《魔法陣を描いたら転生~龍の森出の規格外魔師~》29 人化と龍化

「うーん、さいしょは……(ブツブツ)」

俺は新魔法を習得するために、あれこれ歩きながら考える。向かっているのは長の家だ。昔から魔法について行き詰っているときは書を漁り、ヒントとなることを探している。

「ねぇねぇ、知ってる? ラルージュさんのお子さん、まだ人化できてないらしいわよ」

「聞いたわぁ、いくらなんでも遅すぎよねぇー」

「そうよね! なんでかしら?」

俺の耳にふと、そんなヒソヒソ話が聞こえてきた。あんまり、気持ちがいいものだと思えなかった俺は、小走りでそこから離れる。

俺はすっかりセレーナのことについて、思考を切り替えていた。

セレーナが人化できない理由……。わからない。なんでだろう? 大抵の子供は1才から2才で、遅くても3才で人化ができるはずなのに。

あたりまえとなっていたセレーナの龍化狀態。しかし、それは一般的に普通だとは言えない。異常というほど、深刻でもないが一応は原因を知っていて損はないはず。

気がつけばもう、長の家の前に著いていた。俺はおもむろにドアに近づき、開けてもらうため聲を出す。

「じっさまー!」

どうやら、子供の高い聲が響いて屆いたのか、ギギギッっとドアがゆっくり開く。

「おじゃましまーす……」

俺は部屋の中へ進むと、前に誰かがいるのがわかる。ここにいる人はじっ様以外に、いるわけがないのだが。

「やはり、ユーリか。久しぶりじゃな」

じっ様の聲には、し寂しさが混じっている気がした。

確かにそうだ。稽古とか遊びとかで、この頃來てなかった。もうし、ここにも來るようにしよう。じっ様も寂しがってるしね!

「うん! こんにちは、じっさまっ!」

俺は努めて明るく言う。じっ様にも伝わったのか、し表が明るくなった気がする。

「今日は何を調べに來たのじゃ?」

「えーと、まほうについてと、りゅうじんについて!」

知りたいことが載ってる本があればいいんだけど……。

「うむ、そうか。儂はそこら辺にいるから、何かあったら呼ぶのじゃ」

「はーい! ありがとう、じっさま」

「ほっほっほっ」

じっ様は笑いながら、向こうに行ってしまった。実際のところ、じっ様は集落のことで暇ではないので、あまり迷はかけられない。

まぁ、ここに來ることは喜んでくれてるみたいだけどね。

俺は早速、近くにあった本から手をつける。ページをパラパラとめくっていく。1才の頃から読んでいるため、速読の速さは中々のものだ。

***

ふむふむ。はっはーん、そういうことね! 最初ちょろちょろ、中パッパッね。

決してご飯のことではない。魔法のことです。

うーん、龍人についても々とわかった。

――『人化と龍化』 龍人族、特有の能力。魔獣の中でも上位に位置する龍種の姿と人族に似た姿となれる。ただし、魔獣とは異なる存在とされている。

龍人はその膨大な魔力と高い魔法適により、人化と龍化の二つの姿を併せ持つことができる。また、膨大な魔力の流れが安定して初めて人化できるとも書かれていた。

一つの仮説として、セレーナはあの膨大すぎる魔力を扱いきれていないために、人化できずにいるのかもしれない。

前に魔眼で一度見たことがあるが、あの魔力の量はすごかったとしか言いようがない……。

セレーナはもしかすると、伝説と呼ばれるほどの龍種の力を持っているのかもしれない。まだ、扱えきれていないだけで魔力の流れが安定さえすれば人化もできるはずだ。

「セレーナはきっとつらいだろうけど……」

「キュウ?」 (よんだ?)

「うわっ! ……いつからいたの?」

あー、驚いた。だっていきなり隣に現れるんだもん。さすがは、かくれんぼの達人。

「キュウ」 (さっきだよ)

「そっか」

「キュウキューウ」 (ねぇねぇ、ユーリくん)

「どうしたの?」

「キュキューウ!」 (えほん、よんでほしいなぁ)

そういえば、セレーナちゃんは絵本が大好きだったけ。

「おひめさまのやつ?」

「キュウ!」 (そう!)

ふふ、本當にあの絵本が好きだなぁ、セレーナちゃんは。まぁ、の子はお姫様に憧れるものなのかもね。

「じゃあ、よむよ」

「キューウ」 (はーい)

俺は本の壁に寄りかかり、セレーナちゃんは俺に寄りかかるように前に座る。

絵本のページがめくられる度にセレーナちゃんは目を輝かせ、俺はそれを見て思わず顔が綻ほころんでしまうのであった。

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