聞いてくれてもいいじゃない」

そうレイナは言ったけれど、見ず知らずの人の話を聞く余裕がある人が案外居ないのかもしれない。見たことのない人間が突然聲をかけてきて、反応してくれる人はそう滅多にいないと思う。大抵は忙しいとか用事があるとか言って適當なことではぐらかす人が大半だと思うけれど、どちらにせよ報が得られないのは確かだ。

レイナは溜息を吐いて、空を見る。

エノシアスタの中心に聳え立つグランドタワー。

高さは聞いたじだとリーガル城の二倍以上の高さを誇り、展臺からはスノーフォグを一出來るどころかハイダルクも見えるのだという。

「……タワーにもってみる?」

「タワー……か。タワーにって観もいいかもしれないな」

「フル、レイナ。一応言っておくけれど、目的は忘れていないよな? 今回、ここにやってきた目的、それは……」

「メアリーの報を手すること、だろ? それくらい知っているよ。だが、報を手する可能を高めるためにはいろんな場所にる必要がある。そのためにもこの町を観していきながら様々な場所を巡ったほうがいい。そうは思わないか?」

ルーシーの言葉に僕は答える。はっきり言ってもっともらしい言葉を並べただけで、実際はルーシーの言った通り。ただの観となってしまっていることは紛れもない事実だった。

しかしながら、報がしでも得られるならば――その可能められていることもまた事実だ。あれほどの高い建造から外を眺めることが出來れば、何らかの報が地形から摑むことが出來るかもしれない。

ルーシーはまだ納得しきっていないようだけれど、結局僕がもうひと押ししたことでそれが立することになった。高い塔からしでも報を摑むことが出來ればいいのだけれど……。

◇◇◇

今日は朝から本を読んでいた。

なぜそんな自由なことができるかというと、あのフランツとやらが知識を得ることも大事だと言ってこの図書室に幽閉するよう部下に命じたかららしい。現にバルト・イルファが扉の前にある椅子に腰かけて何らかの本を読んでいるし。仕方がないので、私も何か報を得るべく――本棚を見ていた。

けれど、本棚にっていた本はどれも難しいばかりで、はっきり言って私が読めるようなものはこれといって無かった。

もうこのまま何も無いのかなあ、と思っていたけれど本棚の一番端にあるものを見つけた。やはりそれも表紙が掠れてしまって文字が読めなくなっているくらい古い本なのだと思うのだけれど、でもなぜかその本を開いてみたくなった。

今までのそれとは違って、表紙などから容が摑めないからかもしれない。もしかしたらこの本にならば私がしている報が載っていると思ったのかもしれない。

「……これだ」

そう自分に言い聞かすように呟いて、それをもって椅子に腰かけた。

本を読み進めていく。その本は歴史書のように見えるが、メタモルフォーズの仕組みにもれている。まさに今の私にとって一番重要な要素が詰め込まれているものだと思った。

一ページ捲る。そこには知恵の木の実のことについて、このように書かれていた。

『知恵の木の実』とは遠い昔、エデンにいたアダムとイブが蛇のに負け、食べてしまった果実のことを言う。それを食べてしまったことで、神は怒り、アダムとイブをエデンから追放してしまった。

なぜ神は怒り、アダムとイブを追放したのか?

神は『アダムとイブ』という人間が自分の地位に近づくのを恐れたのではないか?

そのように考えることもできる。

しかし、それは伝説上の産である。

時は流れてガラムドが生まれ、そして空へ還った。

ガラムドの墓を守っていた男――ニーチェ・アドバリー、はガラムドの墓に樹が生えていることを見つけた。

その木の実は黃金に輝き、形は林檎のようだった。

その男は敬意を込めて、『知恵の木の実』と呼ぶのだった――。

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