《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第六十九話 シュラス錬金研究所㉒
そうして、ドクターと呼ばれた男は僕たちに向かってこう言い放った。
「さあ、このメタモルフォーズに勝てるかな?」
ドクターがそう言った剎那、メタモルフォーズはき始める。どうやら僕たちを明確な敵と認識しているらしい。厄介なことだった。せめてその研究者も敵と認知していればよかったのだけれど、分別は良かったほうだった。
「心している場合じゃないぞ、フル。どうするんだ、これから!!」
問題は山積みだった。
メタモルフォーズに追われている狀況をどうにかしなくちゃいけない。
しかも今はメアリーが居ない……。つまり、僕とルーシー、それにレイナで何とかあのメタモルフォーズを退けないといけないわけだ。
「何を勘違いしているか知らないが……、このメタモルフォーズはただのメタモルフォーズではない! 行け!」
そう言った直後、メタモルフォーズは通路を覆い隠すほどの水を放出した。
ドクターは別の通路に逃げてしまったためか水を浴びることはなく、そのまま僕たちはメタモルフォーズから放たれた水をもろにかぶってしまった。
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水は若干粘度があったが、無臭だった。簡単に言えば、砂糖水のようなじだった。
「げほっ、ごほっ……。いったいこれは何だっていうんだ……!」
そしてそれを見計らったかのように、ドクターは笑みを浮かべ、
「管理者権限で以下の命令を実行する! 命令コード001、対象はお前の水を被った三名!」
そうんだ。
ドクターの言葉を聞いて、それに反応するかのようにメタモルフォーズの頭部にあった赤い球がりだす。
「貴様、いったい何をした!」
「命令コード001は殺しの命令だよ、この場所のを知ってもらっては困るのでね。まだ僕はここでいろいろと研究をしたいからねえ、いひひ!」
「そんな自分勝手なことを……!」
「ああ、そんなことを言っている場合かな? 君たち、別に気にしているのかそれともそのを神に捧げるつもりなのかは知らないけれど……、どちらにせよ君たちには勝ち目が無いよ。一応言っておくけれど、このメタモルフォーズは水を作することが出來る。君たちのに含まれている構要素、その八割が水分と言われているのは周知の事実であると思うけれど……、それを作されてしまったら、どうなるだろうねえ?」
ぞっとした。
背中に悪寒が走る――とはまさにこのことを言うのだろう。いずれにせよ、このままでは大変なことになる。先ずはそれをどうにかしないといけない。ああ、メアリーを探さないといけないのに、こんな厄介なことに巻き込まれてしまうなんて!
そこで僕はふと、何かに気付いた。
もしかして――ここの研究員は僕たちがってくることを最初から察知していた?
だとすれば話は早い。僕たちが予めそこからってくるように仕組んでおいて、そこにメタモルフォーズを待機させる。そういうことで確実に僕たちを排除する狙いがあったとすれば?
「すべてあの研究者の掌に踴らされている、とすれば……」
それは非常に厄介であり、かつ非常に面倒なことだった。
しかし、どうすればいいのか……。
「何してんだ、フル!」
そこで僕は我に返る。
メタモルフォーズが走り出したのだ。それを見ていて何もじなかった僕を見ておかしいと思ったのだろう。ルーシーがすぐに聲をかけて、肩を揺すった。
そして目の前に迫るメタモルフォーズを見て、踵を返した。
先ずは逃げて時間を稼ぐ必要がある。
そう思って僕たちは大急ぎで走り出した。
◇◇◇
バルト・イルファはモニタを見ていた。
そこに映し出されたのは、フルとルーシー、それにレイナが逃げている姿だった。
「……それにしても、あの時と比べると若干メンバーが増えているね。何の意味があるのか解らないけれど……、まあ、彼にも彼なりの考えがあるのかもしれないね。あの時も、確か結局それによって一つの結末を迎えたわけだし」
「どうするつもりかな? バルト・イルファ」
彼の背後には、フランツが立っていた。
聲を聴いて、振り返るバルト・イルファ。
「……おや、フランツ。研究は休憩中かい?」
「侵者と聞いて、安心して研究が出來るわけがないでしょう? しかもそれが予言の勇者というのであれば猶更です」
溜息を吐いて、モニタを見るフランツ。
フランツはモニタに映るフルとルーシーを見て、首を傾げる。
「それにしても、勇者は意外と若いのですね。ほんとうに、メアリーと変わらないくらい。簡単にメタモルフォーズどころか大人に殺されてしまいそうな子供ですけれど。ほんとうにこの子供が予言の勇者なのですかね?」
「気になるようであれば検証すればいいさ」
バルト・イルファは歌うように答えた。
「検証? そんなこと出來るとでもお思いですか。ただでさえ資金が枯渇してきそうであるというのに、そんなこと出來るわけがないでしょう。お上からの指示もまだ到達していないというのに……」
「結局、オリジナルフォーズそのものを起こすしかないわけだろ? 今までわざわざあの島に何度も伝子を手にれるために片を回収してきたけれど、それにも限界がある。というかその処置自暫定処置だった。暫定、というからには終わりが必ずある。そして、その後の対応が、オリジナルフォーズの覚醒……ということだ。そうだろう?」
- 連載中329 章
平和の守護者(書籍版タイトル:創世のエブリオット・シード)
時は2010年。 第二次世界大戦末期に現れた『ES能力者』により、“本來”の歴史から大きく道を外れた世界。“本來”の世界から、異なる世界に変わってしまった世界。 人でありながら、人ならざる者とも呼ばれる『ES能力者』は、徐々にその數を増やしつつあった。世界各國で『ES能力者』の発掘、育成、保有が行われ、軍事バランスを大きく変動させていく。 そんな中、『空を飛びたい』と願う以外は普通の、一人の少年がいた。 だが、中學校生活も終わりに差し掛かった頃、國民の義務である『ES適性検査』を受けたことで“普通”の道から外れることとなる。 夢を追いかけ、様々な人々と出會い、時には笑い、時には爭う。 これは、“本來”は普通の世界で普通の人生を歩むはずだった少年――河原崎博孝の、普通ではなくなってしまった世界での道を歩む物語。 ※現実の歴史を辿っていたら、途中で現実とは異なる世界観へと変貌した現代ファンタジーです。ギャグとシリアスを半々ぐらいで描いていければと思います。 ※2015/5/30 訓練校編終了 2015/5/31 正規部隊編開始 2016/11/21 本編完結 ※「創世のエブリオット・シード 平和の守護者」というタイトルで書籍化いたしました。2015年2月28日より1巻が発売中です。 本編完結いたしました。 ご感想やご指摘、レビューや評価をいただきましてありがとうございました。
8 158 - 連載中33 章
【書籍化作品】離婚屆を出す朝に…
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