《異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー》3-34 鍛錬と影

冒険者ギルドに隣接するように建てられた訓練場。

そこではカンッ、という木材同士がぶつかり合う乾いた音が幾度となく響き渡っていた。

「ふっ!最近、かしてないから腕が鈍ったんじゃない?未希」

「そういう勇二は『向こう』にいたときに比べると大分腕を上げたみたいだ、ねっ!」

激しく木製の模擬剣と模擬槍を打ち合い、お互いに間をとりながら対峙する勇二と未希。

未希が突きを放てば勇二はそれを避け、軽く後ろに飛んでから反撃を開始する。

勇二達はお互いの買いが済んだ後、予め待ち合わせていた冒険者ギルド前でおちあい、この街での生活拠點となる宿を探しながら適當に街をぶらついていた。

その後、なんとか宿を見つけた二人は何となくギルドに戻ってきていた。

周囲の魔報だとか新しく張り出された依頼書などをしていると勇二が唐突に「久しぶりに未希と稽古したいなぁー」などと言い出したのだ。

この二人が馴染であることはすでに周知のことだと思う。

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あと、勇二の実家が道場を開いていて、未希がその道場の門下生であったこともまたご存知であろう。

そんな二人であるからして、當然地球にいたころは何度も手合わせをしたことがあった。

は勇二の勝利で締まっているのだが

ちなみに戦績は二百二十三戦百八十一勝で勇二が勝ち越している。

突然そんなことを言い出した勇二に未希は驚きの表を浮かべ、最近殆んどかしていないことを思い出し、斷ろうとしたのだが...

未希のそんな抵抗は「あ、それでしたらギルドの離れに訓練場がありますよ?」という付嬢の親切な言葉により勇二がさらにやる気を出し未希は拒否の言葉虛しく強制的にギルドの訓練場まで連行されたわけだ。

「でも、うん。大分調子戻ってきたんじゃない?」

勇二はそう言って右手に持った剣を手の平であそばせながら未希の方を見る。

「槍使うの久しぶりだから、勘を取り戻すには時間がかかりそうだよ、っと!」

未希はそう言って先ほど空いた間を數歩で詰めると勇二の腹めがけて渾の突きを放つ。

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「おおっ!?更に早くなってる!」

しかし、勇二はその突きが自分に屆く一歩手前のところで後ろに跳びそれを回避する。

「うーん。やっぱり一筋縄ではいかないかぁ…よし、未希!」

「へ?」

「次は魔法をえてやってみよう!あくまで必要最低限の範囲で、だけど」

そう言って勇二は剣を構えなおす。

すっかりやる気になっている勇二を見ながら未希は首を傾げながらも槍を構える。

基本後衛で魔法をバカスカ打っている未希にとっては必要最低限という制限ががイマイチ摑めていないようだ。

「それじゃあ、行くよ!」

最初にくのはどうやら勇二のようだ。

「駆けろ、閃の如く。貫け、千鳥の如く。夢現流魔法戦闘『迅雷』」

勇二は神を集中させながら魔力を中に行き渡らせていた。

夢現流魔法戦闘『迅雷』。

それは雷屬の魔力をに纏い、能力を強化する夢現流の奧義の一つだ。

に纏った雷により中の筋を刺激し、普段の倍以上の能力を得ることができる。

ただし、この奧義はを雷の魔力で無理やり強化している狀態なので魔力が切れると反でしばらくくことはできなくなる。

「さて、それじゃあ行くよ!」

勇二は雷がビリビリと纏わりついているを見下ろしそう言うと一気に駆けた。

「っ!?」

あまりの速さに勇二の姿を捉えることのできなかった未希は己の直を信じ右に飛ぶ。

すると、先ほどまで未希のいた場所に強い風が吹いた。

そして、その後に聞こえたのは何かが訓練場の壁に激突した音だった。

「イタタタ…うーん。中々制が難しいね」

そう言ってを起こした勇二はケロリとしていてどこも怪我をしている様子は見けられなかった。

見れば訓練場の壁には大きな窪みができていて、とてつもない勢いでぶつかったのが一目でわかる。

「勇二、弁償代請求されても知らないよ…?」

「あー。うん。たぶん大丈夫じゃないかな?それよりも未希、次はそっちの番だよ?」

「えー。別に私は負けでもいいんだけど…」

「いいからいいから。ほらっ!思いき、ッ!?」

一向にこちらを攻めようとしてこない未希に勇二が両手を掲げて攻撃を促していると、勇二は途端に全の筋が強張るのをじた。どうやら先程の奧義の反のようだ。

槍の刃を下ろしてその場に突っ立っていた未希はその隙を見逃すことなく、反けない勇二に詰め寄り三回の連続突きを放つ。

「いきなりっ!攻撃してくるのはっ!あんまりじゃないかなっ!」

しかしその突きの最初の二回は勇二がかないを強引に捩ったことで躱され、最後の突きに関しては勇二の持つ模擬剣で外側に逸らされてしまう。

重を込めた最後の突きを逸らされた未希は危うく転びかけその場でよろめいてしまう。

勇二はその隙を見逃すことなく未希の懐にると模擬剣を地面に放り投げ、未希のを支え頭に軽い手刀をくらわせる。

「ふぅ、ボクの勝ちだよ。未希」

そう言って満足げに微笑む勇二に、未希は一瞬見とれながらも不貞腐れたように膨れっ面になる。

「むぅ…不意を突いて負けた上に助けられた」

「はは、そう簡単にはやられないよ?」

「明日も來ようね勇二。今度こそ私が勝つ」

「そうこなくっちゃ」

そんなやり取りの後、二人は一度間をとり、床に武を置いてその場で禮をする。

次の瞬間、訓練場の中に歓聲と拍手が巻き起こった。

いつの間にか集まっていた二人の対峙を観戦しに來ていたギャラリーである。

勇二と未希はそんなギャラリー達に手を振りながら武を『道袋アイテムストレージ』に仕舞い込むと足早に訓練場を後にする。勇二は若干足を引きずっていたが...

見ればその耳はし赤く染まっており照れていることが窺えた。大衆の視線が意外に苦手な二人だった。

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それとほぼ同時刻。どことも知れぬ暗闇の中で蠢く大量の魔の影があった。

「ふん。これだけ集まれば奴等を潰すには十分か…」

暗闇の中でそう呟くのは全を黒い鎧で包み背中に大剣を背負った男。

見ればその鎧のところどころには大きく亀裂がり、その間からは瘴気のようなものが溢れ出していた。

「剣。一応私は忠告しましたよ」

そう言って背後から近づいてくる気配に男は顔にかぶった兜の中で小さく舌打ちをする。

「何の用だ、弓。言っておくがこれ以上口出ししようものなら容赦はせぬぞ」

男がそう言って背中の剣の柄に手を掛けると弓と呼ばれたは全を黒いで覆い、仮面の側から小さく溜息を吐く。

「いまさら何を言っても無駄のようですね。ならせめて、あなたのその行が良い方へ向くように祈っておきましょう」

それだけ言うと、に溶けるようにその場から姿を消し去った。

男はの消えた方をしばらく見つめたあと、男は背後にいる大量の蠢く影の方へ視線を送る。

「さて、邪魔者はいなくなった…いや、違うな」

「さあ、あのお方の崇高なる目的を妨害しようと企む邪魔者共を潰しにいくとしよう」

to be continued...

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