《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第七十四話 決戦、エノシアスタ②

とある場所にて。

「……シュラス錬金研究所が崩壊した、と?」

「はい」

バルト・イルファは隣にいるリュージュに短く答えた。

リュージュは水晶玉を見つめつつ、さらに話を続ける。

「まあ、あそこは最近有意義な研究ができていなかった、と思ったところだったし、別に問題ないかな。……それにしても、全員死んだということでいいのかしら?」

「いえ、ドクターとフランツ、それに僅かな人間が生き殘ったものと……。彼らは恐らくあの巣から逃げ出したものかと思われます。実際、誰もいないと思われますから」

「あの場所から研究施設を削ったら、そこに殘されるのはメタモルフォーズの巣になるからね。あの場所に生の人間が生き殘る環境があるとは到底思えないわ。あなたのように『作られたメタモルフォーズ』ですら、生き殘ることは困難だと言われているというのに」

その言葉にバルト・イルファは何も言い返さなかった。

リュージュはさらに話を続ける。

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「……『彼』は別の場所に連れて行ったでしょうね?」

「それくらい當然だ。邪教の教會、今はあそこに連れて行ったよ」

「ああ、あのチャール島の……」

こくり、とバルト・イルファは頷いた。

「何しろ、けっこう大変だったよ? ちょうど転移魔方陣に乗せたタイミングで彼らが襲撃してきてね。時間がなかったところに、さらに彼らがメタモルフォーズを召喚してしまったものだから、面倒に面倒が重なってしまって」

溜息を吐き、バルト・イルファは肩を竦める。

「それでも、私の考えている道を歩んでいることだけは変わらないわ」

ふふ、と笑みを浮かべてリュージュは立ち上がる。

リュージュはバルト・イルファのほうを向いた。

バルト・イルファには何のも抱くことの無い出來事ではあったが、リュージュは絶世のといっても何ら過言ではないほど、しい存在だった。白磁のようなをもち、黒い髪はきめ細やかだ。彼が神話と呼ばれるような時代から生きていた、と言われていても信じる人間は殆ど居ないことだろう。

いや、それどころか。

祈禱師は不老不死ではない。確かに長壽ではあるのだが、人間とは明らかに遅いペースで老化が進んでいく。だから、通常數十年で進む老化も數百年単位で進んでいく。

しかし、そうであったとしても。

リュージュは明らかに老化しなかった。同じ祈禱師であったラドームが疑問にじる程度だった。どうして何百年も生きていてまったく姿が変わらないのか? 何か魔力を使っているのではないか? という疑問がすぐに降りかかる。

しかしながら、魔力をそのために使うには相當の魔力を要する。そういうわけだから、それを何百年も使いまくることは、ほぼ不可能に近かった。

だが、リュージュはそれをし遂げていた。

だからこそその疑問が解決できなかった。けれど、リュージュはその疑問を解決していた。

「……リュージュ様、お薬の時間です」

三人目の聲が聞こえた。

気が付けばそこには白いワンピースを著た青髪のが立っていた。お盆を持っており、カプセルが二つとグラスに注がれた水が載せられている。

それを聞いたリュージュは踵を返すと、

「あら。もうそんな時間だったかしら? ありがとう、ロマ。あなたのおかげでそれを忘れずに済むのだから」

そう言ってロマと呼んだのもとに近づくと、カプセルを飲み口に水を含んだ。

そしてそのままそのカプセルをに飲み込んでいった。

このやり取りはバルト・イルファがリュージュの側近のような立場になってから、いや、正確に言えばそれよりも前から続いていることだった。実際に何をしているのか彼には理解できないし教えてもくれなかったのだが、決して彼が病気では無いということから、それが何らかの習慣の一つであることしか、彼自も知らなかった。

「……バルト・イルファ。このやり取りが気になっているようね?」

急に。

ほんとうに急にバルト・イルファに話が振られて、彼は一瞬困した。

「……す、すいません。しかし、確かにその通りです。実はし気になっておりまして……」

「何もそれを過ちだとする必要はない。簡単なことだよ。これは、オリジナルフォーズのエキス……正確に言えばの一部だ」

簡単に。

呆気なく。

リュージュはそのカプセルの正を言った。

「私の貌を保つにも時間と金と労力がかかってしまうものでね。んな方法を試したものだよ。しかしながら、それはどれもうまくいかなかった。最終的にこの方法にたどり著いただけ、ということ。それは、永遠の治癒力と無限の力をめるといわれているオリジナルフォーズの力をに取り込むということ。なにせ、はほぼ無限に復活する。そして、これくらいならばいくら取ろうが誤差に過ぎない。これを摂取しだしてから、私の貌にはさらに磨きがかかった。いや、それどころではない。それどころか、さらに若さが増したようにも思える。魔力も満ち満ちている。これぞ、オリジナルフォーズの力と言えるだろう。に知恵の木の実を保持しているともいわれているからね、オリジナルフォーズは」

リュージュはそう言って、飲み干したグラスをロマに渡す。ロマは頭を下げると、そのまま姿を消した。

リュージュは再び自席に戻ると、水晶玉を見つめ始める。

そして、彼は言った。

「それじゃ、観測を再開しようか。あの己惚れた國軍大佐がどういう作戦を立てて私を倒そうとするのか、見てみようではないか? まあ、どうせ人間のすることだから低能なことなのだろうけれどね」

薄ら笑いを浮かべて、リュージュは水晶玉をれる。

「……さあ、せいぜい私を楽しませてくれよ?」

それは、すべて何もかも知っているような、そんな笑顔にも見えた。

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