《2度目の人生を、楽しく生きる》42話 「嫌な夢」

「お、次はアリスか。 よろしくな」

「はい!」

クリスはセレナ達がいる端に移し、闘技場の真ん中には俺とアリスの2人になった。

それにしてもこの闘技場、デカすぎるよな。

子供の教育にこんなデカイ建がいるのか?

「では、早速行きますね!」

そんな事を考えていると、アリスが俺の方に右手を向けた。

おっと…今は戦闘に集中するか。

「風切ウインド・カッター!」

アリスの風切が俺に向かってくる。

アリスは風魔法の初級と水魔法の中級を使えるんだったか。

厄介だな……

とりあえず風切を右に飛んで躱す、そしてすかさず右手をアリスに向け

「火球ファイアー・ボール!」

火球を撃つ。 1つの火の球はアリスに向かってまっすぐ飛んで行く。

だがアリスは立ったままかない。

「…ふぅ……」

アリスは火球がすぐ近くまで來てるというのに、呑気に眼を閉じて深呼吸をしだした。

な、何やってんだアリスは…? いくら初級魔法といっても怪我では済まないんだぞ⁉︎

「お、おいアリ…!」

俺が避けるように言おうとしたら、アリスが眼を開けた。

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そして…

「水柱ウォーター・ピラー‼︎」

アリスがそう言った瞬間、アリスを中心に地面から水柱が何本も出て來た。

その水柱に火球は消され、水柱のせいでアリスの姿が確認できなくなった。

あの水柱…中級魔法か? 

「水にはやっぱり…雷球サンダー・ボール!」

雷球を水柱に向かって撃つ。

「風切ウィンド・カッター‼︎」

アリスの聲が聞こえ、水柱が崩れた。

いや、あれは崩れたんじゃない…

今俺の前には風の刃と無數の水の球の弾幕が迫って來ている。

アリスは風切を水柱に當てたのだ、そのせいで水柱の水が水球に変わった。

風切に雷球が消され、俺は焦り始める。

「くっそ…! 風加速ウィンド・アクセル!」

たまらず俺は風加速を使い、全力で闘技場を走り回る。

何発かは當たってしまったが、風加速を使わなかったらもっと被弾していた事だろう。

「相変わらず凄い魔を使いますね。 ルージュさんは」

「今のやられた後じゃ嫌味にしか聞こえないな…」

俺は苦笑いしながら言う。

間違いなくアリスは長している。 拐事件から1週間も経っていないのにだ。

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水柱が消えたおかげで今はアリスの姿がはっきりと分かる。

アリスの周りは水溜りが出來ている。

「私も強くならないといけないので」

「短期間で強くなりすぎだよ」

俺はそう言いながら右手を上に上げる。

そして俺の頭上に5個の大きな火球が出來る。

「行くぞアリス!」

「簡単には倒されませんよ!」

アリスも同じ様に右手を上に上げる。

するとアリスの頭上に5個の大きな水球が出來る。

………噓だろ? あれはまるで…

俺の隕石雨と同じじゃないか。

「隕石雨メテオ・レインッ‼︎」

「聖水雨天セイクリッド・ウォーターレインッ‼︎」

お互い同時に右手を振り下ろす。

俺の隕石雨の火球とアリスの聖水雨天の水球。

5個の火球と5個の水球がぶつかり合う。

その衝撃音がうるさ過ぎて、俺はおもわず眼を閉じてしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ルージュとアリスの魔がぶつかった時の音は非常にうるさく、周りの者は皆眼を閉じた。

