《異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー》3-37 二人の弔い合戦

リユニオンの街から南下して數時間のところに、その町はあった。

町にたどり著いた二人はそのあまりな慘狀を見て言葉をなくす。

その町は、地獄と化していた。

元の人口よりも多い魔が町中を我が顔で歩き回り、破壊の限りを盡くし、數時間前まではさぞ賑わっていただろうそこには誰一人として生存者は存在しない。

「…酷い」

未希は眼下に広がる町の殘骸を見てそう呟くと顔を手で覆いその場に座り込む。

勇二はその場でただただ己の拳を強く握り締める。

「未希、全力で魔を殲滅するよ」

そう言った勇二の聲には怒りが滲んでいた。

勇二が視線を向けるその先には複數の死があった。鎧やローブを著ているところを見ると、恐らく同業者だろう。

「うん…分かってる。終わったら、ちゃんと弔ってあげないとね…」

未希はローブの袖で目元をこすり立ち上がる。

「そうだね。で、まずは…」

そう言って勇二は腰の鞘から剣を抜き放つと、偶然目の前を通りかかった魔を睨みつける。

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「魔を倒さないとね」

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真っ先に斬り込んだのは勇二だった。

勇二は下段に構えながら魔、フォレストベアの目の前まで詰め寄るとフォレストベアの元目掛け剣を斜め上に切り上げる。

それは狙いを外すことなく命中し、フォレストベアのの皮を斬り裂いた。

しかし...

「手応え無し…!」

その攻撃はの皮を薄く斬り裂くだけに留まりを絶つことはできなかった。

対するフォレストベアは自けた傷に驚きながらもその瞳に憎悪を抱き、勇二に爪を振り下ろす、が。

「させないよ!」

その場に未希の聲が響いた時、フォレストベアは既にその場にはいなかった。

見ればその巨を數メートル先まで吹っ飛ばしているではないか。

「ふぅ…なんとかできた」

それをやった張本人の未希は杖にしがみつきホッと溜息をつく。

「ごめん未希、助かったよ。今のは『ウィンドバレット』?無詠唱だったみたいだけど…?」

「うん!何とかできるようになったの!しかも詠唱破棄と複數展開の合わせ技!すごいでしょー!」

「うん。すごいすごい」

勇二はそう言って未希の頭をポンポンと叩くようにでる。

それに対して未希は「子供扱いしないで―」と膨れっ面で文句を言っている。ただし、決して拒もうとはしないあたり本人は満足しているのだろう。それでいいのか、未希よ...

「それにしても、勇二が間合いを計り間違えるなんて珍しいね?」

未希のその言葉にでる手を止めて苦笑する勇二。

「ああ、それね。このスペアの剣さ、重さは前の剣と同じなんだけど刀の長さが若干短いみたいなんだよね。斬った時にそれに気付いて…」

あははー、などと笑いながら頭の後ろを掻く勇二。

「勇二、勇二は前衛なんだから裝備の確認はしっかりしないとダメだよ?」

「ごもっともなお言葉で…以後気をつけます」

そう言って軽く頭を下げた勇二は周囲に近づく複數の気配に気づき瞬時に再び頭を上げる。

「未希、敵だよ。足音と気配から察するに四。恐らく人型」

「オッケー。勇二、今度はさっきみたいなヘマはしないでよ?」

「分かってる!」

勇二はそう言って魔たちのいる方めがけて駆けだした。

未希も慌ててその後を追う。

こうして二人の弔い合戦が幕を開けた。

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あれから、一どれだけの時間が経っただろうか。

日はすっかり傾き、夕日が街の殘骸を照らしている。

勇二はまみれになった剣を鞘に戻すと、近くにあった瓦礫に腰をおろしながら、ふぅと小さな溜息をつく。

「一応町中をまわってみたけど、これで全部かな?」

そう言った勇二の足元、及び町中には大量の魔の死があり、二人の激闘の痕が窺えた。

ちなみにその魔というのは主にゴブリンやオーク、フォレストウルフにラージラビットなどの魔で、普段はこの辺りに存在しないはずの魔だ。

「はぁ、一どうしてこんな大量の魔が…これも魔王復活に影響してるのかな?」

そう言って一人、考え事に耽る勇二は気付かない。

勇二の後ろから忍び寄る白い影に...

「ていっ!」

「のわっ!?」

突如背中からじた暖かい溫もりに勇二は驚きの聲を上げる。

「えへへー。隙あり―」

そう言って勇二の事を後ろから抱きしめ、にこやかな笑顔を浮かべる未希。

「未希…脅かさないでよ…」

勇二もそんな未希を見て毒気を抜かれたのか、そう言って無意識に強張っていたからだから力を抜く。

「未希、離れて?きづらい」

「いいからいいから。休憩は必要だよ?」

そう言って勇二の頭をやさしくで始める未希。

「いや、そうじゃなくて…」

そう言ってじろぎすると、勇二は背中から布越しに伝わる悩ましいらかい二つの膨らみのを敏じ取った。

勇二とて健全な(元)男子高校生。

こういった狀況は中々に厳しいものがあるのだ。

まして、相手は最近になってやっと長しだした馴染。

勇二としてはたまったものではないのだ。

そんな、ごく一般の男諸君が見たら呪い殺されそうな狀況で、勇二の視線は破壊された町の殘骸へと向いていた。

「…これから、どうしようか」

勇二のそんな呟きに、未希は頭をでていた手を止める、その頭に自分の顎を乗せ勇二と同じように街の殘骸に目を向ける。

「町の人とか、ちゃんと弔ってあげないと可哀想だよね…?」

未希の所有する回復魔法。

その魔法の中級に位置する『プリフィケーション』という魔法がある。

その魔法は簡単に言えば死者の魂を癒し、浄化する弔いの魔法だ。

死者の魂は何の弔いもなしに放っておくと、アンデッドとして甦りそのが朽ちるまで暴れまわるのだ。

未希はこれまでこの魔法は誰かに使ったことはなかったが、行使自は何ら問題なくできることは確認済みである。

「はぁ…倒した魔も討伐部位を採取したら焼かないとね。流石にあの量は持ちきれないから」

「…何いたんだろうねぇー」

そう言って再びしんみりとした雰囲気となる二人。

「必要ない。これから貴様らは私に殺されるのだからな。そうだろう?哀れな勇者よ」

その雰囲気を破ったのはどこか殺意すらじる冷たい聲だった。

勇二と未希はそれを察知すると一瞬でその場を飛び退き臨戦態勢をとる。

そして、聲のした方に顔を向けた二人は思わずその場で固まった。

そこにいたのはひび割れた黒いフルプレートメイルにフルフェイスの兜。一メートル半はある重厚な大剣を背負った男だった。

二人はこの人についてよく知っている。

出會ったのはリザーブの森を出た平原。

そこで自分達はこの男に殺されかけたのだ。

忘れはしない、忘れるはずがない。

「なんでお前がこんなところに…」

「剣の使徒…!」

to be continued...

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