《異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー》3-43 活かされる記憶

「それじゃあ華夜。二人を頼む」

「分かりました。兄さんもお気をつけて」

「ああ…」

そんな短い兄妹のやり取りをした後、朝日は改めて目の前で靜かに佇んでいる剣の使徒を見る。

リザーブの森で最初に會ったときとは裝いを変え、禍々しい鎧をに纏っている。

そして、纏っているのは何も鎧だけではない。

こうして目の前に立つことで分かる圧迫

常人なら吐き気をもよおすようなおぞましい殺気を目の前の使徒は纏っていた。

だが...

「この程度、どうということはないな」

朝日はそういってそれを鼻で笑うと魔剣を下段に構える。

「さて、改めて…さっきはが世話になったな。今度こそ、しっかりとお返ししてやるから謝しろ」

そういった朝日から再び『闇』が噴出した。

「いくぞっ!」

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「っし――!」

最初に仕掛けたのは朝日だった。

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一足踏み込み、使徒の懐に潛り込むと、その首めがけて剣を突き出した。

しかし、使徒はそれを首を傾げるという最小限のきでよけると、擔いでいた大剣を自分の下に潛り込んでいる朝日めがけ勢い良く振り下ろした。

「――っ!」

しかし、朝日もそれを素早く察し、を半ずらすことでそれを避ける。

「っち、とんでもねぇな…」

そう悪態をつきながら使徒の傍から素早く撤退する朝日。

ちらりと視線を自の外套へ向けると黒いボロコートの肩口を淺く切り裂かれているのが見えた。

「避けきれなかったか…」

朝日は素早く傷口に応急措置を施す。

「貴様、いったい何をした」

そんな朝日に聲を掛けたのはもちろんのこと剣の使徒。

その聲音は怪訝そうなものであった。

「何をしたって…何のことだ?」

「惚けるなっ!なぜ強化魔法をかけてもいない貴様が私の攻撃をよけられるっ!?」

心當たりがないというように首をかしげる朝日に使徒は怒鳴り、朝日に剣を突き立てる。

そう。確かに剣の使徒の言う通り。

朝日は先程の僅かな攻防のうち、一切の強化魔法を使っていない。

何の強化もなしの地力で戦闘を行っていた。

強化された姿の剣の使徒相手に、だ。

「ああ。そのことか。別に不思議なことじゃねぇ。てめぇの予備作から癖、その他諸々方『覚えて』おけば対応は難しくない。」

なんでもないことのように言う朝日。

朝日の能力があれば不可能ではないし、更に朝日は『魔剣サクリファイス』と一化したことにより魔剣に蓄えられていた魂の中の記憶を読み取ることができる。

それによって大量の記憶の中にあった経験を基にした未來予知に近いことが可能となった。

だが、剣の使徒はそれを知らない。

「だが、ならば私の報など一どこで覚えた?先の戦いまで貴様はここにいなかっただろう」

そう。朝日の言っていたことが真実であると仮定したとして、剣の使徒の癖や予備作をいつの間に覚えたというのかという問題が発生する。

しかし、その答えは意外に簡単なものであった。

「覚えてないか?最初に戦った時だよ。俺はあの時、完璧にお前のことを『記憶』した」

それはリザーブにいたとき。剣の使徒に襲撃され、茫然自失となった勇二と未希を逃がすために一人で剣の使徒と戦っていた時のことである。

「あの時は的にボロボロだったからまともにやりあうことは敵わなかったがな。それでもデータの収集にゃ十分だったぜ」

「な、に…?」

目に見えて狼狽える使途に朝日は再び剣の切っ先を使徒の元に向ける。

「そんじゃあ、さっさと倒されてろ」

「クククッ…ハハハハハッ!」

そういって朝日が切りかかろうとしたその時、剣の使徒が突如をくねらせ高笑いを浮かべ始めた。

「ああ、面白い。実に面白いぞ、七代目勇者!私にここまで面白いものを見せてくれるとはな!」

to be continued...

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