そんな中、離れて見ていたセレナ、クリス、フィリアはルージュとアリスよりも先に眼を開け、前を見た。

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「ど、どっちが勝ったの⁉︎」

セレナがそう言うが、先程までルージュ達が居た場所には霧がかかって居た。

「霧がかかっているな…まぁ當然か」

「火と水がぶつかったから、水蒸気が発生したのね」

クリスとフィリアは冷靜にこの狀況を分析する。

「ルージュー! アリスー! 大丈夫ー⁉︎」

セレナがぶが、返事は返って來ない。

「仕方がないわね、セレナ、突風を使って霧を晴らしてくれる?」

「わ、分かった! 突風ウィンド!」

セレナは突風を使って霧を晴らした。

すると見えて來たのは…

「え⁉︎」

「噓…だろ…?」

「驚いたわね…」

その景を見て3人は驚いた。

セレナ達の目の前では…

ルージュとアリス、2人が倒れていたのだ。

地面にうつ伏せで倒れており、ピクリともかない。

完全に気絶している。

「2人共!」

セレナが真っ先に2人の方に走っていく、セレナに続いてフィリア、クリスもルージュ達の方へ向かう。

「ルージュ! アリス! 大丈夫⁉︎」

「完全に気絶してるな…」

「2人共本気でやり過ぎよ」

「とりあえず、部屋まで運ぶか」

ルージュ達を見て、クリスがそう言った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

………

『マザコン!』

………違う。

『ファザコン!』

………違う。

『我が校の為に、ご両親にはいじめの事は黙っていてくれないか?』

………なんで。

『母さんの気持ちも分かってやりなさい! 父さんと母さんはお前の為を思って言ってるんだぞ!』

………ふざけるな。

『アンタに! アンタに友達なんて必要ないの‼︎』

………お前が決めるな。

『今まで通り當たり前に1位を取って! 母さんを優越に浸らせてくれればそれでいいの! それだけでいいのに……‼︎』

………なんで俺が。

なんで俺がこんな事をしなきゃいけないんだ。

俺はただ、普通に遊んで、普通に勉強したかった。

普通の生活をしたかった。

なんで俺だけが……

こんな生活は嫌だ。 こんな人生は…嫌だ。

死にたい。

死にたい。

死ね。

死ね。

皆死んじまえ。 

俺を不幸にする奴は皆…皆皆皆皆みんなみんなみんなみんなみんなみんな……

死んじまえばいいのに。

「……ジュ! …ージュ!」

誰かの聲が聞こえる。 

「ルージュ!」

「…はっ!」

「あ、やっと起きた。 凄いうなされてたよ? ……何か怖い夢でもみたの?」

「………」

夢…? さっきのは夢なのか?

