《2度目の人生を、楽しく生きる》85話 「姉妹との約束」
……ない。
どこの扉を開けても、俺の剣が見つからない。
絶対にどこかにはあるはずなのに…
「時間がないぞ…」
本格的に焦り始める、もうすぐ晝になる、そしてタイムリミットは明日だ。
本當なら晝食なんて食べてる場合じゃないが、行かなかったらローガに怪しまれる事になる。
だから俺は仕方なく捜索を中斷し、食堂に向かう。
「あれ、ルージュ君1人かい?」
食堂の扉を開け、中にると、居たのはローガ1人だけだった。
どうやらまだカノン達は來て居ないらしい、ローガと2人きりとか嫌なんだが……
「カノンは遅れてくるのかな?」
「多分そうだと思いますよ」
「ふーん…じゃあし話そうか」
嫌です。
と言えるはずもないので
「いいですよ」
と答える。
「じゃあ、今朝から屋敷を歩き回ってるけど、何をしてるんだい?」
…バレてるのかよ。
見られた覚えはないんだが…
いや、ローガの事だ、なにか見る手段があるんだろう。
「この屋敷は広いので、散歩してました」
「へぇ…散歩か。 君、噓が下手だね」
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「っ!」
まずい。 ここでまた部屋に監なんてされたら本當に終わるぞ…
「ま、どんなに頑張っても逃げる事なんて出來ないからね。
 空間に飛び出しても、どこに飛ばされるか分からないよ」
これは…なんと返答すればいいんだ…?
ローガは俺が出を企てている事に気づいている。 
だが気づいていて俺を監しない理由はなんだ?
「失禮します。 カノンをお連れしました」
「お兄様、先に來ていたんですね」
そのタイミングで、食堂にケイプとカノンがってくる。
これは…助かったのか?
ふとローガの方を見ると、ローガはニコニコしながら
「そんなに怯えなくても大丈夫だよルージュ君。 僕は君がどんな行をするのか楽しみなんだ」
カノンとケイプは訳が分からないからか、顔を見合わせている。
「後は食事を終えてから話そうか」
…まだ何か話す事があるのか。
そして、次にレーラとシーラが食堂にってきて、皆に料理を配る。
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一、何を言われるんだ。
そんな事を考えながら、黙々と料理を食べ続けた。
いつもは味しいとじるレーラ達の料理だが、今日は味わって食べる事は出來なかった。
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皆料理を食べ終え、レーラとシーラが料理を片付けようとした時
「レーラ、シーラ、ちょっと待ってくれ。 大事な話がある」
ローガがそれを止めた。
レーラ達は不思議そうにしながらも、黙って部屋の端にに戻っていった。
「さて、ルージュ君。 君が出を企てている事は知っている」
その場にいた俺以外の全員がピクッと反応する。
「だけど僕はそれを止めはしない」
「……」
何故だ? もし俺に逃げられたら、こいつは困るはずだ。
なら止めない理由はないはずだが…
「何故か。 って顔をしてるね。 答えは簡単さ、止める必要がないからさ」
ローガは両手を大きく広げ
「この屋敷は最高の住処だ。 ったら一生逃げられないし、逃さない。
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ずっと空間を移してるからね。
 もし空間に飛び出したら、どこに飛ばされるか分からない。 自殺行為さ」
なるほど…好きにしろってわけか。
確かに、現時點じゃ逃げる手段は見つからない。
「僕は食事の時以外は何が起きようと絶対に部屋からは出ない。 思う存分足掻くといい」
そう言い殘すと、ローガは立ち上がり、食堂を去って行った。
「…お、お兄様…?」
カノンが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「…ケイプさん。 俺の剣って何処にあるか分かりますか?」
俺がそう聞くと、ケイプはゆっくりと顔を左右に振り
「ルージュ様の剣は、この屋敷の部屋にはありません」
……どういう事だ?
「えっと…捨てられたという事ですか?」
「いいえ、ルージュ様の武はローガが空間魔で隠しています」
どうりで何処にもないはずだ。
…という事は、俺の剣を取り戻す事は不可能な訳か…
武が無いと戦う事も出來ない。
「くそっ…!」
何も改善出來てない。
魔法陣の謎は分かった、武の場所も分かった、逃げ出すチャンスもある。
だが、肝心の手段が見つからない。
魔法陣を解除する手段も、武を取り戻す手段もない。
「…何をすればいいんだ…何を…」
口に出して考えるが、いい案が出ない。
「…もういっそ、ルージュだけ出すればいいんじゃないかしら」
………
皆に聞こえるように、レーラが呟く。
いい加減にしろ。
「よくそんな事が言えるな。 それが出來たらどんなに楽だろうな!
