《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第七十三話 決戦、エノシアスタ①

結論から言うと、僕たちがシュラス錬金研究所からエノシアスタに戻るまで半日の時間を要することとなった。はっきり言って大して時間はかからないものだったのだが、案外竜馬車の疲労度がそれなりに高かったことが理由として挙げられたためだった。シュルツさんが厳しく否定したので、それについてはそうであると考えるしかない。

シュルツさんはベテランであり、竜馬車のプロだ。もちろん、本人はそんなことを気にも止めていなかったようだったけれど、僕たちにとってみれば唯一の専門家だった。それを考慮すれば、シュルツさんの意見を、ある意味鵜呑みにするしか手立ては無かった……ということになる。

それはそれとして。

シュルツさんはエノシアスタで僕たちを下ろしたあと、報酬の話をする暇もなく竜馬車のメンテナンスを行うためと言って小屋へと戻っていった。だからと言って僕たちもそこで報酬を踏み倒す気は頭無い。

よって僕たちはシュルツさんの小屋へと向かうのが當然でありましい結果だった。

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「それにしてもシュルツさん……かなりあのドラゴンのことを思っているのだね」

そう言ったのは、レイナだった。

レイナはさらに話を続けた。

「竜馬車使いはドラゴンの心を理解することが出來る、とは聞いたことがある。シュルツさんもきっとそれに該當するのかな。恐らく、ではあるけれど。いずれにせよ、私にとってそれはあまり関係の無いことではあるけれど」

「特殊な技能を持っているとか、そういうことなのか?」

「たぶんおそらくきっと、そういうことになるのだろうね。別にそこまで珍しい話じゃないと思うよ。だって、竜馬車使い全員に言えることらしいからね。魔でも錬金でも召喚でもない、第四のということになるね。魔師は錬金を使えないし、錬金師は魔を使えないけれど、竜馬車使いもまた、魔や錬金を使うことはできない。確かなんかの本にそんなことご書いてあった気がするよ」

こういう知識がすらすらと出てくるのは、メアリーの次に、意外にもレイナだったりする。レイナはもともと盜賊だったにもかかわらず、その生まれや育ちには決して比例しない(誠に申し訳ない発言ではあるのだが。なぜならこれは名譽毀損になるためだ)知識が蓄えられている。いったいどこの時間でそれほどの知識を蓄えることが出來たのだろうか? なんてことを思うときもあることにはあるが、しかしそれは極稀に過ぎない。非常にアブノーマルなケースに過ぎない。要するに滅多に発生することのない事象であり事実であり、しかしながら、それでいて真実だった。

話を戻そう。

僕たちはシュルツさんと別れて、とぼとぼと道を歩いていた。目的地はここに來て直ぐに確保した宿だ。決して安い宿ではないが、路銀自はエノシアスタへの護衛の前金も含めて有り余るほどに持っているため、別にそれについては何の問題も無かった。

宿に到著し、階段を上る。二階の二部屋のうち、左はレイナだけの部屋、右は僕とルーシーの部屋になっている。とどのつまり、男で部屋が分かれている狀態になっている、ということだ。

分かれているのは確かだが、部屋の大きさはイコール。即ち的にはレイナだけの部屋の方が広くじることだろう。シングルとかダブルとかあるわけだけれど、殘念ながらここは異世界。僕の持っている常識が通用するはずもない。

ベッドに腰掛けた僕たちは、一先ず僕とルーシーの部屋に集まって、今後の會議をすることと相った。

「とはいえ……これからどうするつもりだ? さっきまでは、手掛かりがあったからそこへ向かうことが出來た。しかし、今では? ヒントも何もない。その狀況で世界を回っていくのは々面倒なことだとは思うのだけれど」

ルーシーはそう言った。

しかしながら、手掛かりがないわけでも無かった。それはバルト・イルファが去り際に放ったあの言葉……。

「邪教の教會、だったかしら。あと寒い場所とも言っていたわね」

僕がそう思っていたところにレイナはそう付け足した。

僕は頷くと、話を続けた。

「レイナが言ったとおり、邪教の教會……それこそが今後の僕たちの旅にとっての、最大のヒントと言えるんじゃないか?」

「簡単に言うけれど……そもそも寒い場所かつ教會なんてたくさんあるんじゃないか? それこそスノーフォグは雪國だ。寒い場所なんていろんな場所にあると思うのだけれど」

「……いや、待てよ」

そこでルーシーは、レイナの言葉を遮った。

それを聞いて、レイナと僕はそれぞれ彼の方を向いた。

「ルーシー、何か知っていることでも? 何でも構わないぞ、今は有益か無益か解らなくても、何かピンと來たらそれについての報をリストアップするしかない」

「……そう言われてしまうと、この報が有益かどうか解らないけれど、スノーフォグには確か離島があったはずだよ。北側にあるはずだったから、その寒さも隨一。常に雪が降り積もっているその島は境とも揶揄されている」

「その島の名前は?」

ルーシーには自信が無かったようだが、その報はかなり有益なものだった。それをもとに調査を進めれば、或いは。

ルーシーは僕の言葉を聞いて、小さく溜息を吐くと、

「……フル。人の話は最後まで聞くように習わなかったのかい? まあ、べつにいいけれどさ、今は急時だからね。それと、その島の名前は確か……チャール島、って名前だったかな。召喚の生みの親、マザー・フィアリスが暮らしていた島だ」

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