なんだよあれ、悪夢にしても限度ってものがあるだろ。

向こうの世界の事の、しかも思い出したくない事がピンポイントで出てくるなんて。

「……くそ、気分悪いな」

思わず口に出してしまった。

それを聞いたセレナはオロオロしだす。

「え、え…どうしよう…どこか痛いの? 回復魔法かけようか?」

「いや、いいよ。 ごめん、ちょっと嫌な事を思い出してさ」

「嫌な事?」

「あぁ。 ……ちょっと散歩してくるわ」

「え⁉︎ あ、私もいく‼︎」

俺とセレナは寮から出た。

寮の廊下を歩いていると、セレナが心配そうに俺の顔を覗き込んで來た。

「……何だ?」

「…ルージュ、怒ってる?」

「は? 何でだよ」

怒ってるなんてとんでもない。

確かにちょっと機嫌は悪いが…

「だって顔が怖いよ? こんなルージュ見た事ないもん」

「顔?」

まさか顔に出てしまっていたとは…

俺は両手で自分の頬をパンパンと叩く。

「ルージュ⁉︎」

「悪い。 怒ってないから安心してくれ」

俺は笑顔でセレナに言った。

俺はいつも通りに笑ったつもりだったが、その笑顔が引きつっていた事は、目の前にいたセレナしか知らなかった。

寮の外に出ると、もう夕方だった。

「そういえば、アリスはどうなったんだ? 俺は気絶してたから、俺はアリスに負けたのか?」

「ううん、違うよ。 アリスも一緒に気絶したから、引き分け」

「マジかー、いつかリベンジしないとな!」

「ふふ…頑張ってね!」

「あぁ! そんで、皆は今どこにいるんだ?」

「えっとね、クリスは雑貨を買いに売店に行って、アリスとフィリアは一緒にお散歩に行ったよ」

ほぅ、フィリアが今日會ったばかりの奴とお散歩か。

なかなかのコミュ力だな。

「あれ、セレナは一緒に行かなかったのか?」

「うん、ルージュの看病したかったしね」

おぉう……なんか恥ずかしいな。

「そ、そうか」

「うん! それで、どこを周るの?」

「んー…適當に歩いてみようぜ」

「了解!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

現在俺ととセレナがいるのはグラウンドだ。

學試験の日に學園長である カーラ から説明され、テレポートされた場所でもある。

このグラウンドは初等部、中等部、高等部の人達も合同で使うらしい。

そのグラウンドにあるベンチに、俺ととセレナは座った。

「このグラウンドで筋トレとかするんだろうな」

「楽しみだねー!」

ランニングや腕立て伏せ、腹筋とかするんだろうなぁ…

キツそうだなぁ…

俺たちがそんな話をしていると、後ろから聲をかけられた。

「おいお前ら、そこどけよ」

俺はその聲に振り返る。

そこには、緑の髪のツンツンヘヤーの男が立っていた。

そしてそいつの両隣には黃緑の髪の男達が居た。

「えっと、何かご用でしょうか?」

俺がそう聞くと、ツンツンヘヤーの男が俺のぐらを摑んで引き寄せた。

「聞こえなかったか? そこをどけって言ったんだよ」

「……ベンチは他にもありますよ?」

「このベンチは俺のベンチなんだよ、大人しくどけよ」

そう言って、ツンツンヘヤーの男は俺を突き飛ばした。

「ルージュ!」

俺は地面にをつき、セレナは俺の橫に來る。

「いてて…何なんですかいきなり」

それを見てツンツンヘヤーの右側にいた男が

「おいお前! まさか俺達を知らないのか?」

そう言い、次に左いた男が

「知らないなら教えてやろう!」

なんかテンション高いなこいつら。

「まずは俺! 中等部で3番目に強い三男! キン様だ!」

右側にいた奴はキンって言うのか。

「次は俺! 中等部で2番目に強い次男! コン様だ!」

左にいた奴はコンね。

そして2人は聲を揃え。

「「そして、この男が中等部で1番強い長男‼︎」」

2人がそう言うと、ツンツンヘヤーの男は親指を自分の方に向け

「ケンだ」

そう言った。

……なるほどね。 こいつら中等部で強い奴らなのか。

だから下級生の俺らに絡んで來たと……

……チンピラかこいつらは。

三男とか次男とか長男とか言ってたって事は、こいつら兄弟なのか?

