《魔法陣を描いたら転生~龍の森出の規格外魔師~》50 狂暴竜
わたしに向かって、禍々まがまがしい竜の爪が迫る。わたしは迫り來る死の恐怖に耐えられず、目を瞑つむってしまう。死が訪れることをただただ、待ち構えることしかできない。
『もう大丈夫だよ。セレーナ』
しかし、わたしに死は訪れず、その代わりに聞こえたのは――優しく微笑む、ユーリくんの聲だった。
***
セレーナがどこにもいない……。
長の話のあと、俺はラルージュさんと合流した。しかし、そこにはセレーナの姿はなく、ラルージュさんも見つけていないとのことだ。
セレーナも鐘の音は聞こえたはずだ。まさか、暴竜に遭遇して……いや、先ほどまで集落に攻めてきていた暴竜は、武龍団が打ち倒して今は防衛しているので、その可能は低い。
なら、どうして此処ここにいないんだ……ん、あいつは。
「よぉ。お? いつものペットはどうしたよ」
會って早々、糞悪い奴だ。
「ボス、お前に構ってるいる暇はない」
「そうかい、そうかい。それは悪かったな」
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ボスは全くもって悪びれる様子もなく手を振り、俺の橫を通り過ぎていく。ボスの顔を見ると、ニタニタと醜悪に満ちた笑みをしていた。
こいつっ!
俺はボスの襟を摑み、問いかける。
「お前っ! 何か知ってるだろっ!!」
自分のを上手く抑えることができない。怒りが全から溢れ出そうな気がした。
「っ! ……またそうやって、力でねじ伏せよう「うるさいっ、早く言えっ!」……チッ。……森だよ」
ボスは歯切れ悪く、ボソボソと喋る。よく聞こえない。
「もっとハッキリ言えよ!」
「北の……北の森だよ! はははっ今頃、魔獣の餌にでもなってるんじゃねぇーか?」
俺の中で、プツンっと何が切れる音がした。
俺の右手は、考える前に拳となりボスの頬に向かって放たれていた。俺の拳を食らったボスは、勢いのままにぶっ飛ぶ。地面に倒れたボスは反撃の余地もなく、うめいている。
俺は晴れない怒りを無理やり抑えつけ、北の森に向かって駆け出す。「……お、覚えてろよ」と、ボスが呟いていたように聞こえたがどうでもいい。今はセレーナだ。
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無事でいてくれっ……セレーナ。
***
俺は北の森を突き進む。
おかしい……森が靜かだ。魔獣の気配すらじられない。
俺は違和を覚えるが、とにかくセレーナを見つけ出すことだけに全力を注ぐ。魔眼、魔力察知――魔力をじ取る技――も、もちろん使って探す。
どこにいるんだ……。
『ドッーン、ドッーン、バキッバキッ、ドゴォーン』
何だ!? あっちの方かっ!
