《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第七十一話 シュラス錬金研究所㉔

メタモルフォーズが倉庫の中にってきた。迷う様子もなく一目散にってきたところを見ると、やはり水による探索機能はまだ生きている、そして噓ではないということになる。それにしても、ほんとうに厄介な機能だと思う。そのような機能を付けるということは、相手を確実に死に追いやるということも考えられているのだろう。

それはさておき。

「いいか。レイナ。チャンスはおそらく一回きりだ。これを逃すとメタモルフォーズを倒すことは出來ないだろう。……まあ、別にここだけがタイミングを逃すとマズイところかと言われると、そうでもないのだけれど」

「解っているわよ。それに、そちらもきちんとタイミングを守ってよね? 私がうまくいったとしても、ダメになる可能があるのだから……」

それくらい、百も承知だった。

だからこそどうすればいいとかそういうことを考えていて、最終的に僕が口で監視することになった――そういうわけだ。ただし、それは口にある荷の上に居る、ということになるので、正確にそうであるかは言えないかもしれないけれど。

「今だ、レイナ!」

そうして、メタモルフォーズがあるポイントに到著した。

レイナはその瞬間、ある薬剤がったドラム缶に転移魔方陣が描かれた紙を付した。

その転移先は――メタモルフォーズの頭上。

そしてドラム缶は重力に従うままに、床に落ちていき、メタモルフォーズに命中した。

いや、正確に言えばメタモルフォーズからし外れた位置であったが、むしろそちらのほうが、都合が良かった。

薬剤を取り込んだメタモルフォーズだったが、それが何を意味しているのかメタモルフォーズ自も理解していないようだった。

「ルーシー、今だ。スイッチを押せ!」

今度はルーシーにスイッチを押すよう言う。

そのスイッチとは――発電機のスイッチだった。

そしてルーシーは大きく頷くと、彼の手元にあった発電機のスイッチをれた。

一瞬だった。

床に置いてあった端子から電気が放出され、メタモルフォーズに電気が流れる。

もし、メタモルフォーズの主分がただの水であれば、ただ水に電気が流れるだけで終わってしまうだろう。

ただし、メタモルフォーズにある薬剤が溶け込んでいるとしたら?

水酸化ナトリウム。

水に溶かし、電気を流すことによって電気分解をすることが可能になる薬剤のことだ。水は水素と酸素に分解される、電気分解という現象。それは、大規模な電気を生み出すことの出來る発電機と、大量の水酸化ナトリウムが溶けたメタモルフォーズが加わることで急激な電気分解が可能となった、ということだ。

メタモルフォーズは苦しみながら、雄びをあげながら、徐々にそのを小さくさせていく。

メタモルフォーズは相當大きい質量であったが、その全が水素と酸素に分解されるまで、そう時間はかからなかった。

そして、最終的にメタモルフォーズの頭部にあった赤い球のみが殘されて――地面に落下し、四散した。

「……倒した?」

ルーシーは発電機のスイッチを切ったことを確認してから、荷の上から降りた。

そこに殘されていたのは、何もなかった。水素と酸素は空気に溶け込んでしまい、最後に殘された赤い球もまた風に吹かれて消えてしまったのだから。

「どうやら、そのようだね。……それにしても、メタモルフォーズを何とか倒すことが出來た。これで何とかメアリーを探すことが出來る。いや、何とかなったね」

「まさか……ほんとうにあのメタモルフォーズを倒すことが出來るとは……!」

その聲を聴いて、僕たちは口のほうを向いた。

そこに立っていたのはドクターと呼ぶ男だった。

「ドクター……だったか。お前のメタモルフォーズは既に倒したぞ。もうこれ以上策があるとは思えないがな」

「ぐぬぬ……。解ったような口を聞きやがってっ! それくらい解っているというのに! ……ええい、解った。これ以上無駄に技を使うわけにもいかないし、まだ我々には次のミッションが殘されている。だからこそ……」

ドクターはポケットにある何かのボタンを――押した。

剎那、地面が揺れ始める。

立っていられないほどの、大きな揺れだった。

「お前、いったい何をした!?」

ルーシーがドクターに問いかける。

「何をした? 簡単なことだよ、証拠の隠滅だ。これ以上この場所を殘していても我々シグナルのためにはならない。それどころか世間にメタモルフォーズの知識が広まってしまう。それだけは避けなくてはならない。避ける必要があるのだよ。いひひ! まあ、せいぜい死なないように逃げることだね」

それだけを言って。

ドクターは一目散に走っていった。

「おい、どうするんだ! メアリーを探さないといけないし、このままだと……!」

「それくらい解っている……! だが、今は逃げるしかない!」

ほんとうは僕だってこの狀況からメアリーを探したかった。

けれど、今は逃げるしかなかった。潰されてしまうよりはマシだった。メアリーも無事であることを祈るしかなかった。

だから、出口へと向かう。

僕とレイナ、それにルーシーは先ほどってきたところへと――戻っていった。

メアリーが無事であるということを、ただただ祈りながら。

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