 出來ないから悩んでんだろうがっ!」
思わず立ち上がり、怒鳴ってしまった。
カノン達がビクッとしているが、抑えられる気がしない。
「誰かを見捨てて生きるなんて俺には出來ないし、したくないんだよ!
勝手な事言ってんじゃねぇ!」
怒鳴り散らす俺に、レーラは冷たい視線を向ける。
「私、あなたに「助けて」って言った? 
頼んでも居ないのに勝手な事しないでくれるかしら」
拳に力がる。
俺は怒りをぶつけるようにテーブルを毆り
「ならカノンはどうなるんだ、あんなに仲が良いのに、また離れ離れになる気か?」
レーラを強く睨みつけるが、レーラは怯えた様子もなく見下したように微笑む。
「離れ離れになる気はないわ。 カノンもこの屋敷に殘ればいい。 逃げるのはあなた1人だけよ」
それを聞いた瞬間、俺は勝手にレーラに向かって走り出していた。
「ふざけん…!」
「そこまでです」
レーラを毆ろうと手に力をれ、あとは拳を前に突き出すだけという時、俺のが浮いた。
いや、持ち上げられたと言うべきか。
俺の両脇腹を摑み、持ち上げたのはケイプだ。
足が地面に著かなくてきがとれない。
「離してくださいケイプさん! こいつは…!」
レーラを間近で睨みつけると、レーラは自分の額に手を當て
「はぁ…短気で人の話を聞かない。 もっと大人になりなさい」
「黙れ…! お前こそ、もっと人の事を考えろよ」
「考えてるわ。 考えてるからこそ、1番いい方法を提案したのよ」
「今の何処がいい方法なんだよ」
そう聞くと、レーラは俺を睨みつけ
「あなたが話を聞かないからややこしくなるのよ。 黙って聞いてなさい」
言われた通り黙ると、ケイプが俺を地面に降ろす。
レーラは一息ついてから話し始める。
「まず、あなたが今すぐ窓から飛び出す。 
すると空間を彷徨い、何処か知らない場所に辿り著くわ」
だろうな。 
「そして、知らない場所に辿り著いたらどうにかしてあなたが知っている場所に行きなさい」
「…は?」
どうにかしてって…いい加減すぎないか?
「知っている場所に辿り著いたら、強い人達を集めてトバーブルクに來なさい。 それでローガを倒す。 以上よ」
「以上よ。 じゃねぇ! 馬鹿か⁉︎ 無理に決まってるだろ!」
「なんでかしら? 1番いい方法じゃない」
「もし遠い場所に辿り著いたらどうすんだよ!」
「近い場所に辿り著くように祈りなさい」
運任せかよ…
運なんかに人生をかけられるわけないだろ。
「卻下だ。 危険すぎる」
「なら、あなたはこれよりいい方法を思いつくの?」
「うっ…」
思いつかない。 だが…こんな作戦に任せてもいいのか…?
「でも…もし間に合わなかったら…」
「ローガはターゲットを殺す時、最低でも7日は掛かるわ。
トバーブルクは広いから、ターゲットを見つけるまで結構な時間が掛かるはずよ。
それまでに間に合えばいいだけ」
全ては俺の運次第…って事か。
運に頼るのは嫌だが…これよりいい方法は正直思いつかない。
「…お兄様。 私はお兄様に人殺しになってほしくはありません」
カノンが俺の服を摑みながら言う。
俺だって人を殺したくはない。
「……分かった。 もうそれしか方法がないみたいだ」
全ては運次第。
近いか遠いかで、全てが決まる。
ドーラ村、もしくはドラグラード王國王都に飛ばされる事を願うしかない。
「んじゃ、早速行くよ。 早い方がいいだろ、絶対に助けに來るよ」
そう言って食堂の窓を開けようとすると、レーラに肩を摑まれる。
「待ちなさい。 私はあなたに「助けて」と頼んだ覚えはないわよ」
「はぁ? 何言ってんだよこんな時に」
「私達を助けて」
ボソッとレーラが小さく言う。 
近くにいたからはっきり聞こえた。
「…ん?」
「助けてって言ってなかったから言ったのよ。 頼んだんだから、絶対に助けに來なさい」
……めんどくさいなこの人!
そんな俺を察してか、シーラが苦笑いしながら
「めんどくさい姉さんでごめんね? 
ルージュ君、助けに來てくれるって信じてるよ」
と、シーラは微笑みながら言う。
「ルージュ様、大人が年下にこんな事を頼むなんて恥ずべき事だと分かっていますが……
助けて下さい」
ケイプが綺麗なお辭儀をしながら言う。
最後に、ずっと黙っていたカノンが前に出る。
「お兄様。 お兄様と過ごした日々は、とても楽しかったです。 出來るなら…また、ドーラ村で思いっきり遊びたいです。
だから…私達を助けて下さい!」
俺は頭を下げているカノンの頭を優しくでる。
「妹と姉からの頼みだ、斷るわけないだろ? 任しとけ」
俺は皆を見て笑顔で言う。
カノン、レーラ、シーラは微笑むが、ケイプだけは首を傾げている。
「妹…? 姉…? どういう事ですか?」
あ、そうか、ケイプは知らないのか。
俺はケイプをジッと見つめ。
「ケイプさんも、俺の姉ですからね! 
