《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第六十六話 シュラス錬金研究所⑲

結局、々な案を脳でぐるぐるシミュレートしてみたけれど、そのどれもが実行不可能であることを理解して、今はバルト・イルファに従うしか無い。そう考えるしか無かった。もしフルたちが今ここに向かっているとするならば、完全に行き違いになってしまうのだけれど。

「……どうかしたかな?」

ふと前を向くとバルト・イルファが踵を返して立ち止まっていた。どうやら私の様子を気にしていたらしい。バルト・イルファが私のことを? そう考えると、一笑に付してしまうこともあるけれど(そもそもバルト・イルファがそんなことをするとは考えられなかった)、しかしそれ以上のことを私は言うことはなかった。

そして、バルト・イルファもそれ以上のことを語ることなく、そのまま踵を返すと歩き始めた。

◇◇◇

竜馬車がメタモルフォーズの巣に到著するまで、それから半日ほど経過していた。

あまりにも乗り心地がよかったので眠りについていたけれど、

「おい、到著したぞ。……ってか、どこがゴールになるのか明確に教えてもらっていないわけだけれど」

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シュルツさんの言葉を聞いて、僕たちは目を覚ました。僕たち、と説明したのは単純明快。簡単に言えばルーシーもレイナも眠っていたということだ。彼らも乗り心地が良かったから眠りについたのだろう――そうに違いない。

そんな拠もない機上の空論を考えながら、僕は窓から外を眺めた。

見ると景は想像通りの巖山が広がっており、見るからに何か出てきてもおかしくなかった。

「……なあ、どうしたんだ? 今からどこへ向かうのか教えてくれてもいいと思うのだけれど。メタモルフォーズの巣といってもきちんとした場所は判明していないわけであるし」

「あ、ああ。そうだったっけ。まあ、そんなに遠くない場所だったはず。……確か粘土細工のような無機質な塔があったはずだけれど」

「その塔だったら、そこにあるよ?」

シュルツさんが後ろを指さす。

すると確かに、その通りだった。目と鼻の先の距離に粘土細工のような塔があった。

塔の元は巖山になっており、窟が広がっているように見える。そしてその窟は――。

「メタモルフォーズが見張っている、と……」

「まあ、明らかに怪しいわな。けれど、あれを掻い潛っていけるほど戦力はこちらにないぞ」

言ったのはルーシーだった。

それについても首肯。

「……首肯するのはかまわないけれど、フル、何かアイデアでもあるのかい? 無いのならば、あまり無策で飛び込むわけにもいかないと思うけれど」

「それくらい解っているさ」

狀況は把握している。

そして、どうすべきかも理解している。

けれど、それをどう対処すべきか――一番的で、一番重要なポイントが浮かんでこない。由々しき事態ではあるけれど、事態のを知っているけれど、けれどそれが浮かび上がってこない。

「……聞かせてもらったけれど、君たちは友達を探しているのだろう?」

シュルツさんの聲を聴いたのは、ちょうどその時だった。

顔を上げると、シュルツさんは笑みを浮かべていた。

「はっきり言って、君たちは昔の僕と同じだ。未來に希を見ていたころの僕と同じだ。そして、彼を失う前の僕と――」

そうして。

シュルツさんは竜馬車にっていたモノを手に取った。

それはガトリングだった。――けれど、正確に言えば銃の要素もあり、槍の要素も見えた。遠距離型武と近距離型武のいいとこ取り、とでもいえばいいだろうか。いずれにせよ、その武が今まで見たことのないタイプであることは容易に理解できたことなのだけれど。

「今ここで諦めたら何もかも終わってしまうぞ、年」

ガトリングから延びるネックストラップを首にかけて、頷く。

そうして、シュルツさんはスイッチをれた。

「今ここで諦めたら何もかも終わってしまうぞ、年」

――そんなかっこいいことを言ってみたけれど、結局僕にはこれしか選択肢が無かった。

結局、僕にはこれしか無いんだ。

自分に言い聞かせて、気持ちを落ち著かせる。

僕もかつては彼らみたいに旅をしていた――けれど、それは失敗してしまった。彼を失ってしまってから、僕はずっと悲観に暮れていた。彼のために、將來を考えようと思っていた。その矢先だったのに。

それを変えてしまったのは、メタモルフォーズだった。

「……結局、お前たちが何もかも変えてしまった」

ぽつり。

ほんとうに誰にも聞こえないくらいの小さな聲で、僕は呟いた。

メタモルフォーズ。

どこからか、いつからか、何度人間が駆除しても姿を見せるその存在は、この世界が人間に與えた試練と言っていた人もいた。

でも僕はそんなものくだらないと思っていた。

試練だというのならば、こんな辛い試練僕はけるなど一言も言っちゃいない。

神様は非常に殘酷だ。

殘酷で、非で、絶しか與えない。

そんな神様は、信じる価値など無い。

僕はずっと、そう思っていた。

逃げ続けていたばかりの僕に、もう一度メタモルフォーズを倒すチャンスを與えてくれた。

それはきっと神様と、あの年たちに謝しなければならないだろう。

僕はあのとき死んだ人間だ。いや、死ぬべき人間だった。

けれど生き殘った。今もしぶとく生きていた。

そして、僕の目の前には昔の僕と同じように――今を生きている年たちがいた。

ならばその年たちのために、最後の命を使うのも悪くない。

そう思って、僕はその銃の引き金をゆっくりと引いた。

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