《異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー》4-12 アップルパイと雨

「お茶と味しいお菓子ができましたよー、って兄さんは一なにをしてるんですか…?」

ティーセットを置いたお盆を持ってリビングまでやってきた華夜はテーブルに突っ伏している朝日を見て呆れ顔になる。

「あれ?朝日がぐったりしてる。珍しいねー?」

続いてリビングに華夜と同じようにお盆を抱えてやってきた未希もテーブルに突っ伏している朝日に驚く。

「おお、華夜か。お兄ちゃん、負けちまったよ…」

「一何の話ですか?というかどいてください。お盆を置けません」

「…ハイ」

華夜の言葉をけて素直にテーブルから頭をどける朝日。

朝日がどいたその場所には人數分のティーカップと大皿に乗ったアップルパイが置かれる。

ティーカップの中からほんのりとリンゴの香りがするので、恐らくティーカップの中はアップルティーだろう。

「おお。アップルパイだ!」

「先程、兄さんと未希さんが果の話をなさっていたので『道袋アイテムストレージ』っていたリンゴを使ってみました」

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「って、ことはもしかして…?」

「はい。ロック山脈で取れたリンゴです。まぁ、作ったといっても殆どは未希さんの作ですが」

「へぇー?それじゃ、お菓子には期待できそうだね?未希はなんだかんだで得意だもんね。料理とかお菓子作り」

「にひひ!まぁねー!」

勇二そんな言葉に得意げに笑う未希。

若干頬が赤いので相當嬉しいのだろう。

ちなみにアップルパイは勇二の大好だったりする。

「そして紅茶は…アップルティーだな」

一番最初に紅茶に手をつけた朝日はホッと息をつきティーカップをコースターに戻す。

「えぇ。アップルパイを作った後に殘った皮と芯を使わせてもらいました。味しくできましたか?」

「あぁ。アップルティーの味といい、モノを無駄にしないという心構え、実に良しだ」

し遠まわしに言っているが、要するに「流石華夜だ。味しいアップルティーだ。やっぱり華夜は自慢の(ry」ということを言いたいのである。

「うん!このアップルパイも味しいや!」

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小皿に取り分けたアップルパイを口一杯に頬張った勇二が満足したように笑顔を浮かべる。

