「それで、的にどういう狀況なんですか？」

勇二達は今、いつか案されたギルドの奧の小部屋（聞くところによると応接室らしい）で付嬢から話を聞いていた。

もちろん話というのは、付嬢の先ほどの発言についてだ。

「はい。その前に…ユージさん、アナタが買い取りに出したフォレストベアの素材の事を覚えていますね？」

「へ？あ、はい。覚えてますけど…でもなんで？」

「いえ。一応この件に関係することですので…」

「え？確かにこの辺りでは見かけない魔だったけど…それがどうして関係するの？」

「この辺りでは見かけない魔だからです」

首を傾げてそう尋ねる未希に付嬢は簡潔に答える。

「ユージさん、あのフォレストベア、どこで倒したか覚えてますか？」

「…街付近の街道だったと記憶していますが、それが？」

「はい。実は先日、ギルドマスターがそのフォレストベアについて気になることがあると言って街付近の森や村に斥候部隊を派遣したんです」

「斥候、ですか…」

「ええ。普通、フォレストベアが生息してるのはもっと北のほうですからね。そんな魔が大陸の端にあるこの街の付近にいたんです。嫌でも気になりますよ」

「それで、なにか見つかったんですか？」

「ええ。それも予想以上のものが。ここまで來れば何かわかりますね？」

「街に向けて迫りくる魔の群れ…？」

勇二が呟くように言ったその言葉に付嬢は無言で頷く。

「現狀としては街に滯在している冒険者たちが各自現地に赴き魔の討伐をしていますが…」

言いづらそうにしている付嬢に勇二は自らその続きを口にする。

「流石に街に滯在している冒険者だけでは數が足りない、か」

「ええ。冒険者が立ち寄ることのない街ですからね…」

その言葉をけた付嬢はわずかに眉を下げて肩を落とす。

「で、そこで頭を抱えていたところに僕たちが來た、と？」

「はい。ギルドとしましても、このまま街に魔の群れが襲撃してしまうのは避けたいので…お願いできますか？」

そう言って縋るような視線を向けてくる付嬢に勇二はある疑問を口にした。

「行くかどうかは一旦保留にして、なんで僕たちに？」

「実はギルドマスターからの命令でして、見つけたら即このことを伝えろ、と。あの二人なら二つ返事で引きけてくれるだろう、とのことです」

その言葉を聞いた勇二の脳裏には楽しげな表でウィンクをするギルドマスターの顔が浮かんできていた。

「僕たちが逃げるってことは考えないんですか？」

「考えていないようですよ？異名持ちの冒険者が逃げ恥を曬すなんてことしないだろうって自信満々に言ってました」

「報酬は出ないんですよね？」

「はい。あ、でもギルドマスターからは正式に指名依頼としてもいいとのお達しが來ていますよ？」

そういって付嬢が取り出したのは一枚の契約書だ。

「こちらにサインしていただければ、モンスターの襲撃が収まり次第報酬を支払うとのことです」

「なるほどね…あくまで襲撃が終わってからってことか…」

勇二はそう言って腰に下げたスペアの剣の柄にれる。

別に勇二としてもこの件に首を突っ込むのはやぶさかではない。

ただ、何となくこの件に関しては嫌な予がするのだ。

それがこの頼りない不慣れな剣のせいなのか、はたまた別の理由なのかはわからない。

だが、それはこの件を快く承諾するに至らない理由には十分なものであった。

「勇二？」

勇二が心そんなことを考えていると今まで黙っていた未希が聲をかけてきた。

「勇二がじてる不安、私もなんとなく分かるよ。でも、さ」

「「後先考えずに行するのはバカのやること、先を考えて行するのはもっとバカな奴のやること」だよ？」

未希の言ったその言葉に勇二は一瞬思考を止めた。

その言葉はいつだったか、朝日が何気ない會話の中で言った言葉であった。

後先を考えずに行すれば、それはいつしか後悔へつながる。

だが、先のことを考えて行する者がいたとしたら、それもそれできっと後悔する。

そんな意味を込めた言葉だった気がする。

後先を考えて行したことが必ずしもいい結果につながるとは限らない。

それでも構わず行する者がいたら、そんな事をどうでもいいと切り捨てて災難に自らを投げる者がいたら、それはきっととんだ大バカ者だろう。

そんなことを言っていた気がする。

なら、勇二はあの時こう返した。

「それなら僕は大バカ者だ」と。

「分かりました。その依頼、けます」

「…ありがとうございます。ギルドマスターにはしっかりと伝えておきます

「それで、僕たちは一どこに向かえばいいんでしょう？」

「でしたら南側にある町をお願いできますか？先程、偵察隊から町が襲撃されているとの報がりました」

「よしっ！それじゃあ行こうか！」

勇二はそう言って未希の手を引いて立ち上がる。

「未希、ありがとうね？おかげで無駄に悩まずに済んだよ」

勇二はそう言って未希の頭を軽くでてやる。

未希もそんな勇二の方を見てニコリと微笑む。

「大丈夫。勇二は私が支えるから。勇二が走って、朝日が考えて、私が手伝う。それが私たちでしょ？」

「…だね」

そうだ、自分たちはいつもそうしてきた。

たかが不安がなんだ。

そんなの、別に気にかけるようなことでもないじゃないか。

考えるものがここにいないのだ。

それなら、今自分たちが取れる行は一つだけ。

災いの渦中へ飛び込む、それだけだ。

「それじゃあ、いつも通り『面倒ごと』に巻き込まれに行きますか！」

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時を同じくしてリユニオンの街の南側に位置する町では阿鼻喚の地獄絵図が広がっていた。

町の中を魔が我が顔っで歩き回り、ひとたび生きている人間を見つければ徹底的に殲滅する。

その場に生きている人間は存在しなかった。

そして、その中心には黒い鎧を著た男が一人佇んでいた。

その男は町の北側を仰ぎ見ると鎧の兜の下で靜かに笑みを浮かべた。

「やっといたか。これでやっと私のけた屈辱を晴らせるというものだ」

「なあ、『勇者』？」

to be continued...