《異世界で、英雄譚をはじめましょう。》第八十話 決戦、エノシアスタ⑧

バルト・イルファたちと別れて。

なおも僕たちは前に進んでいた。確かにバルト・イルファの言っていた言葉が妙に引っ掛かるけれど、それでも前に進むしかなかった。逃げることが前提ではあったのは確かだ。けれど、それよりも先に僕はバルト・イルファにどうしても聞きたいことがあった。

「……バルト・イルファにメアリーの行き先を聞きたい、だと?」

そう言ったのは、ルーシーだった。

「そうだ。バルト・イルファはメアリーを奪った張本人。ということはメアリーをどこに連れて行ったのか解るはずだろう? それに、シュラス錬金研究所でもバルト・イルファは登場しなかった。それは即ち、バルト・イルファがメアリーとともに一緒にいたということを示す証にならないか。だから、僕はバルト・イルファに問いかけたかった。でも、あいつはさっさと姿を消した……!」

「でも、考えてみろよ、フル。あの場で僕たちとバルト・イルファが戦いになったとして、僕たちはバルト・イルファを倒すことが出來たか?」

その言葉に、僕は何も言えなかった。

確かにバルト・イルファと僕たちは一度として戦ったことが無い。それに隣には戦力未知數の彼の妹、ロマも居た。二人で戦って、僕たちは四人。戦力では二倍の差がつけられているが、それはあくまでも人數の話。単純に一個人が持つ戦闘力で比べれば、おそらくバルト・イルファのほうが圧倒的だろう。まだその差を埋めることは出來ない。

「じゃあ、じゃあ……。メアリーのことはあきらめろ、と言いたいのかよ?」

「そうは言っていないだろう。つまり、こういうことだよ。今はあきらめるしかない。そして、バルト・イルファを何とか倒すしかない。あとは……そうだな。世界を何とかめぐるか。それにしてもしくらいヒントがしいことも事実と言えば事実だけれど……」

僕たちが得ているメアリーの場所についてのヒント。

それはバルト・イルファ自が示した寒い場所にある邪教の教會。

ただそれだけのヒントだったけれど、場所を示すものとしてはそれ以上のものは無い。

「寒い場所で邪教の教會、と言われるとなかなか難しいものがあるけれど」

そう話を切り出したのはシュルツさんだった。

「実はあれから調べてみたんだ。どこに行けばいいのか、と。そのヒントだけで結びつくものはないか……ということをね。そしたら、一個だけ見つかったものがある」

「あったんですか、邪教の教會が……」

こくり、とシュルツさんは頷いた。

「ああ。その通りだよ。チャール島にあるフォーズ教。その名のとおり、メタモルフォーズを神の使者と位置付けて信仰している邪教が居る。そして、その教會、その本部がある場所こそがチャール島だ。……まあ、それがほんとうにメアリーさんの居る場所かどうかは定かではないが、この世界にある邪教と言えばその程度しかない」

「フル」

ルーシーの言葉を聞いて、僕は彼のほうを向いた。

「この言葉、一度確かめてみる必要があるんじゃないのか? まあ、どこまで確かかはっきりとはしていない。きっとシュルツさんも書とか文獻とか口伝とか……そういう不確かなデータでここまでたどり著いたのだと思う。けれど、百聞は一見に如かず、ともいうだろ。まずはその場所に行ってみて、ほんとうにメアリーが居るかどうか、確かめてみる必要があるんじゃないのか。闇雲に進むよりかは、そちらのほうがベターな選択だとは思うけれど」

「……そうだな」

ルーシーの言葉は長い言葉ではあった。けれど、的確なアドバイスであることもまた確かだった。

僕は頷き、さらに前に進む。

「……じゃあ、一先ずここを出ることにしよう。バルト・イルファの言葉通りに従うのはちょっと気にらないけれど……。今の僕たちには、それがベターな選択のようだ」

そうして僕たちは前に進む。

けれどさっきのように、不確かな考えではない。

一筋だけ見えてきたの先に進むために、はっきりとした考えをもって進む。

目的はただ一つ。メアリーを、いち早く助けるために……。

◇◇◇

そして。

アドハムは窮地に立たされていた。

あれほどたくさんいた兵士ももう彼を守る數人程の近衛兵しか居らず、しかもその殆どがバルト・イルファとロマ・イルファ――イルファ兄妹によって倒されたものだった。

「……まさか、イルファ兄妹が二人とも投されるとは。それほどまでに我々は早急に対処すべき存在だと認定された、ということかね?」

「ええ。そうでしょうね。まあ、なくとも僕はそこまで深いことは知りませんけれど。いずれにせよさっさと諦めたほうがいいとは思いますよ? あのお方が、裏切った人間をどう対処するかはあなただって知らないことでもないでしょう?」

「そうだ。だが、それで恐れていては今回のことなど進めることがあるものか」

アドハムはバルト・イルファを睨みつける。

バルト・イルファは溜息を吐いて、右手を彼らに差し出した。

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