《異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー》3-39 使徒の本気

「今度こそ本気で殺してやろう」

そう言った使徒は手に持った大剣を天にかざすと、それをそのまま自の腹に突き刺した。

その突拍子のない行に驚いた勇二と未希だが、周囲の空気が変わったことを敏に察して剣の使徒から距離をとった。

そして、安全な場所まで退いた勇二達は再び剣の使徒のいる方を見て目を見開く。

剣の使徒の、剣の突き刺さった鎧の隙間から紫の靄のようなものが溢れ出したのだ。

「あれは、一何なの?」

「未希、気をつけて。なくともにいいものではないよ」

勇二はその溢れ出す靄を見て本能的にそれが自分達に害をなすものだと理解すると未希を庇うように前に立ち、剣の使徒に対する警戒を一層に濃くする。

そうしている間にも剣の使徒のからは靄が出続けており、あっという間に剣の使徒のを覆い隠すほどとなった。

そして、靄の出るのが止まったかと思えば、それは靄の中にいる剣の使徒に集まり始めた。

「何が、起こってるの…?」

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思わずそうこぼす未希と勇二をよそに靄は剣の使徒に向けて集まり続ける。

そして、靄が圧され、剣の使徒の形をとった時。

その靄は一瞬で弾け飛んだ。

「っく!『飛翔剣』!」

勇二は自分の方へ飛んで來た靄を風屬を纏わせた剣で斬り飛ばすと、剣の使徒の方を見た。

そこには全を禍々しい鎧にを包んだ剣の使徒が佇んでいた。

「ふん。この姿をとるのも久方ぶりか」

剣の使徒は小さくそう呟くと、いつの間にか地面に落ちていた自の大剣を拾い上げ、肩に擔ぐ。

「構えろ、勇者。第二ラウンドだ」

そう言って剣の使徒が肩に擔いだ大剣の切っ先を勇二に向ける。

勇二はそれ見て呆然とした後、正気に戻ったのか己も剣を構えなおし、剣の使徒を睨み付ける。

最初にいたのはまたしても勇二だった。

「『迅雷』!からの…『飛翔剣・迅雷』!」

勇二は強化した足で一瞬のに剣の使徒の目の前まで詰め寄ると先の鍔迫り合いの時に見せた技を繰り出した。

雷を伴った風の斬撃は、そのまま剣の使徒まで飛んで行く。剣の使徒は避ける素振りすら見せない。

そうして、斬撃が使徒に命中し辺りに砂埃が起こるが、その砂埃が晴れたとき、そこにいたのは無傷の剣の使徒だった。

「ふん。また同じ業か、蕓のない」

剣の使徒は興味なさげに淡々とそう呟くと剣を上段に構え勇二を薄にするべく詰め寄った。

「させない!」

「未希!?」

しかし、それは未希が二人の間に割り込み、同時展開した『ウィンドバレット』の弾幕を浴びせたことで阻止された。

「っちぃ!小娘が!」

そう悪態をつきながら後退する剣の使徒に未希は警戒を緩めぬまま勇二のもとに駆け寄った。

「勇二、大丈夫!?」

しかし、未希のそんな言葉をよそに勇二はその場でただただ立ち盡くしていた。

姿の変わった剣の使徒からじる、先程とは比べにならない存在と殺気に勇二は心焦りを覚えていた。

まるで目の前の使徒と初めて出會った時のような、圧倒的な実力差をじ取ったのだ。

このままではあの時の二の舞になってしまう。

そう考えるだけで足が竦むのだ。

今でも気を抜けばその場に座り込んでしまいそうな程、勇二は追い込まれていた。

「えいっ!」

「うわぁ!?」

このままでは勝てない、そう思った矢先のことだった。

そんな勇二を未希が突然、後ろから抱きしめ始めたのだ。

「み、未希?」

突然の行に戸いながら背中越しに抱き著く未希を見る勇二。

「勇二…」

対する未希はどこか真剣な表だ。

「勇二は私が支える。だから大丈夫、だよ…?」

真剣な顔で何を言うかと思えば、そんなことだった。

よくよく見れば未希のは使途に対する恐怖でか小刻みに震えているし、その瞳の端には僅かばかりの涙が滲んでいる。

勇二はそんな未希の様子を見て、未希の言った一言を聞いて、「ああ、そうだ。その通りだ」と一人頷いていた。

自分一人で戦おうとするから勝てる未來が見えないのだ。

目の前の未希が自分を支え、自分が未希を守る。

それが二人で旅を始めた時の約束だった。

さっき、剣の使徒に詰め寄られたとき不意にあの時の記憶が蘇ってきた。

剣を振り下ろそうとする使徒、それを抵抗すらすることなく全てを諦め、ただ死を待つだけだったあの時を。

しかし、自分は生きている。

朝日がして助けてくれたからだ。

今回だってそうだ。

目の前で、恐怖で小刻みに震えている未希が助けてくれた。守ってくれた。支えてくれた。

だから自分は生きている。

実力差がなんだ、こっちは二人だぞ?

異世界に來ても尚、変わることのない馴染だ。

馴染のの子が自分も怖くて一杯一杯の癖に、一杯の勇気を振り絞って前に出ているのだ。

挫けている場合ではないぞ。杉崎勇二!

勇二は心そう呟いて、未だに恐怖に震える自分の心をい立たせる。

「目は、さめた?」

そういって未希が覗き込んだ勇二の黒い瞳の中には確かな決意があった。

「うん。ありがと、未希」

勇二は微笑みながら未希にしっかりとお禮を言うと、それを聞いた未希は若干照れながらも勇二に元を離れる。

そんな未希を眩しいものを見るような目で眺めつつ、勇二はその視線を先程から一言も発さず直立不を貫いている剣の使徒に向ける。

「手加減しないんじゃなかったのかい?」

「ふん。この程度、待ったところで何も変わりはせん。ただ、貴様らの壽命がほんの僅かに延びるだけのこと。手加減のうちにはらん」

「ははは、確かにそうかもね。ま、いいや。それじゃあ…」

「第三ラウンド開演と行こうか?」

to be continued...

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