《異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー》3-41 華夜

「勇二、未希。悪い、し遅れた。こっから先はオレがやる。だから、安心して寢てな」

そう言った青年の姿を見て勇二と未希はその場にへたり込む。

ボロボロにすり切れた黒いコートの袖から覗く闇のように黒い右腕。

目元が隠れるほどにびた茶髪に鋭い焦げ茶の瞳。

リザーブの森で別れたときと何ら変わらないその出で立ちでそう言った朝日に、勇二と未希は未だに信じられないものを見たような顔をしている。

「あさ、ひ?」

「よう、勇二。手酷くやられたみたいだな」

そう言って口の端をニヤリとゆがめる親友に勇二は自然と自分の頬が緩んでいくのをじた。

いつもは憎らしく思うこのけ答えでさえ、今は快くじる。

「また、遅刻。何か罰ゲームでもしないとねー?」

悪戯っぽく笑う未希に朝日は呆れたような顔になる。

「だから悪かったって…ってか、遅刻に関してはお前らに文句言われる筋合いはないと思うんだが?」

「ふふっ、そうかもね」

「ったく…お前らは」

朝日はそう言って小さく溜息をつくが、その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。

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「兄さん!再會を懐かしむのもわかりますが、今は目の前の使徒に集中してください!」

しかし、そんな穏やかな空気はラックのそんな言葉とともに一変した。

「ラック、今なんて…?」

戦闘面の張とは別の方向に。

ラックの口から聞き捨てならない言葉を聞いた今、勇二にとって『そんなこと』は別にどうでもいいのだろう。

現に勇二は先程から朝日とラックの顔の間で視線を右往左往させている。

そんな様子の勇二に、朝日とラックはお互いに苦笑しながら視線をあわせると、どちらともなく頷いた。

「そうだな…こんな狀況だが、一応疑問は消化しておいた方がいいだろう。なぁ、『華夜』?」

朝日はそう言ってその視線をラックに向ける。

朝日の口から出たその名前を聞き、その視線の先にいたラックを見た瞬間、勇二と未希は思考が停止し、固まった。

「え、朝日?今のって…?」

「聞き間違いじゃなかったら今の名前って妹さんの…」

目に見えて揺する二人に朝日は苦笑しつつ、ラックの肩に手を置く。

「聞き間違いじゃねぇよ。そうだな…『華夜』、改めて二人に自己紹介だ」

「分かりました。兄さん」

『華夜』と呼ばれた、ラックはそう言って一歩前に出ると勇二と未希に軽くお辭儀をする。

「勇二さん、未希さん。こんな狀況ですが、お久しぶりです」

未だにポカンと口を開けている勇二と未希。

「私はここにいる兄さん、東山朝日の『妹』。そしてお二人の先代勇者に當たる六代目勇者『東山華夜とうざんかや』です」

そして二人はラック、華夜の口から放たれた言葉によって再びそのきを止めることとなる。

「「ええぇぇぇ!?ラックが華夜ちゃん!?」」

數秒置いてやっと再起したのか、勇二と未希は驚きの聲を上げる。

「はい。あ、ちなみにラックというのは偽名です」

「いや、でもギルド証には確かに…!」

「それに関しては長くなるので説明は省きますが、いわゆる裏ワザというやつです」

「しかも先代勇者って…」

「それに関してはこのごたごたが片付いたら兄さんと一緒にキチンと説明しますよ。ね?兄さん」

「ああ。なくとも戦場こんなとこじゃ落ち著いて話ができないからな」

話を振られた朝日はそう言って頷く。

「そう、か…なんというか。よかったね、朝日。報われたじゃないか」

そう言って優しく微笑む勇二の瞳は懐かしげに細められていた。

そんな視線を向けられた朝日は落ち著かない様子で頬を掻いて小さく「ああ」と頷いた。

周囲を再び穏やかな雰囲気が包む、が。

それは再び打ち破られた。

他ならぬ使徒の放つ殺気によって。

「おのれ、勇者ァ!」

それは理と知を持ったモノとは思えぬどこか獣じみた低い唸り聲だった。

剣の使徒は全に力を込めると自を束縛していた影を無理やり引きちぎった。

「よく見ればそこにいるのは先代勇者の小娘!なぜ生きている!?魔王様と対峙し、確かに敗れた筈の貴様がなぜここにいる!」

地面に落ちていた己の大剣を拾い上げ華夜に切っ先を向けてそうぶ使徒。

対する華夜のけ答えは軽く肩を竦めるのみという簡潔なものだった。この兄にしてこの妹あり、といったところか。

「ふざけおって…!まぁいい。どうにしろ私のすことは変わらん。魔王様のため、勇者一行を始末する。それだけだ!」

そう言って剣の使徒は大剣を下段に構えるとこちら目掛けて突撃してきた。

「っちぃ!めんどくせぇ」

朝日はそう言って悪態をつくとコートを翻し勇二達に背を向ける。

「とりあえず、お前らはそこでジッとしとけ。すぐに済ませる」

「朝日」

「あ?」

いざ剣の使徒のいる方へ向けて歩き出そうとした矢先、朝日は勇二に呼び止められその歩みを止めた。

「今度は、どこにもいかないでね?」

「…さぁな。それはオレの気分次第だ。いいから大人しくしてろ。めんどくせぇ…」

ぶっきらぼうにそう言って頭の後ろを掻く朝日に、勇二は懐かしむような視線を向けていた。

そんな勇二をよそに朝日の視線は、突撃してきている剣の使徒に向いていた。

「ったくよぉ、今回といい前回といいよくもやってくれたな。生きて帰れると思うなよ?」

朝日がそう言った瞬間。

彼のから大量の『闇』が噴出した。

「さて、それじゃあ仇討ショクジの時間だ」

「こい『魔剣サクリファイス』」

to be continued...

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