「強化、雷よ」
俺は強化魔法によって全を強化し、雷魔法で雷を纏まとう。現時點で、俺が出せる最高速度で走り出す。加速していく覚がわかる。
世界が流れる。そんな風にじるほどに、この速さは異常だ。最近は、この速さにも慣れてしまった。時々思う。俺は前の世界に戻ってしまったら、生きていけない――社會的に――んじゃないかと。
木々を避けながら走る。一度たりとも止まらない。そこにセレーナがいると、待っているとじたからだ。
俺は木と木の間から、遠くの方にセレーナを見つける。
しかし、俺は喜ぶことができない。
それは俺にとって、最悪を迎える狀況になりつつあったからだ。
『セレぇーーナぁあーーーー!!!!』
俺はぶ。
この森の果てでも聞こえるかと思うくらいに。
セレーナに竜の爪が迫っている。俺がそのことを認識したと同時に、俺の中にある――限界リミットがはずれる。
俺の中にある魔力の塊がピキリとひび割れて、そこから魔力が溢れ出ていくのをじる。湧き上がる魔力。俺は地を蹴る。
一瞬だ。
俺はセレーナと竜の間にり込む。俺の背を何かがでたような気がするが、今は考えなくていい。
今はセレーナを安心させたい。きっと、恐くて、恐くて仕方なかっただろう。不安で心が押し潰されそうなっただろう。
だからこそ、俺は優しく微笑んで言う。
――「もう大丈夫だよ。セレーナ」
よかった……間に合った。
しかし、まだ安心はできない。俺は竜に向き直す。
こいつは……
――狂暴竜バーサークドラゴン。
暴竜の上位種であり、最上級魔獣の一種。書で読んだことがある。伝説では狂暴竜が通った土地にははもちろん、魔獣すらいなくなる。一匹もだ。
ありとあらゆるものを噛み砕き、喰らう――暴食の王。
階級で言えば暴竜の一つ上だが、上級と最上級の差というものは酷く違う。その破壊力は上級では決して超えられることはない。絶対にだ。それほどまでに、絶対的な強さをもつ者。それが最上級魔獣だ。
ふぅぅ……それがどうした。
セレーナを守ることに変わりはない。俺の大切な人に手を出そうとした罪――許さない。
俺は溢れ湧き出る魔力を一點に集中させるように両手を前に突き出す。
「よ」
俺がそう言い放った瞬間、両手の先に魔法陣が現れる。そして、極大の線レーザーが竜に向かって放たれる。狂暴竜は反的に避けようとするが、避けきれず線は首筋を掠かすめる。
「グゥギャアオォォーー!」
俺の先制攻撃に狂暴竜は哮ほええる。強者である自に、楯を突くことが気にくわないように見える。
狂暴竜の反撃。大きな前足を振り上げ、俺めがけて振り下ろされる。あんな攻撃を食らったら、即死は確実だろう。俺は冷靜に魔法を使う。
「強固なる結界よ」
俺は結界魔法を使い、セレーナと俺を囲むように結界――簡単に言えば、魔力でできた半明な防壁――を張る。蒼い立方の結界は狂暴竜の攻撃を俺たちから防ぐ。
反撃が決まらない狂暴竜は、さらに怒る。
「グゥギャアオォォーー!!」
しかし、俺が畏怖することはない。セレーナがそばにいる。それだけで、何故か強い自分でいられる。
「土よ沈め」
狂暴竜の後ろ足を引くように、土が沈む。狂暴竜は怒りのせいで回避に遅れ、逃れることができなくなる。
「氷よ穿て」
狂暴竜の上に、數多の魔法陣が展開される。俺は凍てつくような冷酷さを魔力に込め、魔法陣から鋭く尖る氷柱を放つ。
放たれた氷柱は狂暴竜の全を突き刺していく。しかし、最上級魔獣の強さは伊達ではない。突き刺さった氷柱をものともせず、激しく暴れる。に刺さっていた氷柱が砕け、地が揺れ地割れが起きていく。
やっぱりこの程度じゃ、抑えつけられないか。
「グゥギャアオォォッ!!」
狂暴竜は後ろ足を地面から引き抜く。そして、翼を羽ばたかせ飛び出す。宙で俺を見下ろし、若干だが警戒しているように見える。
空中戦がおみなら、俺も飛んでやるよ。
俺は結界の範囲をセレーナだけ守れるようにする。範囲が狹くなったことで、結界の強度はより強くなったはずだ。
「飛翔」
俺は飛翔魔法で、狂暴竜と同じ高さまで上昇する。そして、さらに魔力を背中に集中させ、魔力の翼を現化する。俺から生えびている翼はどこか、母さんの翼を思わせるような圧倒、威圧というものがあった。
飛翔魔法と翼の併用により、俺は龍の如く飛ぶことが可能になる。
「グゥギャアオォォーー!!」
まるで、俺のことを嘲笑あざわらうように狂暴竜は哮えてくる。空中はお前のくるところではないとでも言っているのか、わからないがそれこそ馬鹿馬鹿しい。
俺は武龍団副団長、黒龍アーテルの息子だ。空を統べる者の資格なら俺にもある。
「見せてやる――力の差ってやつをなっ!」
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