「そりゃ、『向こう』でたくさん作りましたから!」

「でも向こうで食べた時より味しくなってるよ?」

「ホント!?やった!」

「出來ればこれからもたまに作ってくれると嬉しいかな?」

「作る作る!毎日作る!」

「毎日はちょっと…」

そう言って苦笑いを浮かべる勇二だが當の未希は全く気にしていないようだ。

すっかり蚊帳の外となっていた朝日と華夜は生暖かい視線を勇二と未希の二人に向けていた。

「なんというか、凄いですね」

「だろ?」

「こんなに仲良しで付き合っていないという事実も凄いですが、こんなにわかりやすい好意を向けられて気付かない勇二さんの鈍さも凄まじいです」

「オレとしてはさっさとくっついてしいんだけどな」

ハァ、と小さくため息をついた朝日は口にれたアップルパイの甘さに頬を綻ばさつつ、目の前に広がる甘い空間に顔をしかめるのだった。

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アップルパイも食べ終わった四人は再び雑談に興じていた。

「それで、結局なんだったんですか?さっきのアレ」

「ん?あぁ、あれか。いや、単純に勝負に負けただけだ。ジャンケンだけど」

「獣人の國の闘技大會出場を賭けたジャンケンね」

朝日の言葉足らずな説明に勇二が橫から説明をれる。

「読み合いは兄さんの得意分野では?」

「こいつ相手に心理戦が通じると思うか?」

「あー、なるほど。納得しました」

「うん、朝日と華夜ちゃん。それは一どういう意味かな?」

東山兄妹の會話の中に気になったことでもあったのだろうか?勇二が二人に突っかかる。

「兄さんはどっち側に、って當然不參加側ですよね」

しかし、華夜は華麗にスルーだ。

この兄にしてこの妹あり、といったじいだろうか。

「目立つのは嫌いなんだよ…」

「今更遅いのでは?勇二さん達と合流してしまいましたし」

「待って華夜ちゃん!その言い方だとまるで僕達が四六時中目立ってるみたいじゃないか!?」

「目立ってますよ?」

「え?」

「いや、だから、目立ってますよ」

「…………」

手で目元を覆う勇二。

そして、それに冷ややかな視線を向ける朝日。

朝日の視線は雄弁に語っている。

「まさか気付いていなかったのか」と。

シンと靜まり返るリビング。

朝日と華夜の呆れた視線が勇二に突き刺さる。

未希はそんな空気を払拭しようと、わざとらしい咳払いをして三人の注目を集めた。

「そ、そういえばさ!なんか華夜ちゃんって朝日と話す時って他人行儀だよね。一歩引いたじっていうか…」

その一言に、リビングに流れていた空気が一瞬、完全に凍りついた。

未希にとってはその場の雰囲気を変えるために言った一言だったのだが、その言葉は先程の冷たい空気を更に悪化させることとなった。

「おい、勇二」

朝日がどこか怒ったような口調で勇二を睨み付ける。

勇二は肩をビクリと震わせた。

「ご、ごめん。実はまだ『あのこと』は教えてないんだ…」

そういって勇二は申し訳なさそうに視線を足元に落とす。

「…お前に丸投げした俺も悪いが、お前には話しても構わないとあらかじめ言っておいたろ」

「うん…ごめんなさい」

そういって小さく謝罪する勇二に朝日は軽くため息をつく。

そして、こうなる原因となる発言をした張本人であり、その場で口をポカンと開けっ放しにしている未希を見た。

「未希、予め聞いておくがオレと華夜についてどれだけ知っている?」

「へ?どれだけって、どういうこと?」

まるで意味が分からないというように首をかしげる未希。

「…どうやら、何も聞かされてないみたいだな」

「兄さん、こうなってしまったものは仕方ありません。キチンと説明するのが筋だと思います」

「分かってる。…って、ん?」

華夜に諭され面倒くさそうに頭の後を掻いていた朝日だが、部屋の隅からある音を聞き取り、視線をそちらに向ける。

「雨り…?」

朝日が視線を向けたリビングの角には小さな水溜りが出來ており等間隔でピチョン、ピチョンと雫が落ちてきていた。

「おいおい、マジかよ。ここ一階だぞ…?しかも結構固く組んだ魔法陣のはずだってに…」

そんなことを呟きながら外の様子を窺ってみると、先ほどとは比較にならないほどの雨が降り注いでいた。

「なるほど、流石にこの量の雨が降ればこうなるか。次作るときはもうし強度のほうを強化したいな」

朝日はそう言って席を立つと『道袋アイテムストレージ』の中から外套を取り出し著込み始めた。

「兄さん、何処へ?」

「ん?ああ、ちょっと雨りを直してくる」

「直してくるって、この雨の中ですか?」

「別にこの程度何ともねぇよ」

それに、と朝日は続ける。

「今の話、続きを話すんなら、オレがいない方が何かと話しやすいだろう?」

朝日のその言葉に今まで顔を伏せていた勇二はハッとしたように顔を上げた。

しかし、その時にはすでに朝日はリビングを飛び出しており、豪雨の降り注ぐ外へ出ていった後だった。

朝日のいなくなったリビングに再び重苦しい沈黙が流れる。

最初に口を開いたのは未希だった。

「えっと…私の不注意な発言のせいで、ごめんなさい」

そう言って頭を下げる未希の瞳は潤んでおり、今にも泣きそうな顔をしていた。

慌てて勇二がフォローする。

「未希は悪くないよ!事を知らずに二人のやり取りを見た人なら絶対にそう思うし。ちゃんと話しておかなかった僕が悪いんだから」

勇二のそんなフォローをけた未希だが、それでも納得はしていないようで涙の溜まったその瞳を勇二と華夜に向けた。

真剣な眼差しから察するにどうやら、ちゃんと説明してほしいようだ。

そんな視線をけた二人はそれに応えようとお互いにサインを送り合う。

「華夜ちゃん」

「ええ。分かっています」

佇まいを正す華夜。

どうやらこれから話し始めるのは華夜のようだ。

華夜はき通った聲で、靜かに話し始めた。

「では、話し始めましょうか。私達『兄妹』の話を」

がこの世界に來る前に起こった『兄妹』の悲劇を。

to be continued...

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