《魔法陣を描いたら転生~龍の森出の規格外魔師~》43 夢とか目標とか

「今日も平和だなぁー……」

俺はそう呟きながら、中央広場へ向かって歩く。

ん? 何だアレ。前から誰か走って來る。あ、もしかして……はぁー、またか。

「……うおぉーっ!! そこにいるのはユーリか! 頼むっ、助けてくれぇーー」

俺の名前をびながら、悪友が近づいてくる。こいつとの付き合いも、彼此かれこれ10年ほどが過ぎた。

「また手伝いさぼったの? アニモ」

「あったりめぇーだっ。おらっちには、他にもっとやらきゃいけねぇことがあるんだよ!」

アニモはニッシシと笑うが、いきなりバツの悪い顔になる。そして、先程までの威勢はどうしたのか、弱々しく喋り出す。

「ユーリ、お前を盟友と信じて頼む。助けてください」

「斷る」

「おぉーいっ!! そこは、わかった! とかだろっ」

俺の返答に直ぐさまツッコミをれるアニモ。これも10年過ごしてきた、俺たちだからこそのタイミングだと言えよう。

「アニモぉーっ!! 店さぼってどこほっつき歩いてんだぁーーっ!!」

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「くそっ! もう親父が來やがったか」

おいおい、親子そろって店を抜け出していいのかよ……。

「逃げるぞ、ユーリっ!」

「え? ぬぅおっ……」

アニモが俺の腕を摑み、強引に走り出す。このやり取りも今回が初めてではない。俺はされるがままだ。

「こらっ!! まてぇーーいっ!!」

「「に、逃げろーー」」

俺とアニモは腕を大きく振り、必死に足をかす。止まったら終わりのデスゲームがスタートする。

な、なんで俺までぇーーーーっ!!

***

「はぁ、はぁ、はぁ……なんとか逃げ切れたかな?」

俺たちは何とか裏路地やら何やらを駆け抜けて、ブリオおじさんを撒くことに功した。ちなみに、強化魔法も使ってだ。ブリオおじさん恐るべしである。

今は西にある丘に、二人そろって寢転がっている。

「あ、あぁ……みたいだな。ありがとよ、ユーリ」

「何をいまさら……ははっ」

「だなっ。はははっ」

アニモは笑いながらも空を見て、遠い目をする。何か話す気みたいだ。俺はジッと言葉を待つことにする。アニモがこうするときは、真面目な話をするときだからだ。

「なぁ、ユーリ。お前は何をしたい?」

「何って、なんだよ」

「ははっ、悪い悪い。何っていうのは……夢とか、目標とかそういうもんだよ」

夢や目標か……。

「俺は…………セレーナや母さん達がいるこの集落ドラフヘンを守りたい。だから、龍の儀をけて達するっ! そして、武龍団に団するのが俺の夢……いや、目標だよ」

――俺が初めてもらった溫かい優しさを、気持ちを守りたいから。

「ユーリはすげぇなっ! 龍の儀は生半可な気持ちじゃ達できないって親父から聞いたぜ。それを目標だって言い切りやがった」

「そうだね。龍の儀は厳しい……だけど、そのくらい言えないと母さんの息子として恥は掻かせられないから」

副団長の母さんは、龍人の中でも異例の早さで龍の儀をけ、達した。普段はし不用な母さんだけど、その強さは本だ。昔に母さんにこんなことを聞いたことがある。

――「お母さんは何でそんなに強いの?」

「ふふ、気になるか? ユーリ」

めっさ気になりますっ!! 何度も稽古してるけどお母さんに一度も勝てる気がしない。

「それはな――大切なものを守りたい。そう想って頑張るからだ」

お母さんはにっこりと俺に笑いかける。俺が一番好きな、お母さんの顔だ。どこまでも溫かい、優しい笑み。

「大切なものを守りたい……」

「そうだ。私は集落の皆を守りたい。だから強くなると決めた。それに今は、命より大切なもの――ユーリ、お前がいるから私はもっと強くなれるんだ」

お母さんは俺の頭に手をのせると、ワシャワシャとでだす。俺はし気恥ずかしい気持ちになる。でも、嬉しくもあり何とも言えない。

お母さん……俺も、俺も

「俺もお母さんを守りたいっ!!」

溢れ出た気持ちが言葉となる。俺の心にあるもの。

「ふふっ、ありがとう、ユーリ。でも、私に勝てないままでは守れないぞ?」

お母さんはしばかり挑発的で、それでいて期待のこもった言葉を俺に言う。

「もっと修行して強くなるよっ!!」

「そうだな。なら、続きをするぞ!」

「うんっ!」

俺はどこまでも、純粋に強くなりたいと思った――

「アニモは……アニモは何をしたいの?」

「おらっちはな…………この集落を出て、親父に負けない世界一の商人になるだっ!!」

「アニモらしいね」

「だろっ!」

とんでもないことを言うと思ったら、やっぱりとんでもなかった。まさか、集落を出るとは。それはつまり……

「もう、戻らないってこと?」

集落の掟の一つで、集落を旅出た者は戻ることを許されない。龍人の集落は外の世界との関係を斷ち切っている。そのため、一度でも外の世界に踏み込んだ者が集落に帰ることを許されることはない。

「わからねぇー」

「なんだよそれ」

アニモはらしくない顔をして話しだす。

「おらっちも集落が好きだっ……だけど、親父には負けたくねぇんだ。だから、すごく迷ってる」

「なるほど、ね……。アニモ」

「なんだよ」

「お前は世界一の商人になれるよ」

俺は迷いなく、きっぱりと言う。何故なら……

「お前はあの、ブリオおじさんの息子だろ?」

「ちげぇーねぇ」

俺の冗談まじりの言葉にアニモはあははっと笑う。そして、俺は続けて話す。

「まだ、悩んだっていいんじゃないのかな。だって、俺たちの可能は魔法のように無限大なんだからさっ!」

「ユーリ、また魔法かよ。本當に魔法バカだよな、お前」

「なんだとぉー! 言ったなぁっ!」

「わぁっ、逃げろ」

アニモはニヤニヤと笑い、立ち上がって走りだす。俺はその後を追いかける。俺たちは子供らしく笑い合い、無邪気に広大な丘を駆け回るのであった。

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