確かに顔は似てるしな。

「ちょっと! ルージュに謝ってよ!」

セレナが我慢できなかったのか、立ち上がってケンにそう言う。

「お、おいセレナ…いいから」

こう言う奴らは反抗すると面倒くさくなるのが決まりだ。

だからここは大人しく……

「黙れエルフが」

帰った……ほう…が……

「お前エルフだよな。 その耳、間違いない。 なんだ? 化けが人間の真似事か?」

「わ、私は…!」

セレナがプルプルと震えている。

やっぱり、王都にもエルフを嫌ってる奴はいるのか。

「なんだ? 化けの癖に人の言葉を話せるんだな。 隨分と知能の高い魔族だな」

「っ!」

セレナが下を向く。

………イライラするな。

「…おい。 いい加減にしろよ」

俺がそう言うと、セレナを含めた全員が俺の方を見た。

「なんだお前、魔族を庇うのか?」

「セレナは魔族じゃない。 優しいの子だ」

「はっ、そんな事知るかよ。 エルフはエルフだろ」

ケンがそう言うと、キンとコンが激しく頷く。

「そうやって勝手に決めつけて、一方的に誰かを傷つける。 面白いか?」

「……なんだと?」

ケンが俺を睨んでくる。

よし、これでこいつらの敵意は俺に向いたな。

「る、ルージュ…もういいよ、帰ろ?」

「悪いなセレナ、ちょっと離れててくれ」

俺は心配するセレナに離れてるように言う。

セレナは渋々だか言うとおりに離れてくれた。

「お前、まさか中等部で1番強いこの俺に喧嘩売ってるのか?」

「先に突っかかって來たのはそっちだろ。 1位様?」

「貴様…‼︎」

俺がそう言うと、ケンは腰から片手剣を抜く。

それを見たキンとコンも剣を抜き、俺を囲む。

……3対1か。

「數の暴力か、意外と汚いんですね先輩方は」

「黙れ、後悔させてやる」

「……後悔ねぇ…」

確か三男は…キンって奴か。

キンは俺の右側にいる。

俺は風加速を使い、一瞬でキンの前に行き、キンの腹を毆る。

「グェッ…」

「後悔するのはどっちでしょうね?」

キンは前のめりに倒れる。

完全に気絶してるな。

「一撃で気絶かよ。 3位がこれじゃあ1位様もどうだか分からんな」

「お、お前! よくもキンを!」

コンが俺の方に一直線に走ってくる。

「俺はさっきから機嫌が悪いんだ。

 お前達、不快なんだよ。 イライラする…」

俺は気絶したキンの剣を奪う。 俺の剣は今自室にあるからな。

剣を構えてコンの近くまで一瞬で移し、剣を振り上げる。

「うわわっ!」

コンに剣は當たらなかったが、ビビったのか、振り上げただけでコンはもちをついた。

……ダサいな。 

「お前、それでも2位かよ」

俺は容赦なくコンに向かって雷球を撃つ。

「ガアアッ⁉︎」

コンのが痺れ、キンと同じように気絶した。

俺は振り返ってケンを見ながら言う。

「さて…1位様はどんなもんかな」

「貴様…許さん」

「後悔したか?」

「黙れ!」

ケンは突っ込んでは來ず、左手を俺の方に向ける。

「くらえ…! 竜巻サイクロン!」

へぇ…風の中級魔法か。

まぁがむしゃらに突っ込んで來ないだけ他の2人よりマシか。

だけどな…

「見慣れてるんだよ」

竜巻。 それはディノスが使う魔法の1つだ。

何度も使われた。 だからどう避けるかなどの対策はバッチリだ。

竜巻は前にいる敵を攻撃する技。 言葉だけなら単純に聞こえるが、問題はその範囲とスピードだ。

竜巻は橫に長く、速い。 だから左右に飛んで避けようとしたら被弾する。

ならどうするか。

「なっ! 飛んだだと⁉︎」

そう。 上に飛べばいい。

ディノスの竜巻はスピードが異常な程速かったから上手く避けれなかったが、こいつのはディノスに比べれば遅い。

「ふっ、馬鹿だな。 上に逃げたら避けれないぞ!」

「それも対策済みだ。 黒霧ダーク・ミスト」

空中で黒霧を使い、ケンの視界を奪う。

「なっ…! 見えない!」

俺は音を立てずに著地する。

そして右手を地面に向け

「水領域ウォーター・フィールド!」

多めに魔力を込め、広範囲を水浸しにする。

「な、なんだこれは!」

姿が見えなくても、その聲を聞いただけでケンの足元にも水がある事が分かる。

ピチャピチャと音がなる。

俺はもう一度上に飛ぶ。

「じゃあな、1位様‼︎ 氷結フリーズッ‼︎」

俺は地面の水に向かって全力で氷結を撃つ。

氷結が水に當たると、凄まじい速度で水が凍っていく。

辺りの気溫が急激に下がる。

俺はらないように著地し、突風を使って霧を晴らす。

「な、なんだ…これは…」

「はっ! いい姿だな1位様」

「貴様ぁ…!」

ケンの足元は凍っていた。

きっとけないだろう。

「お前も弟達のように気絶させてやろうか? ……いや、気絶させない方が屈辱を味わえるか」

「くっ…‼︎」

「セレナ、帰ろうぜ」

「………」

セレナは口を開けて固まっていた。

「セレナー?」

「はっ…う、うん! 早く帰ろ!」

セレナは俺の手を摑み、早足でその場を離れた。

ケンは最後まで俺を睨んでいた。

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