弟の帰りを待っていて下さい」
「…? …よく分かりませんが…期待しています」
そして、俺は食堂の窓を開ける。
ちょうど大人1人が通れるくらいの大きさだ。
子供の俺にとっては余裕だ。
俺は窓に足をかけ、外を見る。
外…つまり空間は、真っ黒だ。 
なんてないし、天井も地面もない。
俺は深呼吸を1回し、後ろを見る。
「じゃあ、行ってきます」
と言って、思い切り外へ飛び出した。
俺のは凄まじい速度で落下して行き、あっという間に屋敷が見えなくなる。
あー…怖い。 怖いけど、やってやる。
絶対に戻って來るからな。
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「行きましたね」
ルージュが窓から飛び出した後、ケイプが窓を閉め、殘った4人は向かい合う。
「…さて、ルージュ君が帰って來るまで大変だなぁ…」
シーラが背びをしながら言う。
「全く…ルージュを説得するのは苦労したわ」
「あれは完全に姉さんのせいでしょ? あんな言い方されたら私でも怒るもん」
「仕方ないじゃない、他の言い方が分からなかったんだから」
「ははは……まぁ姉さんだから仕方ないかぁ… 
カノン、そんなにルージュ君が心配?」
窓に手をつけ、ずっと外の空間を見ているカノンに、シーラが優しく問い掛ける。
「…はい。 どこに飛ばされてるのか分からないので…心配です」
そんなカノンの頭を、ケイプが優しくでる。
カノンは首を傾げながらケイプを見上げる。
「…ルージュ様は立派なお方です。 そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。
気長に帰りを待ちましょう」
ケイプがそう言うと、カノンは笑顔で
「はいっ!」
と答える。
それにつられて皆笑顔になるが、その笑顔はすぐに崩れた。
食堂の扉が、開いたのだ。
4人の視線が扉へと向く。
今この4人以外にこの屋敷に居る者はただ1人。
「…勝手な事をしてくれたね、君達。
 僕はルージュ君が一杯考えて、考えぬいた作戦が無意味だったと知り、絶したルージュ君の顔が見たかったのに…」
ローガだ。 ローガは4人を睨みつけながらぶ。
「何故っ! 何故…! 何故何故何故っ! 何故君達が彼に協力する⁉︎
魔法陣の力は⁉︎ 発してないのか⁉︎」
そう言うと、レーラはフッ、と笑い。
「魔法陣なんてずっと発してるわよ。 今だって、背中が焼けてるみたいに痛いわ」
「なんだと…⁉︎ なら何故、彼に協力した⁉︎」
「自由になれるからよ。 自由になれるなら、こんな痛み…いくらでも耐えてやるわ」
ローガの顔が怒りで歪む。
「”來たれ…我が魔剣”…」
ローガの右手の先が歪み、紫の剣が出現する。
そして、レーラ達を庇うかのように、ケイプが前に出る。
「……安心しなよケイプ。 君達を殺しはしない。 死にたくなるようなお仕置きをしてやろう」
「あなたは、絶対にルージュ様が倒してくれます 」
「魔剣グラビの名の下に、沈め」
魔剣がり、4人のが重くなり、地面にうつ伏せになる。
「どんなお仕置きがいいかな…魔法陣の痛みはもちろんとして…そうだ。 
1分ごとにを重くしていく、なんてどうかな?」
ローガが人差し指を立てて言う。
そんなローガにレーラは
「ハッ、魔剣がないと何も出來ないなんて、ダサいわね。 私、あなたみたいな弱い男、嫌いだわ。 しはルージュを見習いなさい」
「……黙れよ」
ローガはレーラの頭を踏みつけ、グリグリと足をかす。
「うっ…ぐぅ…!」
「ルージュ君より僕の方が強い。 
僕が弱いだと…? 魔剣使いの僕が…? ふざけるな!」
また魔剣がり、レーラのだけが重くなる。
「…ぐぅっ…!」
にかかる負荷に耐えきれず、レーラが聲をらす。
それを見ながらローガは下品に笑う。
「はははははっ!! いい気味だ。 僕に逆らうとこうなるんだ。 
レーラ、君は僕を不機嫌にさせた、だから君には皆よりもキツいお仕置きをしてあげよう」
屋敷の食堂に、ローガの笑い聲が響き渡った。
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