《異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー》3-23 怒りの理由
「それでは、私は一度先行して様子を見てきます」
「うん。分かった。お願いね」
「はい。皆さんは暫くしてから追いかけてきてください」
ラックはそう言って勢いよく階段を駆け上がる。
勇二達は壁の中に隠れた階段を見つけた後、すぐに地上に戻ろうとしたのだが、そこにラックからの忠告がったのだ。
もしかしたら追手が地上に先回りしている可能があり得る、と。
地上の事について考えの回らなかった勇二はとっさに頭を抱えるこことなったが、幸いにもラックが先行、斥候の代わりとして様子を見てくるということでその件はいひとまず一段落した。
「にしても、そろそろきがあるかな?」
勇二は子供達にも未希にも聞こえないような聲で小さく呟き、辺りを見回す。
すると...
「やっと見つけたぞ愚か者。私から商品(商品)を盜み出した小悪黨め」
そう言って居住區のある方向から歩いてきたのは小太りな男。
その男は鬱陶しい程にびた金の髪をかき分け、その間に見えるに濁った青の目をギラつかせ勇二達を睨む。
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「…貴方は?」
勇二は腰に下げた剣の柄に手を置き、左足を半歩下げながら男を睨み返す。
「ふん。まさか私の奴隷(商品)を盜んでおいてその主の名前を知らぬとは、無知とは罪であるな…」
男は思わせぶりにそう言うと大仰そうにに両手を広げ天を仰ぐ。
「私は代々この街で開かれる裏オークションを取り仕切ってきた商人の一族メンデール家、その親類に當たるケルロ家當主、テルダ・ケルロである!」
「ふーん。…で?」
しかし、そんな大袈裟な自己紹介は勇二にとっては興味を示すにも値しなかったようである。
「話がそれで終わりなら失せてくれるかな?いい加減、我慢がきかなくなってきた」
ただ、この男が現れた先程から勇二の表はしずつ険しくなっていた。
許せないのだ。
勝手に攫って來た子供達を奴隷として扱い売りさばくこの男が。
子供達を商品としてしか見ないこの男が。
三人の中でも一際溫厚だった勇二。
そんな勇二には一つこの世に許せないものがあった。
それは人を困らせ、悲しめる者だ。
勇二は、それほど正義が強いというものではない。
それに別に勇二は正義の味方をやっている訳ではない。
昔、朝日と出會ってばかりの頃、彼に一度問われたことがあった。
何故お前は人助けを、困っている人に手を差しべるのか、と。
勇二はその時こう答えた。
別に困っている人全部を助けている訳じゃない、ただ自分の手の屆く範囲で困っている、泣いてる人を見たくないだけなんだ、と。
勇二にとっては正義だとか悪だとか、『そんなもの』はどうだっていいのだ。
ただ、目の前に困っている人がいるから、泣いている人がいるから。
故に勇二は手を差し出す。
子供を攫われて悲しむ親がいたから。
親と引き離され、寂しい思いをした子供達がいたから。
たったそれだけなのだ。
だから、目の前の男は許せない。
シェリーの母親を悲しませたから。
シェリーを泣かせたから。
だから...
「斬られたくなかったら早く失せろ。邪魔だっ!」
勇二は語気を強めてそういうと一瞬で男の懐に潛り込み、回し蹴りをきめる。
蹴られた小太りな腹では威力を吸収しきれなかったのか男は缶蹴りの空き缶の如く吹っ飛んでゆく。
「はぁ…スッキリしたー」
男のその様を見た勇二は全から力を抜き一つ溜息をつく。
その後姿からは先程まで纏っていた覇気は完全に消え去り、普段通りの勇二に戻っていた。
「勇二、しやりすぎじゃない?子供達が呆然としてるよ?」
そう言って近づいてきた未希の視線の先では子供達が男の飛んで行った方向を見て石のように固まっていた。
「ははは、うーん。まさか、あそこまで吹っ飛ぶとは思わなかッ!?」
勇二がそう言って頬をかこうとしたその瞬間、男の吹っ飛んで行った方向から複數の足音と金屬音が聞こえてきた。
「…どうやら。まだあちらは懲りてくれてないみたいだねぇ」
to be continued...
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