《異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー》4-20 風邪と噓

「はぁ……」

ガチャン、と音を立てて閉まる扉。

その扉から出てきた華夜は背を扉に預け、小さくため息をついた。

「華夜ちゃん。朝日の様子はどう?」

そんな華夜に聲をかけたのは雨にぬらした髪のをタオルで拭きながら近づいてきた勇二だった。

の背後の扉、その奧の部屋には朝日が眠っている。

華夜達が部屋で話をしている最中に外で何かが落ちたような音がした。

三人が慌てて部屋から飛び出したその先には濡れた地面に力なく橫たわる朝日がいた。

滝のような雨に打たれ、泥だらけになって倒れていた朝日はすぐさま土の家の中に運び込まれ彼の私室に通された。

普段の朝日の様子をよく知る勇二と未希には信じがたい景だった。

どんなに不健康な生活をしても、どんなに無茶な行をしても決して倒れることなく平気な顔をしていた朝日が遂に倒れたのだ。

そんな景を見た二人は、當然のごとく慌てふためく。

使いにならなくなった二人の代わりに朝日の介抱を始めたのは華夜だった。

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は自の魔法を使って朝日を部屋まで運び、先程まで付きっきりで看病をしていたのだ。

「ただの風邪ですよ。ただ……」

「どうかしたの?」

「……実は癥狀自はただの風邪なんですが、これまでの旅で隨分と疲れが蓄積されていたらしく、完治にはし時間が…」

それに、と華夜は言葉を続ける。

「疲れのあまり手元が狂ったんでしょうね。魔力のほとんどを使い切っていました」

「っていうことは倒れた一番の要因って…?」

「はい。魔力切れです。多分ですが魔力切れに陥った際、に溜まっていた疲れが一気に噴き出してきたのでしょう」

「でも、普通はそれ以前に倒れててもおかしくないよね?」

「……兄さんはそういったモノを誤魔化すのが上手いですから」

眉を八の字にして困ったような顔をする華夜。

そんな華夜の話を聞きながら勇二は視線を朝日の眠る部屋に向ける。

「誤魔化す、か。ねぇ、華夜ちゃん」

「なんですか?」

「最近の朝日はちゃんと眠ってる?」

「……流石ですね。貴方にはお見通しのようです」

華夜は視線を朝日の眠る部屋に向け、首を橫に振る。

「回答はNOです」

「最後に寢たのはいつ?」

「私を助けるときに魔力切れで倒れたとき、と聞いています」

「聞いている、って誰に?」

「『魔剣サクリファイス』のです」

「あー。なるほど」

華夜の言葉に納得したように頷く勇二。

「彼は私が兄さんの隣にいない時でも兄さんの傍にいますから、たまに兄さんのことで変わったことがないか聞いているんです」

「それは、朝日が記憶を取り戻した時に、すぐに気付くため?」

「……本當に、貴方には何でもお見通しのようですね」

そう言って華夜はどこか諦めたように小さく微笑みを浮かべる。

「先程は言いそびれてしまいましたが、私にあの噓をつかせたのは兄さんなんですよ」

「朝日が…?」

「はい。なんでも『記憶を失ったオレはお前の兄じゃない、別の人間だ。だから、オレが記憶を取り戻すまで『お兄ちゃん』は取っておいてくれ』、って」

「それは…なんというか、いかにも朝日が口にしそうなことだね」

「えぇ。本當に、あの人は何もわかっていないんです。人の気も知らないで……」

「ははは。朝日は鋭いくせして意外と鈍だからなぁ」

「それ、勇二さんが言えたことじゃないですよね?」

「え?」

「はぁ、全く。未希さんの苦労が窺えます」

「え、なんで未希が出てくるの?」

「さぁ?自分のに聞いてみてはいかがですか?」

そう言って肩をすくめる華夜。

「あ、華夜ちゃんに勇二。朝日の様子はどう?」

そこにエプロンをかけた未希がやってきた。

「あ、未希さん。どうしました?」

「もうそろそろ夕飯の時間だよ?勇二も華夜ちゃんも見當たらないからもしかしたらと思ってきてみたんだけど…」

「それはそれは、お手數をおかけしました」

「うん。それじゃあ行こうか。朝日の分も作っておいたから後で食べさせてあげてね」

「ありがとうございます」

「いいのいいの。私に出來ることなんてこのくらいだから。ところで、二人はそこで何話してたの?」

しばかりか兄さんのことを…」

「そっか。さ、飯が冷めちゃうからリビングに行こうか。その話、ご飯を食べながら聞かせてくれる?」

「勿論です」

「……ところで勇二は?」

「あれ?」

辺りを見回すと、そこに勇二の姿はなかった。

「大方、我慢ができなくてリビングに直行したのでは?」

「ありゃりゃ。待たせるのも悪いし、行こうか?」

「そうですね。そうしましょう」

そんなことを言いながらその場を後にしようとした二人の背中に聞き覚えのある聲がかけられた。

「華夜様、未希様。しお時間よろしいでしょうか?」

それは、先程の會話に出てきた『魔剣サクリファイス』のその人であった。

to be continued...

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